優しい装置
あるバイクメーカーから最新のバイクが発売された。そのバイクは危険を察知すると、瞬時に車体の半径一メートルをバリアが囲み、乗り手とバイクを守る、バリア発生装置を搭載していた。
そんな最新のバイクに乗ってツーリングを楽しんでいる一人の男がいる。
男は高速道路をスピードを出して走っていた。男は自身の運転技術を過信しており、何よりもバイクを過信していた。
「俺のバイクは万が一の時、完全な鉄壁のバリアを発生させ、俺を守る。どんなにスピードを出した状態で、何処の誰に衝突しても、死なない事は保証されている。こんなに頼もしい事はない…」
アクセルグリップを握る男の手には自然と力が入り、バイクは男に応えるように徐々に加速した。
だが、やはりと言うべきか、男の運転は無謀だったのだろう…。ハンドル操作を誤った男のバイクは、高速道路の防音壁に向かい衝突した。
しかしその直前、バイクはバリアを発生させ、バリアと防音壁が衝突した衝撃で宙に投げ出された男は、そのままの勢いでバリアに激突して重傷を負った。
怪我で苦しむ男の傍らで、横倒しになったほぼ無傷のバイクがそこにはあった。この装置、どうやらバイクにだけ優しいようである。