1-転校生イコール美少年
それはどこにでもあるような朝の登校風景で、紺のブレザーに身を包んだ高校生たちが今日もがやがやと校内へ吸い込まれていく。言ってみれば、別に取り立てて突っ込むネタも無い平々凡々な景色だ。
学力は中の中、真面目な生徒と不真面目な生徒のバランスも取れたこの学校は、良くも悪くも「平和」。荒れていないのは喜ばしいが、どちらかと言うと「不良になるのも面倒臭い」という雰囲気が流れていて、不完全燃焼な毎日を送っている生徒(ついでに先生も含む)が多いのは疑うべくもない。
だから今日も、「なんとなく」登校して「なんとなく」下校する予定の人間が大半を占めている。
そして明日も明後日も、そんな日々が繰り返される……と、誰もが思っていた。
そうたとえ、突然転校生がやって来たにしろ。
複製品かと錯覚するような生徒たちの群れの中で、一人目立つ後ろ姿がある。
さらりと揺れる薄茶色の髪と、華奢な体に制服のブレザーがよく馴染んだ彼。つい先日この街に越して来て、今日からこの学校へ通うことになった彼の名は、城崎深幸。その中性的な名前そのままの綺麗な顔立ちは、ただそこに居るだけで華があった。
そんな人目を引くタイプだから、転校生だと紹介される前に生徒の何割かは深幸に気付いて、その中でも気の早い人間がさっさと声をかけたりするのである。二年の相葉修治が深幸の肩をとんと叩く。
「見たことないけど、あんた転校生?すげー目立つ」
相葉に視線を流した深幸がきょとんと応える。
「…目立つ?なんで」
どこか幼い甘さの残る口調。けれど相葉が驚いたのは口調よりも言葉そのものだ。
「なんでって……、まさか自覚ナシ?アイドル、…ってかゲームのCGみたいに整ったルックスしてんのに」
うそだろ。相葉がぼやくと、深幸の長い睫毛に縁取られた目が数回瞬いて、次の瞬間にその「CGみたいなルックス」に、全てが分かったというような乾いた笑みが浮かんだ。
「ああ、そんなこと」
くだらないとでも言いたげな深幸の台詞に相葉が躊躇する。相葉が何も言わないのを確認して、深幸が付け足した。
「なぁそんなの、所詮『見た目』じゃん」
不意打ちのように挑発的に笑った深幸に、相葉が動揺で固まる。
(なんか、やばい。この転校生は)
そんな警告が胸中を過る。だが時既に遅し。
「俺、城崎深幸。よろしくな」
数秒前から反転するように砕けた笑顔を向けられて、相葉は「完全な危険」を察知した。
(やばい。なにこいつ、すげーかわいい)
こうして城崎深幸のエキセントリックな学園生活は、無事幕を開けたのである。




