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63.プロロアの森の主 

  


 死に戻りでへんにょりだった僕とララ達の気分をハンバーガーを食べて気持ちちょっと回復させて、翌日の午後少しばかりを過ぎた頃、姉宅に来てログインする。

 元気な2人に挨拶して、メニューを開きパーティー欄を確認する。

 いましたよ………カラミティーさんが。しかもログインしてます。

 仕方ないなーと思いつつ、これから向かいますとメールを送る。

 するとすぐにこちらでお持ちしていますと返信がやってくる。

 ん―、だけどどこでログアウトしてるんだろうか?カラミティーさんは。


 冒険者ギルドに入ると相変わらず何人かのPCが受付を眺めてポヤヤンとしている。

 きっとあの人達がファンクラブの人達なのだろう。楽しみがあるのはいいことだ。

 プロロアの森に現れるモンスターの討伐依頼を探しながら掲示板を流し見ていく。

 すると右からPCがやってきて話し掛けて来た。


『こんにちわっしゅ!』

「こんにちわ」


 バストアップ画面になったそのPCの姿はショートの赤髪に意志の強そうな太い眉。

 空手着の様な上着と半ズボンと両手にやたらと大きく頑丈そうな小手?を身に着けた少女だった。

 そういやマルオー村から戻ってきた時に、PvPとかをやってたPCだった気がする。(うろ覚え)

 何かモジモジしてるので話を聞いてみることにする。


「えっと、何か御用ですか?」


 僕の問い掛けに勇気を搾り出すように話し出す。


『アテンダントしゅピリットさんに会いに来たのでしゅ!』


 そう言って左側に視線を移してまたモジモジしだす。

 あれ?もしかしてララのこと見えてるのか?


