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99.西に行ってみることにするらしい

 

 

「あたしは西に行ってみたいかなぁ」


 エリアボス[ビッグスラーミ]を倒して第1サークルエリアの【円門1の通過者】の称号を取得した後。

 ラビタンズネストの集会所(ヤマトにと作られた家)で姉がそんな事を言い出した。


「はぁ?サキ達が向かうエルフの街は東なんだからそっちに行かなきゃダメじゃねぇか」

「そう、そこよ!」

「どこ?」

「だ〜か〜ら〜、種族クエがあるからって必ず行くべきものじゃないってことよ」

「いや、行かねぇとスキルスロ手に入んねぇし、エルフ向けのスキルも手に入んねぇだろが」


 姉とラミィさんが西か東に行くかで何やら揉めているみたいだ。

 正直僕はどっちでも構わない。出来ればなるべく苦労しない方向でお願いしたい。

 ハーミィテイジゾーンであるラビタンズネストに入れる様になって数日。ここに通うようになって地道に拠点としての体裁を整えつつある。


 あの後アンリさんが1人で例の林の木々を次々と伐っていってラビタンズ達に僕等の家を建てて貰っている。

 次第に作り上げられていく家をアンリさんはラビタンズネスト(ここ)に入り浸ってちびラビタンズを構いながら日がな1日眺めていたらしい。(VR滞在限度内で)

 それで会社の業務に支障をきたしかけたとかで、社長のミラさんに1日2時間の制限時間を決められて少々凹み気味のアンリさんだ。


 それでも胸の中に抱きしめて今もちびラビタンズを構っているんだけど、それは他の2人も一緒だ。

 僕はと言えば、ここのところで充実させた調理器具や調味料を並べ料理を作っている。

 よく考えてみればマルオー村まで行かずとも、スーパーはろもごである程度の食材が手に入ることを思い出し、さっそく必要な食材を購入し道具類を取り揃えここに持ち込んだのだ。

 商店街で売っていたフライパンや魔導コンロ(結局課金してしまった)をここに設置して、やっとゲーム内(ここ)で料理に勤しめることになったのだ。


 まずはララとウリスケの希望のワイルブモーの厚切りステーキを焼いてる最中なのである。

 【調理】スキルもLv20に迫って来てるので、今日はララのサポート無しで作り上げることが出来ている。

 4cm程の厚さに切ったワイルブモーの肉を次々と焼き、付け合わせの野菜を煮たりソテーしたりして並べた皿へと取り分けていく。そんで果実で作ったソースをタラーンとかけていく。

 ララとウリスケはともかく他のアテンダントスピリットの皆も食べたいというので、都合10人分。

 以前と比べるとなかなかの大所帯である。

 

 と言っても僕の分はどちらかと言えば、今来てるちびラビタンズの分になるんだろう。多分。

 彼等は見た目はウサギさんだけど、特に野菜ばかりを食べるわけでなく、人と同様に肉でも魚でもフツーに食べれるとのこと。

 それでも野菜の方が好みではあるらしいので、まぁ、それなりに食べて貰うことにする訳なのだ。


「出来たよ〜」


 最後にスーパーで手に入れた調味料で作ったタレをかけまわし完成させる。


 ワイルブモーの厚切りステーキ

      2種の果実ソース添え:ワイルブモーの肉を厚く切り分け

                 塩、コショウ、麦粉で味を調え

                 側面に燻製肉の薄切りを巻いて

                 焼き上げてたもの     Lv6

 

                 旨味と肉汁を封じ込めカリリと

                 した食感と脂身とかけられた2種の

                 果実ソースが相乗効果をもたらし

                 食べずに入られないひと品

                 (HP +100 満腹度 70%)   


 アンリさんが鑑定してくれたのがこれなんだけど………、食べずにいられないって………。

 いや、皆の様子を見てると、そうなのかなぁ等と思わずにはいられないが………喜んでくれるならいっか。いいことにしよう。


 姉を始めラミィさんやアンリさんまでがガフガフまふまふと口いっぱいに頬張ってステーキを貪っている。

 ララとウリスケに至っては言わずもがなだ。正直アトリに至っては食べ過ぎだと思わないでもない。

 他のアテンダントスピリット3人もテーブルにの上に陣取り剣のようなナイフと刺股のようなフォークを器用に使い肉を切り分け食べている。

 

