83.ニューカマーイベントとアトリ
ピロコリン
[ニューカマーイベント]
突然SEが鳴りホロウィンドウが現れる。僕は少しだけ困惑する。周囲は一面草原で………あ、違った。
後ろを振り向いてみると、そこには前方に街壁が左右に広がってるのが見える。あれはプロロアの街かな。
「あー、ビックリした。いきなりこれはビビるよなぁ〜」
そんな風につい独りごちながら胸を撫で下ろす。
ホロウィンドウが表示されたまま下の1部分が四角く点滅している。
お約束に従いそれをタップする。すると画面が切り替わりメッセージが表示されてくる。
[ニューカマーイベント]
ようこそ【アトラティース・ワンダラー】の世界へ!!
初めてプレイされる方限定で特別イベントをお送りします
プロロアの街のエリア内から冒険者ギルド登録までのタイムアタックです
基本モンスターは襲ってきませんが、戦闘をしても構いません
先着順でイベントボーナスがでますので、皆さん頑張って下さい!!
報酬:5000+αGIN(先着順で変化)
EXP 500
アイテム(先着順で変化)
何とも大胆というか、ほおり投げっぱというか、こりゃまたビックリする始まり方だ。
ある意味下手なチュートリアルよりいいのかも知れないけど、予備知識のない人がいきなりこんな目にあったら怒るんじゃなかろうか。
新規ユーザー特典なのだろうけど、GINもEXPもそれなりに美味しい。まぁ、無いよりあった方がいいので有り難くちょーだいしとくけどね。
さて、と街の方に振り向いて歩き出そうとすると、ピコンと前方にピンクの矢印が現れてきた。ほぉ、何とも親切なJRPGもここに極まれりと言ったところかな。(これはホシノの受け売り)
っといかんいかんと思い出して、メニューを開き武器を装備する。
どうやら手甲は防具扱いらしく、弓と一緒に装備出来た。
うおっ……やっば、下手したらいちいち切り替えて戦うハメになっていた。………まぁ、終わりよければ全てよしという事で。(終わってないけど)
弓は木製の弓、手甲は皮に銅の板を貼り付けた物。そして皮のよろいに皮のくつと旅人の服とかは元々装備してるので問題なし。後は腰のベルトに矢筒をぶら下げる。ぶらんぶらんしないのかな。
では、プロロアの街へれっつらごー。
タイムアタックとかはすでに過ぎてしまっているので、急ぐこともなく街へと向かうことにする。
やはりあちこちで、モンスターと戦闘をしているPCの姿を見かける。多く見かけるのが如何にもな初期装備のPCと、高そうな装備をしたベテランっぽい姿をしたPCが一緒に戦っていることだった。
どうやら、もう新人の取り込みが始まってるみたいだ。ま、当たり前か。
こちらとは大分距離が離れてるので、話し掛けられることもない。
特にモンスターに襲われることもなく(周りが戦ってるし)、東街道へ辿り着く。
そこからは道なりに街へと進むだけだ。
そして歩きながらも僕は感心するばかりだった。
空の色、そよぐ風、周りの景色、漂う空気の匂い。その全てが現実と見まごうばかりに認識させられるこの感覚。
VR半端ねぇ。
ゼミ内の作業場でも感じたけど(あいつ等何故かゴロゴロ転がっていた)、さらにその凄さをありありと感じさせられる。
ほとんどの新規プレイヤーがログインし終えただろう時間なので、この東街道にもけっこー人がいる。
そうしてやっと東門の前まで辿り着く。
「ふおぉぉ………」
門の少し前で立ち止まり思わず感嘆の声を上げてしまう。
TV画面の映像と違い、そこにある現物としての実感が僕を圧倒してくる。
通り過ぎる人達がくすくす笑っているのが聞こえる。む、いかん。田舎から来たオノボリさん状態になっている。
僕はコホンとひとつ咳払いをして、そそくさと門を抜け街へと入っていく。
青空を背景に石造りの建物がその存在を主張している。今回のアップデートでは新規ユーザーの為に現実時間で2日間、ずっと昼間帯にしてるらしい。
街の中をキョロキョロ見回しながら大通りを歩いていると、通りの左手にある建物と建物の間の細い路地から何か点滅するものが見える。
「あ、もしかして?」
僕はそっちに向かって足を向ける。でも少しだけ躊躇してしまう。
「…………」
いくら何でも狭過ぎだろう。幅は30cmほど、アイコンが点滅してるのは10mほど先の地面の辺りだ。……まぁ、しゃーないか。
僕はその路地?をカニ歩きよろしく横に移動しながら、ズリズリ進んでいく。
アイコンが点滅を繰り返してるそこは建物と建物の境目のようで、他より少しだけ広くなっている。けど1mにも満たないので、しゃがむにもひと苦労だ。
やっと辿り着き、アイコンの下にいたのは青い小鳥だった。
ララの時と同様に苦しそうに身体をガクガクさせている。
その小鳥を拾い上げると上に小鳥のHPゲージが表示される。
じりじりHPが赤く点滅して減って行ってる。残り1割やばっ!
