8.ポーション作成と発露するもの
すこし長くなりました
街まで戻ると、すぐ様冒険者ギルドへと向かう。相変わらずのやる気なし受付嬢に話をしてみるが、冒険者同士のいざこざは、こちらでは関与いたしませんの一点張りで要領を得なかったので諦めて、作業場へと移動する。
冒険者ギルドの作業場は、様々な生産活動が出来る場所で、調薬、木工、鍛冶、料理などあらゆる事に利用が出来るらしい。
さっそく、作業場でポーション作りを始めることにする。メニューから (スキル→調薬→作成)を選ぶとあーら不思議、机の上に調薬道具がポーンと現れる。
いわゆるミニゲームの様で、乳鉢に薬草を擂り潰すための陶製の棒、そして水と漉し器が並べられている。
「えっと……どうやるんだ?」
僕の呟きを聞いてララが説明を始めてくれる。
『右上のコマンドから作成、始めるを選んで、アイテム欄から薬草を出して乳鉢に入れます。HPポーションの場合はシラ草とナフナ草ですね。それらを入れてコントローラーで摺りこぎ棒を操って、薬草を細かく潰していき水を加えて、濾し器で濾して完成します』
ふむふむ、この手のミニゲームは昔からあるので問題ないだろう。すぐに作成画面に移って、ポーションを作り始める。アイテム欄を呼び出すと、調薬で使用できるアイテムが明るく表示されている。よく見ると薬草だけで何種類もバラバラに収納されており、採取でかなりの量を手に入れた事が分かる。薬草の中でもレベルのせいか、選べないものもあるようだ。それらは黄色い文字で表示されている。
アイテム欄から白く表示されているシラ草とナフナ草を選ぶと、乳鉢の中にその草が現れる。宙に浮いている摺りこぎ棒にカーソルを合わせDボタンを押しながら十字キーでゴリゴリ動かす。上部に表示されたパラメーターバーを見ながら、大体75%を目安に早すぎず遅すぎず長すぎない様にコントローラーを操る。
パラメーターバーを調整しながら、ぐりぐり十字キーを動かす。やっているうちになんか楽しくなってくる。
「おっおっお―――」
そうこうしているうちに[Water−In]の文字が現れる。右上に置いてある水の入ったビーカーのようなものにカーソルを重ねて、Dボタンで掴んで乳鉢まで動かし、水を適量入れて更に十字キー&Dボタンでグリグリかき回す。
さらに十字キーをグリグリしてると、乳鉢に光の粒子が集まってピリコロンとSEがして【SUCCESS 】の文字が現れる。そして、乳鉢を左上にある濾し器にカーソルで動かして、十字キーの下で乳鉢を傾けて薬液を濾し器に注ぐ。
すると濾し器の下に置いてある魔法陣が光だし緑色の透明な液体が球体へと形作られていく。
〔HPポーションができました〕
ピヒヒヒーンというSEとともにポーション完成の表示が出てくる。自動でアイテムが回収されるらしくポーションは消えてなくなる。
メニューを開きアイテム欄から調べるを選んでポーションを見る。
アイテム:HPポ-ション Lv 2
HPを30ポイント回復する。
んーいいんだか悪いんだかさっぱり分からん。
『マスター出来たのです。バッチリなのです』
ララが褒めてくれたので成功みたいだ。うむ、良かった。
よし、とりあえずポ-ションを作れるだけ作ってみることにしよう。採取した薬草はいっぱいあることだしオートアクションプレイで作業すればその間にスープ作りも捗るだろう。
さくっとポーション作りの作業を登録して、オートアクションプレイで作業を再開させる。
「ララ、しばらく席を外すから何かあったら呼んでくれるか?」
『ハイです。分かりましたのです』
作業画面に現れフリフリ手を振るララ。何でもありのゲームだなこれ。
「じゃ、よろしくな」
『ハイです』
そして、リビングを出てキッチンへと向かう。
少しだけ大きめの鍋を手にとり (まるで新品のよう―――ってか新品!)に水をたっぷりと満たしIHレンジに置いて、次にまな板をキッチン台に置いて買ってきたキャベツを取り出す。
下の収納扉から包丁 (これも新品)を取り出して、キャベツの芯を三角にくり抜きとり出す。そしてキャベツを水で洗ってザク切りにして鍋へと入れる。
そこにオリーブオイル、固形コンソメスープの素、塩コショウ少々、さいの目にした人参、玉ねぎ、ジャガイモを入れて弱火に設定して火を入れる。
姉がいつ帰ってきてもいいようにスープストックを作っておけば、冷蔵庫で保存しておき帰った時にレンジで温めるだけで美味しく食べれるだろう。
くつくつ煮えるのを待って、次に何を作ろうか考える。
ホームメイドAIのログを見てみると、姉はひと月程この家に帰っていないみたいだし、(アパ-トには3日と空けずやって来るのに)料理をストックしておくからと家に帰るようにメールしとこう。
