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69.とある冒険者達のわる巧み

プレイヤーというかタジマさんの話です(タイトル詐欺?)

ブクマありがとうございます(T△T)ゞ


 

 

 牧場の朝はめっちゃ早い。空も暗いうちからやることがめちゃくちゃある。

 欠伸を噛み殺しながら作業を始める。2年以上こんな事をやっているのでもう慣れたものだ。

 両親が呆れる程の借金をこさえ(怒るに怒れない)やむ無く会社を辞めて家業を継ぐはめになった訳だけど、小さい頃からやってた事でもあるので別に嫌とかはない。

 そんなこんなで朝の作業をこなして、朝食を食べようと家に戻る途中父が声を掛けてきた。


「ギミゴ〜。おぎゃくさんがでっぞ〜っ」

「客?誰!?」

「だんじゃったっけ?前の会社のひどって言ってだげんぢょよ」

「会社?分かったありがと」


 我が家は牧場の高台というか丘の上に建ててある。普通は逆なんじゃと思うが、昔のアニメに感化された御先祖がそうしたと言われているので、私は疑問に思った事はない。

 外で仕事を始めてから気付かされたのだ。

 丘へ至る坂道を登っていると、ローファーのパンプスと黒のスーツを着た鬼が腕を組んで待ち構えていた。


「タジマさん。お・は・よ・う」

「ひっ」


 やっべ。もしかしてバレた?




 そもそも私が会社を辞めて家業を継ぐことになったのは、両親のせいだ。主として父親の暴走だけども………。

 私が会社を辞める1年程前―――ーつまり今から3年程前に国が規制緩和のひとつとして、生体移植用調整豚の養豚を酪農をしている人間に認可したことに端を発する。

 生体移植用調整豚とは人間の角膜や臓器などに合わせられるように遺伝子調整されたもので、他所の国が研究を発表しそれをこの国が更に発展改良したものだ。

 TPPとってもポンコツなプライオリティーのお陰で国からの補助金等で潤っていた酪農家達は、こぞってこの制度に飛びついた訳だ。もちろん、うちの父親も。


 認可がすぐに下りたことに気を良くし、豚を数十頭購入し場を整えたところで申請を出したところ許可が下りなかったのだ。

 間に詐欺師っぽいコーディネーターがいたとはいえ、碌に説明を聞きもせず銀行に融資を頼み金を借りて場所を作ったにも関わらず………。

 何でだと皆憤ったが、そもそも生体移植用調整豚は国指定の生体生産場から購入しなければならず、細菌やバイ菌の侵入を防ぐためにも、BSLバイオセーフティーレベル−2以上の施設を作らねばならないからだ。それだけで千万単位の初期投資が必要になる。

 酪農家が片手間にやる仕事ではなく、途方にくれたところで私に連絡が来たのである。


 何考えてんのよ!と問い詰めると、おさビッグリさせっど思っただと言われ、思わず口を噤んでしまう。

 その当時、私はプログラマーとしてゲームの会社に勤めて、それなりのお金(もの)を戴き、家にも仕送りしていた。

 父親としては、それが少しだけ悔しかったらしい。(だけどすごく助かってたので文句も言えない)

 そこへ何か儲かりそうな制度が出来たので、つい周りの雰囲気にも乗せられてやってしまったらしい。

 私はこんなアホな話誰にも相談出来ず、会社を辞めて家業を継ぐ決意をする。(社長には引き止められたけど、鬼には頑張ってと言って送り出された………くっ)

 何とか効率化や無駄と思えるところを見直し、アフィなどで内職をして立て直しがようやく軌道に乗り始めたが、やはり借金は残ってるのでどうしたもんじゃろの〜と悩んでいた時、1件メールが送られてきた。


 鬼………むにゃむにゃ、以前勤めていた会社の実質的な上司で、無理無茶難題を突き付けて、私達をてんてこ舞いに踊らせていた人間だ。

 だったらあんたがやって見せろよと言えば、鼻歌混じりで、私達以上に成果を上げてくるハイスペックな女。

 弱点なんであるんだろうか?