僕は一瞬思考が停止し回復、慌ててえーとメニューメニュー、そ、そうだ指パッチンだ!
指を鳴らしメニューを出してアイテムを選択。「つかう」HPポーションをタップして小鳥を指定。はやくはやくっ!!
それを都合3回繰り返し、何とか半分まで回復させることが出来た。
そしてお約束のシークレットイベントの発生。
ララの時と同じく毒で苦しんでいるアテンダントスピリットを10分以内に解毒ポーションで助けるというヤツ。
フッフッフッ。今日は特に慌てることも無く僕は余裕を持ってメニューをパチンと開きアイテムを使う。
解毒ポーション!!
何とさっき回したガチャチケで解毒ポーションを出していたのだ!
先に回して良かったガチャ。良くやったちょっと前の僕。
そんなアホなことを考えてると、小鳥が毒から回復してイベントクリアとなる。ふふん。
手の平に乗っている青い鳥。何故か魔女が被るような黒い三角帽子と手にはいかにも魔法使いが持つ様な先が丸まった杖を持っている。
ピピっと首を傾げてこちらを仰ぎ見ている。ふむ、かわいい。
アテンダントスピリット取得の選択をして、名前の設定の段になって少しだけ悩む。元々ネーミングセンスが無いので感覚で付けてしまうと、ウリスケのように女の子にスケ何て付ける羽目になってしまう。
名前、名前ぇ〜な〜ま〜え〜。ダメだ思い付かない。
ん〜見た目は魔法使いの青い小鳥だから………青い小鳥……あおいことり……あお…とり……。あ…とり。よしっ、アトリだ。ってまんまだな……。
でも、これならどっちに取られても問題はないんじゃなかろうか。
総自分に言い聞かせて、名前と入力していく。ア・ト・リっと。
ピロコリン
[アテンダントスピリット“アトリ” を 取得 しました]
「アトリ、よろ。マスタ」
鈴の音の様な可愛い声で杖を掲げ短くそうアトリが挨拶をしてくる。
「うん、よろしくな。アトリ」
鳥のせいか?表情はよく分からないが、こくこく頷き何となく喜んでるようなのは分かった。
さて、またカニ歩きで戻るか………。僕が少しだけゲンナリしていると、アトリが短く羽ばたき僕の頭にヒラリと飛び乗り座ったようだ。
そして頭の上から声を掛けてくる。
「マスタ、あない。まえ、すすむ」
前方の路地は、いま来たところと違って普通に歩けるぐらいの幅になっている。特に急ぐものでもないし、アトリも案内してくれるの言うのだからのんびり進むことにしよう。
「ご」
「はいはい。それじゃ行こうか」
アトリのナビで途中小銭が落ちてたのを拾ったい、謎アイテムを拾ったりしながら少し広い路地に出た後は何とか大通りに戻ることが出来た。
「でた」
「ありがとうアトリ、お陰で何とか戻れた。さてここは………と」
「ひだり、すすむ」
「お、こっちか。よし、行くか」
「ん」
そんな会話を2人でしながら時計台広場まで進んでいくと、人の賑わいが大きくなっていく。
画面で見た時より広く感じる時計台広場には、僕と似たような装備をした人達が群がっていて、古参?と思しきPCが彼等に声を掛けて何やら勧誘をしてるみたいだ。
僕は特に声を掛けられることもなく冒険者ギルドに到着する。
ただ何故か視線をたくさん感じた気もするが、気のせいだ。と思うことにす「やばかわ」「魔法使いことりちゃん」「くっ」「いや、俺のナビスピの方が」る。するったらするのだ。
「マスタ。なか」
「はいはい」
アトリに促されて中へと入る。何ともマイペースなアテンダントスピリットだ。
ララもそうだけど、これが仕様なんだろうか。
まぁ、可愛いから良いけどね。
中も外と同様かなり混雑している。
ログイン開始時間から大分過ぎてるはずなんだけど、みんな元気だ。
「マスタ。とうろく」
「あ、そうだね」
