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89.料理の失敗と懐かしい思い出

 

 

「3番席、スープセット3つとシチューセット1つ、あとエール4つお願いなのです」

「はいよっ!1番席カレーセット2つ、果実水2つ上がりだ」

「グッグ!」

「まいど」


 ララが注文を取り、店主である親方が料理を仕上げ、ウリスケが配膳、そしてアトリが会計を担ってる。

 僕はひたすら野菜の下拵えで皮を剥いている。

 何故僕がここでこんな事をやってるかと言えば、みんなでパーティーを組んだ日のことだ。

 

 

 

 北の端を行ったり来たりしてワイルドッグとホーンドッグを倒した時に西の方からそれはやって来た。

 ワイルピジョンが3体Vの字編隊で飛んでこちらに向かって襲いかかってきたのだ。

 幸いアトリの警告で戦闘準備を済ませ待ち構えていた僕達は、急降下突撃(いや、どっちかというと神風アタック?)の如く接近して来る3体を、僕は弓、ラミィさんは鞭で、他の皆は魔法でウリスケに至っては回転ジャッンピングボディアタックでワイルピジョンを打ち上げてあっさり倒していった。


 その時ドロップアイテムでハト胸肉というものが手に入った。


「キ、ラギくん!焼いて!!」


 姉がそんな事を言ってきたので、戻って作業場で作ると言ったのだけど、「今食べたーい」という姉のお願い(わがまま)に渋々調理をすることとなった。

 メニューを開きスキルから【調理】を選ぶと“簡易調理セットを使いますか?”のメッセージが現れる。

 Yesを選ぶと足元に木箱が出現してくる。上部分が片開きのフタになっていて大きさは40×50cmで高さが30cmほど。フタを開けて中を見てみると、中には15cm位の小さなフライパンと小鍋。キャンプなんかで使うような小さな携帯コンロとフライ返しと小さなナイフに鉄串が数本。

 そして木の皿と塩の入った小袋と木のまな板。

 簡易調理セットと言う位なのだから、こんなものかと思い作業を始めることにする。


 調理セットの入ってた箱を台にまな板を載せて、アイテムからワイルピジョンの肉を出し、まな板に載せてからナイフで薄切りにしていく。かたっ。

 何とか肉を切り終え、今度は薄切り肉へ塩をパラパラ振り掛けそのままにして次はコンロを出してフライパンを載せ温める。

 このコンロは魔道具?らしく一定の火力で火が出るものみたいだ。


 そして温まってきたフライパンへ肉を2枚置いていく。

 ジュワ〜と肉の焼ける匂いが目の前に広がる。

 この時1度試しに肉を焼いていれば良かったのだけど、ついリアル(いつも)の感覚でやってしまった訳である。

 

 その間姉達は、次々とやってくるワイルドッグやホーンドグ相手に無双している。

 こういうのって寄生と言うんじゃなかろうか、などと別の事を考えてたら肉の焼ける音が僅かに変わった気がしたので、フライパンを火元から話して様子を見る。


「あっ」

「グッ?」

「やけ?」


 突然フライパンの中の肉がパリパリ音を立てたかと思うと、スルメの様に身を丸く縮こませていく。

 最後にぷす―と音を立て、煙がひと筋。ありゃー。

 

 出来上がったものはとても料理とは言えないものだった。

 調べてみるとこんな風に表示された。


 焼けたワイルピジョンのニク:技術の未熟な者が予備知識無く

               焼いただけのモノ 固くて苦い Lv−


               ゲテモノ好きの人間にはたまらないひと品

                     (HP−1% 満腹度−2%)


 “ニク”と“モノ”辺りにそこはかとなく悪意を感じはするけど、事実なので何も言い返すことが出来ない。

 褒めてるようで貶してる一文も。


「マスターどんまいなのです」

「グッ」

「マスタ。しぱい?」

「うぅっ」

「いただきっ」


 僕が出来上がったものを処分しようとすると、脇から手が伸びてそれをシュパッと持っていく。


「へ?あっ、サキちゃん。ダメだよっ、それ!」


 姉は固く丸まったそれを口に入れ噛み締める。


 ゴリッ、ガリッ、ガガリッ!


