66.キラくんの行動を観察する その14
姉回です
ちょい長めです
Pt&ブクマありがとうございます∑(◎△◎;)ゞ
朝キラくんのとこへ行って、今日からゲームやってねとお願いして朝食(超厚切り食パンにマーガリンたっぷり、スクランブルエッグ&厚切りベーコンのせ3枚)をガッツリ頂いてから、バンゲさんの所へ来て午前の相場をひと巡りしてHMVRDをかぶりVRルームへ。
最近は国関連の企業が軒並み下降気味で、何やら怪しい雰囲気がする。
ビギナーとか殻取り掛けの中堅のデイトレあたりは値上がりを見込んで買いに走りそうだが、あたしは静観の構えだ。何となくきな臭い感じがするからだ。
あたしの勘なので具体性はまるで無いけど、今回は見過ごす事にする。
そんな感じで午前をまったり過ごして、VRルームでひと息入れてキラくんのログインを待っている。
レリーが淹れてくれた紅茶をひと口、ん~美味し。
キラくんが作った料理を食べて以来、レリーが興味を持ったのだ。
うちの家訓に気になったらやってみるってのがある。ま、こじ付けみたいなものだけど、もちろんレリーのやりたい事に否という文字はあたしには無い。それが人でもAIでもだ。
その結果、このHMVRDに味覚野エンジンや食材ソフトや調理ソフトを読み込んで調理が出来る様になったのだ。
この子ほんとにAI?という程、人間のシェフかくやという腕前を見せてくれる。それでもあのお肉を!と追求の手を緩めることなく邁進している。
この1週間の修羅場は半分はレリーのおかげで乗り切ったと言っても過言ではない。(もちろん半分はキラくん成分だ)
それは開発スタッフの人間も同様で、危うくリアルでの食事を忘れそうになった程だ。
もちろんそこら辺は、レイちゃんや秘書ちゃんが管理してたので何の問題も無かった。
ただスタッフのごはんコールがうざかったのは、ちょっとイラっとしたけどね。
そんなこんなで何とか件のグランドクエストは終わることが出来たけど、タジマのアホが変なちょっかいをかけなきゃ、もう少しユーザーを楽しませられたとは思う。(あれはあれで面白かったけど………くっ)
しばらくするとアルデからキラくんがゲームを始めたと連絡が来る。
あたしもソフトを取り出しさっそくログインする。
場所はマルオー村の噴水広場にある木の木陰の中。
「ガウッ」
メギエスがログインしてきたあたし達に嬉しそうに近寄ってくる。ご苦労さん。
あたしは頭をぐりぐり掻き回しもふもふを堪能する。
「こんにちはでございます。メギエスさん」
「ガウッ」
レリーが丁寧にペコリとメギエスに挨拶をする。メギエスもそれに応えるようにひと鳴きする。
ララちゃんのプログラム因子を組み込んでから何とも人間?臭い仕草をするようになってきている。
あたしがほっこりしつつキラくん達を見てみると、3人でキャッキャウフフをしている。くっ、あたしも混ざりたしっ。
あたしがふるふるしていると、それを見ていたレリーとメギエスが逆にほっこりしている。くっ、がっくり肩を落としていると、キラくんが冒険者ギルドの中へと入っていく。
あたし達もあとを追って中へと入ると(もちろん不可視をしてだ)、何故かPCが数人中でたむろっている。
ほぇ〜。もしかしてグランドクエスト絡みだろうか。
んまぁ、確かに今迄通り過ぎいてた村に美人姉妹がいたとなれば気になって居着く人間もいるかな?