ギルド内の様子を見てると、アトリが登録を急かしてくる。けっこーせっかちさんだなアトリは。
ちょうど空いてる受付があったので、登録をする為そちらへ向かう。
「すみませーん、ギルドの登録お願いします」
「はいはーい。この板に手をっ?アテスピっ!?」
手慣れた様子で説明を始めようとした職員さんが、僕の頭の上を見て声を上げる。声でかいよ。
よく見ると、この人ララとウリスケをスクショで撮りまくってた人だ。仕事なんだろうからちゃんとして欲しいと思うんだけど………。
「あ、あのぅ………スクショとって………」
「アトリ?」
「ん、めっ!」
指を「 」の形にしてアトリを撮らせて欲しいと言ってきたけど、アトリの答えはNoみたいだ。
「諦めて下さい。それより登録お願いします」
「?はいはぁい。じゃ、ここの板に手を載せて下さい」
そう言ってカウンターに置いてあるガラス状の板を手で指し示してくる。
おお、ヤマトの時と違って実際やるとなると緊張するなぁ。
板に手を置くとすぐにピカっと光って収まる。
するとウィンドウが現れイベントクリアを知らせてきた。
ピロコリン、ジャジャ―――――ン!!!
[Conguratulation!イベントクリア!!]
おめでとうがざいます ニューカマーエベントクリアです
クリア報酬
5000 GIN
EXP 500
アイテム:タワシ
………また、タワシだよ。どんだけ好きなんだ!?タワシ。
そして、PCのLvが2つ上がる。
そして職員さんが席を外すと、すぐに戻ってきた。
「はい。こちらが冒険者のキルドカードになります。冒険者ギルドの説明を―――ー」
「あ、情報仕入れて知ってるんでいいですよ。説明し疲れたでしょ?」
「助かります。?何かあなた、まるで初めてじゃない感じですよね」
「………気のせいじゃないですか?初めてですよVRゲーム」
首を捻る職員さんを後に僕はカウンターを離れ出口に向かう。
「マスタ。いらい」
「んー、混んでるし今はいいかな」
「ん」
アトリがクエスト依頼を請けないのか聞いてくるが、しばらくは混雑してるだろうし後になってからでいいかなと思ったので、今日はやめておくことにする。
「……マスタ。しょきゅ、くえ」
「あ、………」
いかんいかん、危うくまたスルーするとこだった。説明省いたから向こうも抜け落ちちゃったな。悪いことをしたか?
僕は初級クエストを受けるため、受付へと舞い戻る。
受付で申し込みを済ませ、ペコペコしてる職員さんをなだめて訓練所へと向かう。
ガンさんから説明を受けて(相変わらずシブい)弓と手甲と水魔法をLv3まで上げる。(ついね)
訓練を終わりにして、ガンさんに挨拶をする。そしてサブスキルスロットが解放される。スキル何買おうかな。
冒険者ギルドを出るとどこからか声が聞こえてくる。
「キィ〜〜〜〜〜ラァ〜〜〜〜〜〜く〜〜〜〜〜〜んっっ!!」
大声でそう呼んで誰かがこちらにやってくる。
いや、誰か分かるけど。こんな所で名前呼ばんでほしい。
「おぶっ!!」
僕に抱き付こうとして、何か壁にぶつかったように衝撃を受けバタリと倒れる。姉。姉だよな。
大の字になって倒れてるのは僕と同じ初心者の姿をしたエルフの少女だった。
僕はしゃがんで、大丈夫か確認しようとすると、ドドドドという音と振動が響いてくる。
周囲のPCやNPCも何事かと音のする方を見ている。
「ボッフゥゥゥ―――――ッ!!」
巨大な赤い物体が僕にぶつかってきた。
「ボフッッ!?」
姉と同様に壁にぶつかったようになり、仰向けにバッターンと倒れる。
え?何これ!?
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます




