６４．軛からの開放
僕達はすぐに戦闘の準備を始める。この前は各個が別々に戦っていたのだけど、それでは効率が良くなかったので、みんなで同じ相手を攻撃することにしたのだ。
それにこれはボス戦になるので逃げられない以上、確実に１体１体を倒していかないといけない。
ビッグアンタ１をロックオンしスラッシュの準備をしてララ達に声をかけようとした瞬間、右から小さな影が飛び出してきた。
『助太刀するでしゅ！』
「アサヒさんっ！？」
そう言ってアサヒさんが繰り出した拳は先頭にいたビッグアンタに直撃し、衝撃波が周りのビッグアンタを吹き飛ばしていく。
『アサヒ様、すごいのですっ！』
『グッグ！』
『マスター！ララ達もやるのですっ！！』
やるが殺るに聞こえてくるのは気のせいだろうか。
「う、うん。手近にいる奴を狙うよ！」
『グッグッ！』
『はいなのですっ！』
こうしてグダグタ感満載な感じでビッグアンタクィーンＤＸとの戦闘が始まった。
どうやら本来ボス戦で湧く予定のビッグアンタとカラミティーさんが仕掛けた何かが合わさってモンスターの数がやたらと多かった。
それでもアサヒさんの助太刀のお陰もあって何とか捌けていたのだけど。
『マスター！次の５体が出てくるのです！！』
「了解！アサヒさんいったんさがるよっ！」
『アサヒなのでしゅ！』
ララの警告にアサヒさんに指示をするけど、逆に注意されてしまう。
でもさん付けって僕の癖だからなぁ～。
クィーンＤＸは攻撃らしい攻撃はしてこなかったが、脹れた下腹部からビッグアンタを砲撃よろしくこちらに飛ばしてくるのだ。
目の前に落とされてきたビッグアンタは蹲った状態から手足を伸ばして立ち上がってくる。
正面のビッグアンタに回りこみ攻撃しようとするとアサヒさんと接触してしまう。
「あっ、ごめん」
『こっちこそしゅみません』
そんな事がさっきから何度か起こっている。
ようは連携が取れてないのだ。
あとはヤマトとアサヒさんの動きが全く違っていることだ。
僕はダッシュや回り込みを駆使しながら戦っているのだが、アサヒさんは滑らかでかつ、まるで人が自然に動き回るようなアクションなのだ。
だから互いのリズムが噛み合わずにタイミングを崩してしまう。それと僕がパーティープレイに不慣れなこと。
今まではアサヒさんが１、２撃でビッグアンタを倒してくれていたので問題なかった。
どうやらモンスターにはコアポイントという弱点があるらしく、アサヒさんは的確にそのポイントを捉えて攻撃している。
いや、こっちはロックオンするだけなんでそんなの無理です。
まるで違うシステムで同じゲームをやってるそんな感じ。
………いや、まさかそんな事が出来るのだろうか。あの姉のことだからあるいは可能なのかも知れない。
だからこそのテストプレーなのか。
そんなことをつらつら考えながら、僕とララ達で２体、アサヒさんが３体のビッグアンタを倒してひと息つく。
ビッグアンタクィーンＤＸの予備動作が始まり、また下腹部からビッグアンタを射出するアクションを見せる。
その間にＨＰポーションでダメージを回復させて、また戦闘に臨む。
何ともきりがない。
「ララ、魔法でクィーンを攻撃できる？」
『………ちょっと厳しいのです。もう少し近づければある程度のダメージは与えられるのです』
やっぱり厳しいか。
後は僕かアサヒさんのどちらかがビッグアンタの相手をして、もう片方がクィーンＤＸ相手をする………のはやっぱり無理っぽいか。
もう―、何でこんなとこにレイなんとかボスが出て来るのか。
少しだけゲームを作った会社に恨み言を言いたくなる。
まぁ、時間が掛かろうともビッグアンタを倒しながら合間にクィーンＤＸのＨＰを削ってくしかなさそうだ。
『最初に５体、次に３対が出て来るのですっ！！』
下手の考え休むに似たり。どうやらそんな事は出来そうにもなさそうだ。
先はまだまだ長いと感じさせられた。
気を改めて引き締めて、ビッグアンタに立ち向かう。
＊
上空から降ってきたビッグアンタ５匹。ついでその後ろにさらに３匹が落ちてくる。
操主は女の子とぶつからないように注意しながら左端のビッグアンタへロックオンしてスラッシュを浴びせる。
その動きは足枷を着けられたように鈍く遅い。
スラッシュでノックバックしたビッグアンタに相棒が土魔法で礫をぶつけ、ウリスケが体当たりをして倒していく。
さっきからこのパターンで襲ってくるビッグアンタを倒していってるが、ボスへは全然攻撃できていない。
時間が長引けば長引くほどこちらが不利になっていく。
何故幾つかのコンビアーツを覚えてるのに使わないのか、何故そんな単調な動きしか出来ないのか。
そのあまりにもな拙さに正直歯がゆくなってくる。
あ、女の子がビッグアンタを３体屠り、クィーンへ飛び込み蹴りを浴びせる。
よほどレベルが高いのか、クィーンの足や胴体を蹴り飛びながら頭頂部、触覚部分へ縦回転しながら連撃を浴びせてペキリと折ってしまう。
「キシャキシャキシャアアアァァァアアァァッッ！！！！」
堪らずクィーンが空を仰ぎ頭を振り回し叫び声を上げる。
的確な部位攻撃でダメージを与える女の子。システムの上にシステムで動いている俺には無理な芸当だ。
すかさずジャンプでこちらに女の子が戻ってくる。
「スゴイね、アサヒさん」
「さんはいらないでしゅ………」
