65.ヤマトのたたかい
その瞬間何が起こったのか僕には分からなかった。いや、ヤマトが勝手に動き始めたのは分かったのだけど、“何故”そんな事になったのか理解に及ばなかったのだ。
そして中央に小さなウィンドウが[DISCONNCT CONTOROLLER]の文字が浮かんでいる。
その向こうではクィーンDXとの戦いが続いている。
「はれぇ?」
僕はただそれらを見ているしかなかった訳である。
「ララ―――ァ、ウ〜リス〜ケェ〜………」
はい、もちろん返答はありません。
どうやら音声も切断されてしまったみたいだ。あらら。
僕はコントローラーとヘッドセットをテーブルに置いて画面を見ていた。
精神が状況に追いつけないままの僕にはそれしか出来なかったのだ。
後方からわらわらとヤマトに接近してくるビッグアンタに斧を横に薙ぎ1回転する。
白く発光するエフェクトが輪を描いてビッグアンタを一掃する。
←横斬り→横斬り→横斬り横斬り横斬り 【アクスサクルド】
何か画面の下部分に文字1行分の枠で何かが表示される。
あ、また。ふむ、どうやらコマンドと行動ログっぽい。
今まで気付かなかったんだけど、それとも今表示されたのか。
不思議現象が続いていて認識がおっつかない。
いや、飲み込めてないと言ったほうがいいか。
ただ、僕はこの戦いを見ないといけない。そんな気がする。始めから関わった人間の義務のような、違うこれは僕の意志だ。僕は画面を食い入るように見続ける。
でも真ン中のウィンドウが邪魔で見え難い。
*
その叫び声は心の底から響き唸るようで切なく聞こえた。
私はその声の方向へと走り駆け出す。
しかし、数多の砲撃により出現したビッグアンタを前に道を阻まれる。
くっ!落ち着け。こんな事なら森に入る前にでもパーティー登録をすればよかったと思わず後悔が頭をよぎる。
いやいや、あの飄々とした彼はこんな事ではへこたれないだろう。
見た目無表情でどう見えも初心者のような格好をした彼、可憐なアテスピとらぶりーな従魔を連れた不思議なPC。
丁寧な物言いに好感が持てたし、アテスピ達も礼儀正しいのを見るとそれだけで互いの中の良さが垣間見れた。
焦らず目の前のことに集中する。
これはいつも先生に言われてることだ。先ばかりを見据えるのでは目の前の事を疎かにしてしまう。
一歩一日突き進め。
それが先生の教えだ。私もそれを実践してるつもりで一歩一歩、ひと突きひと突き、ひと蹴りひと蹴りを確実に着実に歩き進む。
それがこのゲームでも活きていることが実感できている。
【アトラティース・ワンダラー】
たまたま手に入れたこのゲームは、私と相性がぴったりだった。
コツコツとモンスターと戦い、フィールドを駆け抜けスキルとレベルを上げていく。
技と業を磨くことに心血を注ぐことに夢中になり過ぎてある時、はたと気づいてしまったのだ。自分はどこへ向かえばいいのかと。
そう、エアポケットにすっぽりと入り込んでしまい、にっちもさっちも行かなくなったような。
RPGにありがちなダレるとか、ルーティーンとかと違い本当に進む道を見失っていた。
その時グランドクエスト中にこんな話を聞いたのだ。
小妖精のアテスピを見たと――――
その駄PCはポーションを買いにプロロアの街へ行った時、その小妖精を連れたPCを追い掛け回し付け回したという。
あまつさえその小妖精を貰おうと目論んで失敗したとか笑って言っていた。
少ないながらもアテスピを持ってるPCはいる。私もどうすれば手に入るのかと知り合いのPCに聞いてみたけど、最初が肝心とか、日頃の行いとか言われてムッとした記憶がある。
それらのアテスピも獣型や鳥型がほとんどで、小妖精というのはかなりレアなものみたいだと聞く。
だから他人から奪おうなんて事を考える。
思わず殴ったろかと思ったが、クエスト中に出現した巨大なゴーレムに踏まれグリグリにじられ消えて行った。
正直ざまぁと思ったことは秘密だ。
そういう私もあっさり吹き飛ばされて終わったけど、一緒に巻き込まれたPCと思わず一斉に笑ってしまった。
なんじゃこりゃと。
でもその時、少しだけぼやけていた気持ちが小指ちょっと分スッキリした感じがした。
グランドクエストの中で私はただ戦うだけでなく、PCやNPCと会話をするのも楽しく感じたのだ。
それも一歩一歩突き進むだ。
そんな事もあって気まぐれというか何というか、手始めに話に出た小妖精に会おうと思ってプロロアに来たのだ。
まさかこんな形で一緒に戦うとは思っても見なかった。周囲にいたビッグアンタを片付けて、声のした方へと走って行くと、斧を横一閃にして一瞬でビッグアンタ達を屠ったヤマトの姿があった。