 メールの内容は、約1週間後に開かれるグランドクエストの手伝いをして欲しいとのことだった。

 私が昔担当したマルオー村のグラフィックがとても良かったので、ぜひこの期間だけ手伝って欲しいというのだ。

 詳しい話を聞く為に端末で会社にコールするとトントン拍子に話が纏まり、翌日から行くことになった。

 お手当もかなり良いようなので、両親に話して1週間分の着替えやもろもろを用意して出掛けることにする。

 リニアトレインやトロリーバスを乗り継ぎようやっと目的地へ到着。相変わらずの社内に懐かしさを感じながら受付に向かおうとすると、後から声を掛けられ振り向く。


「お久し振り、タジマさん」


 そこには長身でスレンダー系の美人さんが立っていて挨拶をしてきた。

 はて、こんな美人ひとと知り合いだったろうかと首を傾げると、クスクス笑いながら名前を名乗ってきた。


「キタシオバラです。僕もササザキさんに呼ばれたんだ」


 見た目と違う呼称でそう名乗り、私は一瞬フリーズした後再起動する。


「ええ――――っ!!キタシオバラくんぅ!?えっ、何でっ!!?」


 私の驚きを他所にキタシオバラくん?は何も言わずニコリと微笑む。いろっぺぇ〜。

 久々の開発室に案内され、社長とお……もといササザキさんと再会する。


 背中まで伸びた艷やかな黒髪とボンキュボッのダイナマイツなスタイル。少し吊目がちの瞳と卵型の輪郭を持つその顔は、誰もが振り返らずに入られぬだろう美形。しかもその若さで相当な資産家と聞く。

 お金貸して欲しい………。

 開発室の隅にある応接用のソファに対面で座り、何をするかの説明を受ける。

 ようはグランドクエストで登場させるモンスターの再構築リビルドのようだ。

 本来であれば、サービス開始して第2サークルエリアが開放された時点で起こるはずだったグラクエが、マルオー村で誰もクエストを請けなかったが故に今迄放置されていたというのだ。

 いくら自動発生用にプログラムを組んであったとはいえ、スタッフが誰も気が付かなかったというのは、いくら何でも有り得ないと思ったが、キタシオバラくんは何故か納得した様に頷いている。

 どうやら、せっかくゾーンを組んだのにスルーされた記憶があるようだ。(誰にも言わずこっそり組んでたらスルーもするがな)

