92.父さん母さんのVR体験
翌日からもまったりと家族で過ごし、母さん料理の手伝いをしたりとレパートリーを増やしたりしていった。
そうは言ってもたいした物は覚えていない。(おせち料理とか年越しそば打つとか基本無理)
恒例の歌合戦を見ながら、年越しそばを食べ、(ドルイド・タカサキさんとイケウチ キョーコさんの軽快なトークも味わいがあっていい)
そしておせちをぱくつきながら新春特番を酔いとともに楽しむ。(よってゲームはやってない)
今回は2人とも突発的な事案が無かったか差し止めていたのか、呼び出されることも無く過ぎ去り今は2日の夜。
母さん謹製の鍋焼きうどんをみんなでつつきつつ、今後の僕の進路などを話している時にゲームの話になった。
僕のやりたいことは話してあるし、了解も貰ってる。
たまたまガッコーを修士までで修了するという事で、そんな話になったのだ。
春になればしばらくはバイトをしながら、修行と内職するって感じかな。
就職するという手もあったが、その手のところには余り門戸が開かれてなかったのだ。
まぁ、修士論文もPVとサンプルモデルも提出して可を貰っているので、後はのんびり過ごすのみだ。
そしてその分ゲームに専念できる時間も取れる。そんなことを話していると父さんが興味を持ったらしく聞いてくる。
「何だキラ。VRゲームをやってるのか?」
「うん、サキちゃんに頼まれたんだけどね。その流れって感じかな」
父さんと母さんの瞳がキラーンと光ったように姉を見つめる。
コタツに入りスルメをかじかじして日本酒を飲んでいた姉がその視線に気づき、何?って顔をして2人を見やる。
悪い大人の顔をしてる2人にニヘラ~と笑ってパタリとテーブルに頭を倒して寝てしまった。それを見て2人がちっと舌を打つ。
僕はだらしなく口を開けて寝こける姉を見て、また2人を見る。
何とも穏やかで優しい眼差しを姉へと向けている。
2人が知り合った元も姉から始まったとじーちゃんから聞いた事があった。
ナユタ君には感謝してもしきれないとか。
どういう意味かは知らないけど姉のこの姿を見れば、悪い………とても良い事なのだろう。
僕は姉のそんな様を眺めながら、コーヒーを啜りテレビへ視線を戻す。
TV画面では、お笑い芸人がコントを披露して爆笑を起こしている。
「VRゲームはどうだい?」
父さんがそんな事を聞いてくる。へぇ、珍しい。ゲームなんてあまり興味ないかと思ってた。
「面白いよ。いろんな人がいて、いつもやってるのとは違ってて………。あとVR空間ってすごいなぁって思ったよ」
「ほぉ」
僕はガッコーでのVR空間の活用法なんかを説明していく。
「感覚の齟齬なんかはないのか?」
「全くと言っていい程無いと思うよ。僕の感覚だけどね」
他に製造生産系のシミュレーションなんかは無駄を省ける分経費の節約にも繋がりそうだとか。
「あと遠距離同士の会議、会合なんかも利用されてるみたいだね」
父さんが僕のその言葉に興味を示す。からかう様にちょっとしたアイデアを話す。
「VR内に家とか作れば、遠くにいてもいちゃこら出来るんじゃない?」
「………ふむ、なる程」
冗談で言ったつもりだったのに、父さんが何故か真剣な面持ちで考え込む。
「父さん、冗談だよ?」
僕が内心少し焦りつつ話しかける。が急にこちらに向いて問い掛けてくる。
「キラ、その機械は持ってきてるのか?」
「来てるけど………。やるの?」
僕が聞いてみると、ニコリと笑い手を差し出してくる。
「貸して☆」
「……………」
僕は仕方なしに居間を出て自分の部屋へ向かう。途中ララに僕以外に使用できるのか確認して見ると、【アトラティース・ワンダラー】以外にはソフトをインストールしてあれば問題ないそうだ。
でも、僕のHMVRDにはゼミ用の作業場とゲームしか無かったと思うんだけど………。
部屋に入りバッグからHMVRDを取り出すと何故か電源が入った状態になっている。
