67.キラくんの行動を観察する その15
姉回です
ブクマありがとうございます(T△T)ゞ
また気持ちわるいって言われそう(*>ω<*)テヘ
ニヤニヤと笑っているカラミティーに怒りの聖剣を叩き込もうと思い動き出すと、突然身体がフリーズしてしまう。
「ガゥンッッ!?」
「あ、あるじ様っ!」
ぐぬぬっ!!うっごけ―――ーんっ!!
必死になって動こうとすると目の前にウィンドウが現れメッセ表示される。
[CAUTION!!:管理者権限により、当該アカウントIDの活動を一時的に停止します。しばらくお待ちください]
おにょれ――――っ!くっ、こんな事が出来るのはレイちゃんしかいない。どうやらレリーとメギエスも動けないらしく、必死に藻掻いてる声が聞こえる。
そしてレイちゃんはモニターでなく、こちらにあの姿で現る。
「んも――――っ、迂闊な行動は控えてくださいな!サキさん!」
そうあたしより上位の権限を持つのは、開発部長とレイちゃんぐらいだ。
くっ、うぬううっ、にゃんで止めるのだぁ!キラくんがやられたのにいぃぃぃぃっ!!
ギリギリギリと歯軋りするあたしを見て肩を竦めるレイちゃん。
「少し落ち着いてくださいなサキさん。たしかにキラさんはMPKにあいましたけど、ペナルティーは受けてないんですから」
ん?デスペナを受けてない!?どゆこと?
思わず首を傾げ不思議に思う。(動けないので心の内でだけ)
そこにカラミティーの怒鳴り声が聞こえる。
「ざけんなっ!!」
「?」
八つ当たり気味に側にある樹へゲシゲシ蹴りをぶち込んでいる。
「キラさん、クリスタルアミュレットを装備してたんですよ。だからデスペナルティーはキャンセルされてます」
ほえ?何でそんなもん………あ、NPCタグ貼りPKの時に倒されたPCが持ってたアイテムか。
あたしがそんな事に思考を巡らせてると、フリーズが解かれ身体を動かす事が出来るようになる。
レイちゃんがあたしが落ち着いたのを見て解除したようだ。
「やってることは悪辣ですけど、システムに外れる訳じゃないんでペナルティーとかもつけられないんですよね」
肩を竦め溜め息を漏らす。はぁ〜ほんと人間臭い仕種をする。
ネットには動画やら何やらで人間の仕種が数え切れない程のパターンを見ることが出来る。形から入るという訳じゃないけど、繰り返していけば板に付くものなのだろう。心も身体も。
「まあ、ある意味人間だからこそダメと言われるとやりたくなるし、気に入らない相手だと突っかかったりするのは、ある意味真理だと私は考えますけどね。何かに依存するとか」
あたしの方を目を細めて見てくるレイちゃん。む、あたしは依存してる訳じゃない。心をおんぶに抱っこしてるだけなのだ。
「この悪意の事はおいおい対策するとして、どうします?良ければ街にお送りしますけど。このまま飛んで行っても時間かかりますし」
確かにメギエスに乗って街に戻るよりは、すぐに着くのであればそれだけキラくんのへんにょり気分を見ることが出来るかも知れない。
「レイちゃん、お願いする――――」
「はい、到着しました〜」
「ね………」
はえーよ!人の話は最後まで聞かなきゃダメだよっ!と思ったが今更か。
あたしは溜め息を吐き辺りを見回す。ステンドグラスが荘厳さと体現し、十字架がそれをさらに彩るように佇んでいる。
「礼拝堂も久し振りね」
「あるじ様、あれステキです」
「そうね、コンペで賞品出して、作製したヤツだから気合いが違ってたものね」
「ほおおっ」
「ガフッ」
あたし達がそんな風に見上げてると、レイちゃんが声を掛けてくる。
「せっかく礼拝堂にいるんですから、懺悔でもします?」
「へ?何であたしが!?」
天地神明に誓って懺悔することなどあたしには全く無い。
鼻息荒く、そう抗議しようと口を開く前に、レイちゃんが痛烈な一撃を与えてくる。
「キラさんの部屋に観察カ「うおっとっ」した事とか」
ななな、何を言ってるのかこのサーバーAIはっ!あたしが口を挟んでもそのまま喋っている。ま、拙い。
「後、キラさんの洗濯カゴか「にひゃああっ」着持っていったのとか」
「まじ、すいませんでした―――ーっ!!」
メギエスの上で、思わず土下座をする。これ以上は無理でござるぅっ。
「レイ様。さすがにこれ以上あるじ様を悪しざまになされるのは看過しえません」
いっやぁ〜っ!れリー、いいのよ。ほんとにこれ以上はキラくんにバレると非常に拙いのです。ふるふる震えながら土下座してると、くすくす笑いレイちゃんが声を掛けてくる。
「冗談ですよ。レリーもそんな顔をしてたら可愛い顔が台無しよ」
そう言ってレイちゃんは消えて行った。なんて恐ろしい。
何気にしっかり釘を刺されてしまったので、あたしはやむを得ずキラくん観察を続けることにする。(奴にはいずれ別の形でっ!!)