そして私を見てイタズラ小僧のようにニカっと笑う。まるで違うその表情にに思わず私はドキリとする。
「俺達が陽動であいつの肢を攻撃するから、アサヒはまた触角を攻撃してくれないか?」
さっき迄の様子とと態度がからりと変化し、私を名前だけで呼んできた。話し方とその声に瞬の間違和感を覚えるが、すぐにストンと胸の中へ腑に落ちるかのように納得してしまう。不思議なPCだ。
「分かったでしゅ!行くでしゅ!」
心に今まで燻ぶっていた熾火がぼぼっと灯る気がした。
この喋り方も一種のロールプレイでアサヒと麻姫を区分するためのセーフティーの様なもの。
彼等が右へと動き、私は左側からクィーンへと走りだす。
私はこの無謀な戦いに何故か負ける気がしないと思う程に力が漲っていた。
*
次々とビッグアンタを倒していくヤマトを見て感心している。
←←←横斬り→→→横斬り 【アクスブメラン】
下にコマンドが表れると、グルグル回転したヤマトが斧を投げ放つと、ギュルルルルッと独楽のように回転しながらビッグアンタの群れを切断し、クィーンDXの左後肢を傷付け戻ってくる。
何これ、かっこい―――っ!!くっ、こんな技があったと分かっていたら使っていたものを………少しだけ悔やまれる。
昔も今のゲームも基本そこら辺は変わらないのだから気を付けてれば良かったのだ。ステータスとかスキルなんかの確認は。
まさに後悔先に立たず。
斧の飛び攻撃の後ララの土魔法でバランスを崩し、ウリスケが空中を蹴り回りながらビッグアンタへ手当り次第体当りしまくり屠っていく。
一方左側に移動したアサヒさんは、ヤマトに後肢を傷付けられてそちらに注意を逸らしたクィーンDXへ駆け寄り、先程触覚を折った時のように身体を踏み台に頭まで走り上り光を纏った拳で触角を狙う。
しかしそれに気づいたクィーンDXは器用に上半身を反らしてアサヒさんの拳を躱す。そして口から液体の塊を作りだしアサヒさんは向けてピシュッと吐き出す。
それを何もない空中を蹴り込む動きをすると、蹴った反対方向に移動してそれを躱す。
おーっ、ウリスケと同じだ。やるな。
くるりと回転して着地するとそこからさらにバック転して後方へ退避する。
そこへ液体が周囲へと撒き散らされる。そしてジュグワワワァーっという音と灰色の煙がモアリと巻き上がる。
おわっ、あれは俗にいう溶解液ってやつだろうか。
さっすがレイドボスってのはこの上なくハンパないって感じだ。
クィーンDXがアサヒさんに注意を向けている間に、ヤマト達はさらに左後肢を攻撃している。
↑↑↑縦斬り↓↓↓縦斬り 【アクスライジン】
しゃがみ込みから飛び上がり、そのまま斧を上へと振り上げる。水色のエフェクトを纏った斧がクィーンDXの太腿に直撃し貫き破壊する。
『ギャシャギャシャシャアアァアァアアンンッッ!!!』
クィーンDXがバランスを崩し左へ倒れこむ。HPが1割になり、クィーンDXの甲殻にまた変化が起こる。
『第3形態になるのです。一旦下がってなのです!!』
ララがそう警告を出して皆が後退していく。まだ変わるんかいこいつ。
『ギィィイイイシャアァァアンッシャアアアァァァンンッッッ!!!!』
ビリビリと画面の向こう側から響くような叫声を発しクィーンDXの中肢が太く、そしてギュウンと長く伸びて変化していく。もう肢というより腕と言ったほうがいい感じだ。
その間にヤマト達はアイテムでHPとMPを回復させて、また戦闘へと挑んでいく。
見てるだけ〜。
体長ほどに長く伸び胴体と同じ太さの中肢――――肢腕が左に倒れた身体を戻し、右肢腕でヤマト達を叩き潰そうと振りかぶり振り薙ぎる。
ブッフォオオオォォォッと音が轟き鋭く歪曲したカギ爪が地面を抉りながらヤマト達へと迫ってくる。
見てるだけ―。
しかし、ヤマト達はそれをたやすくヒョヒョイと後へ飛び躱していく。いやっ、これ僕だったら絶対無理だな。無理ゲーだ。
ふおおおぉぉっ、ヤマトが肢腕を躱しながらその腕に縦斬り2連をしている。やるな。
アサヒさんは振り薙いだ肢腕を踏み台にしてそのまま駆け上り頭へと接近し触角へ向けて攻撃をする。飛び込みざまに前回し蹴り。
しかし、それを見透かした様にスェーで躱し、鋭いギザギザの大顎がアサヒさんへと襲いかかる。
だがアサヒさんの方が1枚上手だった。大顎を右手でトンと叩き飛び上がり身体を捻りながら反転し、宙返りざまに触角ごと頭へ踵落としを浴びせる。
ズフンンッッ!!と音が響いてクィーンDXがグラリと揺れる。
え〜と、何かゲームが違ってる様な気がするんだけど………。
これどこの格ゲー?RPGだよね!?
