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71.学祭ラプソディー【狂騒詩】

 

 

 朝、目が覚めると何度か目を瞬かせ首を振る。なんか夢を見たような………う〜ん思い出せない。

 たまにこんな夢を見たような気分で目覚めることがある。けど全く憶えてないんじゃ意味がないよなぁとムクリと起き上がる。

 さすがに今日は飲み過ぎた様で、少しばかり頭が朦朧としている。

 一緒に上がり込んだ姉はすぐさま僕のベッドへ直行、「カモン、カモン」とかのたまっていたけど、丁重にお断りする。

 小学生の頃はよく一緒に布団にくるまったりしてたけど、この歳になってそんな事をしたらさすがにアウトだろう。

 そこら辺は軽く流しておくとして(トラウマってのななかなかね)、人の気配がしないので玄関を覗き見ると姉の靴がなくっていた。

 ありゃ、朝ゴハンも食べずにいなくなるのは珍しい。それとも戻ってくるのかな。

 時間は7時になろうとしている。テレビを点け情報番組へリモコンでチャンネルを変える。音声認識って苦手なんだよね。

 そして卓袱台を見ると、姉の書き置きが置いてあった。今どき古風なって僕もやってたか………。

 今はホームサーバーAIや、留守番端末なんてのもあるから、特に必要性は無いけれど、こういうのって廃れることがないなぁと独りごちる。

 さて、日課をこなして、朝ゴハンを食べてガッコに行こう。


 いつもより少し遅れ気味にゼミ室に入ろうとドアノブを手に取ろうとした時、中から大きな声が響いてくる。


「あと2週間もないんですよ!早く決めてくれないとパンフに記載できないじゃないですか!!」

「で、でも先生もいないんで、その手のことは勝手に決めちゃ不味いんですぅ」


 何やら言い争ってる声が聞こえてくるが、一体何の話だろう。2週間後って何かあったっけ?


