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73.キラくんといっしょにパーリィナイ!

 

 

 暑かった空気に少しだけ流れ吹く風に冷たさが混じり始めた季節。

 そのとある土曜日、ゲームをしていたキラくんを連れ出し愛車を駆って埠頭へと直行する。

 湾岸道路をひた走りたくさんの船舶が立ち並ぶ姿が前方に見えてくる。

 そこにひと際目を引く船―――ー夕日を背景バックにしたクルーズ客船の姿が出現する。


「ふおおお」

『すこいのですマスター』

「本っとに大っきいなぁ、あれ」


 近付くに連れその巨大さに目を見開くキラくんを脇目に愛車を駐車場へと向かわせる。


 船名:イノセント・プルートゥ

 カテゴリークラス Ⅲーα級

 全長 183m

 全幅 48.2m

 総トン数 29800t

 搭乗人数 約700名


 とあるお金持ちが所有するクルーズ客船らしいのだけど、何故あたしとキラくんがこんなところに来ているかといえば、まぁ、招待されたからだ。


 愛車を降りて搭乗ゲートへと向かう。ゲート入口で招待状を見せて中へと入る。

 入口の担当者が訝しんだ表情を見せている。さすがに普段着のこの格好では、ドレスコードに引っかかる為だろう。

 この手の船に乗る人間だと変に階級意識とか芽生えるものだろうか。まぁ、見ず知らずの赤の他人の視線などあたしが気にすることもない。

 真紅の絨毯の敷かれた船内通路をガイドに従い進んでいく。


 ことの始まりはあたしが関わっている、とある企業の社長からのお誘いであった。

 何でも商業組体ソサエティー主催のパーティーがクルーズ客船で行われるようで、良かったらぜひと言ってきたのだ。

 ドレスコードもあるし正直面倒いなぁ〜と思ったのだが、パートナー同伴と聞いて、おっと思い行くことに決める。

 社長がパートナーがいなかったら、私がなろうかと鼻の下を伸ばしながら言ってきたが、あたしは連れがいるので大丈夫と丁重に断る。

 後ろに奥様が幽鬼のように立ってるのに、そんなこと言っちゃ拙いでしょ。え?気付いてない!?


 パーティーに行くことを決めた翌日、キラくんを連れ出しテーラーや宝飾店等を見て回りいろいろ用意していく。

 キラくんを舐めるような奴が出てくると、お互い大変なことになるからだ。(主にあたしの拳的に)

 もちろんあたしの着る物もせっかくの機会なのでキラくんに見て貰いながら選んでいく。何気にキラくんのセンスの良さにビックリだ。


 キラくんの装いはドレープの入った白のシャツにポインテッドの蝶ネクタイ。光沢の美しいカマーバンドと丈の短いタキシードとスラックス。蝶ネクタイにワンポイントのチェ-ンアクセ。おふっ。

 出来合いのものに調整をして貰っただけにしてはぴったりだ。

 うんうん、さすがキラくん。何着てもカッコいいねっ!

 もちろん前後左右ポーズを決めてもらって激写する。当然2ショットも。


 あたしの場合は黒系の浅くスリットの入った膝丈のイヴニングドレスにハイカラーの袖口が広めの銀縁ラインでボタニカルアートを彩った紺のシースルーのアウター。首にやはりシースルーの長めのクリームの巻きスカーフ。アクセはイヤリングのみ。

 タークレッドのハイヒールを穿いて完成だ。まぁ、それなりに見れるだろう。キラくんも「サキちゃんかっこいいね」といってたし、問題ないだろう。(ん?なんか違うか?)


 ドレスルームでお互い服を着替えて合流し会場へと向かう。

 受付で招待状を見せると、あたしにだけ小さなコサージュを渡される。


「?」

「それを身に着けて入場してください」


 あたしより少し下くらいの受付の女性が視線をギランとさせてそう言ってくる。ん―、何か不穏な感じ?

