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84.ウリスケたちとの再会

 

 

 いきなり僕にぶつかってきた1人と1体は、大の字になって倒れている。

 何事かと次第に周囲に人集りが出来てくる。


「……………」


 一体どうしろと。

 どうやらどちらも気絶状態らしく、目を渦巻きのようにぐるぐる回している。ここらへんはゲームっぽいな。(いや、ゲームなんだけど)


「大丈夫ですかぁー?もしもーし」


 倒れて目を回している少女の前にしゃがんで声を掛けてみる。身体を揺さぶろうとして手を伸ばすと途中で見えない壁に阻まれる。

 ああ、さっきはこれにぶつかった訳だ。なる程。


(姉だと思うが)少女は見た目14、5才位で銀髪で左側に長めのサイドテールにして前髪に1部紫のメッシュを入れている。見た目可愛い系の感じだ。

 背は倒れてるので大体だけど、150ちょっと位か。

 

 もう1体の方は全長が少女と同じ150程。全身が赤い毛に覆われた猪。おでこに1本の白いツノが30cmほど伸びている。

 スピアボーアってやつか。仰向けに大の字になって腹を出しひっくり返っている。

 ん?このあられもない姿はどこかで………。


「え?………ウリスケ!?」


 僕がそんな呟きを漏らしていると、人集りの中から誰かがやってくる。


「すいませ〜ん。ちょっとい〜ですかぁ〜?」


 声のする方を見るとっちゃい人と紫のローブの女性と――――


 ヤマトがいた。


 中肉中背の僕が適当にキャラメイクした平凡な顔のその姿がそこにあった。

 ただその平凡な顔には似つかわぬ強い意志をその瞳に宿している。

 僕が言葉なくヤマトを見ていると、隣にいた小っちゃい人が気絶してる少女を軽々と担いで輪の中から出て行く。


「キーくんも付いといで。ヤーくんもその子何とかしな」


 キーくん?ってもしかしてあの小っちゃい人って………。

 その人の言葉を受けてヤマトは溜め息を吐きつつ、スピアボーアの後ろ足を掴みズリズリ引き摺って行く。

 まぁ、あれだけの巨体を担ぐわけにはいかないのだから仕方ないのだろう。しかし、みんな力持ちだね。


 人集りを抜け通りを南に進むと雑木林のある場所へと辿り着く。

 そばにある木に小っちゃい人が、エルフ少女を凭れ掛けさせて何やらアイテムを取り出し使う。

 同様にヤマトもスピアボーアにアイテムを使っている。

 すると1人と1体は気絶状態から回復し僕を見上げると再び突進しようとして、小っちゃい人がいつの間にか取り出したハリセンでスパパンと叩かれる。


「べひっ!?」「ッボっ!?」

「落ち着けっての」


 思いっきり顔面にヒットさせている。痛そうだ。


「何すんのよ!久々に会ったんだからいーじゃない!!」

「ボフッ、ボフッフッフッフッ!!」


 エルフ少女とスピアボーアが顔を押さえながら抗議をしている。なんかコント見てるみたい。


「だ〜か〜ら〜。ネームトレードしてフレ登しねぇと触れられねぇだろうが。自分で仕様出しといて忘れたのかおまー」

「はっ、そうだった。キラくんキラくん。フレンド登録してっ!」


 エルフ少女がそんな風に僕に近付いて要求してくる。どうやら予想通りゲーム中の姉の姿の様だった。

 となると小っさい人はミラさんで、ローブの女の人は会社関係の人………かな?

 そして真っ赤なでっかいスピアボーアは―――-―


「ウリスケ?」


 僕が名前を呼ぶと、スピアボーアが嬉しそうにドスンドスン飛び上がる。そして右前足をシュタッと上げて挨拶してくる。


「ボッフッフッ、ボフッボッフ!」


 鳴き声も体格と同様なかなか迫力がある。ボフって、ぷぷ。

 そんな事をしてると姉からフレンド登録の申請がやってくる。そして、ミラさんとヤマトからも。

 僕はそれらに了承をして送り返す。そして姉が僕に抱き付いてきた。


「のはっ!?」

「キラくぅ〜〜〜〜〜ん!むぎゅう〜〜〜〜〜っ。ん?匂いが違う。何でっ!?」


 抱き付きざまに両手を僕の首に回し頬をグリグリさせながらふんがふんが匂いを嗅いでいる。何とも変態ちっくだ。

 まぁ、姉が来る度にやってるいつもの風景なんだけど、今日は少し勝手が違ってる。


「えーと、サキちゃん。それぐらいにしてく………」


 スパンッ!