 しかし、その思いは彼女の言葉であっさり覆されることになる。


「キタシオバラくんの組んだアレ、すごく良かったよ。出来れば事前に教えて貰えてたら良かったんだけどね」

「え!?」

「ラビタンズネスト。組んだでしょ?」

「ええ、はい」


 きょとんとした表情で彼女を見て、その後少しはにかむ。自分が女として負けてる感がずごんとする。

 私は私でマルオー村の麦畑のグラを褒められ何ともむず痒い気分になる。今さら昔の事をとも思い、気持ちは置いてきぼりな所はあるけど。

 そしてそんな話も終わり、さっそく作業へと入ることになる。


 現在の開発室の作業環境は、HMVRDを被りVRルームで作業を行うのが殆どらしい。

 私の時は、デスクの上にワクステとモニターを連ねて、資料を山と重ねて作業していたことを考えると、時の流れを痛感する。

 そしてVRルームでの作業はめっちゃ快適であった。

 何これっ、めっちゃ楽しい―――っ。ホロモニターを前に5つ、後ろに3つ設置してコボルタカスのモデリングを組み上げていく。

 元々のグラクエでは、犬型人間コボルトのモンスターを設置してたのだけど、このままこれを出してしまうと、PCの蹂躙クエストになってしまう恐れがあるという。

 そこでコボルタカスへと再構築リビルドをする訳になったのだが、成人の腰ほどの貧弱なちんまいモンスターの身体を大きくして様々な武器防具を装備させるらしい。

 モニターに表示されたモデリンググラフィックを見ながら開発ツールをいじり倒す。

 うほっ、何これっ。楽しっ!止まらな―――いっ。

 久々のツールをいじり倒し、レリーさん(●●)に呼び出される迄半日以上VRルームで過ごしていた。めっちゃ怒られた。

 初日にツールに慣れた私は、さっそくコボルタカスの再構築を始める。といっても、ボディーを大きくし、筋肉を適当に盛っていくだけだ。

 そして顔部分を目を少しばかりきつ目に仕上げていく。こうしてコボルタカスソルジャー、アーチャー、キングをそれぞれ特徴を変えながら作り、完成させていく。

 さすが私。この手の仕事は早い早い。

 あとはキタシオバラくんが武器や防具や衣装を揃えてくれることだろう。


 2日目でコボルタカスの再構築リビルドを終えてヒマを持て余した私は、テキトーにいろいろと作っていくことにする。

 えーとやっぱグラクエなんだし、ただの軍団戦じゃ芸がないから何かデッカイ奴を仕込んでおけば面白そうだ。

 巨大ロボは………拙いから、も少しファンタジー色の強いヤツといえばあれしか無いでしょ。それにいきなり出すよりはフラグあった方がさらに盛り上がるだろう。ふっふっふ。

 レリーさんに怒られてしまったので、作業時間は3時間に設定して作業を続ける。たのしー、たっのしぃーっ。


 そしてその作業をしているうちに穴の痕跡を発見する。何かと思いそれを辿って行くと、穴というより抜け道といったものだった。

 プログラムとダンプリストを開くと、それは私が過去に扱った以前の【アトラティース・ワンダラー】のプログラムそのものだと分かった。

 誰が仕掛けたのか分からないけど、私はこれをどうにか利用できないものかと考え始める。


 たしかに今回の事はかなり割のいいバイトではあるが、それでも借金はまだある。

 どこか金回りのいいクラウン辺りに私が作ったアイテムを売り付けられれば、それなりの金額は稼げるだろう。

 本来アイテムのトレードにRM(リアルマネー)を使うのは禁止されている。

 だが、その手のことを回避する術は色々あるのだ。

 現金の受けは渡しは現実でコインロッカー等でとか、トレード自体私がエリアボスを設置してそれを倒せばドロップアイテムで入手する等々。


 今のところ手持ち無沙汰なので、金回りの良さ気なクラウンをゲームの掲示板のスレを幾つか出して流し見ていく。

 それらしいのはイグーツ商会とノーブルシルヴァーナかな。両方共レア武具トレード求むで、1千万GIN払うとか書き込んでるし。

 課金変換だと100万円ってことだ。データにこの金額出すってアホじゃなかろうかとも思ったが、自分と考え方が違う人間なんて山程いる。背に腹は変えられないし、気にしたら負けだと思い直し、とりあえずこのクラウンマスターへメールを送る。

 “どんな手段でもレア武具を手に入れたいか?”と。

 しばらくしてからメールが返信されてきて、イグーツ商会はゲーム内の範囲ならと、ノーブルシルヴァーナはもちろんどんな手段でも手に入れたいと回答が来る。

 よし、取引相手はノーブルシルヴァーナにしよう。

 相手に連絡する前に、アイテムとモンスターの作製を先に済ませておこう。

 ツールソフトを開きまずはモデリング。モンスターのデータストックを確認しながらスクロールさせて目当ての物を見つける。


 ビッグアンタクィーン。


 レア防具が欲しいという彼等のために、今回はこいつを素材に作っていこう。

 まずはボスの作製から始める。ビッグアンタクィーンの頭部に王冠のような刺を付けて、行動アルゴを組み上げていく。

 形態をHP減少毎に3段階ににして、この時ある攻撃を加えると簡単に倒せる様に設定して行く。

 3段階目は(ありえないけど)中肢でも大っきくして振り回せばいいか。

 これを誰も寄り付かないプロロアの森に設置しておく。もちろん抜け道と思われるもうひとつのシステムにだ。

 エリアボスの設定にしてあるので、森の中をうろ対て踏破率を上げなくてはならないが、問題ないだろう。

 対エリアボス戦においてはPC固定はオフにしておく。下手をしてPC分断されるのを防ぐためだ。どうせ第3サークルエリアが主戦場だし、そもそもプロロアの森はただ通過するだけの道だからだ。