さてと気持ちも落ち着き、メギエスに乗り直してると、礼拝堂の左側のドアがガチャりと開く。
ララちゃんを先頭にキラくん達がやってきた。
思ったよりもダメージは少なそうだ。ちょっとだけ安心する
礼拝堂に入ってきたキラくん達は、ステンドグラスを見てホへーっと口を開いて呆然としている。
口々に凄いとかふおぉっとか言ってる。感動してもらえてるなら何よりだ。作った人間としてはこういうのがとても嬉しい。
ララちゃんの案内で教会の外へ出て時計台広場のベンチへ腰掛ける。
どうやらキラくんは少し早めの夕ゴハンを取るみたいだ。一瞬ヤマトの身体がピクリと動くと、切り替わったように動きが変わる。いや、確かに切り替わったのだけど。
ヤマトは無表情から一転して眉間にシワを寄せて手を開いたり握ったりを繰り返してる。
う〜ん、なにか変な感じだ。何がどうとかとは何とも言い難いんだけど、精神が抗い始める布石のような、何とも覚束ない感じが少しばかりもどかしく思う。
そんな中、ララちゃんがヤマトに話し掛けヤマトもその言葉に従い屋台のある所へと歩き出す。
ま、今のあたしには何も出来ない。自分の始めたことでも見てるしか無いのだろう。
あたしは息をひとつ吐き一旦ログアウトすることにする。
「レリー、一旦出るわよ。メギエスも悪いけど、留守番お願いね」
「はい、あるじ様」
「ガウンッ」
メニューを開いてログアウト。意識は一旦VRルームへと戻ってくる。
ライドシフトはせずにVRルームで情報の整理等を行うことにする。キラ君は気分転換も兼ねて弁当でも買うんだろうから1時間も掛からないだろう。
とりあえずリビングに設置してある観察カ………げふんげふん映像を確認しておく。いない事はアルデが伝えてきたので出掛けてるのは分かってるけどね。
まずはカラミティ-のことだ。
どんな奴でどんな事をやって来たのかてってー的に調べ上げてやろう。さすがのレイちゃんもリアルには手出し出来ないだろう。
「あるじ様、紅茶をお持ちしました。どうぞお召し上がりください」
「ありがと、レリー」
相も変わらずあたし好みの味に気持ちが落ち着いて来るのが分かる。
よしっ!こうなったらこの手の迷惑野郎を全部洗い出してやろうじゃないの!!
「ふっふっふっふ、目に物見せてやるわっ!」
「お手伝いします、あるじ様っ!」
レリーが鼻息も荒くそう言って来る。レリーもけっこー腹に据えかねていた様だ。
そもそも、このゲームソフト搭載HMVRDに個人情報は登録されておらず、使用者の脳波パターンと身体データが入力時記録されるのみである。複数人でHMVRDを使用する事は可能だけど、ゲームを遊ぶ時は、はじかれる事になる。
大抵のユーザーは補償の事も考えメーカーに個人情報を登録しているけど、たまにそうしない人間もいる。
このカラミティーも未登録ユーザーだった。
まあ、調べる方法はこの情報化社会の中でならいくらでもあるのだ。ふっふっふ。
こうして黒PC(仮名)の洗い出しをしていると、別に開いていたモニターにキラくんがリビングに入ってくる姿が映し出される。少しの間、作業の手を止めその様子を見やる。
観察カ………ゲフゲフゲフ、もといこのモニターに映ってるのは、TVに付いてるWebカメラをこちらに繋げているものだ。
違法でもなければ不適切でもない。
なので正面からキラくんの姿がバッチリ見ることが出来るのだ。はぁ〜眼福眼福。
キラくんは相変わらずあたしが買ってくるTシャツやパーカーを来てくれてる。どぎついピンクのパーカーとアニメイラストがプリントされたTシャツ。
私の意図を汲んでくれてか、イヤな顔も見せずに来てくれてる。今では全くいなくはなったが、それでも変質者対策はして置くことに越したことはない。
奇抜な衣装と目を前髪で覆っていれば、余程の人間でなければその容姿に惹かれることはない。
あの頃はホント大変だった。Gも斯くやと思うほどにわらわら出てきたのだ。
そんな昔のことを思い出してると、キラくんが手にしてものをガフガフ勢い良く食べだす。え?何、どうしたの!?