「とにかく明日中に出し物を決めて運営に連絡してくさいね!分かりました?」

「……………」

「ちっ!いいですね!!」


 ドアに人影が近付いて来たので、慌てて後ろへと下がる。

 するとドバンと勢い良くドアを開け、女子学生が書類を抱えてこちらに気づきもせずに出て行った。

 もう少し落ち着きを持ったほうがいいよなぁなどと、その後ろ姿を見て思ったりもしたが、とりあえず何があったのか中に入って確かめることにしよう。


 中は教室より少し小さめの広さで窓側にフドウ先生のでかい机が鎮座し、その手前に学生用に机が6つ向かい合うように2列に並んでいる。

 その右側には研究用の倉庫ほどのスペースがある作業室へ向かうドアがあり、その側に壁に寄せるようにソファと小ぶりなテーブルが置いてある。

 そこにタダミさんが肩を落とし項垂れるように座っていた。


「タダミさん何かすごい剣幕だったけど、どうしたの?」


 僕の声を聞いて顔を上げたタダミさんは涙目で僕に問いかけてきた。


「ササザキ先輩!どうしたらいいんでしょう?」


 話を聞いてみると何ヶ月か前にいきなり学祭運営会がやって来て出し物を企画して下さいとお金を置いて行ったらしい。

 何の事か分からなかった彼女は、お金を金庫に仕舞いそのままにしてしまったらしい。

 誰にも知らせなかった彼女の良くないが、問題は学祭運営会の方だ。


 うちのゼミは企業との共同研究とかがいろいろあって、内部のことはあまり大っぴらに出来ない契約になっている。

 それは向こうも知っているはずだし、下手に手を出すと火傷じゃ済まなくなるのは学部の教授せんせいなら知っている筈なのだ。


「確かババくんにうちのゼミは学祭に基本参加しないって申し送りしてたと思うんだけど聞いてない?」


 タダミさんは首を横にふるふる振って僕の問いに答える。


「全然聞いてないです。それにババ先輩は就活があるらしくて、こっちに全く顔出してませんし………」


 彼は僕に対して妙に対抗心を燃やして突っかかって来てたので他の人に頼んでた筈なんだけど………人選を誤ったか。


「先生は?どこに行ったの?」

「えっと、何かドイツで新技術の発表があったとかで、出掛けてます。ぐすっ」


 なら、まずは運営会にねじ込んで契約を盾に出し物を断る方向で行こうと考えていたら、また問題が発覚した。


「金庫に入れてたお金が減ってて、こんな紙が………」


 涙目のタダミさんを宥めて少し考える。な〜んか作為的なものを感じはするが、まずは目の前の事から片付けていこう。


「まずはババくんに緊急って言って呼び出して、あとゼミ生を呼べる人だけ呼んでみて」

「は、はい。分かりました」


 慌てて端末をいじり出すタダミさんにもうひとつ聞くことにする。


「出し物の場所とか指定あるの?」

「い、いえ。ただ企画を出して連絡しろとしか……」


 ふむ、なる程。これも突っ込みの材料に組み込むか。

 この手の交渉事は苦手なんだけど、やるだけやってみよう。


 交渉の結果。もへったくれも無いのだけど、先ほど乗り込んで来た学生に懇々切々と説明すると、始め眉間に皺を寄せていた彼女は、しまいには顔を青褪めてこちらの要望通りにしてくれることになった。

 でもまぁー、今回は結局やることになりそうだ。

 どうやら責任教授に命じられただけだと言い訳めいた事を彼女は言っていた。

 フドウ先生を心よく思ってない人間もいるらしく、そんな学内のパワーゲームに巻き込まれたみたいだ。

 先生も勝手気儘だから……、けど結果を出してるのでなかなか文句も言えない様だ。

 巻き込まれる学生はいい迷惑だ。

 無理やり目立たない人の来なさそうな場所を選んで決める。ってかそんな所しか残ってない。

 この手の事はやったと言う事実があればいいので問題ない。問題はその場所で何をやればいいかだろう。


 ゼミ室へ戻ると作業室の方で声がするので行ってみると、呼び出されたゼミ生がババくんを吊るし上げていた。

 ただいい性格をしてるのか歪んでいるのか分からないが、そんな中でも見た目は平然としている。

 こんな奴に構っている暇はないので、必要なものだけ要求して終わらせる事にする。


「ババくん、きみ勝手に金庫を開けて勝手にお金を抜き取ってこんな紙を置いて行ったんだよね?」

「………ササザキさん…。あなたには関係無いでしょう」


 僕が声を掛けた事で、僕を見ながら横柄な態度でそんな事を言って来た。


「ああ、僕には関係無い事だね。なら警察に連絡しなくちゃいけないけどいいよね?」


 ざわりとババくんと周囲がざわめき出す。僕も少しばかり苛立っているのだ。そんな口くらい幾らでもきける。


「だって、1市民として盗難が発生したら通報しなくちゃね。君に頼んだ今仲がいい教授せんせいにも話が行くと思うけど構わないよね?」


 その僕の言葉いいがかりに慌ててババくんが口を挟んで来る。


「ちょっと待って下さい!証拠も無しに何を言ってるんですか!」


 ちっちっち、甘いなババくん。証拠は見つける物でなく、作る物だよ。まぁ、そんな事をしなくても出て来ると思うけど。そもそも日付け無しの借用書もどきを置いた時点でアウトだろう。

 彼と某教授がよく一緒にいるのを見掛けるからだ。


「でも、君が勝手にお金を持ち出したのは事実だよね。それとも学祭が終わってから戻せばいいとでも思った?」


 いわゆる就活スーツを着た少し痩せ気味の、僕と同じ位の身長のババくんが図星を指された様に少したじろぐ。


「もし僕が関係者だったら、今ならお金を返してゼミの皆に謝罪して貰えたなら不問にするけどね。あ、もちろん君のやったことは先生にも報告して処遇は決めて貰うけどね」


 たぶん頭の良さ気なババくんなら、これで理解してくれると思う。頭いいよね?

 ババくんはスーツの内ポケットから財布を取り出し、お金を側にあったテーブルに叩きつけて頭を下げて謝罪した。


「どうも!スミマセンでした!!失礼します」


 ババくんが勢いのままに立ち去ろうとすると、タダミさんが呼び止める。


「あの、お金足りません………」


 その言葉にすぐに舞い戻りお金を取り出し置いていった。何とも締まらない。周りのみんなが吹き出しそうな顔をしている。

 ババくんが立ち去った後大爆笑したのを見て、僕はパンパンと手を叩き注目を集める。


「はいはい。じゃそんな訳でうちのゼミでも出し物をやる事となったんだけど、権利関係で引っかからないで出せるヤツってある?」


 そんな風にみんなに聞いてみる。そもそもうちのゼミって先生が先生だからか、あまり学生が集まらない。

 だけどやってくる人間はクセはあるけどケッコー優秀なので企業からの青田刈りがかなりある。

 だから個々人で企業と提携したりして契約に縛られていたりする。(たまに僕やババくんみたいなのもいる)

