59.初めてのパーティープレイ
少しばかり考えた後、パーティーを組むことを了承する。
これもテストプレイの一貫と思えば断ることもないだろう。
「何分MMOは初めてプレイするので、ぜひお願いします」
カラミティーさんはホッと安堵したように息を吐き、ウィンドウを出して何やら操作すると僕の目の前にウィンドウが現れる。
ピロコリン
[PC:カラミティ―からパーティー参加の要請がきました。参加しますか?Yes/No]
Yesを選ぶとピロコリンという音の次に[PC:カラミティ―のパーティーに参加しました]のメッセージが出てヤマトのHPゲージの下にカラミティーさんの名前とHPゲージが小さく表示される。おおっ。
ふふ〜へぇ〜。なる程こういう風になるのか。
確かにHPMPの管理は自分だけでするよりも、パーティーで共有するのがベストだもんな。まぁ、それは普通のRPGでも同じっていうかそっちが元になってるんだよなきっと。
こうして僕はカラミティーさんというPCと初めてパーティープレイをすることになる。
僕達は少し話し合ってそのまま北へと進むことにする。
カラミティーさんは近接戦闘タイプらしく回避しながら刺突剣で手数を負わせて倒していく感じだ。
僕はと言えば斧と魔法を両方使って戦うので、少しばかり中途半端な感じだそうだ。カラミティーさんにそう言われたけど、特に気にはしていない。
ウリスケが不機嫌そうに『グゥ―』と唸ってカラミティーさんを睨んでいたけど、僕は小声で気にしない気にしないとウリスケに声をかける。
そうして北へと進んでいると左右からモンスターの反応があり、こちらへと向かってくるのが分かった。
僕の初めてのパーティー戦闘が始まる。
『私が右のホーンラビットを倒します。ヤマトさんは左をお願いします』
「了解しました。やるぞウリスケ」
『グッ!』
やることは変わらないんだなぁと思いながら、現れたスピアボーアをロックオンしてイミットアーツを準備。
茂みの間からやって来たスピアボーアをクロスラッシュで吹き飛ばす。
『“クロスラッシュ”』
十字の衝撃波がスピアボーアの下顎へ命中しひっくり返って後ろへ転がる。
そこにウリスケが捻りを加えた体当たりで数倍の大きさのスピアボーアへぶつかっていく。あれ?角が伸びてる気がする。
森の中で火魔法を使うのは何かゲームでもいけない気がするので、土魔法を選んで詠唱を始める。
レベルが上がった分詠唱時間は短くなっているので、すぐに放つことが出来る。
『“ストンバレット”』
石礫がスピアボーアを襲いHPを0にする。戦闘そのものはウリスケのサポートのお陰で問題なく行えている。
『マスター』
ララが小声で話しかけてきたので、僕もそれに合わせて小声で話す。
「ララ、戻ってこなくて心配したよ」
『ごめんなさいなのです。でも他のPCがいたので少し隠れてたのです』
ん―確かにウリスケならともかく、ララに関してはいろいろ根掘り葉掘り聞かれたりするかも知れないからその方がいいかも知れないな。
「分かった。僕は極力話し掛けないようにするから、ララも気を付けてな」
『はいなのです』
僕達の会話が終わった後、茂みからカラミティーさんがやって来る。
『こちらは終わりました。そちらは………流石です。従魔がいると戦闘も楽そうですね』
人当りの良さ気な笑顔でそう言ってくる。ん―、まぁいっか。受け取り方によってはビミューな物言いに少しばかり思いを凝らしてみるがスルーしておく。ずっとパーティーを組んでる訳でもないしね。
こうして僕達は、森に中を行ったり来たりしながら出て来るモンスターを倒していった。
そして1人のプレイヤーの愉悦の為の悪意が――――――
僕とヤマトが別離することになる戦いを招くことになる。
僕達がプロロアの森の中を探索していると、そのモンスターが現れた。
この第1サークルエリアの西側の一辺をプロロアの森が覆い尽くしている。真っ直ぐ西へと進んで行けば30分も掛からず通り抜けれるのだけど、広さは半端ないと思う。森というよりは樹海といった方がいいレベルだと思う。
