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91.実家で年越し

 

 

 翌日からヒィデェーオ食堂からの指名依頼で、調理補助の依頼を請け食堂へと向かう。僕は調理補助でララとウリスケとアトリは前と同じ仕事を担う。

 どこからか話を聞きつけたNPCが、物珍しさで店を訪れ料理に満足していくという事が起きて、何度か姉とラミィさんとアンリさんがやって来て酒盛りをして帰っていくというのが数日続いた。


 【調理】スキルがLv10を越えたところで親方に一品作ってみろと言われたので、腕試しにジャガイモもどきでフライドポテトと鳥の胸肉っぽいのを麦粉で溶いたものにくぐらせ揚げた唐揚げを作ると、酒のアテに良かったらしく、すぐにメニューに入れられたりした。

 最終的には【調理】スキルがLv15に、ギルドランクがEに上がって依頼料は10000GINを貰ってしまった。


 たぶんララ達の分も入ってると思うけど、有難いことには違いない。

 親方にはまた指名依頼を出すからよろしく頼むと言われて、何とも嬉しくなったりしてヒィデェーオ食堂を後にする。


「楽しかったのです」

「グッグッグ!」

「おも」


 みんなも楽しく仕事が出来たようで、そのお陰で大分報酬も多く貰えたのだから、ご褒美をやらなきゃなぁと思い、みんなに何か欲しい物がないか聞いてみることにする。


「みんなのお陰で報酬いっぱい貰ったから、何か欲しい物とかして欲しい事とかある?」


 僕がそう聞くとララはわぁと声を上げ、ウリスケはピョンコピョンコ跳ね歩く。アトリは頭の上でユサユサ揺れる。


「グッグ!」

「はいなのですウリスケさん。ララとウリスケさんはマスターが前に作ってくれたステーキが食べたいのですっ!」


 ふむふむ、ヤマトでプレイしてた時にマルオー村で作ったアレか。

 【調理】スキルのレベルも上がったことだし、道具と材料を手に入れれば何とかなるか。


「アトリはなんかあるか?」


僕は頭の上でユサユサ揺れてるアトリに聞くと、ピゥと鳴いて欲しい物を言って来た。


「アトリ。スキルほし」


 ほぉースキルか。アトリ自身というより僕の為って感じだけど、本人の希望だから叶えてやろうと思う。


「じゃスキルショップに行ってみよう」

「ほしスキル。おみせない」

「あ、そうなの?じゃどうし………そうだ!バロンさん」


 アトリの言葉にどうしようかと考えようとする前に思い出した。

 イベントスイッチはスキルショップでの会話もしくは、店でバロンさんの店の話を聞けば問題ないと思うけど………今日はちょっと時間がないかな。


「今日はちょっと時間がないから、次にログインした(きた)時でいーかな?」

「?どこか出掛けるのです?」


 ララが首を傾げながらそう聞いてきたので、僕は少しだけ肩を落として答える。


「ん~、この後年末は実家に帰って過ごすことになってるんだ。一応HMVRD(きかい)は持ってくし、ログインできたらするけどね」

「ぐっ!」

「わかた」


 路地を抜けて冒険者ギルドで精算してから、時計台広場へ向かう。

 申し訳ないけど今日は一旦これまでとして僕はログアウトする。


「それじゃあね、ララ、ウリスケ、アトリ」

「はいなのです!またなのですマスター!」

「グッグッグゥ―――――ッ!」

「また」

「うんまたね」


 僕からウリスケの頭にのったアトリ、ウリスケ、ララに挨拶をしてログアウトを選ぶ。

 すると周囲が光に包まれやがてVRルームへと移動する。ふうとひと息吐いてから、今日の予定を思い浮かべる。

 まぁ、電車で実家に帰るだけなんだけどもね。


 一応姉には連絡しておかないと何を言われるか分かったもんじゃない。

 僕はホロウィンドウを出してメーラーを呼び出し、姉へとメールを送る。

 ライドシフトしようとメニューを操作しかけた時、ピポーンとメールの着信がする。姉からの返信だ。はっや。