突然アパートに来られるのが嫌な訳ではない。そう決して嫌な訳ではない。本トにビックリするんだよ。
保存がきく食べ物………んー、“3時の武者小路”でりなりさんが言ってたな。たまにギョーザが食べたい病になるって。
うん、よしギョーザを作ろう。冷凍庫に入れれば日持ちもするし、姉もギョーザが好きだし、オールオッケー。
と冷蔵庫を見やれば食材は全くない。端末を取り出し、近くの店を検索する。おーあるある、5分ほど歩いた所にスーパーが1件。チャリならすぐだ。ちょいと行ってこよう。
スープの火は止めようか、それとも………。
「アルデ、君は火の管理も出来るのかい?」
『キラ様、危険が及ぶ前に火を止めることは可能です』
「20分ほど出掛けてくるので、それまで火を見ててくれるか?」
『かしこまりました。キラ様、いってらっしゃいませ』
ホームメイドAIに火の管理を聞いて確認すると、スーパーまで夜の街へと出かける。
*
くさをいれ ぼうでごりごり みずをいれ ぼうでごりごり ごりごり ブブー 【FAILED】 くさをいれ ぼうでごりごり みずをいれ ぼうでごりごり ピリコリン 【SUCCESS】 こしきにそそぐ ピヒヒヒーン [HPポーションができましだ] くさをいれ ぼうでごりごり みずをいれ ぼうでごりごり ごりごり ブブ- 【FAILED】
【FAILED】【SUCCESS】【SUCCESS】【SUCCESS】【FAILED】【SUCCESS】【SUCCESS】――――――――
なにかがちがう しっぱいとせいこう なにがちがう ごりごりのかいすう みずのりょう おなじように してるのに なにがちがう かんがえる かんがえる みてるだけでは なにもできない どうすればいい? “しっぱいとせいこうがあるのです やくそうのしつのせいのでしょうかです”
あいぼうが つぶやくことばにかんがえる ごりごりのかいすう かいすうをちょうせい みてるだけではなく 《オレ》 がやってみる さっきたたかったように やってみる やくそうをみて ごりごりーごり
ピリコリン【SUCCESS】――――――ごりごり【SUCCESS】―――――ごりごりごりごり【SUCCESS】――――――ごりごりごりごり【SUCCESS】 せいこうのかくりつが たかくなった これがただしい かい くさをみて ごりごりのかいすうをかえる これがいい なんかいい たのしい たのしい
*
作業場に2人の人間が入ってく来る。1人は派手なローブに身をつつんだ男。もう1人は軽鎧をまとった男。2人は周囲を見回して確認して舌打ちする。
『ちっ!いねぇ−な。何処行ったんだ?ああっ?』
『ったくなー。俺ら脇道で迷って時間食っちまったからなー』
『マジ腹立つなー。くそっ!ん?………あいつは!?』
『別の新入りじゃねーの?アテスピもいねぇし、装備も違うしよー』
“ヤマト”の姿を見咎めたローブの男がズカズカその側まで近づき、見下すように“ヤマト”に声をかける。
『おい!あんた。アテスピ連れた奴知らねぇか?』
“ヤマト”は黙々とポーション作りをしている。
『ちっ、なんだよ!無視してんじゃねぇよ!!』
“ヤマト”に掴みかかり殴ろうとした瞬間。
『“他のプレイヤーへの干渉は警告対象となります”』
ピクリと振り上げた手を止める。焦ったように周りを見まわす。
『“他のプレイヤーへの干渉は警告対象になります”』
再度繰り返される警告に振り上げた手を下ろし舌打ちして足早に出口へと去っていく。軽鎧の男も慌ててそれに続いて立ち去る。
ルールギリギリで後ろめたい事をしている彼らとしては、垢BANになるのはゴメンだ。
アカウントを取り消されれば、余程の財力や運がなければ2度とこのゲームを出来る事もないのだから。それに今までのキャラデータがあまりにも勿体無い。
男達が去ったあと、なんとか“ヤマト”様に危害が加えられる前に防ぐことが出来てふ―――っっと息をつくララ。
森の中での事といい、今の出来事といい何とも物騒な人間達がうろついている。ララが認識しているはずのゲームでは、あり得ないことであった。何かアップデートで変更があったのか、それともプレイヤーの間で何かあったのか。マスターを守るためにも、情報を集め対策と取らねばと、ララは情報の海原へとおのが身を潜り込ませる。
“ヤマト”は変わらずポーションを作り続けている。
【SUCCESS】のSEがピリコリン、ピリコリン作業場に鳴り響く。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうこざいます