80.VRシステムの実情
そんなこんなでゼミ生の登録を済ませ食べ終えた食器をキレイに片付けた後、まったりコーヒータイムを始めた時、僕は本題に入ることにする。
ちなみにフーちゃん3号はゼミ生4人とあっちむいてホイをして遊んでいる。ジャンケン強っ!
「せんせー、ゼミの中でVRシステムって利用されてるんですか?」
「VRシステム?ん〜、あー、どうだったかな〜………」
せんせーがホロウィンドウを出して、何かを調べ始める。
最近は何故かゼミルームの飲食関係のアイテムが充実しており、様々な飲み物や食べ物がストックされていた。それなのに飢え寸前って………。(それにもっと早く気付いてたら、買い出しに行かなくて済んだのに。くっ。)僕がコーヒーをブラックで、せんせーはハチミツたっぷりの紅茶を飲んでいる。
「特にそういう設備はウチには無いぞ。そのVRシステムがどうかしたのか?」
僕が手に入れたHMVRDの事を話し、VRルームで体験した事と擬似的に行える製作作業の事を説明する。
「なる程。VRの中でシミュレーションしてものを作り上げるってことか………」
「そうです。VRの中で一旦作り上げて不具合等を確認して、実際に作り上げることが出来るんじゃないかと思ったんです」
「そういや私はVRってやった事が無いよな………。んー実感がないから有用かどうかも判断出来ないなぁ〜」
せんせーが顎を擦り唸っている。新しもの好きのせんせーがやって無いなんて珍しい。
そういや、学内にそんな場所が無かっただろうか。
僕は側でクッキーを貪ってるホンゴウさんに聞いてみる。(しかし、よく食うなー)
「ホンゴウさん。学内にVR関係の施設ってあったと思うんだけど、どこにあるか知ってる?」
口いっぱいにクッキーを頬張りお茶で流し込んだホンゴウさんが、思い出すように天井へ目を向けて答えてくる。
「確か講義棟の4階にそんなのがあったような気がします。けど………」
ホンゴウさんは言い難そうに語尾を濁してくる。
「あ〜、学内のVRシステムは無理ですよ。SVLvですから、使いもんになんないです」
フーちゃん3号とあっちむいてホイをやっていたサカエくんがそう言ってダメ出ししてくる。
………また新たな用語が出て来た。
サカエくんの話によると、VRシステムが確立されたのは十数年程前で、その頃は技術的な問題で五感のうちの2つ、視覚と聴覚だけが利用することが出来ていた。
そこにまずエンターテイメント系の企業が飛びつき医療関係の企業も追随して、やがて様々な技術革新の中で視覚、聴覚、嗅覚が再現され最後に触覚が――――そして電子の中で肉体を得る事となる。
その過程の中で、処理能力の限界で利用できるレベルに差異が生じてくる。
そうして形作られたのがVRシステムのレベルというものだそうだ。
見る聞く事だけができるSVLv。
見る聞くに加え移動だけができるMVLv。浮遊霊とか人魂とか言われてる。
そして五感と肉体を持ったRSLv。
機械の処理能力もさることながら、レベルに応じてそれなりの設備の必要となってくるのであるが、それを解決したのがHMVRDなのである。
現在様々な分野で利用されてはいるのだが、いかんせん値段が値段なので、大概は企業体の研修活動やゲームなどに利用されるのみである。
そんな事をサカエくんが手を振り身体を動かし説明してくれた。
そして学内にあるのは多人数がVRシステムを利用できるSVLvの物だということである。
たぶん僕が歴史再現映像を見たのと同じものなんだろうなと思い至り、そんな高性能の機械を貰ったという事実に少しだけ汗ジトになる。
「あ、でも今は前ほど高価というのでもないですよ。ある程度個人で購入できるぐらいの汎用版も出てますし」
「そういや、あれもVRシステムか………。ならやっぱり私はVRはムービーぐらいしかやったこと無いから良く分からないな」
ホンゴウさんが今のVRの実情を説明すると、センセーが思い出したようにVRシステムに納得する。
要はうちのゼミでは全く使っていないということだ。残念。
「試しにやってみます?教授」
そんなせんせーの呟きにホンゴウさんが一石を投じる。
「ん?どうやってだ?私は機械を持ってないぞ?」
センセーの問いにホンゴウさんが自分のロッカーへ向かい何かを取り出し持ってくる。あー。
「1度は言ってみたいこのセリフ“こんなこともあろうかと”はい、HMVRDで―――すっ!」
どこかの戦艦の班長のような台詞をのたまいHMVRDを持ち上げる。
「へぇ~それがHMVRDってヤツか。どうやって使うんだ?」
友達に貸しっぱなしにしてたらしい。HMVRDをせんせーに差し出す。
興味深そうにHMVRDをせんせーが弄り出す
