3-深幸LOVE→人口増加
朝の教室。いつもの時間。相葉が席についてぼんやりしていれば、深幸が登校して来て鞄も置かず真っ先に寄ってくるはずだ。いつものテンション。いつもの笑顔で。深幸が。
「おはよー相葉チャン」
そして事実、見事なほどいつも通りだった。さらさらと揺れる髪、綺麗な笑顔、どこか守りたいと思わせるような華奢な姿。
(うわあヤバイちょうドキドキしてきた!かわいい。昨日の続きしたい!!)
都合良く前日のキスシーンだけを思い出した相葉はうっかり深幸の唇を直視して目を逸らす。
(いやダメだろ大体教室だし朝だし明るいし、皆いるし)
明らかに最重要事項は最後の一文だが、相葉に取っては教室だったり、朝だったり、明るいのが更に重大な問題のようだ。さすがは男子高校生。恋は盲目。
「おはよう、って。顔赤いよ、俺に惚れてんのは分かったけどさ」
平然と、ごく自然な会話のように深幸がそう言って、相葉の髪をくしゃりと掻き混ぜた。声を落とした訳でもないから、その瞬間教室が静まり返ったのは言うまでもない。もちろん相葉も固まった一人である。当然だ。
「み、深幸、それは……、その、…、」
(髪!!どーしよう。すっげー気持ちイイ…。でもこれってカミングアウト?それってちょっと……ああどうしよう、でもやっぱ手ー外させんの勿体無い、ああもぅ、いいか。待て早まるな俺!いやいやでも…、やばい抱きしめたい、なんでだよ好きだよチクショウ、)
悲しいことに相葉の葛藤を端で見ていればその心中など馬鹿でも分かる。
「うん?」
髪を解いた指を頬に滑らせた深幸が試すように笑う。相葉からしてみれば、その仕草が気を失うくらいに色っぽくて目眩がした程だ。
しかし。しかしだ、問題はそこじゃない。更なる問題はそう思ったのが相葉だけじゃないということだ。目の届く範囲のほぼ全員の視線を奪ったまま行われた深幸の挑発は、当然ながらそのほぼ全員が目撃することとなる訳で、美少年の危険なスキンシップにくらっとしたのは他に何人もいた。
平たい話、(やばい。ときめく…!!)と感じた人口が増えたのだ。後々嫌でも気付かされることになるのだが、相葉にとってこれはライバル出現の瞬間でもあった。