 内容はあたしも帰るから一緒に行こ~。との事だ。


 電車で行くよりは時間も掛からなくていーかと思い、わかったと返事して今度こそライドシフトする。

 パチリと目を開けてHMVRDを外し息を1つ吐く

 僕がゲームをする時は、居間で座椅子に身体を軽く預けて始めることにしている。

 いろいろ(と言ってもほんの2、3種類だけど)試してみてこの体勢が1番不具合がなかったからだ。

 そしてライドシフト時はどちらも同じ姿勢にした方が違和感なく出来る事も分かった。


 さて、とHMVRDをバッグに丁寧にしまって、父さんに見せる書類を少し確認した後、姉が来るまでどうしようかとゲームソフトを眺めているとドバンとドアが開く。


「キラくん!行くよっ」


 萌黄色のスーツをビシッと身に纏った姉が玄関口でそう声を上げる。

 やれやれ。僕はバッグを肩に掛け(アパート)セキュリティー(るすばん)をララに頼んで玄関へと向かう。


「ララ、アパートのことよろしくね」

「はいなのです!3号のララがしっかりみっちり管理するのですっ」

「…‥‥うん、よろしく」


 張り切るララの声を後にしてアパートを出て、目の前にある駐車場にある姉の車へと向かう。


 現在様々な規制もあり、そのほとんどの自動車は電動式(EV Type)になっている。

 他は排ガスのほとんどでないスーパーディーゼルや水素変換式のもので、いわゆるガソリン車というものは博物館や金持ちの家で飾られているものしか無い。


 いや、1部外国では何かのレース様に使われてると聞いたことがあるか。

 かくゆう姉の愛車(くるま)もご多分に漏れずEVカーである。

 真っ赤なスポーツカーが目の前でエンジン音を唸らせて駐車している。

 そう、ブボッボッボッボッとエンジン音を立ててはいるけど、もちろんこれはフェイクサウンドである。


 EV型はモーターで駆動するので、それ程大きな音は出ない。けど小さな音での走行は周囲の人間や車に気づき難くなりその分事故が増える傾向が強くなると危惧した結果、偽物の音を出す様になったのだ。

 最初は何か別の音という話もあったらしいけど、ほとんどの人がしっくり来ないという理由で、ならエンジン音にしようとなったみたいだ。

 いま現在はAIや危機感知システムのおかげで事故はほとんど無くなったけど、このフェイクサウンドシステムは今も車に搭載されている。


 すでに姉は車に乗り込んでいて、僕が助手席に座るとすぐさま発進させる。

 キキキッとタイヤの摩擦音をさせて道路へと進入する。

 ちょっとだけビビったのは秘密だ。うん。

 姉の愛車は国道へと入り、そのまま法定速度で進んで行く。


 僕の実家はいわゆる高級住宅街にあり、距離的にいえば僕のアパート→姉のマンション→実家となる。

 じーちゃんのアパートを受け取った手前住まないというのも何となくはばかれる気がしたので、実家を出てアパートに住みだしたのだ。

 よく考えてみると1年位実家に帰ってないことになる。

 

 メールや電話なんかは頻繁にやっていたので、久し振りという感じではない。けど、実家には久々なのでこれからはなるべく帰ることにしようと流れる景色を眺めながら考えてると、姉がこちらを伺うように聞いてくる。


「キラくん、いつまでいられるの?」


 いや、前見て運転して下さいな。AIが半分コントロールしてるけど、やっぱおっかない。


「ん〜、3日の朝にはアパートに戻るかな。お昼からモチつきやるから」

「あ、あれまたやるんだあたしも行ってい〜い?」

「いいよ〜。ちょっとだけ手伝ってくれる?」

「もちろんっ!」


 そんな会話を交わしながら、バイト先の事とかガッコーの事とかを話し小1時間程で実家に到着する。

 この辺りの住宅街にある他の建物の同様に、かなりの広さの敷地ところにでかい家がデンと建っている。

 規模にして言えば、うちのアパートの2軒分程か。

 数年前まで住んでたのだけど、何故か少しばかり気後れを感じてしまう。はぁ、小市民だなぁ。

 