これもある意味キラくん効果というものだ。ふふん。
キラくんは受付にいるスーさん?に挨拶をしている。何気に義理堅いというか何と言うか。キラくんらしいっちゃらしいんだけどね。
そしてギルドの外へ出ると、他の4人の姉妹が並んで立っていた。いつの間に!もしかしてエスパー?とも思ったが、どうやらお店からキラくんが来てたのを見ててみんなで出てくるのを待ってたみたいだ。あービックリした。
4人がそれぞれキラくん達に声を掛けて、キラくんもそれに応えていく。
キラくんたちがプロロアの街へ東街道を進み、村の入り口を出たところで姉妹の1人が声を上げて謝っている。
それを見てあたしは胸の内が温かく感じる。ゲームとはいえ、これもひとつの人生なのだ。人と人とが触れ合い心を通わせて道を歩んでいく。
最初はララちゃんとイタズラのつもりで始めたものだけど、やってみて良かったかなと思う。
こうして東街道を西へモンスターを倒しながらキラくん達は進んでいく。
やがて円門のオブジェをくぐりさらに先へと進む。
その途中でモンスターを倒した後、立ち止まりメニューを開く姿が見える。レベルアップしたのでステータスを見てるみたいだ。
………やっべ、ララちゃんのステを見られると、ちょいやばい事になるんだけど………。
グランドクエストにララちゃんが参加する際に、アテンダントスピリットのままでは出来なかったからだ。そもそもアテスピはマスターに付随するものなので、マスターが必要不可欠なのである。
キラくん―――ヤマトが参加できない以上、今のままでは無理なのでモンスターのIDを使い従魔として登録し直したのだ。
もちろんアテンタンドスピリットとしての力は失われ、ある程度のスキルとHPMPは調整されることになった。
それでもいい?とララちゃんに確認すると、ララちゃんは笑顔を見せて「それがきっとララにとって良策なのです」と答えた。
何を見据えての発言かは分からなかったけど、こうしてララちゃんもグランドクエストに参加したのだった。内容は散々だったけど。
キラくんは別の事に気が言ったようでララちゃんの事はスルーされたみたいだ。少しだけほっとする。
どうやら装備を変更したみたいで、姿を変えたキラくん達はさらに街道を西へ進みプロロアの街へと入っていく。
街門をくぐりしばらく進むと人集りが見えてくる。何かしらんと上空から見てみると2人のPCがPvPをやっていた。
よく見るとどっちもゲームの中では有名なプレイヤーだ。
かたやドワーフの少女は徒手空拳を主にした格闘型プレイヤーのアサヒちゃん。かたやトップクラウンのひとつガーディアンナイツのサブマスター。(名前ど忘れした)
ってか何でこの人等が始まりの街なんぞにいるのか、そっちの方が気になる。
勝負はあっさりと着き、アサヒちゃんが勝利を収める。
何気にプレイヤースキルが高いのが分かる。現実でもなんか格闘技でもやってるんだろうか。
そんな人集りを通り過ぎて、時計台広場へ到着する。どうやら色んな準備をするために、冒険者ギルドで作業をするみたいなので、作業場へと先回りする。
ララちゃんが中に入ると嬉しそうにビュフ〜ンと部屋の中を飛び回る。ウリスちゃんはテーブルへよじ登って大の字になって眠りだす。
……何というか、いくらララちゃんのプログラム因子が組み込まれてても、ここまで自由奔放に振る舞えるものだろうか。
あるいはレイちゃんの影響か?
2人をそのままにキラくんがテーブルに陣取り作業を始める。
調薬の器材を出しているので、こうやらポーション作りをするみたいだ。
「あるじ様、キラ様のプレイが何か違ってるような気がするのですが何故でしょう」
レリ―が不思議に思い首を傾げながら聞いてくる。
これもコミュニケーション能力の学習の成果なのだろう。
誰かに何かを聞く、尋ねるというのは、ひとつの方法だからだ。自分が知り得ぬことを誰かに聞くという“人間らしさ”に口元を緩ませてレリーの疑問に答える。
「レリーも知ってると思うけど、このゲームって元々はモニターヴューで運営してたの。それでVRにした時点でそれは終了したんだけど、システム自体は移行しやすいように同じ様なものにしたわけ。で、キラくんにゲームをやって貰う為に、うちのTVにそのシステムをインストしてVRへコンバートしてプレイしてるって訳なの」
レリーが振り向きながらふんふんと頷いている。
「だから戦闘もそうなんだけど、生産なんかは特にモニターヴューに準拠してるってこと。だからライドシフトしてるあたし達なんかは見てると変な感じを受けるって訳」
我ながらシステムにシステムぶっ込むなんてアホな事良くやったと思う。ま、キラくんの為だからね。
「成る程。それであんなロボットの様な行動になるのですね」
「ふふっ。そうゆうこと、頑張ったんだからあたし!」
ドヤっと胸を反らせるあたしにレリーがパチパチと拍手する。
「さすがです!あるじ様」
うおっ、しまった。これは逆に恥ずいぃ。