 それは過去の掲示板を見てても良く分かる。

 “スズメウザ”“ハチキモ”とか連発で経験値もそれ程旨みが無いと検証されていた。

 私にとってはまさに好都合。

 こそこそ小細工を施すのです。ふふん。


 さて、ノーブルシルヴァーナのクラウンマスターと会う時間まで少しばかりあるけど、待ち合わせ場所へ向かうことにする。

 レリーさんが呼んでくるまでまだ猶予は充分あるので、さっそくVRルームからソフトを選んでログインする。

 出て来たところはルウジー村の噴水広場前。

 目の前には石畳が敷き詰められた街道が左右を貫いて、数人のPCが通り過ぎて行く。

 基本マルオー村とルウジー村は同じ作りをしているので、特に珍しさは無い。

 私はメニューを開き時間を確認してから、冒険者ギルドへ向かう。

 待ち合わせ場所はギルドの中の飲み食い処だ。


「ようこそっ!冒険者ギルドへっ!!」


 おっ、なんか元気な声が室内に響き渡る。幼いその声にそちらを見てみると、受付で10代前半位の少女が笑顔でこちらを見ている。

 あらー、NPCがまるで人間の様に受け答えしてる事に私は目を丸くする。

 そういや社長が前回のアプデでAI性能を上げたとか言ってたから、多分そのお陰なのだろう。

 だけど、ここまで来ると人工知能を少しかじっただけの知識の私でも、相当注ぎ込んだであろう事は良く分かる。

 AI研究は金喰い虫だからだ。

 対象を単純認識させて、そこからソートして行くものもあったけど、途中で不具合が起きて今もって試行錯誤の闇の中を彷徨ってるって聞くし、プログラムの容量の問題もある。


 きっとあの鬼が何かやらかしたに違いない。

 私はそう確信して、隅にあるテーブルへ向かい席に付く。

 顔の上部分が隠れる程の長さの紅髪と暗色系の緑のローブ、右手には身長を越える長さの上部に飾りのついた杖。

 この杖が待ち合わせの印なので壁に立てかけておく。


「いらっしゃいませっ、ご注文を伺いますっ」


 先程の少女がやって来てメニューを渡してくる。

 それをちらりと見て、お茶を頼む。


「少々お待ちくださいっ」


 にこりと笑顔でそう言って戻っていく。………人が入ってるんじゃなかろうか、あの子。表情が自然に現れている。タグは黄色だからNPCに違いはないだろう。

 私が首をふにゃんふにゃん傾げていると、少女がお茶をすぐに持ってきてくれる。

 しばらくおおいしを飲んで待ってると、入口からきらびやかな鎧を見つ纏ったPCが入ってきた。

 少し室内を見回して、こちらを見てから近づいて来ると私の対面に座る。

 そのPCはメニューを出すと、すぐに個人チャットの申請が来る。私は直ぐ様承認する。


[あなたがメールをくれたらっと殿か?]

[でげす。はじめまして」

[で、ここでトレードするのか?こちらの用意はすでに出来ている]

[これが今回渡す予定のものでげす。納得されたなら方法を教えるでげす]

[っ!これはっ!!」


 私が見せたウィンドウを見て目を見開く。後で作る予定のものだけど。


[方法を教える?アイテムトレードするのではないのか?]

[これはエリアボスのドロップアイテムでげす。そのボスの出現場所と倒す方法を教えるのにRMで1000万GIN。どうでげす?]

[………EM《電子マネー》でなくRMですか?ふむ、まあいいでしょう。分かりました]

[ではグランドクエスト終了後、おって連絡するでげす]

[ああ、楽しみにしていよう]


 ノーブルシルヴァーナのクラウンマスターはそう言ってあっさり取引を終え、チャットを終了して何も注文せずに去っていった。少しは揉めると思っていたのにあっさり話が進んで吃驚してしまう。