 それを左手に持ち、右手をキラくんの腕に絡ませて中へと進む。

 中規模なパーティーといってたけど、始まる前にもかかわらずかなりの人間が会場に集まっている。3、400人程か。

 皆それぞれ思い思いの相手と会話と楽しんでるようだ。

 それほど場に比して目立つ格好をしいるわけではないので、誰もこちらに視線を向けるものはないな………、何人かはいるか。

 まぁ、そんな輩はスルーして、周囲を観察する。


 立食形式のパーティーなので幾つかの丸テーブルに様々な料理が置かれ、各自好きな様に取り分けて食べるようだ。

 壁の両脇には、屋台の様にいろんな料理を作り提供するみたい。

 まぁ、まだパーティーが始まっていないので、今は誰も側にはいないけど。

 奥の方のテーブルに陣取り、ボーイさんからグラスを受け取りしばし待つ。

 そして周囲のざわめきが収まると商業組体ソサエティーの会頭が現れ挨拶を始める。


 一時的に経済が破綻した時、以前の組織はバラバラになり幾つかの経済組体が作られた。

 その中で2つの組体が頭角を現す。

 それが商業組体ソサエティー企業組体コミッションだ。

 この2つは表と裏で色々やりあってるらしいが、あたしはそれ程興味も無いので詳しくはない。

 どっちかというと企業組体コミッションが頭ひとつ分ほど抜け出てるとか。どうでもいいけどね。


 ただ企業組体コミッションの体質が、大企業母体のせいか上から目線というか選民思想っぽくあたしと肌が全く合わないので、あたしはもっぱら商業組体ソサエティー系の会社と仕事をしている。

 多分今日のお呼ばれもその流れでないかと思っている。

 会頭の挨拶が終わり、乾杯の音頭の後は皆がそれぞれに行動へと移していく。ある者は歓談を始め、またある者は屋台や料理へと向かう。もちろんあたし達も屋台へと突入する。


 飲み干したノンアルビールのグラスとコサージュをテーブルへ置いて、先に行ったキラくんを追う。

 そこへ狙いすました様に男が道を塞いでくる。むぅ、邪魔だな。


「失礼。少しよろしいですか?私◯◯の役員をしているアザキと言います。良かったら少しお話をしませんか?」


 ふわふわ茶髪のヤサ男が声を掛けてきた。

 言葉遣いと態度は丁寧なのだが、目がギラギラしすぎだ。

 見た目20代前半といった感じだ。役員といっても自分の実力というよりは七光っぽい感じがする。ようはボンボンってことだ。

 あたしもこの年でこの手の輩の事は学習しているので、ケンカをすぐに売ることはしない。如才なくキラくんを出汁にして断る。


「申し訳ありません。連れが向こうにいるので行かないといけませんので………」


 一礼してあたしが横を通ろうとすると、それを阻むように男が動く。ぬぬっ!!

 あたしが思わず眉を顰めても、気に留める風でもなくさっきと同じ言葉を繰り返す。


「◯◯の役員をやってるって言ってるだろ。君も少しは興味あるだろ。だったら俺に付き合えよ」


 小声で急に態度をガラリと変えてそう言ってきた。何?この俺様。

 う〜ん、今はこういうのが流行ってるのかな。ってか会社にもこいつにも全く興味の関心もないんだけど………どうしようか。


「どうしたの?なにかトラブル?」


 そこへ救世主キラくんがやって来た。あたしが付いて来なかったので戻ってきたようだ。手に料理を携えて。くぅぅ。


「何でもないわ、行きましょう」


 キラくんにニコリと笑顔を見せて、男をスルーしてキラくんの元へと歩く。


「おいっ!!」


 通り過ぎるあたしの肩を掴もうとするのをヒラリと躱し、目を細め威圧するように言葉を投げつける。


「この場でそんな声を張り上げてはお里が知れますわよ?それにあなたのパートナーがいるのではなくて?」


 そう、今日のパーティーはパートナー同伴というものなので、当然この男にも相手がいる筈なのだ。


「ちっ」


 男は舌打ちをしてあたし達の前から去って行った。なんか三下チンピラみたい男だ。どこにでもあの手の輩はいるよなぁと心の中で独りごちる。


「はい、サキちゃん。これ美味しいよ」


 お皿に盛られた料理を差し出され思わず受け取る。山盛りの焼きそばに上に載った半熟目玉焼き、そしてミディアムレアの赤身のステーキが丸々1枚脇に横たわっている。じゅるり。