「あだっ!」

「キーくんが」スパンッ「困って」スパンッ「るだろうがっ」スパンッ!

「いだ」「ちょっ!あだ」「まっ、いだっ!」


 お尻を連続3回叩かれその痛みにお尻を押さえた為、何とか僕から離れてくれた。ふぅ~。

 お尻を擦りながら、姉がミラさんへ文句を言う。


「ちょっと!ゲーム(こっち)に来ると性格悪くなってない?あんた」

「誰のせいだ誰の!それにいつもと違う姿の人間に抱き付かれて困惑してるキーくんに気づけよ、ほらっ!」


 両手で顔を掴んで姉の頭を僕の方へとミラさんが向ける。まだちょっと顔が熱い。


「おおぅ。この反応はある意味新鮮―――――――」スパンッ「痛っ、わーったわーかったってば!!キラくん、いきなり抱きついてごめんね?」


 姉が両手を前で合わせて拝むように謝って来る。まぁ、わざとじゃないのは分かってるし、僕自身心の整理も出来てないので一旦棚上げして、ここは気にしてないと姉に答えることにする。


「うん、大丈夫だよサキちゃん。突然だったからビックリしただけだし、気にしてないから」


 片目でチラとこちらを伺いながら拝んでる姉の姿を見て、ああ、姉なんだなと改めて認識する。

 でも慣れるまでけっこー時間がかかりそうな気がする。はぁと小さく溜め息を吐く。


 コントもどきがひと通り終わったので、ミラさんが口火を切って改めて紹介してくる。


「この前振りだなキーくん。私はこっちではドワーフの鞭使いでラミィを名乗ってる。良かったら私のよ―――ーぶべっ!何をするアンリっ!」


 何かを言おうとしたミラさん―――ラミィさんがローブ姿の女性に杖でゴスと頭を叩かれる。

 文句を言うラミィさんをスルーして彼女が僕に挨拶してくる。


「初めまして、私はミラさんの会社で彼女の秘書を務めています。アンリエルと申します。アンリとお呼びください。以後よろしくお願いいたします」


 そう言って優雅なお辞儀をしてくる。僕もそれにつられて挨拶を返す。


「あ、どうも初めまして、僕はこっちではラギカサジアスと言います。ラギと呼んで下さい。こちらこそよろしくお願いします」

「キラ――ラギくん!あたしはサキリカだよっ!サキでいーからねっ!」


 僕がアンリエルさんと挨拶すると、すぐさま姉がそう言ってくる。

 リアルと愛称が一緒にするのは如何なものかとは思うが、僕としてはゲームとリアルで混同しなくていいなぁと思い軽くうなずく。


 そして僕はヤマトと向き合う。


 僕がプレイしてた時とさほど姿形は変わっていない。ただ装備はかなり良さげなものを見につけ、腰の後ろには片刃の斧が2本互い違いに収められている。

 そして僕を見つめるその瞳は戦うものの自信を覚悟を経験を物語っていた。


 ヤマトがふいに右拳を僕の前へと向けてくる。僕はヤマトの拳に僕の右拳を軽く当てる。そしてヤマトがその拳を僕の拳の上に。僕も同じくヤマトの拳の上へ。最後に少し力を込めて互いの拳をぶつけ合う。

 コン、トン、トン、ガツン。

 初めて会った筈なのに、初めてじゃない僕ら。そしてなぜか息のあった動き(こうどう)

 本当に彼はAIなんだろうか。

 拳をぶつけ合ったまま、ヤマトが挨拶をしてくる。


「初めましてだ。ヤマトだ」

「初めましてです。ラギカサジアスです。ラギと呼んで下さい」


 ヤマトはニカリと。僕はニコリと笑顔を交わす。

 僕はこの時、ゲームをやって良かったなとしみじみ感じた。

 プレイヤー(ぼく)でないプレイヤー(ヤマト)の存在がそこにあった。


 そして僕は赤いスピアボーアへしゃがんで挨拶をする。


「ひさ………この姿で初めましてだなウリスケ。ラギカサジアスだ」

「ボッフ!ボフフッフフッ!!」


 ウリスケは興奮した様子で右前足をダシンダシン叩く。いやぁ、実際目の当たりにするとでかいなぁ〜お前。

 そんな感嘆もあってか、ついウリスケの頭に手を載せ撫でてしまう。

 少し短めの毛はサラサラというよりゴワゴワといったところだけど、感触は悪くない。むしろ気持ちいいくらいだ。つい夢中になって撫でていると。


「ボッフゥゥ〜〜〜ゥ!」


 ウリスケは気持ち良さ気な声を上げると四肢を投げ出して腹這いになってしまう。


「あれ?ウリスケ?」

「たらしだな」

「たらしだねっ」

「たらしですね」

「たらし?」


 ラミィさん姉、アンリエルさんヤマトがそんな呟きを漏らす。

 いや、たらしじゃないし、ただ撫でただけだし。僕がその言葉に肩を落とすと、アトリがピゥと鳴いてみんなに挨拶をする。


「アトリ、よろ」


 そんな姿を見てみんながほっこりしてるが、僕は見れないから良く分からない。


「アテスピ。さっすがキ――ラギくんだねっ」

「今回、結構ムズ目にしたのによく取得れたなぁ」

「まぁ、タイムアタックも関係なかったですし、のんびり向かってたんで見つけられたんですけどね」


 そっかーっ、ログイン時のタイムアタックイベントとナビゲートスピリットで目を逸らされるから、案外見つけられないって事なのか。

 しかも、わざわざ通り難く見つかり辛い場所に設定してるのも意地が悪い感じだ。

 

 僕はちょっとだけジト目でラミィさんを見る。その視線にラミィさんは頬を引きつらせながら、自分の言葉にフォローを入れる。


「いや、ちゃんとアテスピ取得出来なかったPCにも後でナビスピ取得できる様にしてるから。うん」


 そう弁明してるラミィさんを見て,自分の取った態度があまり大人気なかったなと反省する。

 意思あるものがイヤな思いをするのは、あまり気持ちいいものとは思えなかったからだ。

 そんな僕の心情を知ってか知らずか、姉は僕の肩をポンポンと叩きうんうんと頷いている。

 

 姉の行動をする姉じゃない人を見てると、少しばかりドキリとしてしまう。やれやれ、これ慣れるんだろうか?

 そんな風な他愛無い会話をし(アンリエルさんともフレンド登録をし合って)た後、ふぃと何か、いや誰かがいない事に気づいた。

 僕はヤマトに向かってララの事を聞こうと思い口を開こうとした時、背中にペタリと何かが張り付く感触を受ける。


「マスター。背中なのです」

「え?何っ!?えっ?」


 突然の事に慌てて背中を見ようと右に左に身体を捻るけど、何も見えない。


「マスタ。おちる」


 そんな事をしてると、頭に乗ってるアトリから苦情が出て来る。

 ああ、ごめん。

 動きを止めて周囲を見やると、皆が生温かい目でこちらを見ている。

 あ、姉だけ――――いや、ウリスケもこちらに突進しようとうずうずしている。

 その様子に困惑していると、アトリが頭の上から背中へ移動して背中に張り付いてるものへ注意をする様子が聞こえて来る。ポカリ。


「マスタ。こま、だめ」

「痛っ!痛いのですっ!」

「えっ、ララ?」


 ポコポコポコポコ。


「いたたたたっ!分かったのです。止めてなのですっ!!」


 どうやらアトリに叩かれてるらしいララが声を上げる。

 

「マスター!お久しぶりなのですっ!!」


 僕がその声に正面を向くと、そこには白いワンピースを身に纏った幼女が宙にふわふわ浮かんでいた。


「え?もしかしてララ!?」

「はいなのです!マスター!!」


 確かに髪型や色、瞳や顔立ちはララそのものなんだけど、その背丈は50〜60cm程に大きくなっていたのである。そして頭身も。


「クラスアップしたのです!」


 ?クラスアップぅ!?いや、クラスアップは何となく分かる。

 でも“アテンダントスピリット”のララがクラスアップなんてことが出来るんだろうか?

 僕はその事が気になったんだけど、ララがあっさりと僕の疑問を解き明かす。


「ララはアテスピから従魔モンスターへ変更したのですっ!」

「………はぁあ?」


 いや、そんな事やっていいの?そう思って姉達を見ると、ラミィさんとアンリエルさんが顔を逸らし、姉はグッとサムズアップをしてくる。………あ゛〜贔屓された訳ね。

 ん―、ララとヤマト達も何やら曰く有りげな存在のようだから特別扱い(そんなこと)もあり得るのだろうと、無理やり自分に納得してララの話を聞くことにする。


「ララはマスターと一緒にいる時はアテンダントスピリットのままでも良いと思ってたのです。でもマスターとヤマトさまが離れることとなった時、このままではマスターと一緒に冒険でき(あそべ)無いと思い至ったのです!」


 幼女が拳を振るい熱弁している。何ともシュールな絵面だな。


「そこでララは一計を案じたのです。すなわちアテンダントスピリットをやめてマスターの従魔モンスターになることをっ!!」


 どうやら僕がプレイしてなかった間にいろいろ、本当にいろいろあった事を察してしまう。


「ララ。いた」

「それを言っちゃダメだよ、アトリ」

「ん」


 要は僕とヤマトが別れた時、このままだと僕がこのゲームを始めた時に一緒にいられないと思い姉に相談したようだ。

 そこまで慕ってくれるのは嬉しいけど、それを堂々と語るのはちょっと痛いぞ、ララ。


「という訳で、これ渡しとくねラギくん!」


 ララが「ぬぉ―」とかやってる時に、姉がアイテムを渡してくる。受け取ったものを見て僕は目を丸くする。


「これってスキル?」


 ホロウィンドウに表示されているのは5つのスキルアイテムだった。

【調理】【調薬】【従魔】【身体強化STR】【身体強化DEX】の5つ。

 どうやら姉はこちらでもご飯を作らせる気満々のようだ。まぁ、いいけどね。

 

 僕もこっちで作るものに興味がない訳ではない。

 しょせん家庭料理レベルでだけど。ガチはさすがになぁ。


「ほれほれ、スキルセットしちゃって。さぁさあ」


 姉とヤマトで目を合わせて頷いている。何か企んでる顔をしているが、何を聞いたとしても答えてくれそうにはないので、諦めてメニューを出してスキルをサブスキルスロットへセットする。

 するとヤマトから譲渡申請のウィンドウが目の前に現れる。


「っ!ヤマト、これって………」

「ああ、従魔・・の譲渡申請だ」


 僕の問い掛けにヤマトはニヤリと笑ってそう言ってくる。

 

 従魔ララとウリスケの譲渡。


「いいのか?ヤマト。それにララとウリスケ。僕がマスターになるとまたLvが1になっちゃうぞ」


 そう、従魔譲渡の注意事項には、従魔を譲渡すると譲渡された従魔モンスターはLv1になることが記載されていた。

 多分パランスを取るための方策だと思うけど、じゃないとLv1のPC(プレイヤー)がLv20の従魔を従えてプレイなんてなるとゲームバランスが狂ってしまうと思ったのだ。(よもや、従魔スキルがこの先のエリアでないと手に入れられないとは知らなかった)

 僕の問い掛けにララとウリスケは何言ってんの?という感じで首を傾げる。

 

 そしてララが2人の総意というように回答してくる。


「ララとウリスケさんはマスターと一緒に冒険し(あそび)たいのです。たとえLv1から始めるとしてもマスターと一緒にいたいのです」

「ボッボフ―――――ッ!!」


 何とも恥ずかしい台詞をストレートに言って来る。言われてるこっちが恥ずかしくなってくる。僕ははぁ〜と息を吐き。


「分かった。じゃあ、みんなで一緒に冒険しよ(あそぼ)う」


 僕は従魔譲渡申請にYesを選ぶ。


 そしてララとウリスケが光に包まれパァンと光が弾けると、そこには僕の知ってるララとウリスケの姿があった。


「よろしくなのですマスター、アトリさん」

「グッグーッ!」


 僕とアトリはその言葉にすぐ返事を返す。


「うん、よろしく」

「よろ」




(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

ブクマありがとうございます(T△T)ゞ

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