そして今度はヤマト達が右後肢へ回り込みチクチク、いやドカンドカンと攻撃している。
↑縦斬り↑縦斬り↑縦斬り、↑縦斬り縦斬り縦斬り←→横斬り 【アクスサセクド】
無数の斧が連続してクィーンDXの肢を斬り裂いていく。まるで百〇脚のようだ。
好きなんだよなー龍〇の拳。8ビットマシンなのにメモリーを外部からぶっこんで移植してしまう開発スタッフには頭が下がる思いだ。ちなみに僕はロ〇ート派だ。でも指が痛くなるのがちょっと辛かったけど。
ギュワワワァァァアァァン、ゴリゴリリリッッ!
ウリスケがクィーンDXの右後肢付け根へ角を伸ばし緋炎の炎を纏ってギュイイインと回転して貫く勢いで攻撃している。ドリドリだ。
パキャアアアアンンッ!!!
『ギシャヤ―――――――――ンッッ!!!!!』
右後肢が砕け散り下腹部が地面にドシンと着いてクィーンDXの身動きが取れなくなった。
『グランディグ!』『グランディグ!』『グランディグ!』『グランディグ!』『グランディグ!』『グランディグ!』
ララの透き通った声が、土魔法を連続で詠唱して下腹部の下の地面に穴が掘られていく。そこへクィーンDXの下腹部がスポッと嵌り込みビッグアンタの射出口も塞がれてしまう。
『ヤマトさまっ!今なのですっ!!』
ヤマトがクィーンDXの下腹部へ飛び乗り、コンビネーションアーツを発動させる。
縦斬り横斬り横斬り縦斬り横斬り横斬り縦斬り横斬り横斬り横斬り、縦斬り 【アクストルネド】
『アクストルネド!!』
ヤマトの声が周囲に響く。
同時にクィーンDXの正面でアサヒさんのコンビネーションアーツも炸裂していた。
『虹戟連珠っ!!』
7色に分身したアサヒさんが次々とクィーンDXの胸部へと殴り、蹴り、突きを連続で繰り出し繰り返す。
そして最後に7色がひとつになり、両手で掌底をドンと胴体に押し込むと虹のエフェクトと一緒に竜巻が巻き起こり消えていく。
2つのコンビネーションアーツを喰らったビッグアンタクィーンDXは嘆きを含んだ悲鳴を上げて消えて行った。
ウィンドウが現れて[ビッグアンタクィーンDX を たおしました]のメッセージからレベルやスキルが上がったとズラズラ表示されていく。
でも僕は見〜て〜る〜だ〜け〜だったので、ただその画面を漫然と見ていただけだった。もうお腹いっぱいです。
しばらく見てると、ヤマト達が移動を開始する。街へ戻るみたいだ。ララとウリスケがキョロキョロ辺りを見回してるけど、こちらではどうしようもないのでリモコンでTVを消す。
何も映さなくなった画面を見て溜め息をひとつ吐く。あ、そうだ。とりあえず姉には連絡しなきゃだ。
僕は端末を取り出しメールを送る。時間も時間だし今日は一旦アパートへ帰ることにする。
はぁ〜、とまた溜め息を吐きキッチンを片付けて姉宅を出る。
自転車に跨がりペダルを漕ぎ出す。キコキコ聞こえてくる音が少しだけ寂しく感じた。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
Pt&たくさんのブクマありがとうございます(T△T)ゞ
Σ(◎△◎)突然増えたのでまじビビってます
でもありがとうございます!




