60.デスペナなしの死に戻り
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適当にダメを受けて森の中をうろついてると、街の方からPCがやって来るのがマップの反応で分かる。
脳筋格闘女と分かれてカモが来ないかと待っていて、諦めかけていたその時にやってきたのだ。
思わず口元が緩んでくる。
俺は【索敵】と【隠蔽】をガン上げして、他のスキルはそれなりのレベルで揃えている。
このゲームは他のゲームと違って名前がかぶっても問題ないので、スキル仕様が違っていると同名プレイヤーの仕業とされる場合がある。
板を漁ってみても、そんなセコい真似をして何の得があるのかと思われているのか、たまにスレが1つ2つ出て来るだけで、すぐに別のネタに移り変わっていく。
そう、俺はただ見たいだけなのだ。
カモが襲われ焦り助けを求め消えていく様を。
アイテムやGINのロストドロップはそのついでに過ぎない。
徐々にPCが近づいて来る。
丁度のタイミングでモンスターがやって来る。俺は【隠蔽】を解いて、適当にダメを受けながらPCの方へと移動する。
茂みからPCの前で転がるように倒れこむ。へへっ、俺の演技も手慣れたものだ。慌てる姿がに浮かぶ。
相当お人好しなのか、こっちにHポを使ってくる。
しばらく気絶した振りから起き上がり、件のPCの姿を見やる。
何ともちぐはぐな印象のPCだ。
中肉中背で顔にも何の特徴もなく、一言で言えば平凡と表現するしか無い。しかも無表情。
装備はいかにも初心者といった革のかぶととよろい。腰の後ろにはクズ武器の斧を着けている。
いや、カモとしては美味しい部類だろう。
と茂みからストトトとモンスターがやってくる。剣を抜こうとすると、自分の従魔だと説明してくる。はぁ?こんなとこで【従魔】のスキルは手に入らないはずだ。
もしかしてそういうプレイなのかも知れない。シバリで遊ぶのは誰でもやってることだ。逆にロストドロップが楽しみになってくる。ぎへっ。
助けて貰った礼ということでパーティーを組むことを認めさせる。MMO初めてって、そんな奴いるのかよ。騙る騙る。
そんな訳でパーティーを組み、2人で森の中を北へと進んでいく。
なかなかタイミングがつかめねぇ。この森程度のモンスターじゃ、手こずる間もなく倒してしまってる。ちっ。
さらに北へと進むと新しいモンスターが現れた。ビッグアンタか、へっ集られなけりゃどうということも無い。ひひひっ、こいつがいるという事は巣があるということだ。
よし、こいつを使ってやろう。ひひっ、こいつはどんな顔を見せてくれるのか。けっひひひっ。
ところがその戦闘が終わった途端街に戻るとか吐かしやがる。冗談じゃねぇ。ここまで来て楽しみを奪われてたまるかっての。
うまいこと言いくるめて何とか次の戦闘まではパーティーを組ませることを納得させる。よし、次こそやってやる。
しばらく進むと森がだんだん深くなってくる。よし、今だ。俺は木々の深くなっている所へと走り出す。
すかさず木の裏側へ回り込み叫んだ後、【伏身】を発動させる。
このスキルは隠蔽の上位スキルでアクティブ行動をしない代わりに他者からの認識を阻害するものだ。
動画を撮影するキューブをあいつに向けて放ち、しめは小指ほどの木製の縦長の笛を思い切り息を吸い込んでから吹く。
音が全然鳴らないにも関わらず、その効果はすぐに現れてくる。
俺を中心にマップの外側から赤マーカーが次々と出て来る。このアイテム“マタカリのホイスル”は、笛を吹くことでモンスターを次々とポップさせて呼び寄せるものだ。
本来の使い方は、ポップし難いエリアや、倒しすぎてポップしなくなったフィールドでこれを使うと制限無しでフィールド適性モンスターがポップしてくる。ようは経験値稼ぎのアイテムだ。
あとは【伏身】で見つからないように隠れて声だけを聞き取るようにする。下手に覗いたりすると効果が切れる場合があるからだ。PCの慌てる声と叫び声でゴハン3杯は美味しくいただける。
でも、あのデカアリのキチキチする音とクズ武器のダメ音と従魔の鳴き声、そんな物しか聞こえてない。おいおい。
ずいぶんと肝が据わってる奴なんだな。見た目モブにしか見えんかったけどひとは見かけによらないってか?