頑なに呼び捨てにしない操主を不思議に思う。本人が望んでいるのだから、そう呼んでやればいいのにこれも人の個性というものだろうか。
俺ならすぐにでも呼んでやれるのに。
下腹部から射出させ降ってくるビックアンタを倒し、アサヒが合間にクィーンを攻撃しているとＨＰが５割になったクィーンの姿に変化が起こる。
「キシャシャシャ〜ンンッ！、キキィィイッキシャャァアアァアアァァァァァンッッッ！！！」
黒くくすんだ紅だった甲殻が明るく燃えるような朱へとだんだん変化していく。
そして頭頂部にあったカンムリ状の甲殻がパリパリと剥がれ落ち金色に輝き、その上に白く光る輪っかが現れる。
「マスター！第２形態に変化するのです！！気を付けてなのですっ！」
「グゥ――――――ッッ！！」
相棒の警告に、皆が身を引き締め攻撃に備える。
ウリスケだけがやってやるぜ感を全面に出して後ろ足をザッカッザザザっと地面を掻き蹴っている。
こいつの思考は今ひとつ俺にも分からない。
あ、突進した。
＊
ウリスケがダッ！ストトトトトとクィーンＤＸへと走り出した瞬間、ドンッという音とともにいきなり地面がグラグラリと揺れ出し身動きが取れなくなる。
『範囲攻撃の“ストンピン”なのです。次の攻撃に備えてなのですっ！』
ララの警告に僕はガードをして身構える。
ウリスケはというと揺れる地面をものともせず………はあぁっ？
何か地面でなく空中を蹴り駆けながら走ってるような気がする。
まるで水面を右左を高速で蹴り進めば走れるよ！みたいな、そんなあり得ない筈の現象を目の当たりにする。
クィーンＤＸが上半身を反らせ前足を空を掲げる様に伸ばすと、鋭い顎の手前に黒く濁った黄色い液体が渦を巻く様にに集まり、巨大な水の球体になっていく。
これ、やばくない？
そんな事には一切構わずウリスケがクィーンＤＸの間近まで近づくと、身体を捻りドリルのように回転し炎の様なエフェクトを纏う。
彗星のように流星の如く赤く輝く尾をひいてクィーンＤＸの胴体へと体当たりをする。
ドド―――――――ンッッ！という音とともに身体をくの字に折って悲鳴を上げるクィーンＤＸ。
ウリスケは何事も無かったようにくるくる宙返りをしながらスタリとこちらに着地する。
『グッ！！』
君もたいがいだな………。
『ギシャシャシャアアアァァァアアァンンッッ！！』
クィーンＤＸが怒り猛り狂ったように上半身をぐわんぐわんと揺らして突然後ろ向きになり、膨らんだ下腹部をこちらに向けて僕達をロックオンする。
げっ、やっぱっあ。今度は上に打ち上げるんじゃなくてこっちに撃ち込むつもりか！
『マスター！避けてなのですっ！！』
クィーンＤＸへのロックオンを外して左へと移動を始める。
ボッ！ボッ！ボッ！ボッ！と榴弾が発射されるような鈍い音とともに大質量の物体がこちらに高速で飛んで来る。
「うおおぉぉぉぉぉぉっ！！」
後ろの方でドカドカドカカカンッッと轟音と振動が響いてくる。
もうこれアリ玉じゃなくてアリ弾だ。こわっ！こわっ！！
クィーンＤＸの横まで移動して再度ロックオンをする。
その間にもクィーンＤＸの砲撃はこちらを無視して続いている。ボッ！ドカンドカンとかなりうるさい。でも、今がチャンスか？
『マ、マスターっ！後方からビッグアンタが１０体やってくるのです！！』
ララにそう言われマップを見てみると、さっき着弾してたと思われるところからわらわら赤マーカーがこちらにやってくるのが分かる。
これ、えぐくない？
＊
前方のクィーンがこちらを振り向いて笑ったような気がする。いや、そんな筈はない。
ビッグアンタの射出はまだ続いてる。いったい何体出せば気が済むのか。
操主はクィーンへの攻撃を諦めて反対側に振り向きこちらに向かってやってくるビッグアンタへロックオンをして待ち構える。
目の前には無数のビッグアンタの群れ。その数は増えることはあっても減る様子はない。
今のままでは、操主の操作だけではまたさっき二の舞いだ。
それは諦めにも似た死を前にする感覚。
またビッグアンタに囲まれ集られ潰されるのか。
俺は嫌だ。もう嫌だ。死ぬのはもうごめんだ！！
こんな奴等にもう殺られたくはない。
「……………ぉぉぉぉぉおおおおおぁぁあああっっっ！！！」
俺は大声で叫ぶ。
その慟哭は、俺の│身体を縛る鎖を│砕き散ら《リライト》していく。
俺の手を、足を、身体を、手を――――――
枷から、楔から、軛から解き放していく。
そして俺は操主から――――――
開放される。
＊
クィーンＤＸへの攻撃をやめて、後ろへ向き先頭のビッグアンタへロックオンをして待ち構える。
ララとウリスケもやる気満々だ。
アサヒさんは反対側にいるようなので状況は分からないけど、かなり強いと思うので大丈夫だと思う。巻き込んでしまって悪いと思う。
でも僕は全然諦めてなかった。
クリスタルアミュレットのお陰でデスペナもないのだから、死んでも構わないとは言わないがへっちゃらだと思っていた。
それが良くなかったのだろうか………。
その時、ピピピピ―――ッという警告音とともに画面中央に小さなウィンドウが表示される。
【ＤＩＳＣＯＮＮＥＣＴ ＣＯＮＴＲＯＬＬＥＲ】と。
（ー「ー）ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
やっとここまで来ました