「ララ、もしかして不可視化してないの?」

『はいなのです。色々あってもうしてないのです』


 色々って何だろう。こちらを気に掛ける人もいないようだし、ララが問題ないというのなら、まぁいっか。

 ララが少女に近付き挨拶をする。


『ララはララなのです。よろしくなのです』

『は、はひっ。自分はアサヒでしゅ。よろしくでしゅ!』


 ララの挨拶にアサヒさんも慌ててぺこぺこ挨拶を返す。なんとも微笑ましい。


『グッグッ!』


 ウリスケが後足2本で立ち上がり右前足をシュタっと上げてアサヒさんに挨拶してくる。相変わらず自己主張が激しい。


『うはぅゎ!従魔しゃんですかっ!?』


 驚いてウリスケを見るアサヒさん。ん?従魔って珍しいんだろうか。


『ウリスケさんなのです。よろしくと言ってるのです』


 ララの言葉にアサヒさんは目を丸くしながらも、ウリスケにも丁寧に挨拶してくる。


『アサヒでしゅ。よろしくでしゅ、ウリスケしゃん』


 しゃがみながらウリスケへと挨拶しているアサヒさんを見て、さらに何ともほんわかした気分になる。

 とてもあの時激しい戦闘をしていた人物とは思えない。

 いつの間にか戻った画面では、3人が思い思いの格好をしてスクリーンショットを撮っている。なんだかなー。

 僕は掲示板に向き直り、依頼が表示されてる画面をスクロールさせながら、ランクに合ったものをチェックする。

 ビッグアンタとワイルビーの討伐の2つを選び、受付へ向かうことにする。


『あーおひさですぅ。ララさんは………。あれ?ほれぇ?あーはい』


 職員さんが僕に挨拶し、やって来たララを見て不思議そうな顔をする。だけどすぐに表情を戻してこちらに話し掛けてくる。


『今日は依頼をうけにですか?でも円門は通過したんですよね?』


 不自然な態度に首を傾げるが、僕達がプロロアに戻ってきたので疑問に思ったらしく聞いてくる。


「はい。円門は通過したんですけど、も少しこっちで色々やろうかなと思いまして」

『へぇ~そうですか。あ、それですね。はい受注します』


 手続きが終わって振り返ると、アサヒさんがモジモジして立っていた。


「あの?何か?」

『あ、あの………お名前とフレンド登録いいでしゅか?』


 ありゃ、名乗られたのに名前を言わずじまいだった。こりゃいかん。


「いいですよ。僕は……ヤマトって言います。え〜とフレンド登録ってどうやればいいんですかね?」


 そういやバロンさん以来かなフレンドってやつ。MMOってこれが本道だろうに全くやってないのもなんだかな―な気がするけど、今さらか。


『自分が申請するのでお願いしましゅ』

「はい、お願いします」


 アサヒさんがウィンドウを操作すると、こちらにウィンドウが現れ[PCアサヒからフレンド申請がありました。受けますか?〈Y/N〉]と表示されたので、Yを選ぶと[PCアサヒがフレンドに登録されました]の文字が出て来る。


「………………」

『どうしたのです?マスター』

『グゥ〜ゥ?』


 初めて(バロンさんはとりあえず棚に上げて)のフレンド登録にそこはかとなくじ〜んとしてしまった。

 ララとウリスケが、僕が無言になったのでどうしたのか聞いてきた。


「あ、うん。初めてフレンド登録したから何となくじ〜んとしちゃってさ」

『自分が初めてのフレでしゅか?』

「うん。よろしくねアサヒさん」

『アサヒでいいでしゅ。ヤマトさんはこれからクエストなんでしゅか?』

「僕もヤマトでいいよ。うん、プロロアの森に行くんで、そのついでにって感じかな」

『自分もついて行っていいでしゅか?』


 その申し出に僕は少しだけ考えたが、今回は断っておくことにする。カラミティーさんのこともあるし、アサヒさんはすこい強いと思うけど、危険な事は少しでも回避したほうがいいと思ったからだ。


「ごめん。実は他の人と約束があるから今日は無理なんだ。今度機会があったらお願いしていいかな?」


 アサヒさんは眉を八の字にしてあにゃ〜と残念そうに肩を落とすが、気を取り直して了承してくれる。


『分かったでしゅ。次のログインの時でも連絡してなのでしゅ。待ってるでしゅ』

「うん、その時はよろしくね」

『またなのです』

『グッグッグ!』


 お互いそう挨拶をしあって、アサヒさんは冒険者ギルドから去っていった。こういった心地いい出会いも悪くないなとしみじみ思う。

 その時よもやアサヒさんが猪突猛進一直線な人間だとは思わなかったので、森の中で待ち構えてるとは僕は想像すらしてなかった。



 カラミティーさんがいる場所は、この前とは反対側のプロロアの森の北側の奥の方だった。

 西街道からマーカーがある場所へ北に向かって進んでいく。

 こちらも南側と同じ種類のモンスターのようで(当たり前か)、ビッグスパロー、ビッグアンタ、ワイルビーがやってくる。道すがらに依頼のモンスターを倒しさらに北へと進んでいく。