 レリーは噛み締めながら優雅に、エレレは小さく切っていった後にまとめてパクパク、コンドォーさんは大振りに切り取ったのを丸呑みするように口にしている。(レリーとエレレにさん付けやめてと言われたので、コンドォーさんはアンリさん曰く“さん”までが名前だそうだ)


「おうさまー。ぼくたちもー」


 ちびラビタンズが僕の下にやって来てピョンピョン跳ねている。

 ありゃま〜、みんなに分けて貰うだろうと思ってたんだけど、夢中になちゃってるみたいだ。予想通りといったところか。料理作るとよくあるんだよな、何でだろ。

 そしてみんなの様子を見てると何故かじと汗が出てくる。なんだこれ?危ない物でも入ってる気分になってくる………大丈夫か?


 とりあえず自分の分を食べてみる。ナイフを差し入れると、カリリという音の後スーッと刃が入り肉汁がじゅわりと流れてくる。

 小ぶりに切り取ってフォークで刺してひと口パクリ。肉の表面がサクリ、巻いた燻製肉―――ベーコンでいいや、がカリリとそして噛み締めたお肉からじゅわんと脂が染み出し頬がきゅきゅんと締まる。うん、美味い。


 特に変な感じはしないから大丈夫そうかな。

 ステーキを小さく切り分けてちびラビタンズ達へあ〜んする。


「はい、あ〜ん」

「あ〜ん」「あ〜ん」「あ〜ん」


 3人のちびラビタンズに雛鳥に餌を与えるように交互にステーキを食べさせていく。

 

「おいし〜」「うまうま」「みゅふ〜」


 もきゅもきゅ肉を咀嚼する音を立てて声を上げるちびラビタンズ。

 何とも可愛いものだ。思わずほっこりしてしまう。

 後は付け合せのジャガモ(じゃがいも)キャロ(にんじん)を食べさせて、また肉を半分程食べせると(よく食うこと)、3人のちびラビタンズは満足そうにけふっと言って3人並んでペコリとお辞儀をしてくる。