いわゆるお食事バーガーと言われるファストフードのものよりやや大振りのハンバーガーを欠食児童の如き勢いでパクついている。
普段のキラくんは、食事を取る時はひと口ひと口噛み締め食べるタイプなのだ。
だが今の様子を見ると、いつもの行動を取るのを忘れる程に――――
すんごく美味しい―――
のだろう。思わずある筈のない唾をゴクリと飲んでしまう。
「あるじ様、あれはどういった料理なのでしょう」
レリーが目をキラキラさせてあたしに聞いてくる。いや、これはギラギラだな。飽くなき探究心が芽生え始めている。
「あれはハンバーガーね。バンズと呼ばれるパンの間に野菜やハンバーグを挟んでソースで味付けしたものよ」
「キラ様、幸せそうです」
レリーの言う通り、顔全体を緩め口元はほへーと広げている。普段のキラくんが見せない珍しい姿だ。
あたしはすかさずその画像を記録していく。ふふふーっ、またキラくんコレクションがひとつ。おふ〜っ。
そして不意にキラくんが、キッチンの方をちらちら見始める。何かを迷ってるように見えるが、一体どうしたのかしらん。
そこへ同じ映像を見ていたらしいララちゃんが、キラくんへ声を掛けてくる。
キラくんは今さっき食べたばかりのハンバーガーについて、事細かく熱く語り出す。もちろんこれもパシャリ。
でも、ララちゃんこんな話をしちゃったら面倒い事になるんじゃなかろうか、と思っていたらやっぱり。
「ララも食べてみたいのですっ!!」
ほ〜ら。
どうやら食べた物その物でなく、モドキのハンバーガーをララちゃんを宥めながらキラくんが作る約束をする。
するとララちゃんが、すぐに行動に移そうとするのをキラ君が少しだけ止めて何やら端末をいじりだす。
その後しばらくリビングを出てから戻ってきてコントローラーを持ち、ヘッドセットを首に掛ける。
あたしもログインし直そうと思った時、レリーがメールが来た事を知らせてくれる。んー、レリーは完全にあたしの秘書になってる。
メールはキラくんかからで、その文面からチまみーバーガー(というらしい)がいかに美味いかをせつせつと書かれたあり、帰ったら食べてねと締め括ってあった。
あれ、そんなに美味いのか………。ごくり。
すぐ様帰りたい衝動を呼び起こさせられるが、今は観察を優先にしなければと気持ちを押し留める。
「さ、ログインするわよ。レリー」
「はい、あるじ様」
あたし達は意気揚々とゲームの中へと入っていく。あたしもキラくんの様子を見て気分が落ち着いたようだ。まぁ、カラミティーのことは後でおいおい考えよう。くくくっ。
どうやらキラくん達は、北にある商店通りに行ったようだ。
メギエスと合流して(もちろんわしゃわしゃする)跨り北へ向かう。すぐにキラくん達を発見する。
「………………」
「あるじ様?」
いやね、確かにゲーム内の区画を企業に提供するって話はあったけど、本とにやっていたとは………。
商店通りと呼ばれる北大通りに、現実を少しだけもじってこのゲームに沿わせた名前の店がけっこ-軒を連ねている。ロゴとかマーク何かはそのままなので、気付く人は気付くだろう。そのまんまの店とかあるし………。
その中のひとつ、うちの近所にもあるスーパー(!)の中へララちゃんが先頭にキラくん達が入っていく。
もちろんあたし達もそれに続き中へと入っていく。
わーいっ、まんまスーパーじゃん!いいんかこれ?世界観壊してね?………まー、始まりの街だし、PCもそれほどの数…………いるけど。うん、こーゆー突っ込みもありっちゃありなのか………な?