 森の中を半分ほど進んだところでマーカーの反応が大きくなる。


「ねぇララ、やっぱなにか起こると思う?」

『なのです。ララの予想だとマーカーが突然消えるのです』

『グッ!』


 完全にクロだと見据えて、僕達はそんな話をしていた。

 そしてその言葉通りにマーカーが消え、モンスターの反応がマップにポツポツと現れてくる。

 そう、僕達は待ち構えていたのだ。


 2度めの失敗をしないように、僕達のリベンジの機会を。


 けれど僕達にその機会が訪れることは無かった。

 エリアの踏破率にプロロアの森が入っていなかったこと。

 プロロアの森単体の踏破率があったということ。

 そして昨日今日とプロロアの森をうろついたいた結果。

 踏破率がその瞬間ある数値を超えてしまったこと。


 僕達の周囲が白い靄に包まれ森が変化していく。

 木々が次々と僕達の周りから消えていき、やがて広い空間が出来上がる。

 マップには外周から多数の赤マーカーと中央にやたら大きい赤マーカーが出現する。

 するとゴゴゴという音と共に地面がグラグラリと揺れ始める。

 そして15m程先の地面が盛り上がり巨大な穴が開いて、そこから“それ”がのそりと現れた。


『キシャアアアアァァァァン。キシャキシャアアァァアァンン!!』


 穴の中からニジリニジリと這い上がってくるそれは、画面の向こう側にいる僕から見ても巨大なものだった。


 モンスター:ビッグアンタクィーンDXディーエックス Lv??

       HP ???/???

       MP ??/??

       ビッグアンタの女王であり母であるモンスターの上位種

       他にSDX、SSDXの個体もいるらしい


「………………」


 久しぶりに【鑑識】スキルを使ってモンスターを見たらこんな感じだった。

 ろくな説明にもなってない上、補足文も変てこだ。

 だいたいDXって何だよっ!DXって。デラックスか?そんでスペシャルにスーパースペシャルってか?何じゃこれっ!

 そんなツッコミをしていると、靄の向こうからビッグアンタの群れがゆっくりやってくる。


『マ、マスターッ!あれはレイドボスなのです!多人数で倒すのが前提のモンスターなので1ソロだとちょっと無理ゲーなのです!!』


 ララがあわあわしながらそう言ってくる。いや、この子無理ゲー言っちゃってるよ。ま、出て来たものは仕方ない。やるだけやってみよう。


「ララ、ウリスケ。やれるだけやってみよう。ダメだったら仕方ない」

『はいなのですっ!』

『グッグッグゥ!!』


 僕の覚悟を決めた言葉に、ララ達も気を引き締めるように返事をしてくれる。ごめんなぁ、こんな事に巻き込んで。

 死に戻りは確実っぽいけど、デスペナキャンセルのアイテムもあるから行けるとこまでやって見てもいいだろう。ゲームなんだからやり直しは何度でも出来るのだ。

 背筋をぴんと伸ばし、息をフゥッと吐く。よし!

 ポーションもある。心構えもしてきた。あとはやれる事をやるだけだ。

 僕は【付与】をかけて攻撃と防御を底上げする。体が淡い光に包まれていく。

 ビッグアンタクィーンDXの大きさはビッグビッグスラーミよりひとまわり程大きい思わず見上げてしまうほどだ。。赤黒の甲殻は光を帯びてぬらぬら光沢を放っている。

 ビッグアンタと違うのは頭部の触角の間にある冠のような突起と、上半身より遥かに大きい膨れ上がった腹部。

 まさに女王の名に相応しい姿だった。

 ビッグアンタクィーンDXはキシャキシャア言ってるばかりで動く気配を見せない。

 エリアボスの時と同じく、まずはビッグアンタを相手に戦うみたいだ。んー、そういうアルゴリズムが組まれてるのかな。

 僕はマップを見ながらビッグアンタにナンバリングを順につけて優先順位を組み立ててると、向こう側から悲鳴が上がる。よく見てみるとビッグアンタが集り密集している場所がある。


『ぎゃあああっ!何だよこれっ!何でこっち来んだよぅ!やめろっ!!うわあああぁぁぁあっ!!!』


 そしてパリィンと何かが砕ける音と共に光の粒子がそこから散っていく。

 ウィンドウが現れ[パーティーPC カラミティーがしにました]と表示される。ありゃ。


『カラミティーさんあそこに隠れてたのです。因果応報なのです』

『グッ!』


 こわっ!なんかうちの子達が怖いです。くっくっくと黒い笑みを貼り付けてバックに「ざっまぁ」の文字が見えてくるようだ。相当腹に据えかねていたみたいだ。

 ビッグアンタがこちらにジリジリと近づいて来る。よし、今は戦闘に集中することにしよう。




(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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