そんな事を話してる間にキラくんはポーションを作り続け、何やらスキルの設定をララちゃんに聞いたりしてから作業場を出て、1階の掲示板で依頼票を確認した後、冒険者ギルドを出て道具屋でアイテムを買って西へと歩いて行く。
西門をくぐり拔けさらに街道を西へと進んでいく。
マルオー村に行ったから今度は反対の村に行くのかしらんと思ってたら、プロロアの森に入りしばらくすると街道を外れ北へと森の中へと進んでいった。
おー今度はプロロアの森で戦う訳か。この前のリベンジってとこかな。キラくん達が楽しく会話しながら森の中を進んでいるとモンスターの反応があり、ララちゃんが警告してくる。
ああ、スズメが3羽Vの字の編隊を組んでやってくる。羽ばたきもせずにキラくん達に向けて滑空してくる。相変わらず性質が悪そうだ。
キラくんがその進行方向にアイテムを上へと放り投げると、ポンとそれが割れて網のような物が広がっていく。
そこへ突っ込んできたビッグスパローが網に絡め取られ地面へバタバタ落ちていく。
ありゃま〜、ある程度アルゴのパターンは限られてるとはいえあっさり捕まったものだ。
そこへキラくんとララちゃんが遠距離攻撃をし、ウリスちゃんが体当たりをしその後はみんなで袋叩きだ。
ってかあんなアイテムあっただろうか?一応アイテム類は概ねは把握してたつもりだったんだけど……。
「あれは投網玉というものですね。サービス開始後にユーザーからの要望で作られたようですけど、あまり役に立たなく値段も高く設定されてたのでそれ程需要はなかったみたいです」
あたしが調べるより早くレリーが情報を教えてくれる。まじ有能。
こうしてキラくん達が投網玉を使い森の中を縦断してると、レリーが何かに気づいて注意を促してくる。
「あるじ様、少し先の方にPCの反応があります」
ん?キラくんみたいにリベンジ目的で森の中をうろつくのは分からないでもないけど、踏破率を上げても森では何も起こらないと思ったけど………。
「ハミゾ探しかしら……」
キタシオバラちゃん(あれはどう見ても女子だ)の様に、誰かが勝手に森に作ってる可能性は………ないか。
ラビタンズネストが見つかった時、一応この周辺は走査して何の痕跡もないのは確認しておいたのだ。
もちろん│例のやつ《ラビタンズネスト》を除いて何の反応もなかったので、ひと安心(残念?)したのもだ。
それはさておき、件のPCだ。もしかして例のファンクラブの関係でパーティーであればクエストでもやってるのかもしれない。
あたしが言葉を紡ぐよりも先にレリーが説明してくる。
「PCは1人で………まるでキラ様達を待ち構えるように隠れてるようですね」
本当だ。なんかタイミングを測ってる様子だ。キラくんたちの移動に合わせて先回りするように。何がしたいんだ?こいつ。
PKを考えてるとも思われない。そもそもPK自体できないシステムになってる。
VR倫理委員会とやらがVRゲーム全般に、この殺人という行為にものすごく厳しく目を光らせているからだ。
だから戦争物やFPS関係はモニターヴューでも審査がきつくなっている。VRなら尚更だ。
だからジャンルで言えば、SLGとかACTとかでも見てるだけとかダメ表示無しとかのあっさり風味になってしまう。
メーカーとユーザーがどうしても!とつついた結果R30なんてレーティングが出て来てる。あたしも出来ないよ、それ。
まぁ、仕方ないっちゃ仕方ないのだ。
技術の進歩によって様々なテクノロジーが形作られてきたのだが人の精神はその進歩に追いつけなかった。その結果この国で大規模大量殺人が行われてしまったのだ。
その戦争を舞台としたVRゲーム―――現在のブレインライドシフトではなく、網膜投射型の(HMDを被り現実で身体を動かして遊ぶ)をやっていた20代の人間達がゲームとリアルを混在させてしまった結果―――改造銃器(3Dプリンターで作られたAK−47やナイフ)を繁華街で撃ちまくり100人以上の死者とその倍程の負傷者を生み出したのだ。
いわゆる戦場のドーベルマン事件と名付けられたコレのお陰で、殺人に対するゲームの規制が論じられることになり、今に至るのである。
でも、やる奴はやるんだよねぇ、MPKとか………。
そんな時、ワイルラビットがそのPCの前に現れ、ダメを受けて態とらしくキラくん達の前に飛び出している。そしてバタリと倒れこむ。
………何じゃその大根はっっ!!
ララちゃんとウリスちゃんがワイルラビットを追いかけ、キラくんがポーションで倒れてるPCを回復させる
もー思わずなんだかな―である。
キラくんが声を掛けると辺りをキョロキョロ見回してから、キラくんを見て礼を言っている。
何なの?この三文芝居わ………。
そのPCはキラくんの問いに適当に答え、いきなりお礼をするのでパーティーを組まないかとのたまってくる。
なんて怪しさ満載。どう見ても胡散臭さがプンプン漂っている。
ダメだよ―キラくん。受けちゃダメだよ―。
声を出したいけど、不可視化で隠れてるので何も出来ない。
しばらく無言の後、キラくんは何故か了承してパーティーを組む事になった。え?何でぇ!?