「あれ?なんで?」
『ララが入れたのです。取り敢えずアスレチックプレイルームとテニスゲームをインストールしたのです』
端末のララがそんな説明をしてくれる。至れり尽くせりだ。
居間に戻ると後片付けを終えた母さんが姉のほっぺをむにむに引っ張って遊んでいた。何やってんだか。
僕がHMVRDを持って入ると、それを目聡く見つけた母さんが近寄ってくる。
「それがゲーム機なの?」
あごに右人差し指を当て覗き込むように僕の手元を見てくる。普通そんな仕草は10代位、まぁ20代前半までが許されると思うけど、何故か様になってるのが小憎らしい。
父さんに渡して軽くレクチャーをしてVRルームの説明をする。
さっそく座椅子の角度を浅くして軽く横になり、HMVRDを被り起動させる。相変わらずフットワーク軽いなぁ。
父さんは身動ぎもせず座椅子に横たわったままだ。
何か起きるのかとわくわくしていた母さんが、父さんを指差し眉尻を下げて僕に聞いてくる。
「これって何にも起きないの?」
「んー、父さんが被ってる機械の中でいろいろやってるって感じかなぁ」
やっぱり傍で見てるとHMVRDを被る姿はなんとも滑稽だ。
そうだと思い付き、端末のララにこっそり確認してみる。
「ララ、父さんが中で何をやってるかってこっちで見ること出来る?」
『はいなのです。ゲームだとロックがかかってるですが、他のものなら出来るのです』
ララの言葉の後、ホロウィンドウが目の前に現れてくる。
画面は定位置で固定されていて、防犯カメラからの映像のように幾つかに分割されて表示されている。
それの1つをタップして拡大する。
「もしかしてこれがナユくんなの?」
画面を横から覗きこんで母さんがそれを指差す。
全身黒タイツ姿のの人形がアスレチック場にあるような器具に揺られたり、1本橋を渡ったりしている。
『ほっほ〜〜〜っ!これは、すっごいなぁ〜〜〜っ!!』
黒い人形が楽しそうにスキップしながら走り回っている。
この黒い人形というのは、VR初期のころ未設定登録時に暫定で使っていたものの一つらしい。
とりあえずとか、試しにプレイしてみる時の為の簡易キャラクターだ。
身長、体重、体格と声を選択入力しただけのもの。
1部でもこの名残からVRのPCをプレイパペットなんて呼ぶこともある。
その人形が池の中央を縦断するように屹立している丸太棒の上を器用に飛びながら次々と移動している。
「あ、落ちた」
ドッボーンと水音が聞こえ水柱を上げて人形が池に落ちる。
しばらくすると池の端へと人形が戻っている。そこら辺はゲームなんだろうなぁと画面を眺めていると、いつの間にか母さんが姉を揺すって起こそうとしていた。
「サキ、サァ~~キィ〜〜ィ!あれ貸して、あれっ!ほっらぁ~~~ッ!!」
母さんが姉をぐわんぐわん揺すっている。大丈夫か?あれ。
「あ゛~~~~っっ、も゛うっ!なによっ!母さんっ!!」
揺すられ続け鬱陶しくなった姉が目を開けうがーっと声を上げる。
「サキ!さぁ、あれを貸してちょーだいっ!はやくっっ!」
父さんを指差しブンブン振っている。
姉が父さんを見て首を傾げる。
「何で父さんがHMVRDを装着してんの?」
微睡んでいた意識を少しだけ戻した姉がそんな事を聞いてくる。
「父さんVRってやった事なかったみたいで、やってみたいって言うんで貸したんだけど、それを見た母さんが自分もやりたいってサキちゃんを起こしたとこかな」
「あ~~~、あたしの部屋にあ――――」
「わかったっ!」
母さんがぴゅーっと飛んでくように居間を出て、すぐにHMVRDを持って戻ってきた。何だかなぁー。
手渡されたHMVRDを起動させて何やらいじり出す姉。
それをワクワクしながら見つめる母さん。
ホロウィンドウの中で黒人形がスカッシュをやっている。
何ともコメントにならない思いを溜め息とともに吐き出してコーヒーを啜る。