気にはなるが見ること自体アクティブ行為になるので、すぐに認識阻害が解け見つけられてしまうので我慢するしか無い。
やがて散発的だったキチキチ音が、合唱をする様に重なりあい絡みあう様に周囲に響く。やっべ。集め過ぎか?
そして聞こえてくるPCのデスベル音。ひっくっくっく。これがあるから止められまへんなぁ。思わず声が漏れる。やべっ。
しばらく待っていると、PCを殺して満足したのかアリ共は森の彼方此方へと散っていった。あんだけのアリに集られるのはゴメンだからな。けひっ。静かにその場をマップに反応が無くなるまで移動する。
【伏身】を解除してキューブをさっそく見てみる。
「……………」
何だ?この主人公プレイは。つか動きありえないんだけど?斧で切ってて何で魔法撃ててんだ?チートかっつうの。
が、アリ共に飛び掛かられて目を丸くする瞬間は見物だったな。ひけけっ。
まぁそれなりに楽しめたか?あとはロストドロップがどれだけあるかか。
メニューを開きアイテム欄を見てみるが何もない。ああっ?何でだ?GINも同様に全く増えてない。
「ざっけんなよっ!!」
俺は傍にあった木に蹴りをぶち込む。
*
僕が呆けたように画面を見ていると、白から徐々に別の映像が映しだされてくる。
ん?いわゆるステンドグラスってヤツかな。
そして大きな1枚のステンドグラスから下へと画面が移動していくと大きな十字架と祭壇。それからその手前に石で出来たベッド?が置かれているのが見て取れる。
すると光の粒子がいくつも現れてベッドの中央へと集まり光の塊と成していく。光が人の形に変化して弾けると、そこにヤマトが横たわっていた。
昔のRPGだとプレイヤーが倒されるとそのままゲームオーバでセーブしたところから始めるものと、死んだ場合一定の場所で復活するものがあるけど、どうやらこのゲームは後者の方であるらしい。
ヤマトはむくりと起き上がり、石のベッドから降りていつものポジションへと戻る。
そこへ2つの魔法陣が現れてララとウリスケが出てくる。
『マスター!』
『グッグゥ!』
バストアップ画面が現れ泣きそうな顔をしたララと、シュピっと右前足を上げるウリスケの姿が見える。
どうやら従魔とアテンダントスピリットはプレイヤーが死んだら一緒に戻るみたいだ。置き去りにしてなくて良かった。
『ごめんなさいなのですマスター。ララがもっと上手く出来てたら死に戻らなくて良かったのです』
しょんぼりするララを見ながら僕はそうかな?と思い返す。攻撃は出来ていたけど倒せてはいなかった。
逃げることを優先していたから、逆にビッグアンタが集まりすぎたせいで詰んだ事を考えると、僕の判断ミスといった方がいいと思う。
「いや、違うよララ。全部僕の判断ミスだよ。あそこで1点集中でビッグアンタを倒しに行ってれば逃げることも出来たかもしれない」
『でも……』
「それにコンビアーツをあそこで出そうなんてしなければ逃げれたかもしれないし、僕の失敗でララが悪いわけじゃないからね」
そう、今思い返してみても少しばかり焦り過ぎていた気がする。
実際ダメージを食らっても強引に通り過ぎていけば良かったんじゃないかと思う。少しばかりテンションが上がってぽっかったらしい。ちょっとばかりか―っと頬が熱くなる。
頬をパンパンと叩いて心を落ち着けてから画面を見やる。
「ここって教会なの?」
石で積まれた壁に大きなステンドグラスに十字架と祭壇。
テンプレすぎる室内に僕はララに聞いてみる。
『そうなのです。HPが0になって死亡判定がされると最寄りの街のこの場所に移動するのです』
ステンドグラスの反対側の壁には木の扉がある。あそこから出て街に戻るってことか。
『そして死んだ時にはペナルティーが発生して、お金やアイテムをロストドロップするのとステータスが一定時間半減するのです』
おお、デスペナってヤツだな。となるとすぐに街を出たりしたりはしないほうが良いって訳か。
「一定時間ってどれくらいなの?」
『2時間なのです。その間ログアウトしても問題ないのです』
けっこーキツイな。いや、逆に街でなんかやってれば時間も過ぎてくのかな。
僕はヤマトの状態を確認する為、メニューを開きステータスを見てみると思わず首を傾げてしまう。
「ねぇララ。ヤマトのステータス減ってないんだけど何で?」
そう、ステータスダウンもアイテムのロストドロップもお金も何も減っておらず、ペナルティーが発生してないみたいなのだ。
その間ウリスケは退屈になったのか、石のベッドに登り大の字でzzzと眠っている。ウリスケ………。
『それはマスターが装備している“クリスタルアミュレット”のお陰なのです』
ララがそう教えてくれる。クリスタルアミュレットって、ララの癒やしの原で僕がいなかった時、PKとかがヤマトに反撃されて落としていったヤツだったかな?