この手のものは一旦棚に上げといた方が良さそうだ。何気に疲れそうだし。
「あるじ様、ここ品揃えが豊富ですっ!」
おほっ、レリーがきょろきょろ周りを見て食いついている。
よく見ると並べられてる品々はどれも瑞々しく美味しそうだ。
「後で色々見て回りましょ。レリー」
「よろしいのですか?あるじ様」
「もちろんよ、ここで買ったものでお料理作って頂戴」
「はい!あるじ様っ!!」
にっこり笑顔を見せるレリー。鼻歌が聞こえてきそうな程ご機嫌だ。
キラくん達が買い物を終え店を出て、次にパン屋へよってから冒険者ギルドの作業室へと向かう。
もちろんあたし達は先回りして待ち構えてる。
この作業室の調理場所は窓側になってるので、気付かれないように入口から離れた所から中へと入る。
キラくん達が作業室にやって来て、窓際のシンクの前に立つとメニューを出して【調理】を始める。
相変わらずの不思議空間である。PCが誰もいなくて、あたしはある意味ホッとする。
さすがのあたしも、生産までやりだすとは思いもよらなかったので、こっちに迄手が回らなかったのだ。
キラくんはボールに挽き肉を入れて捏ねていく。その途中からララちゃんも参加して時間内に肉を捏ね上げる。
こうして肉を纏めて丸くしてから焼いていき、それにチーズを絡めてクレープ生地みたいなので包んで、半分に切ったパンの間に野菜とそれを挟み込んで完成させていく。
「あるじ様。これ、ララ様のサポート無しでは失敗してるのではないでしょうか?」
そう、やはりシステム×システムで動かすのは少し無理があったみたいだ。
ララちゃんが不具合が起きそうなところに上手いこと修正を充てながら進めている。大したものだ。
こうして5つのハンバーガーが完成する。
大振りのパンにクレープに包まれたハンバーグを野菜が彩る。
遠目から見てても美味そうだ。ごきゅ。
「ごくり」
「ジュル」
レリーとメギエスも、それを見て思わず喉を鳴らす。だが、あたし達は見てるだけで何も出来ない。く〜〜〜っ!
出来上がったハンバーガーをララちゃんとウリスちゃんが器用に食べ始める。
ああっ、ララちゃんがチーズ塗れにっ!!とりあえずパシャリ。
キラくんがどうやらオートアクションプレイを起動したらしく、ヤマトが滑らかな動きでハンバーガーをひと口ひと口噛み締めている。
どうやら今回はここでログアウトするみたいだ。食べ終えたヤマトがメニューを出して光と共に消えて行った。
後ろ髪を引かれつつ、あたし達もログアウトしようとメニューを開こうとした時、消える寸前ララちゃんがどうぞとジェスチャーしテーブルにあるものを手で指し示してくる。おおっ!
そこには2つのハンバーガーがお皿に乗せてあった。
ララちゃんありがと―。ララちゃんが消えた方へとお礼を言う。
あたし達はさっそくハンバーガーの前に降り立ちしばらく眺めた後、その感触と弾力を触って確かめる。ふかふかー。
あたし達の身体はララちゃん並みに小さいので、さすがにモノがでかい。
「メギエスはそっちを食べて、あたしとレリーでこっちを食べるから」
「ガウッ」
あたしは聖剣を抜き、シュパっとハンバーガーを両断する。
半分に切り分けられた断面からチーズがタラリと垂れていく。
ごくり。
そしてあたしとレリーでハンバーガーを半分こして、メギエスが1個を美味しく頂いたのだった。
たしかに美味い事は美味かったのだけど、ソースが無いのが少しだけ物足りなかったかな。無理言ってるけど。レリーは美味そうに顔中チーズ塗れにして食べていた。パシャリ。
家に帰って、さっそくキラくん絶賛のチまみーバーガーを頂くことにする。
「っっっぅっっっっ!!!」
1個はそのまま、もう1個はレンジで温めて食べてみる。
うまっ!、うまっ!、うま――――――っ!!はぐっ、はぐっ、はぐぅ。もぐもぐもぐ
ソースがパンと肉に絡みチーズが相乗効果で旨さをアップさせる。あふぅっ。
さすが本職は違ってたよ。あ、もうなくなっちゃった。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