 車が門の前に近付くと閉じていた門が自動的に開いて通れるようになる。

 そのまま中へと進み駐車場へと入っていく。

 僕は車を降りて玄関へと向かう。

 家の中は誰もいないのか、音もせず静まり返っている。


 えーと鍵はどこにあったかな……じゃなくて、携帯端末を取り出して電子ロックを解錠しようとした瞬間、ババンと突然ドアが開く。


「キラくんっ!おっ帰りっっ!!」


 ギュムっとハグされる。その感触に懐かしさを感じつつ、小さくホールドアップして抱き着いてる人物に応える。


「ただいま、母さん」


 そしてその後ろからトタタタと小柄な影が姉へと飛び込む。


「サキちゃ〜〜〜〜ん!ひっさっしぶり〜〜〜〜ぃ!!」


 すぐさまそれに気付いた姉がササッと横へ移動してそれを躱していく。

 差し出された腕は虚しく空を切り、姉を見て不満を漏らす。


「サキちゃんのいけず」

「ただいま、父さん」


 姉が苦笑しながら挨拶をする。50前のおっさんが唇尖らせても可愛くないので、ぜひやめて欲しい。


「ただいま、父さん」


 首に母さんをぶら下げながら僕も父さんに挨拶をする。

 子供の様な表情から、歳相応の顔になって僕へと話し掛けてくる。


「キラもお帰り。元気そうで何よりだ」


 久し振りと言っても2ヶ月前にアパートで会ってるんだけどな、と思いつつ普通はそうだよなと思い直す。


「まずはお茶にしよう。すぐに夕御飯になるからな。ほら、サナさん夕飯の準備しよう?」

「ん〜〜〜、もうちょっと〜〜〜〜っ」


 腕を僕の首に絡めながらフガフガ鼻を動かす音が聞こえる。この母にして………げふんげふん。


「何か手伝う事とかある?」


 誤魔化す様に母さんに尋ねると、よっと声を上げ僕から離れて玄関に向かいつつ答えて来る。

 

「もう準備は済んでるから大丈夫だよ。おかーさんにまっかせなさーい」


 そう言ってスキップしながら家へと入っていく。

 久々の我が家にほっこりしながら父さんと姉と一緒に家に入る。


 家の中は普段あまり人がいない割には綺麗に片付けられている。

 これだけの広さの家(もはや屋敷)だと1人じゃ無理だろうから、業者ハウスクリーナーでも雇ったんだろう。


「あら、ちゃんとあたし1人で掃除したわよ。もちろんロボの助に手伝ってもらったけどね」


 僕が家の中を眺めそんな事を考えてると、それを読んだかのように母さんから言葉が返ってくる。時々思うが母さんはえすぱーかっ?

 ってかロボの助まだ動いてたのか………。僕が昔作ったお掃除ロボットだ。懐かしー。


 母さんはササザキ サナと言って料理研究家という肩書であっちこっち飛び回っている。

 僕が物心ついた頃からあまり家にいたという感じはしなかったけど、それでも家族や家庭を大事にしていたことは幼い僕にもすぐに分かった。

 40半ばだというのに30……20代にしか見えない若さで姉と並ぶと姉妹かと言われる。

 ただ有名人なので、おいそれと2人で連れ立って歩くこともそれ程無い。


 僕が料理をやるのも必要に迫られたこともあるけど、母さんの影響も大きいと思ってる。

 母さんの作る料理はどれも美味しいからだ。ああいうものを作ってみたいなぁと思いはするが、あまり凝り性でないためか、なんちゃって料理に留まるわけだ。


 そして父さんはササザキ ナユタと言い、主《●》に弁護士として活動していて、他はよく分かっていない。

 これだけの家を建てるんだから、稼いではいるんだと思う。

 顔はいかにもロマンスグレーのイケメンなのだけど、いかんせん身長が低く(160未満)この年でも牛乳をごくごく飲んでる姿をよく見る。(無駄だと思ってるが口には出さない)