「………かたいぃ」


 姉がガリゴリと噛み咀嚼して嚥下すると、ひと言眉を寄せて呟く。


「………にぎゃい」


 僕はメニューから水筒を取り出し姉へと渡す。

 力なく受け取りそれを煽るように口に付けゴクゴク飲み干していく。


「ごめん………サキちゃん」


 僕は水を飲み干しても(> <)の顔をしている姉に謝る。

 姉が手をフリフリ笑顔を見せてくる。ほっ、大丈夫そうだ。


「ううん、こっちこそ勝手に取っちゃってごめんね」


 僕としてはいつもの事なので何とも思わないけど、まぁ、たしかに次からは気を付けた方がいいかも知れない。


「次から気を付けてくれればいいよ」


 僕がそう言って問題ないことを告げると、姉は昔を懐かしむ様にして僕を見てくる。


「キラくんが料理失敗したのっていつ以来かな。何か懐かし」


 僕もその姉の言葉に記憶を遡らせてみる。ん〜とあれは………。


「確か小1の頃かな。サキちゃんがお腹すいたーってうだってたの見てホットケーキを作ろうとしたんだっけ」

「そうそう、思いっきり焦がしちゃんたんだよねぇ〜」


 うんうんと思い出すように姉が頷く。

 あの頃の僕は少々飽きっぽい性格をしていたようで、ホットケーキを焼いてる途中でテレビを見始めてつい忘れてしまったのだ。

 気付いた時には、ホットケーキは黒く焦げた物体と化していた。

 僕が涙目になってそれを捨てようとすると、姉がそれを横から掻っ攫いパクと口に入れる。


「にぎゃい………」


 先程のような顔をして姉が言葉を漏らす。僕がそれを止めようとする前に姉が全部平らげてしまう。


「ごちそうさま!キラくん」


 涙目になりながら姉がそんな事を言っていたのを思い出す。

 その後、僕は食べれるものを作れるようになろうと、頑張った記憶がよみがえる。

 僕と姉がそんな昔のことを思い出しほんわかしてると、ラミィさんが突っ込む様に声を上げる。


「今戦闘中なんで、あんた等も手伝ってくんない?な~」


 湧き祭りか何か知らないけど、かなりの数のワイルドッグやホーンドッグが周囲を囲んでる。

 僕と姉は慌てて戦闘に参加する。いやはやちょっと失敗。


 その日は弓と風魔法を使いスキルのレベルを上げ、僕自身のプレイヤーレベルも3つほど上げて解散する事となった。

 冒険者ギルドで清算をした後、時計台広場でログアウトする前に姉がこれからどうするのか聞いてきた。


「明日からどうするラギくん?レベル上げする?」


 年末であることだし色々やる事もある。大掃除とか、バイトとか買出しとか。


「う〜ん、しばらくは【調理】スキルのレベル上げたいから、なかで料理でもやろうかと思ってるよ。みんなも年末だしいろいろ忙しいでしょ?」


 僕にそう言われてラミィさんやアンリさんも軽く頷く。姉は少し不満そうだ。


「そうだな………。じゃ、年が明けてからまた連絡するわ。今日は面白たのしかった。おつ」

「では、失礼します」


 ラミィさんとアンリさんがそう言って、エレレとコンドォーさんが手を上げ挨拶をする。足元から光の粒が炭酸の泡のように上がってPCの身体を覆い掻き消えて行った。へぇ〜、ログアウトってこんな風になるのか。