そうしてパーティーで森の中を進んでいく。ってか、これパーティープレイじゃないよね。
パーティーってひとつの共同体として動くものなのに、2人共パラパラにモンスターと戦っている。
キラくんは仕方ないとしても、このカラミ某は色々知ってる筈なのに、何のサポートもしていない。あまつさえキラくんを見ながらなにか隙を伺う様を見せている。
怪しさ爆発しまくりだ。
「あるじ様、幾つかのスレッドにこのPCらしき話があるのですが………」
レリーがいつの間にかこのPCについて調べ関連する情報をあたしに見せてくれる。
……まじMPKか。コイツのステと行動ログを表示させると、Lv110ちょい。うむ、思いっきりクロだねコイツ。
「狙いはロスドロ辺りかしらね………。他はちょい分からないか」
「あるじ様、ロスドロとはロストドロップのことでしょうか?」
「うん、そう。プレイヤーはHPが無くなると戦闘不能で死に戻るんだけど、その時幾つかのアイテムやお金を失うわけ。これがロストドロップね。でも、パーティーを組んでると組んでる相手が生きてれば、そのロスドロは一時的にそのPCに移動することになるの」
「それはペナルティーのセーフティーということでしょうか?」
「それもあるけど、もうひとつはデスペナ回避にパーティーを組んだ方が得だと思考を誘導してるってのもあるかな」
ゲームでの死というものは、離しても離れないものだ。GAME−OVERともLOSEと言い換えてもいい。死があるからこそ回避することまたは立ち向かう、先に進むことに繋がる。
ん?何か観念的な話になって来たような……。肉体と精神がモニターとコントローラーで乖離していればこそ、非現実と認識することが出来る。
VRゲームだとその肉体と精神の垣根が取り払われ、精神が死を経験する度に死に慣れる恐れがあると考えられている。
その為に死に慣れることが無いように、ペナルティーをやや重めに設定されている。
ここら辺は国と業界のガイドラインなので、本当かどうかはあたしにも分かってない。
ようは死んで時間とアイテムと金を失うのが嫌なら死ぬなという事だ。
現実で無茶やって、こっちのせいにされるのも業腹だから。
レリーにそんな説明をしながら、キラくんを観察している。この調子なら次の街へ行っても問題無いだろう。
そして森の端まで来た時、それは現れた。ただあたしがど忘れしたのかも知らないけど、この森に配置するヤツじゃ無かったと思う。
ま、アリですなアリ。ビッグアンタって開発部長が、トとタを打ち間違ってそのまま許可しちゃったと言う裏バナがあるんだけど、こいつって砂漠と迷宮に出て来る様に設定されてたと思う。
「あるじ様、何やら最近介入された痕跡がございます。グランドクエスト前の頃に設定されたようです」
あたしの身体を背にしちょこんと座ってるレリーが、虚空を見ながらあたしにそう告げる。
あの地獄の1週間にそんな余裕があっただろうか?まぁ、こんな森の端っこでは誰も来やしないだろうから、影響も無いから問題ないっちゃ無いんだけど………う~ん。
あたしがそう首を捻っていると、カラミティー《だいこん》が突然走り出し樹の陰に隠れるやいなや【隠蔽】を発動させて叫び声を上げる。
「……………」
「あるじ様、見るに耐えません」
レリーがあたしの気持ちを代弁してくれる。カラミティー《こいつ》は一体何がしたいのだ。
そして、はっと想いだす。そうかMPK!いや、どうやって?今ここにはモンスターの反応は全然ない。
その疑問はすぐに解消されることになった。
キラくん達を中心に半径20m程からモンスターの反応が湧き上がる。
「リポップ!?」
「あるじ様。どうやら“マタカリのホイスル”というものが使用されたようです」
│カラミティー《やつ》の行動ログを見たレリーがそう伝えてくる。
そういや、そんなアイテムあったかな。確かガチャアイテムでプレイヤーからの要望でだいぶ前に2度ほど入れた覚えがある。
よほど運が良くないと手に入らない逸品だったと思う。なぜなら下手するとゲームバランスを崩しかねないからだ。(だって吹く度、モンスターが再湧きするのだ。パワーレベリングも真っ青だ)
どうやら【隠蔽】の上位スキルを使ったらしく、やって来たアリは│カラミティー《やつ》を通りキラくん達へと向かっていく。
キラく達も少しずつダメを与えながら森から退避しようとするが、数の暴力に負けて、アリ玉に集られてHPが0になり光とともに散り消えて行った。
「ひっ、ひひひっ」
何とも下卑た笑い声が一瞬聞こえてくる。
あたしは腰に佩いてる剣の柄を握る。
「殺るわよ!」
「はい!殺りましょう、あるじ様!!」
「ガフゥ!ガウガウッ!!」
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