 何故か僕は父の遺伝を受けずに背が伸びたので、たまに恨めしそうに僕をじと目で見てくることがある。

 僕のせいじゃないのでそんな目で見られるのは困るのだけど、それ以外では頼りになる父親だ。ありがたやありがたや。


 2人は普段離れ離れで生活しているのに、凄く仲がいい。

 年を経るに連れ僕が見てて恥ずかしくなった部分があり、じーちゃんのアパートに移ったというもの少しばかりあったりする。


 玄関を抜けリビングに入り、腰を落ち着けてコーヒータイムになる。

 コーヒーを飲みながら僕は父さんにアパート関連の資料を渡して、今年の収支を見せる。

 何故か僕が座るソファ―の隣に母さんがピタリと横に座ってくる。


「何で僕の横に座ってくるの。父さんの横に座りなよ」

「ええ〜〜っ、久し振りなんだからぁ〜〜、い・い・で・しょ☆」

「………………」


 僕は肩を落とし、無言をもって答えの代わりとする。父さんが何も言わないのだから今更だ。

 その間母さんは僕の横で腕を絡め顔を身体に近づけ息を荒くしている。

 その反対側では姉が母さんに対抗するように似た様なことをやっている。

 何なの?この似た物親子は?そんな中父さんは平然と資料を見やる。 


 収支報告と言っても残り3月はあるけど、6部屋中5部屋は埋まってるし、今期に至っては特に変なトラブルも突発的な支出もなかったので何の問題もないのだけど、やはりこういうのは緊張するものなのだ。


 ガッコーの面接とかバイトの面接とか人付き合いに若干及び腰な僕としては、やはりこういう空気は苦手なものだ。ふぅ。

 収支報告書を目にしながら父さんが資料を見て頷く。


「うん問題ないね。これからもこの調子でね」

「うん、分かった」


 内心安堵の息を吐きつつ、資料をバッグへとしまう。

 父さんの言葉にやっと肩の荷が下りた気がして思い切りはぁ〜と息を吐く。


 父さんの言葉を聞いて、母さんが立ち上がり僕達に声を掛ける。


「さぁ、今日は腕によりをかけたからねっ!たっぷり味わってねっ!!」


 母さんの言葉を合図にして僕達はダイニングへと移動する。


 いつの間に用意されていたのか、テーブルいっぱいにところ狭しと料理が並べられていた。

 僕と姉が帰って来てからずっと一緒にいた母さんが、こんなに料理を作れるはずが何ので不思議に思っていると、玄関の方から誰かが出て行く気配が数人程している。


「…‥‥‥‥」


 母さんの仕事上のアシスタントさんかなにかなのか………。申し訳ない。

 本来なら皆さんも一緒にと言いたいところなのだけど、久々の家族水入らずという事で勘弁いただこう。

 おそらく母さんが無茶を言ったんじゃなかろうか。本当に申し訳なく思う。

 並べられた料理を前にそんな事を言うのも無粋であるので、心の中で感謝を述べて自分の席へと座る。


 唐揚げ、ギョーザ、ローストビーフに串カツ、トンカツ。他に僕の知らない料理なんかがズララっと並べられている。

 こんなに食べれるのかと思い少し不安になるが………まぁ、大丈夫か。3人とも食べるの大好き大食漢だった。


 母さんがみんなにビールを注ぎ回りコップを掲げ、そしてひと言。


「では、今年も残り少しだけど。ご苦労様でした!乾杯!!」

「「「乾杯!!」」」

 こうしてしばらく振りの家族団欒が始まったのだった。

 もちろんすべての料理はみんな(ほとんどを僕以外の3人)で美味しくいただきました。

 

 

 

   *

 

 

 