 後には、注文を取ろうと待ち構えていた少女がポツンと立っていた。

 いたたまれなくなった私はつい軽食セットを頼んでしまう。

 少女はにっこり笑顔で注文を受ける。


 ログアウトしてVRルームへと戻る。

 私は口元を緩ませて作業を始める。


「細工は流流あとは仕上げを御覧じろっと。ふっふっふ」


 思わず笑い声が漏れてしまう。


 グラクエ前の数日は踏破率を上げるため、ひたすら森の中を暇を見つけてはうろついていた。

 踏破率30%がアクティブラインなので25%を目処に森の中をひた歩く。

 私もVR版は、サービス開始後に少しやっただけだし、Lv20台なのでそれほど高くもない訳で、戦闘はちょっと辛いところがある。

 何とかモンスターを避けたり倒したりして、踏破率を上げていった。

 後はグラクエの後、クラウンの人達と行動してアクティブラインまで上げてエリアボスと戦うだけとなった。



 めっちゃ怒られた。盛り上がったんだからいいじゃないかと思ったが、いい大人なんだから、報連相はしっかりしろとお……ササザキさんにしぼられた。

 他に報告することはないのかと問われ、背中に冷や汗を流しつつ表情を変えずに首を横に振る。………。


 プロロアの森でのことは、グランドクエストの翌日に予定していたのだけど、グラクエで相当な出費を強いられたとかで、3日後に再度行われることになった。

 ウィークリパートタイムは終わったので、家に帰りいつもの作業に戻ったのだけど、私の中にSE魂がロウソクの火のように未だ灯り続けている。あー、私はあの仕事が好きなんだなぁと再認識させられてしまった。

 ま、今はどうしようもない。借金を返し、ある程度お金を貯めて余裕を作った後に考えていけばいい。


 そんな風に思っていた時もありました。彼女が目の前に現れる迄は。


 私のわる巧みは全て白日の下の晒され、私は事務所の中で土下座させられている。

 訴訟を起こされるよりかはなんぼかマシだ。

 そこに戻ってきた父親が私を見て彼女を怒鳴ろうとする。心の中では父親の行動を止めようと思ったが、今日の彼女の怒りは、私が知るそれを1.5倍から2倍(当社比)上まっており、下手に刺激をするとこちらに何倍にも帰ってくる予感しか無かったので、矛先がこちらに向かない様に俯いている。ごめんとーちゃん。

 彼女の逆鱗に触れ、父親も一緒に土下座をすることになる。ああ、やっぱり。

 法的措置とか言われると、やっぱ弱いのだ。すぐにも腰砕けになる。

 父親が私を庇うように事の経緯を喋り始める。いや、私の昔話はしなくていいから黙っててと言おうと顔を上げると、そこに鬼の顔があったのですぐに顔を下げてしまう。こ、こっええぇっ。

 全ての説明を聞いてから私達を立たせて、お………ササザキさんが聞いてくる。


「もしその事業が上手く出来ましたら、彼女をこちらで預からせて貰ってよろしいですか?」

「もし上手ぐ行ぐんであれば、キミゴが良げれば俺達はかまねぇげんじょも………」


 私に発言権はない。肩を落とし頷くだけだ。それを見てササザキさんはにっこり笑う。


 そこに悪魔の笑顔がありました。


 そこから先はあっという間だった。近隣の申請した酪農家を集め組合を作り、国へ弁護士を通じて説明の不備と不足を指摘し補助と許可を手に入れ、専門家と業者を引き連れて中規模のBSL−2の施設を組合名義で作り上げていった。

 その間わずか2ヶ月足らず。やっぱ化け物だこの人。

 うちの家族を始め、皆口をあんぐりと開けている。

 借金は増えたが、これが上手く行けばすぐにでも返済は叶うだろう。



「それじゃ、彼女は引取りますね。では失礼します」


 私は彼女に首根っこを掴まれ連れて行かれる。あー、どなどなが聞こえる。


 会社の開発ルームに連行された私は、目の前に山と書類が積まれた机の前に座らされる。

 戦々恐々をしていると、彼女が笑顔でこう言っていた。


「1か月後に新規プレイヤーを1万人募集します。それに伴ない新しいフィールドを作ることになりました」


 恐る恐る資料を開いて覗き見る。浮空大陸?


「タジマにはその1面全て(●●)組んでもらいます」

「ええっ!そんなの無理ですよっ!!」

「大丈夫!あなたなら出来るわ」

「いやっ!むっ………ふぐっぅ!!」


 再度異議を唱えようとすると、鼻を摘まれギロリと笑い睨まれる。ひぇっ。


「キラくんに辛い思いをさせたんだから、それくらいやって貰わないと、あたしどうするか、わ・か・ら・な・い・わ・よ?」


 ひぃぃぃっ!キラくん?は何かは分からないが、逆鱗に触れたことはしっかり私の魂に刻まれる事となった。しかも両親を人質に取られたと理解する。い〜〜〜や〜〜〜〜ぁっ!!


 こうして私は天国のようなと地獄の日々を送ることとなった。

 クラウンの話は、私のゲームアカウントが抹消されたことで済し崩しとなった。はぁ。


 そして私は、もう2度と変な企みはしないと心に誓ったのであった。



(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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