アイテム欄から装備を選びクリスタルアミュレットを見てみる事にする。
クリスタルアミュレット:魔水晶で作られた御守り Lv80
死亡時のペナルティーを無効にする
霊験あらかたなアイテム
ただし使用制限有り(残り2回)
これは、チートってヤツですな。ふおお。すごっ。
残り回数2って事は、さっきまでは3回あったってわけだ。こうゆうのを見てしまうともったいなく感じてしまうのは、僕が貧乏性のせいかな。
でもデスペナ無しの理由が分かり、お陰で何も失う事も無く済んだのは僥倖だ。職員さんには感謝しなくては。
「とにかくララとウリスケが置き去りにならなくてよかったよ」
安堵の溜め息を吐きながら僕がそう言うと、ララは嬉しそうにバストアップ画面から話しかけてくる。
『ララはマスターとずっと一緒にいるのです。ずっとなのです』
むむっ、何ともコメントのし辛い事を言ってくるな。ってかララはリアルでも僕の端末に居場所を作ってるから言わずもがなか。
『グッ!!』
ウリスケも急に起き上がり2本足で立ち上がり右前足をシュピっと上げて鳴いてくる。
『ウリスケさんも“ずっと一緒なのだ”と言ってるのです』
ウリスケにもそんな風に言って貰えて嬉しくはあるのだが、ずっとこのゲームをやる訳でもないし、姉に頼まれテストプレーをしてるだけなんだけどな、と心の中で独りごちる。
いやいや、どんな所でもしがらみと言うのは出来るって事なのか。
「そういやカラミティーさんは大丈夫なのかな?僕達だけ襲われた訳じゃないと思うけど」
誤魔化すように話題をすり返るようにカラミティーさんの事を話してみる。ただあの人怪しんだよな。
『マスター。その事なんですけど、あの人真っ黒黒なのです』
「ん、どゆこと?」
『このゲームの掲示板を見て回って同じ名前の人がスカベンジャーと呼ばれてるのです』
スカベンジャーって死肉漁りだったかな?
「同じ名前の人って?」
『はいなのです。このゲームは他の物と違って同一の名前を使用する事が可能なのです。先に付けた順にナンバリングされてるのです』
ふーん、ヤマトだったらヤマト1、ヤマト2ってとこか、でもそんなに名前ってかぶるもんなんだろうか。
「ララ、同名の人ってそんなにいるの?」
『はいなのです。でも1番多くて300人位なのです』
はへぇー、けっこーいるんだな。
「で、スカベンジャーって言われるカラミティーさんはどんなPCなの?」
『姿やプレイスタイルがバラバラなのです、けど皆同じような目にあってるのです』
ふむふむ、プレイヤーネームは誰でも見ることが出来るから偽れないので変装してるか、それとも別のプレイヤーか。
『それらの情報をまとめていくと、カラミティーという人と野良パーティーを組んで戦っていると、突然モンスターが大量に現れてPCを襲ってきて、そしてPCが死に戻るといつの間にかいなくなってパーティーも解除されてるらしいのです』
うぇー、まんま同じじゃんか。その人で間違いなくね?
『もしその人がロストドロップ目当てのMPKをやってるのではと掲示板では考えられてるのです』
ん?ロストドロップは分かる。クリスタルアミュレットの事があるからね。野良パーティーもその場限りのパーティーで、でもMPKって何?PKはプレイヤーキルだったから…………。
「ララ、MPKって何?」
ビギナーの恥はかき捨て、つまり分からなければ聞けばいいのだ。とララに聞いてみる。
『モンスタープレイヤーキルの事なのです。モンスターを誘導して別のPCに向かわせて襲わせ殺すことなのです』
んっまぁー、よく次から次へといろいろ考えるもんだよなぁ。
半ば呆れ半ば感心する。それとちゃんと答えてくれるララに感謝だ。ありがとう。
「つまりそのスカベンジャーがカラミティーさんじゃないかと言う訳だな」
『なのです』
てことは、もうパーティーは解除して、今はもういなくなってるって事だよな。
僕はメニューを開いてパーティー欄を確認する。
はれ?何でぇ!?
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
少し凹んだけど元気です