 一緒に渡された箸を手にして、まずは目玉焼きの黄身を箸で割る。

 すると半熟の黄身がトロリと流れ焼きそばに彩を与える。麺に黄身を絡めてひと口パクリ。んふ~、ソースの酸味ととろけた黄身が得もいえぬハーモニーを奏でてくれる。


 次に脇にあるステーキをひと切れ取り、これも黄身を絡め白身と一緒にひと口パクリ。

 噛む毎に肉の弾力と肉汁、白身ととろりな黄身が口の中で合わさり美味しさを訴えて来る。異議なしっ!

 ステーキを頬張り、焼きそばをずるずる啜り食べ終える。

 外聞も気にせず食べるあたしの姿にキラくんが肩を竦めているが、美味しいは正義なのだ。


「ほら、キラくん次行くよ。つぎっ!」

「はいはい」


 さぁ全ての料理を制覇するのだ!!


 

 

   *

 

 

 

 船内の一室で私達は準備を終える。

 室内には総勢20名の男女。誰もが真剣な表場でこちらを見ている。

 全員が揃いの蒼く澄んだ戦闘服を身に纏い手にはスタンバトンとプリンタガンを携える。


「よし!これより行動を開始する。全ては手はず通りに」


 皆が言葉に出さず首肯して答えに代える。


「ターゲットの確認は出来てるか?」


 側にいる副官に確認をとる。1番のメインになる事だ疎かには出来ない。


「はい。マーカーを付けています。現在は会場の中央にいます」


 ホロウィンドウを出して現在の状況を表示する。なる程。


「最大時間で4時間、占拠の後にターゲットを捕捉し確認の後に退却する」

『はっ!!』


 小さくだが力強く返事が返ってくる。よし、士気は高い。これなら必ず成功するだろう。


「拝金主義の豚共に鉄槌を。この蒼き大地に清浄を」

『拝金主義の豚共に鉄槌を!この蒼き大地に清浄を!!』


 教義を復誦し行動を開始する。

 我等、結社ブルーアーシアンの支配拡大の第1歩だ。

 私は緩む口元を抑えこむように力を込めて引き締める。

 

 

 

   *

 

 

 あたし達は会場を出て、少し離れた船内の一室でお茶を飲んで寛いでいる。

 屋台とテーブルを行ったり来たりしながら料理を堪能し、途中で前述の社長とその奥様と軽く挨拶を交わした後(何故かキラくんが奥様を見て首を傾げてた。ん?)、会場を抜けだしてこの部屋で一服しているわけだ。


 この部屋は倉庫の一部らしく奥には様々な小道具や衣装がしまってある。はぁ―お茶美味しい。

 キラくんは持って来てた明石焼きを出汁につけてハグハグ噛み締めている。


「キラくん、あ〜ん」


 雛鳥が餌を求めるように、大きく口を開けて明石焼きを要求する。

 キラくんはやれやれといった風に肩を竦めて、出汁につけた明石焼きを口へと放り込んでくれる。

 生地に染み込んだ出汁がじゅわりと口の中へと広がっていく。

 噛むととろフワの生地が溶けるように消えて行った。タコをか噛み噛みこっぐんこ。卵の甘い香りが鼻を抜けくすぐる。これもまた美味しい。

 個人的にはタコ焼きの方が好みだけど、これはこれで上品な味わいがあるので悪くない。


 更に食べさせて貰おうと口を開けようとした時、何かの破裂音と女性の悲鳴と叫び声が聞こえてきた。

 何かしらんと思い音のした方へ顔を向ける。パーティー会場からの様だ。余興か何かだろうか。

 様子を見るため部屋を出ようとすると、ホロウィンドウが起ち上がりレリーが顔を出す。


『あるじ様。シージャックが発生しました』


 へ?シージャック!?レリーさん、説明ぷりーず。

 

 


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

もう1話はなるべく早めに出したいと思います(たぶん)

ジカンカセギノワルアガキ………Orz

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