 私が書斎で資料を読んでいると、ドアがノックされる。

 この時間を邪魔されるのが、何よりも厭う私は少しばかり機嫌を損ねながら誰何する。


「誰だ」

「ぼくです。おじいさま」


 どうやら孫のダイキがやって来たようだ。婿や部下たちであれば怒鳴りつけるところであるが、ダイキであれば仕方がない。

 直系の孫であるダイキは私の自慢の孫なのだから。


「入りなさい」

「しつれいします」


 私の許可を得て丁寧な挨拶をして入室してくるダイキ。

 手に何かを抱えながら入ってくる。アレはHMVRDか………。

 それはこの前の10歳の誕生祝いに、欲しい物という事で私が与えたものだ。


 先日の出来事を思い出し苦々しいものが込み上げてくる。

 ソサエティー(やつら)の下らないパーティーにちょっとした余興を披露した時のことだ。

 全ては予定通りにことが運んでいたのだが、いつの間にやら引っくり返されていたという。

 その時私は別の事業の事で不参加であったのだが、私達の思惑とは別に賭け(ベット)した副会頭(バカ)がいて混乱に陥ったのだ。


 そもそも向こう側からの提案で了承したにも関わらず、何も達成できなかった事実に怒りが湧き上がる。

 有用な人物というから招待してやろうとしたものを、全くこれだから下賤の人間というのは度し難い。


「おじいさま?」


 そうであった。思わず眉間に皺を寄せてしまった。今頃奴等は始末されているのだ。済んだ事を思い出し悔やんでも今更ではある。

 表情を改めダイキへと顔を向ける。


「どうしたのだ。ダイキよ」


 母親譲りの凛々しい顔立ちに筋の通った鼻梁、少しばかり太めの濃い眉は婿の血を継いでいるが、気に障る程ではない。

 そのダイキが眉尻を下げながら、手に持つHMVRDを掲げ見せてくる。


「おじいさまにいただいたこれが、動かなくなってしまったのです」


 ダイキが差し出したHMVRDを受け取り起動させる。HMVRD(きかい)の上部にホロウィンドウが現れプロパティが表示される。

 問題はないようだ。


「動くではないか」


 少しばかり眉を顰め孫に言うと、ダイキは首を横に振りながら話してくる。


「ゲームができなくなったのです。ぼくがゲームの中でそれを下さいとおねがいしたのに、その人は聞いてくれませんでした。そしたら別の人がやって来て、ぼくを変なところに連れて行って追い出されたんです」


 そしたらゲームが出来なくなったのですと、悲しそうな声でそう告げてきた。

 ふむ。幼子の頼みも聞かず、あまつさえ追い出すとは、何とも悪質な会社ところだ。


 我が商業組体コミッションの人間であれば厳重注意にしなければならない。

 ところが良くHMVRD(それ)を見てみると、そこには下らん商業組体(ソサエティー)傘下の企業で、VRゲームを提供している者達だった。


 確かVRのライドシフトに年齢制限なとどいう馬鹿げたルールがあって、“奴”に細工を命じたのだったな。

 私はデスクにある呼び出しボタンを押して奴を呼び出す。


『お呼びで?会頭』

「ああ、お前が細工したHMVRD(もの)が使い物にならなくなった。何とかしろ」

『………え?もうバレたのですか。ずいぶんと早いですね。HMVRD(それ)のログを確認します』


 デスクに置いたHMVRDからホロウィンドウがいくつも現われ消えて行く。

 しばらく『はぁ』とか『ははぁ』と声が聞こえてくるが、何の回答も無い事に孫がそわそわし出す。

 資料を見ながらであるが私も少し焦れて来たので、すぐに説明する様に命じる為声を掛けようとした時に、向こうから声がかかる。


『ダイキ様。これはいたしかたないですね。本来なら露見する筈が無いものが、自分から騒動を起こされたのではアカウント抹消となっても仕方ないですな。それに見ず知らずの――――』

「わ、分かりましたっ!」


 奴の説明に割り込み遮る様に孫が言葉を挟んで来る。顔を青褪めさせてうろたえている。一体何がどうしたと言うのか。


「そ、それでゲームはできるのか?それをおしえろっ」

『まず、HMVRD(それ)ではプレイは出来ません。別のHMVRDものが必要となります。それに別の脳波パターンデータを組み込む必要があります』

「どれ程掛かる」

『…‥‥上手くいけば1ヶ月、‥‥‥いえ、2ヶ月程みていただければ』


 こ奴でもそのぐらい掛かるというのなら仕方あるまい。

 他にこのような事を出来るものなど私は知らないのだから。


「ダイキよ。それ程の間待てるか?」

「は、はい、まちます。まってます」


 何故か焦るように答えるが、辛抱強いというのは上に立つ者にとっては必要な資質である。孫の成長に口元が少し緩む。


『畏まりました。では出来次第連絡します』

「私に連絡はいらん。ダイキに伝えなさい」

『はい、承知しました。では』


 そう言うと奴との通信が切れる。そうだな、奴にこの事は優先事項と伝え命じておくとしよう。


「おじいさま。ありがとうございます」


 孫の明るくなった声に私も心が浮き立つ。可愛いものだ。


「勉強もしっかりしなさい」

「はい、しつれいします」

「うむ」


 孫が退室の挨拶を告げ、私がそれに応えるとドアを開け書斎から立ち去る。ドアの向こうから微かに声が響く。


「見てろよ。あの鳥と長耳野郎めっ。ギタギタにしたやるからなっ」


 ん?何か聞こえた気がしたが、気のせいだろうと資料に意識を集中する。

 空耳であろう。

 年が明ければまた忙しくなるのだ。それまでこの静寂な時間を穏やかに過ごすとしよう。

 

 

 


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます


地震こわっ(◎△T)

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