「おうさまありがと〜」「おーさまごち」「かえるぅ〜」


 そう言って3人は家へと帰っていった。


 で、食後のおハーブティーを出した時にちびラビ達が帰ったことに愕然としているアンリさんを除いて、これからどうするかの(西に行くんだけど)予定を話し始めたのである。


「西の方だとドワーフの街あるんだし、そっち方面って行ってないから試しに行ってみたいのよねぇ〜」

「まぁ、別に本人が行きたいっていうんなら止める理由もねぇしな。ラギはそれでい〜んか?」


 姉に翻意を促す様な事は出来ないと悟ったラミィさんは僕に話を振ってくる。


「ん〜、別に構わないかな。マルオー村に言ってみたい気もするけど、ちょっと気恥ずかしいし、行った先からプロロア(こっち)にすぐ戻れるんなら行き直してもいーからね」


 僕は後片付けをしながら、ラミィさんにそう答える。


「ララはマスターについていくのです。けふっ」

「グッグッグ!」

「おけ。のーぷろぶれ」


 ララ達はテーブルの上に横になりながら僕にそう言って来た。

 プロロア周辺の踏破率は6割といったところだから、もうちょっと埋めたいという思いもあった。

 南の大河で釣りとか、北の山脈で薬草採取とか面白そうだと思ったのだが、次の機会でも問題ないだろう。


「ところで西の街ってどんなところなの?確か第2サークルエリア?には人族とドワーフと魔族の街があるんだよね」


 僕がラミィさんにその事を聞いてみると、ラミィさんはもったいぶった様にニヤリと笑って言う。


「それは行ってみてからのお楽しみってとこだな。それなりに楽しめると思うぞ。食材とか料理とか特徴あるし」


 へぇ~、そういう楽しみもあるか、ならまったく問題ないね。


「サキちゃん、僕は構わないよ。で、何か準備するものとかあるの?ポーションとか」


 せっかくララが案内してくれた薬草の群生地とかあるんだから、採取しとくのもいいかもしれない。スキルないけど。

 それを思うとヤマトの時は何とも運が良かったんだなぁとしみじみ思ってしまう。

 ってか先にバロンさんの店探した方がいいんだろうか。


「ん~にゃ、あたしの方で用意するから大丈夫。ただ、数日間はリアルがちょい慌ただしいんで待ってて欲しいかな」


 まぁ、正月明けてからだから色々あるんだろう。

 ならその間、僕は街の周りをぐるぐる歩き回っていよう。


「うん、分かった。じゃあ僕はレベル上げとかしとくね」

「ごめんね。あっ、円門だけはくぐりに行こ」


 あー、スキルスロットは増やしときたいもんな、うん。


「じゃあ、今から行くの?」


 お茶を啜りつつ姉に聞いてみる。姉はちょっと頭を揺らしつつしばらく唸ってからラミィさんに話しかける。


「ラミィ行ける?」

「ああ、今日はまだ大丈夫だ。アンリおまーも付き合え」

「いえ、私はここでラビタンズのお世話を――――」

「明日から1じ――――」

「はいっ!行きます。行きますよっ!!」


 おー、なんか普段と立場が逆転してる感じだ。


「えと、じゃ円門の先の村まで行くのかな?」


 やっぱマルオー村と同じ様に円門の先に村があると思うので姉に確認する。


 姉はついと目を逸らす。あれ?ラミィさんを見るとやはりふいと見を逸らす。ん?何かあるんだろうか。

 今度はアンリさんを見ると苦笑しつつ答えてくれた。


「円門を通ってからプロロアへ戻った方がいいと思います。私達の都合もあるので申し訳ありませんが、よろしくお願いします」


 ふむ、なる程。それじゃ仕方ないかな。西の村に何があるのか分からないけど、行ってみれば分かることだし。


「それじゃ行くよ!」

「おー」

「あ、その前にラビタンズを〜」

「アンリ、明日から………」

「はいっ行きますッ!」


 こうしてその日はラビタンズネストからプロロアの森を抜け、襲ってて来たビッグスパローは1匹残らず殲滅しつつ、西の円門へ行ってスキルスロットを増やしてプロロアの街へ戻りログアウトする。

 翌日は夕方からバイトのシフトが入ってるので、午前中は細々とした家の事をやり、昼食を取ってからログインする。


 まずはスキルショップで【採取】と【鑑定】を買いに行こう。

 そんな風に予定を頭の中で組みんでいると時計台広場が目の前に現れる。


「お帰りなさいなのです。マスター」

「グッグ!」

「おか」


 僕がログインすると同時にララ達も魔法陣からやって来る。

 この光景にも慣れたもんだなぁーと感慨深く思っていると、ララとウリスケとアトリが右手をピシッと上げて挨拶してくる。

 けーれいっ!て感じだ。どこで覚えるんだろうか。


「ただいま。ララ、ウリスケ、アトリ」


 お帰りなさいが常なので、僕もただいまと返事をする。

 帰るところが2つあるというのも、ある意味不思議な気分ではある。(変な意味でなく)


 姉やラミィさんはしばらくログイン出来なさそうなので、今日は僕等だけで動くことになる。

 よく考えてみるとVRでは初めてかも知れない。

 ちょっとだけ口元に笑みを浮かべ皆を見てると、それに気付いたララが何でしょうと聞いてきた。


「うん、サキちゃん達には悪いけど、僕達だけが一緒なのって久々だなぁと思ってさ」


 僕にそう言われ初めて気付いた様に目を見開き口をおーっと開けてニパーっと笑顔になる。


「そうなのです!久々なのですっ!」

「グッ!グッグッグ―――――ッ!!」


 ひゃっほーぅとララがくるくる回り、ウリスケがピョンコピョンコ跳ね回る。


「アトリはじめて」


 アトリも僕達だけの状況に頭の上でピョンピョン跳ねてるみたいだ。

 ふいに視線を感じ周囲を見回すと、多くのPCがこちらを見て何か言ってる。

 よく考えてみればここは時計台広場で、いまだPCがたくさんいたことを思い出し、僕たちはそそくさとそこを離れることとした。


 ちょっとはしゃぎ過ぎだね。へへっ。

 

 



(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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