「じゃ、ログインする時は連絡してね!ラギくん!!」


 姉はそう言って僕をハグしてログアウトしていった。

 やはり姉でない姿に少しばかり慣れなさを感じつつ、僕もログアウトすることにする。


「じゃ、ララ、ウリスケ、アトリ。また明日よろしくな」


僕はしゃがみながら、ララといつの間にかウリスケの頭に乗ったアトリとウリスケにそう告げる。


「マスタ。あした」

「グッ」

「おやすみなさいですマスター」


 僕はログアウトボタンを押すと、周囲が光の泡に包まれ白に呑み込まれる。

 気付くと僕はいつもの姿で、僕の部屋の中で立っていた。いや、ここはVRルームか。


「お疲れ様なのですマスター」


 HMVRD(こっち)のララが僕を労ってくる。

 さっき別れたばっかなのにと、ちょっとコメントに困る気がするがそれに安堵する僕がいる。何とも厄介なことだ。


「じゃ、今日はもう上がるね。明日また」

「はいなのです。おやすみなさいですマスター」



 僕はHMVRDを頭から外しため息を吐く。


「何とも内容の濃い1日だったな。ってまだ夕方か」


 VRには連続使用時間に制限があるらしく、長時間利用することは出来ないらしい。廃人プレイとかは出来ないみたいだ。

 それはさておき、よく考えたらお昼を食べてなかったので胃袋が空腹を訴えてる。

 さて、軽く夕食を作ることにしよう。いや、今日は姉もやってきそうな予感がするので、ガッツリした何かを作るか。

 冷蔵庫の中を確認して調理を始める。ご飯はすでに炊いてある。後はおかずを作るだけだ。


 僕は豚肉を取り出し温めたフライパンに起き焼き始める。

 少しだけリベンジだな。ふふっ。


「キラく〜〜〜〜〜〜ん。ごっ飯〜〜〜〜〜んっっ!」


 ドバンッと姉がドアを開けやって来る。はいはい、ちょっと待っててね。




 次の日、バイトを終えて帰って来たので、今は夜8時ちょい過ぎ。

 今日はちょっとしかプレイ出来ないなぁと思いつつHMVRDを被りライドシフトの後ゲームへログインする。


「おかえりなさいなのです!マスター」

「グッ!」

「おか」


 いつでもどこでもララはいるのだが、ゲーム(ここ)だと少しだけ明るいというか元気な感じがする。と言っても小指の爪ほどの差だけど。

 アトリは定位置あたまに乗り、ララは僕の周りをくるくる飛び、ウリスケはぴょんぴょん跳ねる。

 その喜びように僕は少し面映ゆくなる。が周囲の視線が少し気になったので、そそくさと冒険者ギルドへと向かう。


 中は相変わらずPCでごった返している。特に低ランクのクエスト依頼のところはPCがひしめき合ってる。よく喧嘩しないもんだ。

 せめてEかあわよくばDまでランクを上げたいと思ってたけど、これは無理そうだ。

 作業場で【調理】スキルを上げようかなと考えてると、アトリがピゥとひと鳴きする。


「けんさく、いーとえふ」


 アトリがそう言うとホロウィンドウが現われ、ランクEとFのクエスト依頼が箇条書きに表示される。

 う~ん、大抵がモンスターの討伐依頼ばかりだ(当たり前か)。それにそれ程数もなく多くない。

 後は採取依頼とかか。そういや今回は【採取】は取ってないから薬草取りに行くのも苦労しそうだ。


 どうしたもんじゃろの~などと画面をスクロールしてると、常時依頼のところにこんなのが記されていた。


 食堂調理補助依頼:Lank F 要【調理】スキル

          ヒィデェーオ食堂での調理および店内の補助

          賄い付き 30GIN +出来高払い


 薬師調薬補助依頼:Lank E 要【調薬】スキル

          パインフラツグ薬店での調薬補助

          賄い付き 50GIN +出来高払い


 どうやらスキル限定のクエスト依頼みたいだ。賄い付きとはいえ、依頼料は討伐なんかと比べるとかなり安い。

 他にも木工や錬金、鍛冶なんかの依頼もあったりする。

 生産系はこんな風にレベルとランク上げの依頼があったんだな。知らなかった。


 よく考えたら、昨日はいろいろ倒したとはいえ、食材なんかのドロップアイテムはそれ程多くない。

 作業場で調理をしてても、すぐに終わってることだろう。

 僕はいい物を見つけたと思い調理の依頼を請けようと受付へ行こうとすると、後ろから誰かが声を掛けてくる。


「おい!お前。何だそれっ!!」


 僕が後ろを振り向くと、そこには金ピカ鎧を装備した背の高いPCが威嚇するように立っていた。

 何やら面倒そうな奴が絡んできた。いつもは初対面の相手には言葉遣いに気を付けてるけど、ここはゲームの中だ。ラミィさんの言葉通りにタメ口で行こう。


「なんだ、って何が?」


 金ピカPCは舌打ちをしながら僕の頭の上を指差す。ララはささっと僕の後ろに避難して、ウリスケはストトと僕の側から離れ身を隠すように移動する。

 何かいろいろあったんだろうな。2人の苦労が偲ばれる。


「その変な鳥はなんだって聞いてんだろ!あんた頭おかしんじゃないか?」


 その言葉で理解できたらそっちの方が頭おかしいと思うが、僕は最初の問いに簡単に答える。


「イベントで仲間になったアテンダントスピリットだよ」

「はぁあっ!?俺はそんなの知らねぇよ!!よこせよっ、それ!!」


 何とも傍迷惑なPCに関わったものだ。

 

 


(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます


初めて予約投稿やってみました(◎▽◎)ゞ

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