僕がもらったものと比べて少しばかりチープというか、目元を覆うバイザーに側頭部を囲むように輪っかの様な形状をしている。
いや、上の部分にも細い針金みたいなのモノがX字で交差して付いている。
シンプルながらもスタイリッシュな感じだ。(チープって言ってごめん)
ホンゴウさんがコンセントを電源に繋げて操作を説明している。あれ?登録とかしないのかな。
「それってパーソナルコードとか登録しなくていいの?」
僕の質問に少しだけ不機嫌そうに頬を膨らませてホンゴウさんが答えてくる。
「何ですか?汎用機持ちに対するイヤミですか?そんなハイスペックマシンじゃないから、パソコ登録なんて必要ないですよ」
………へぇ~。あれってハイスペックマシンなんだ(汗)。
ここでこの話はあんまりしない方が良さげみたいだ。
ホンゴウさんの説明を受けながらせんせーがHMVRDを装着しサイズを調整する。
「ライドシフトが終わるとVRルームに行きます。そこにある本棚に教授がこの前言った展示発表会のVR映像があるんでやってみて下さい」
「うん、分かった」
そう言ってせんせーがキチンと椅子に座り直しHMVRDの起動スイッチを押して動かなくなる。傍から見ると変な感じである。
しかし、そのせんせーの姿――――様子を見てると、その危険性に気付くことになる。
「ホンゴウさん、HMVRDを使ってる時ってめっちゃ無防備だと思うんだけど、こういうのって問題なんじゃないの?」
何やら端末を出して操作していたホンゴウさんが、僕の疑問に答える。
「そうですねぇ、大抵は鍵付きの部屋で利用することが多いですね。あ、でもセキュリティLv3の設備があれば大丈夫みたいですよ」
………うちのアパートそんな設備ないし、ちょっと拙くないだろうか。
僕が眉間に皺を寄せどうしようか考えてると、ララがメッセージを送ってくる。
“ララが見張ってるので問題ないのです”
「うん、そうだね。よろしくお願いします」
ララのメッセージに思わず呟いてしまうと、ホンゴウさんがそれに反応してくる。
「はい?どうしました?」
「いや、何でも無いよ。それより何をやってんの?」
適当にはぐらかし、逆にホンゴウさんが何をやってるのか聞いてみる。
「はい、教授が着けてるHMVRDにリンク繋げてVRルームの説明しよ―と思いまして」
へぇ〜そんなことも出来るんだ。僕の時はララがいたから何の問題も無かったわけだ。ありがたやありがたや。
「教授、フドウ教授――――ーっ。聞こえますか――――ーっ?」
VRルームとリンクしたらしく、ホンゴウさんが声を掛けている。
『何っじゃこりゃあああああー――――――ーっっ!!』
ホンゴウさんの端末からせんせーの絶叫が響いてきた。
作業を再開していたゼミ生のみんながそれを聞いてわらわら集まってくる。
「なんだなんだ。どうしたホンゴー?」
「えーと、教授がびっくりして声を上げただけっすよ」
「あー、でもこんなとこでVRはあんま体裁よくねーぞ、気ぃつけろよ」
「分かってますってば。教授がライドシフトLvのVRやったこと無いみたいなんで、お試しってヤツです」
「ま、ホンゴウと先輩がいるから大丈夫か………。慣れないと大変だからフォローしろよ」
「はーい。了解です」
サカエくんが代表してホンゴウさんに何事か聞くと、教授がVRシステムの体験中であることを説明すると、みんな納得して作業へと戻っていった。
サカエくんもVRシステムに詳しそうな感じだ。
っ!あっそっか。
「君等もなんかVRゲームとかやってるの?」
僕はなんとなく思った事をつい口に出してしまう。それにホンゴウさんは、ニンマリと気持ちのいい笑顔を見せてくる。
「もっちろんです。今わたしがやってるのは【フェロゥミリタリス・クロニクル】ってロボ動かすゲームなんです!」
VRゲームでもロボかよ。ほんと、好きだな君等。
さらに詳しく説明をしようとした時、せんせーの声が端末から聞こえてきた。
「おっと、いけないいけない。教授ぅ――――ーっ。聞こえますか――――ぁ?」
『うぉっっ!何だ?誰だ?』
「ホンゴウで―――ーす。どうですか?おかしな所はないですかぁ――ーぁ?」
ホンゴウさんがブツブツ言いながらVRルームの中を見ていたらしいせんせーに声をかけると、せんせーはビックリしたように声を上げ誰何する。
ホンゴウさんが名乗って様子を聞いてみると、せんせーが嬉しそうに話してくる。
『いやぁ、これ凄いな。つーかVRルームやたらとファンシーなんだが、これってお前の趣味なんか?』
どうやら彼女のHMVRDのVRルームは乙女チックなものみたいだ。