 なので下手に学祭で何かを発表するとかも難しい。ってか集まってきたのは1年から3年ばかりで4年生はいない。

当たり前っちゃ当たり前か。追い込み1歩手前だし………。


「食べ物屋とかって出来ないんですか?」

「んー、申請必要だから無理っぽくね?」

「僕のとこはちょっと難しいかな………」

「あ〜、あたしも〜」


 とネガティブ意見が山積みだ。僕も特にアイデアがあるわけじゃな………。そういや図面だけは引いたヤツがあったような。えーと。


 僕は端末を取り出して、昔のフォルダを引っ張りだし前に書いた図面をスクロールさせていく。あ、あったこれこれ。まぁ子供騙しみたいなもんだけど、提案してもいーだろう。

 あーだこーだ言ってるみんなに手を上げて提案する。


「昔、図面だけ書いて放っぽいといたヤツだけど使えないか見てくれる?」


 僕のその声にみんなが集まってきたので、ホロウィンドウを拡大してみせる。


「?ロボットアームですか?へぇ、歯車とワイヤーで動かすんですか。面白そうですけど………。 これでどうするんですか?」


 ん―どうしよっか。と少しだけ目を閉じて考えてると、誰かがひとつのアイデアを話しだす。


「これ、大きくしてフリースローゲームやりません?」


 彼のアイデアはロボットアームの前にカゴを置いて、投げ入れた数で点数を付けるというものだった。

 一定の点数をとった人には何か景品をやるという。

 確かにロボットっぽくてゼミの技術を漏らすこと無く行ければ、これ程いい事はない。


「よし!じゃあそれで進めて行こう。みんないいかな?」

「「「「「はいっ!!」」」」」


 僕も乗り掛かった船ということで、ガッチリ手伝う事になってしまった。このロボットアームは操作部に腕と同じ動作をする肘、肩部に駆動部分をつけ、肩の駆動部分と第1の歯車を横棒の軸で繋ぎ、その上に小さな第2の歯車、さらにその上に中ぐらいの第3の歯車を連結させて、第3の歯車にロボットアームの付け根部分へ繋げる。

 肩部の駆動部分先と肘部に、ワイヤーを着けて肩と肘を動かすと連動する様に繋げて、最後は自転車のブレーキの様な物にワイヤーをアームの手首部分につけてブレーキを握るとアームの手が閉じる様にして行く。昔あったマジックハンドのような物だ。これで腕を前後横に動かすとロボットアームもその動きを真似る。


 簡単に説明して行けばこんな感じだ。ロボットアームというよりは子供騙しのカラクリ仕掛けと言った方がいいかも知れない。

 材料はホームセンターで腕部分はFRPパイプを、歯車部分は強化段ボールを切り抜いて、ワイヤーは釣りに使うテグスを何本か編み込んで利用する事にする。


 残り2週間あまりで出来るかどうか分からなかったが、僕達は一致団結し作業を開始する。

 やる事が理解出来れば、みんな仕事が速い。

 パワー不足になる事を考慮して、アームの肩、肘、手首のそれぞれの歯車部分にサーボモーターを取り付けパワーアシストする様に工夫して行く。僕はその間おさんどんに徹し過ごした。


 そして完成したのは折りたたみ椅子に操作腕を固定して、その脇に木を骨組みで作りダンボールで覆った歯車部の壁。そして壁の上の方には、ダンボールでアニメのロボット風に作られた2m弱のロボットアームが貼り付けられている。中身はただのFRPパイプなので見栄えはかなり良くなったと思う。


 学祭1週間前になると学内の雰囲気にあてられてか、みんな変なテンションになっていたのはちょっと引いたけど………。


「カム比率が合わねぇっっ!作り直しだっ!!」「モーター強過ぎたっありゃ?」「ご飯おいしー」「モーターの出力プログラムバグってんぞっ」「どひゃ〜〜〜っ」「角煮丼だ〜〜〜っ」「腕つったっっ!」


