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第十四話 何気ない日常こそ大切な一歩(Everyday is an important step.)

 それから一か月、太郎はいつまでもただ飯ぐらいはどうなのかと昼間はギンタークの武器屋の店番をしたり、夕方からは力法についていろいろな人(おもにギンタークとレスタス)にきいて勉強したりして過ごしていた。


 レスタスはあの夜以降太郎たちに力法を教える気はなかったように見えた、しかし後日ベレンに頼み、レスタスの家に行って頼み倒したのだ。最初は相手にもされなかったが、あるきっかけでレスタス自身から交流を持ち掛け始めたのだった。


 それというのも、太郎が異世界人だということを話したからである。以前はベレンがレスタスを警戒してたこともあり、太郎のことを街はずれから来た身寄りのない流民と割とひどい感じで説明していたらしい。そこを太郎が異世界人と知り、それを証明する過程で話した地球の知識がレスタスの興味を引いたのだった。


 最初はレスタスがベレンの家に毎回来ていたのだが、しばらくすると面倒だろうからとレスタスの学校が終わった時間にレスタスの家にベレンとお邪魔することになっていた。ベレンも太郎もいやな顔せず、むしろそのことを喜んでいた。


 レスタスの家は豪邸だった。太郎は豪華なこの屋敷に入れる機会を逃すまいと、ベレンはクリエナにレスタスを会わせずに済み、それに加えてたとえ異世界人であっても、知識を得るためとはいえ、無能の太郎と交流を持とうとし始めた姿勢に見直すところがあったためだった。


 ベレンはすでに力法を使えるので実はレスタスのところへ行く必要はないのだが、なぜか一度も席を空けたことはない。まぁ、レスタスの屋敷は町の奥にあり、太郎が一人で行くと迷ってしまうので、ありがたいのだが。


 ちなみに最初はクリエナも来たがっていたのだが、仕事(宿屋を手伝っているらしい)もあり、ベレンにもやめておくように言われたので来ることはない。



「じゃあ瞬間移動とかはできないわけか」

「瞬間移動?…考えたこともなかったが、不可能だろうな。原理が解明されたとして、どれだけのコストがかかるか…」


 力法は究極的に言えば、局地に物理現象を引き起こすものらしい。十分に熱を操るには途方もない勉強が必要なんだそうだ。

 瞬間移動ができないということは、関連して召喚術のようなものもできないということか。


 太郎の持つゲーム知識やらで何とかなるのかもしれない。が、できたとして、太郎は実戦で使うことはなさそうだ。

新しい力法として、はじめは実験で人間ではなく小動物からなんだろうが、それでもいやだと思う。


 誰だって道路で車に引かれたカエルやヘビや犬猫を見ればいやな気持ちになるし、故意に殺すなんてできるはずもない。いや、失敗したらの話だが。


 しかし、日本で教室なんかに入り込む虫を、殺される前に逃がしてやったりしていたら、みんなからやけに虫好きだと思われたことから思うと、そうでもない人間もいるかもしれない。


 ちなみに召喚士はいないが魔物使いならいるらしい。野生動物を手なずけて力法を覚えさせ、従者にするんだそうだ。


 太郎は自分が召喚されたものだと思っていたが、果たして本当にそうだったのだろうか。


 今日もまた、勉強会である。しかし、無能の太郎には実戦が出来ないため、力法に関することからこの国の歴史に至るまでの座学が中心になってしまう。当然地球のような便利道具もなく延々と授業を聞いているだけなので、飽きて脱線することがある。


「で、なんでレス太みたいなお坊ちゃんがベレンたちと知り合いなんだ?」

「毎回思うがそのレス太というのはいったいなんなんだ…!ぐぬぬ……」


 押し黙るレス太、いや、レスタス。


「別に隠すようなことでもないでしょ?昔エナをいじめてたこいつをあたしがぶん殴って、それからなんだかんだと縁があった、ってだけよ」


「う……あのときは悪かった。すまない。」


「あたしに謝ってもしょうがないでしょ。エナに言いなさい。」


 ありえなくはない話だ。今ならわかることだが、どうやらレスタスは貴族らしい。豪華な服を着ているからむしろわかりやすいのだが、太郎にこの国の服の相場がわかるはずもなく、妙に似合っていたこともあって何も感じていなかった。


 その貴族であり、国立--エリート校らしい--学校にも通っているプライドの高いレスタス。

 一方はただの宿屋でしかも無能。職にありつけているからまだましとはいえ、何かのはずみに衝突することもあるだろう。


 謝りあしらわれ、身を小さくするレスタスだが、若干顔が赤い。そして隠してはいるがちらちらとベレンのほうを見ている。なんというか割と露骨だ。もちろんベレンからは見えていない。


 ははーん?と太郎が何か言いたそうな顔でレスタスを見ている。


「…な、なんだ!何か言いたいならはっきりと言ったらどうなんだ」


「おまえ……Mなのか?」

「なんだその『えむ』というのは。バカにされている気しかしないんだが?」


 もちろんわざとである。レスタスがMではないだろうことは太郎にはわかっている。いや、相手が相手ならその素質もないわけではないだろうが。


「何よ、レスタスがどうかしたの?」


 そのまま煽る太郎。ついに叫びだしたレスタスに首をかしげるベレン。

 哀れなりレス太。君の春はまだまだ遠そうだ。


「ああもう黙れタロー!今度僕のところの法具をやる!!」

「まじかよやったぜ」

「くっ…いちいち腹の立つ…!」


 変わらない日常。決して立ち止まっているわけではないものの、大きな前進もまたない。それでも太郎たちは一歩一歩着実にちしきを身に着けていくのであった。


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