まぁ、僕もあそこは過ごしやすい雰囲気のほうがいいと思うし、人様の趣味にケチをつける気もない。………ファンシーねぇ。思わずホンゴウさんの顔を見てしまう。
「ち、違いますっ!これを貸した娘が勝手に変えたんですっ!!」
『でも、タァコのお部屋♡ってタグ貼ってあるぞ』
「あんっ………のぉ〜〜〜〜〜〜〜あま゛ぁあ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜〜〜っっ!!!」
ふむ、HMVRDを他人に貸すとある意味汚染される恐れがあるみたいだ。僕も気を付けよう。いやぁ、いろいろ勉強になる。
どうやらHMVRDを貸した相手にメールを送ってるようだ。「て・め・え・お・ぼ・え・て・ろ・よ」と口ずさみながらメールを打ってる。
たまに見かけるよな。彼女のつい口に出してしまうタイプなんだろう。
『おーいホンゴウ。これからどうすりゃいーんだ?』
メールを送信し終わった頃、せんせーが声を掛けてくる。
確かにゲームをやる訳でもなく、VRルームに訳も分からずいるのもやるせない気にもなる。
「あ、すいません。本棚の上から2列目にある青い本を取り出してタップして下さい。それ前に教授が見に行ったコンペのVR版です。ではでは〜」
あっさりと通話を切ってホンゴウさんは自分の作業へと戻っていった。いいんだろうか、これ………。
『ワーシガミテルデガス。センセーハ、キョウキランブシテルデガス』
いきなりホロウィンドウが現れフーちゃん3号が声を掛けてきた。
「どっか、それじゃよろしくね3号ちゃん」
僕が笑ってお願いすると、半開きの目が一瞬丸く開いた後、もじもじしてこちらを見てくる。
『オナマエト、ガクセーバンゴーヲ、オシエテデガス』
そういや、ゼミ生のみんなは教えてたようだった。なら僕も伝えとかないといけないな。
「えーと僕はササザキ キラと言います。学番はBSS−321589−JNDPDです」
「………キラサマデガス。ヨロシクオネガイシマスデガス』
身体を左右にもじもじ揺らしながら、フーちゃん3号が挨拶をしてくる。その様子に僕は少しばかり首を傾げる。しかも様付って何で?
『マスターはAIたらしなのです。ジゴロなのです』
近くに誰も?いなくなったのでララが声を出してくる。
何、ジゴロって………。いや僕、今までモテた事なんて無いんだけど………。変な人達に追いかけられたり迫られたりと怖い思いはした事はある。うん、たらしとかないわ。
「いやいや、たらしとか無いよ。あんまりそういうのと縁は無いみたいだし、口も上手くないからね」
『自覚なしなのです』
『デガス〜〜〜ゥ』
何やら失礼な事を2人に呟かれるが、スルーしておこう。
「ところでせんせーは大丈夫なの?こんな状態だとちょい心配なんだけど………」
『センセイハ、カイジョウナイヲ コロゲマワリ トビマワッテ ウゴキ サマヨッテルデガス』
どうやらフーちゃん3号がせんせーが着けてるHMVRDにリンクしてモニタリングをしてるようだ。多分言葉通りに行動してるのだろう。その様子が目に浮かぶ。
フーちゃん3号の話を聞いてみると、まだしばらく時間が掛かるように思われたので、僕はデモ機作製の続きをしようと立ち上がる。
『モドッタデガス』
そのフーちゃん3号の声にせんせーの方を振り向くと、せんせーは突然叫び出した。
「うおおおおおっっ!これすげぇぇええええっっっ!!」
大絶叫だ。そして立ち上がる。
「ふおっ?あわわっっ!」
次にふら付きギシリと身体から力が抜けた様に椅子に座り込む。僕もやったことあるけど、あれけっこークルようなぁ。
「せんせー、VR酔いってやつらしいです。深呼吸して落ち着いて下さい」
「ん?分かった。ふぃ~~~~~~~っ、はぇ~~~~~~~~っ、ふぃ~~~~~~っ、はぁ~~~~~っ、ふぃ~~~~、はぁぁ~~~~~、ふぅ」
しばらく深呼吸をして、落ち着いて来たところへ、ゼミ生のみんながやって来る。
みんな少しばかり気になる様で、ホンゴウさんがVRの感想を聞いて来た。
「どうでした?教授」
「うん!凄かった。今迄何でやってなかったのかと口惜しい思いで一杯だ。あれなら無駄な設備投資しなくても色々出来そうで面白そうだ」
どうやらVRシステムを直で体験してその気になったらしいせんせーは、事務局へ予算申請をする為ホロウィンドウを出すが、フーちゃん3号が出て来て衝撃的な事実を放って来た。
『予算申請をしても通らないデガス。一部理事と事務局長がピンハネしてるデガス』
え?僕達は声を揃えて声を上げてしまう。
「「「「「「「はぁあああっっ!?」」」」」」」
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




