第十話 勇者の条件とは?(What is Condition of the hero?)
PV欲しさに連続投稿。もう一話同時更新しております。まだ読まれていない方は一話戻ってお読みください。
ベレンにはわからなかった。なぜ、無能が差別されなければならないのかが。
自らが恥ずかしかった。なぜ自分はのうのうと生きているのだろうかと。
悔しくて、そして思った。自らが手を差し伸べなければと。
クリエナの件がそうだ。今まで一緒に育ってきた幼馴染がひどい扱いを受けるのが耐えられなくて、父を説得し、ともにこの家で暮らすようになった。クリエナは笑ってくれている、ベレンのおかげだと、笑って過ごしてくれている。
しかし、それだけだ。クリエナ以外にも無能はあふれている。近くの路地裏に、川の近くに、軒下。どこかに閉じ込められるものもいるだろう。
その全部をベレンが救うことはできない。経済力、発言力、知識、力量……年齢。そのすべてが足りていなかった。
ベレンは子供だ。何をするにも誰かの力が必要で、しかし誰もベレンの目的に耳を貸さない。
高慢だ。その子供が何を叫ぼうと、何かが変わるわけでもないというのに。
しかし、だからと言って何もしないことはありえない。それは太郎をここまで連れてきたことからもわかることだ。
……今回は、なんだか空回りしてしまっていたが。
太郎は自らをユウシャだと、異界からの救世主だといった。きっとベレンの力など必要ないのだろう。そうだとすれば、勝手に弱者だと思い、手を伸ばした自分がバカみたいではないか。
半ば八つ当たりに近いような感情であっても、常日頃抱えていたものと関連していただけに、耐えられなかった。
太郎に対して吐き捨てた言葉など、真に八つ当たりであった。
一通り自らを省みたところで、ベレンは自室の扉がノックされる音を聞いた。
*
扉の向こうから、すすり泣くような声が聞こえた。太郎はなんだか悪いような気がしたが、扉はノックされてしまった。
「ベレン、俺だ。」
「…開いてるわよ」
ギンタークの呼び声に答える声。涙声ではあったが、入ってもいいということだろう。
部屋に入る。そこは女の子にしては質素な部屋であったが、整頓され、統一感のある木造家具がいい味を出す部屋だった。
先ほどまで泣いていたベレンの顔はまだ赤い、しかし、その瞳はまっすぐ太郎を射抜く。
「…さっきは悪かったわね、急に怒鳴ったり。八つ当たりした」
「いや、こちらこそだ。せっかくの厚意を蔑ろにした」
お互い謝りあう。ギンタークはそれに頷きながら後ろで眺め、口を開いた。
「なんにせよ、タローにいくところがないのは変わりない。何かの縁だ、タローは今日からここの居候させる。いいな?」
「ええ、もちろん。あたしが拾ったんだから、ちゃんと世話するわ」
おれは犬か猫か。いや、犬っぽいとはよく言われるが。太郎は内心そう突っ込んだ。 しかし、たとえ力法が使えようと、太郎にこの世界での身寄りがないのは事実なのだ。
「タローが力法を使えようと、救世主だろうと変わりはないわ」
ベレンの視線が揺らぐことはなかった。
ベレンが言い切ると、やっとというように空気が弛緩したのがわかった。その弛緩した空気を、同じく気の抜けた太郎の声が通る。
「あ、そうだ。言い忘れてたが、おれがまだそのリキホウってのを使えるとは限らないぞ」
何気にベレンに初めて名前を呼んでもらえた太郎。雰囲気には乗っても空気は読まない男であった。
*
太郎が読んだ書籍には、いろいろなもの(チート)があった。単純に力が強いもの、魔法が使えるもの、日本の技術、知識、神様の恩恵、中にはそもそも人間ではなくなっているものもいた。
その種類は数多に及び、されどどれも同じものではなかった。
「はっはっはっ!!なるほどなぁ!じゃあお前のチートとやらはまだわからない、と。とんだ早とちりだなぁベレン!」
爆笑するギンターク。顔を真っ赤にしプルプル震えだすベレン。親子にしてはあんまりな光景であった。
「何よ、何よぉ!もっと早く言いなさいよ!?そういうことは!!」
叫び太郎に詰め寄るベレン。まだわからないが、せっかくの反省が台無しであった。補足するが、ベレンとギンタークは太郎が無能かもしれないということにリアクションをとっているわけではない。おもに自身に対する羞恥とその顔が面白かっただけだ。
言うタイミングがなかったんだよ、と太郎は考えたが、真っ赤なベレンに通じるわけもなし、黙っていることにした。
「ま、そういうわけで、お世話になります」
泣いていた。太郎と同じくらいのベレン(少女)が、親友のために、そしてあったばかりの他人のために涙を流していた。
ーーここで立ち上がらずに何が勇者だ。
ひそかに、勇者は産声を上げる。
これからこの家が一段と騒がしくなることは、想像に難くなかった。