姉がHMVRDのホロウィンドウを出してインストールされてるソフトを表示して母さんへ見せている。
「ん〜と、どれをやる?」
「えっとね、魔女っ子ものってある?」
がくっとずっこける様に肩がかしいでしまう。魔女っ子ものって………。
「魔女っ子ねぇ………。シューティングとかどう?」
「いいねっ!じゃ、それっ!!」
姉がセッティングし終わると、母さんが座椅子に座りさっそくHMVRDを被ってライドシフトを始める。
姉はそれを見届けると、コタツへとうつ伏せになり寝てしまった。
TVの音だけが居間に流れ、僕以外の3人が身動ぎもせずに佇んでる様子は何とも変な感じがする。
ホロウィンドウの中の人形は今度はテニスをやってるみたいだ。ララがいろいろやってくれてるのか。
それを見てると母さんが何をやってるのかちょっと気になってくる。
「母さんの様子って、やっぱ見れないよね」
端末にちょっと聞いてみると、すぐに返事が返って来た。
『レリーさんに了解もらったのです。これなのです』
え?レリーさんって姉のアテンダントスピリットじゃ………。
すると僕の目の前にホロウィンドウが現れ、中の様子を映しだす。
『チャッピーいくよっ!【パンピィ・メタモ・フォム・マギカルッ!!】へ〜〜んし〜〜んっっ!!』
「ぶっっ!」
女性のフォルムをした赤人形がなんかステッキを振り上げ、そんな台詞を言っていた。
うっ、本当にシュールだ。
キララランと音がして変身エフェクトと星やらリボンが辺りに広がって光り輝くと、そこには白とピンクのドレスを身に纏った少女が現れる。
あ、これ見たことあるな。
確か昔やってたアニメのキャラだったか。えーと、魔法少女コメット何とかだったかな。
『マスター。魔法少女ガンナー コメットリラットなのです』
ララが僕の心を読んだように説明してくる。く、うちはえすぱーが多い。
「あー、そーだそーだ。懐かしいな、これ」
画面は横からのカメラワークでその様子を映している。まるで横スクロールシューティングゲームを見てる様だ。
記憶を遡れば、このアニメは魔法王国マギナアルナに突然やって来た魔邪軍団と戦うストーリーだったか。
魔法少女の中で女神様に選ばれた5人の少女が魔邪大元帥と対決するのを覚えてる。姉がいい年して夢中になってたのを思い出す。グッズとか買ってたし。
母さんが演じてる?のは赤の少女サーリーだ。箒のような棒にまたがり周囲に大砲を2つオプションにして、列をなしてくる敵キャラを攻撃している。
まるっきりグ〇ディウスっぽいなぁ〜などと眺めている。
「けっこーキャラ物なんかもあるのかなVRって………」
『あることはあるのです。ただどちらかというと人気があるかといえばそれ程でもないのです』
僕の呟きにララがそう説明してくる。どうしてかと少し考え思い至る。
「んー、キャラでプレイしても自分が見れないんじゃ、ちょっと興醒めするか………」
TPSものならまだ楽しめるが、FPSだと自分の行動って見れないからつまらないかも。或いはリプレイで確認するか。もしくはプレイ配信ってことも出来るか?
『なので、この手のきゃラクターゲームは第3者になってプレイするものの方が受けてるみたいなのです』
マルチメディアすげーと思いながらホロウィンドウの様子を眺める。
母さんが1stステージをクリアして決めポーズをしてるのと、父さんが6−5で1セット取ったのを見てから、僕は自分の部屋へ戻ることにする。
父さんと母さんに寝ることをララに伝えるように頼み、姉を揺り起こして部屋へと向かわせる。
明日はアパートで餅つきをやるので、今日は早めに休もう。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
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