2-I LOVE Uが軽すぎる
「相葉ー、音楽室、どっち?」
2ーA。相場と深幸は同じクラスだと分かってから、かなりの確率で一緒に行動している。
「二階。あのなー、聞かなくても俺だって行くんだから黙って着いてこいよ」
「ん?あぁ、うん。わかった」
転校して来た美少年というシチュエーションで当たり前の如く生徒の視線が集まる中、素直に従う深幸に実は相葉がときめいている、なんてのは誰にも言えない。
(落ちッ着け、オレ!ときめく、ってなんだ!!)
だからもちろん相葉の葛藤なんかは口が裂けても言えない。
「深幸、…―あー、昼なに食う?」
「はぁ?」
呆れた表情を浮かべた深幸は、直後に笑って相葉の肩をばしっと叩く。
「しっかりしろよ、一時間目だぜまだ。相葉チャン」
はははと屈託なく笑う深幸に他意があるのかないのか。それとは無関係にもう止める術もなく相葉の中で実を結んだ言葉は、
―恋。
(オイこいってなんだコイって鯉?)
動揺しまくっている相葉に追い打ちをかけるように深幸が真正面から微笑む。それは「地雷」、もしくは「悩殺スマイル」と呼ばれる種類の笑みで。
どくんっと跳ねた心臓に形式的な言い訳すら吹っ飛んで、実際相葉が(こいってコイは鯉じゃなくて恋か!)と悟るのに一秒もかからなかった。深幸危うし。
「相葉、授業遅れる」
ふと気付いた深幸が相葉の腕を取って走り出す。
ちなみに相葉の内心は(やばいやばいやばい、自覚したばっかだっつの!!でも嬉しい!)といったところである。
一日の授業がすべて終わって、けれど相葉は何もかもが上の空。
「相葉、調子悪いのか」
ガタン!!!
頬杖を付いていたところに、かなりの至近距離で囁かれ、挙げ句額に手のひらを翳されそうになって、過剰反応した相葉はイスから見事に落ちた。
「っ、いって……!」
目の前に立った深幸が驚いて固まっている。
「あ、ごめん…、熱でもあんのかと思って、」
相葉がはっと我に返れば深幸と教室にふたりきり。全員が帰った後らしい。
「相葉、大丈夫?」
(危ない。くらくらする…)
「なぁ、平気?」
(心配してんの、かわいい)
「相葉、」
(呼ぶな。やばい)
「なぁ」
相葉が深幸の腕をぐっと引っ張って、引き寄せる。
「ちょ、相……」
困惑を滲ませて深幸が動きを止める。けれど腕の中で大人しくしていたのは、ほんの一瞬。
きつく拘束されていた訳ではないから、深幸がそのすらりとした指先で相葉の顔を包むのは容易で、目を見張った相葉に口付けるのはもっと容易だった。離れた唇が、相葉の目の前で綺麗に弧を描く。
「相葉チャン、あいしてるよ」
愛の告白ではない、羽のように軽い口調。
「でも、ま、やばいっしょ。これ以上は」
踵を返しかけた深幸の笑顔は、いつも通り。
「じゃあね、また明日」
そう言い残し振り返りもせず教室を出て行く深幸。
ひとり残された相葉は、暫くそこから動くことが出来なかった。