やたら深く広いのでこちらの方はほとんど誰も来て無くてどんなモンスターがいるのか知らないとのことだ。
そこに出現したのは、大型犬程の大きさのアリだった。
頭部にある2本の触覚を小刻みに揺らしノコギリのようにギザギザの2本の顎をキチキチ音を鳴らし動かしながらこちらにやってくる。
幸い2体なのでカラミティーさんと分担して戦うことにする。
『ヤマトさんはそちらのビッグアンタを!私はこっちを相手にします』
「分かりました」
このアリはビッグアンタというらしい。アンタってあんた………。いや、ダジャレじゃないから。
しっかし、デカイ昆虫ってやたらと生理的に気持ち悪く感じるのは何でだろう。
ビッグアンタは大多数で集られると詰んでしまうらしいが、1体、2体ならそれ程の強さじゃないとのこと。
まずはスキルから【付与】を選んで攻撃と防御の付与を全員に施す。
ララとウリスケの他に相手がいるというのも何とも不思議な気がする。
そしてロックオンしてイミットアーツで待ち構える。
戦闘がパターン化してしまうのはある程度お約束なのでしょーがない。
『“スラッシュ”』
白く弧を描いた衝撃波がビッグアンタに当たり、その動きと止め1/3ほどのダメージを与える。
ワイルブモー位の硬さかな。そこへウリスケがビッグアンタの右側面へ体当り。吹き飛ばされるがバランスを取り後ろ足と中足で体制を整える。
『アクアビット』
背中に隠れていたララが小声で水魔法を放つ。水の礫は頭部に命中しビッグアンタは苦しむ様に体をえびぞって消えていった。水が弱点なのか?
『ビッグアンタは噛み付きと引っ掻きと体当たりで攻撃してくるのです。強さはそれ程でも無いですが、数が出てくると厄介なのです』
ララはそんな風にヤマトの身体にこそこそ隠れながら説明してくる。でも、そんなに警戒する必要があるんだろうか。
僕が首をう〜んと捻っているともう1体を倒し終えたらしいカラミティーさんがやって来る。
『それでは先に進みましょうか』
そうカラミティーさんが行ってきたが、けっこーモンスターも倒してドロップも手に入ったし、回復アイテムも心許ない。なので一旦プロロアの街へ戻ることを提案する。
「実はポーションが少しばかり心許ないので、一旦街へ戻ろうかと思うんです」
一瞬顔をしかめたカラミティーさんはすぐに笑顔を見せて食い下がるように言ってくる。
『で、でしたら次に戦闘が終わったらにしませんか?私もう少しでスキルレベルが上がるので』
そう言われてしまうと無理強いは出来なくなる。僕の経験値稼ぎのためと言う話だったのに、目的が逆転してしまっている。
まぁ、これは仕方ないか。
「分かりました。じゃ、次の戦闘が終わったら戻ることにしましょう」
『ええ』
ニヤリと悪そうな顔で言ってカラミティーさんが先へと進んでいく。
「……………」
なんか企んでるのが見え見えなんだけど、今はどうしようもないな。僕は彼の後について森の中を進む。
そしてそれは唐突に始まった。
しばらくはモンスターに出くわさずに北の端まで残り1/3程のところでカラミティーさんが突然走り出したのだ。
『モンスターが現れました!先に行きます!!』
え?索敵には何の反応もない。急にどうしたんだ?
凄いスピードで北へと緑のマーカーが進んで行くとマーカーがふっと消えてなくなった。
『うわぁぁああああっ!!』
遠くでカラミティーさんの叫び声が聞こえてくる。
マーカーが消えた場所へと急いで向かおうとした瞬間、マップに変化が訪れる。
マップの外周から赤のマーカーがポツポツと現れてくる。
『マスター!モンスターがいっぱい来るのです!!前から6,左右から3体づつ。後ろからも5体がこっちにやって来るのです!!』
ララの言葉通りにマップに赤のマーカーが僕達を囲む様にこっちに向かってやって来るのが分かる。
『マスター!やって来るのは全部ビッグアンタなのです!』
「何でこんなにたくさん!」
いや、その疑問はとりあえず脇に置いておくとして、まずは逃げることを考え――――!はじめに現れたモンスターの後方に輪を描くように第2陣が現れる。これ詰んでね?