 もうね………。大変だったよ。

 途中から返って来た先生がちゃちゃ入れたりしてはぁ………。

 こうして運営会から指定された(僕がした)ブースに機材を設置して当日を迎えたわけである。


“ロボットアーム de スローイン”という看板(ダンボール製)を付けられたこのゲームは、ロボットアームから1.5mと3m離れたカゴ(まと)にアームで握られた円柱物(直径15cm長さ30cm)をアンダースローで投げ入れるというものだ。

 手前のカゴが10点、奥が20点で5回投げて30点を超えるとお菓子の詰め合わせ(300円)をプレゼントするものだ。

 ちなみに30点行かなかった時は、参加賞の運めぇ〜棒(10円)を渡す事になっている。でもって1回100円。


 指定された(僕が選んだ)場所はクラブ等の裏にある中庭で、正直建物のハズレのハズレなので人が来る気配はないにも等しい所だ。

 運営会の嫌らしさ――――いや、責任教授の性格の悪さを感じつつ(だからあえて人の来そうにない所を選んだ)、暇ならヒマでのんびり学祭を愉しめばいいのだと思い、差し入れのサンドイッチを手にその場所へ向かったのだけど、何故か僕が向かう先に人集リと列が出来ていた。

 人だかりの脇を抜け列の先へと進むと、そこはうちのゼミのブースだった。


 ひと言で言えば大盛況。

 

 ロボットアームが動く度に、ギャラリーがおおっとかアーっとか歓声が湧いている。

 朝に様子を見た時は、ゼミ生しかおらずのんびり過ごしていたと思ってたけど………。これは一体どうしたことだろうと様子を窺ってると、タダミさんが僕に気付いて駆け寄ってきた。


「先輩、先輩!大変ですっ!!」

「うん、そうみたいだね。どうしたのこれ?」


 どうやら朝からまったりと過ごしてて、ホンゴウさんがロボットアームで遊んでいたところに1人の来場者が来て、何をしてるのか聞いてきたらしい。そこで簡単に操作の説明をしてから、1回100円で出来るというと、その来場者――ー少女はゲームを始めて何回か失敗した後、詰め合わせとゲットしたらしい。

 らしいらしいと言うのもタダミさんもホンゴウさんから伝え聞いたからみたいだ。

 でもこれけっこー難しかったのに数回で成功するなんて、その子大したもんだなぁーと感心してると。

 その後少女は何やら端末をいじってから「ガンバッテ」と言って去っていったらしい。


「?」


 僕が首を傾げると、その様子に苛立ったタダミさんが端末を操作してホロウィンドウを見せてくる。

 “ミハマ アイリの今日のめちゃおも”というSNSにうちのブースのことが書かれてあった。おー、すんげ面白かったって書いてある。ありがたいことだ。

 僕がうんうん頷いてると、よく分かってないらしい僕に説明を補足してくれた。


「だからっお忍びで来たアイドルが、うちのブースの宣伝しちゃってこんな状態になってるんですよっ!」


 おーそっか、どっかで聞いたことのある名前だと思ったらPre“G”dentの人か。しかしアイドルとSNSの情報拡散、こわっ。


「これ以上人を待たせれると何か問題起きそうで、あと景品も無くなってきそうなんで、お願いしますササザキ先輩っ!!」


 慌てふためくタダミさんをしばし黙考。よしっ!


「確か番号発券アプリってあったよね、それ落として先着順に番号配ってモニターで表示。あと空いてるゼミ生呼び出してもう1台のロボットアーム設置させて。僕はお菓子買って来るから」


 そうまくし立てて、差し入れのバスケットをタダミさんに渡して僕は外に向かって走り出す。

 そんな感じで学祭終了までそれは続いたのだった。

 今年は何やらてんやわんやのてんてこ舞いの学祭だった。 

 ほんと疲れました。

 

 その後某教授の嫌がらせを知ったフドウ先生が、彼に何かしたとかしなかったとか。某教授に見限られたババくんは御情けでゼミに残してもらえた様だ。


 そしてその後、この“ロボットアーム de スローイン”が学祭でのうちの定番出し物になろうとは、この時僕を含めて誰もが想像もしえなかった。


 

 

(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

いまだ白紙状態ですのでしばしお時間をいただきたいと思います

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