『マスター………』
『グゥ?』
僕は深呼吸をひとつフゥーと吐き出し、手をブラブラさせてコントローラーを握り直す。
「ララ、まずは逃げることを優先しよう。ウリスケもダメージ回避を優先してな。ララは攻撃よりも回復魔法を優先して頼む」
『はいなのです!』
『グッ!!』
まずは【付与】で攻撃と防御を上げてポーションでHPを回復させる。
次に数が少なくて逃げれる可能性の高そうな東の方向、つまり左に90°向き直り走りだす。
先頭に現れたビッグアンタをロックオンしてジャンプから縦斬り、直ぐ様側に来ていたビッグアンタにロックオンして横斬り。
もう1体はウリスケの体当たりで後ろへ吹き飛ばされていく。
包囲網が狭まりつつある中、僕は全体と一部へと意識を集中していく。
全体は簡易マップでモンスター位置の把握、一部は目の前のビッグアンタとの戦闘。
そして全てのビッグアンタにナンバリングして、自分に近い順にラインを繋ぐ。
魔法とアーツは発動に時間がかかるので間に合わない。なので斧を駆使してダメージを与えて攻撃のタイミングをずらし、少ないダメージで包囲を抜け出る。
考えるのは簡単だけど、行うのはかなり厳しく難易度は高い。だが今は僕がやれることをやる。
目の前のビッグアンタ1へ縦斬り×2。バックダッシュで少し下がってビッグアンタ2へロックオン。左ダッシュで横斬り縦斬り。そしてララとウリスケが僕の攻撃を引き継ぎダメージを繋いでいく。
その攻撃で開いた隙間にダッシュで捻じ込みビッグアンタ7へと横斬りを2連。
左右にいたビッグアンタ5、6を巻き込みダメージを与えバックダッシュ。
ロックオンを切り替えビッグアンタ6へ縦、横斬り。
さらに集中を高めると全ての動きがゆるりと緩慢に鈍く遅くなっていく。
意思を指へコンマ2。指からコントローラーへコンマ3。コントロ-ラーからヤマトへ反映されるのにコンマ2。
ダメだ遅い。
タイムラグが危ういバランスを少しずつ崩していく。
ビッグアンタ12の爪でダメージを受ける。
ウリスケが体当たりでそれを退ける。助走がない分ダメージはそれ程でもない。
ララが土魔法で壁を作り、後方からの進入を遮る。
一か八かというのは好きじゃないが、今はやるしかない。
ビッグアンタ8へロックオンしてダッシュ、縦斬り一撃で動きを止めて右ダッシュ。
横へ回り込み、縦、横、横、縦、横、横、縦、横、横、横。
アーツの発動で一時的にダメージの蓄積が止まったのか、ビッグアンタ8が攻撃を受け続ける。
遅い。とても遅く遠く感じる。
斧が青白く光り輝く。
今だっ!!
『マスターッッ!!』
『グウゥゥゥゥ―――――――ッ!!』
アクストルネドが成功する寸前、左右後方から飛び込んできた大量のビッグアンタに上から押し付けられ集られ、ヤマトがアリの塊に覆い尽くされる。
その瞬間、僕の集中はぷつりと途切れてしまい呆然とその光景を見やる。
キチキチという無数の音とともにバキッとかグゴッと言うダメージ音が画面から聞こえてくる。
そして大きなアリ玉が出来上がっていく。こわっ。
そして、ヤマトのHPゲージが0になり、アリ玉の中で光が粒子となり広がって消えていった。
画面全体が白く切り替わり[You are dead]の文字が大きく表示される。
ヤマトが死んでしまった。
僕は肩を落としソファーに凭れ掛かり溜め息を吐く。はぁー。
そこにガラスのコップが落ちて割れる様なパリーンと音がしてメッセージが現れる。何だこれ?
そして誰かの嘲笑が聞こえた気がした。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




