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57.ふたたびプロロアの街へ

遅くなりました

 

 

   *

 

 ビッグスパローが森の上空を旋回し、こちらを煽るように小馬鹿にするようにクルクル飛び回りフンを撒き散らす。

 ちっ、こっちは遠距離攻撃の術が無いから回避するばかりでどうしようもない。


『ヂュンチュチュ〜チュン』


 くそっバカにしやがって、こっちは近距離用の武器しか持ってねぇってのに腹の立つことだ。

 ジグザクにフン攻撃を避けながら、俺は目的の場所まで走る。あと少し、光り差す森の中を駆け抜ける。


「ちょんわ――――――しゅっっ!」


 声と共に【跳躍】で強化された跳び蹴りが一直線に空を貫き3体のビッグスパローを撃墜して地面へと叩き落とす。


『チュンワッ!』『ヂュン』『ヂィヂュッ!』


 クリティカルヒットの為か、ビッグスパローは硬直して翼をバタバタさせている。俺は奴等の元へとUターン。得物を手に取り先程までの鬱憤を晴らすように突き刺していく。


「ちっ!手間かけさせやがって」


 全てを経験値に換えて周囲を警戒しながら跳び蹴りをしたPCの元へと歩を進める。

 燃えるような明るい緋色のショートヘアーに意志の強そうな太い眉、どこで調達したのか空手着のような上着にショートパンツ、その上に革鎧を纏いやらたゴツそうな手甲と足甲を装備した女ドワーフのPC。

 小さいなりをしてるのに、やたらとレベルが高いらしくその力は化物じみている。


 それが2日前からパーティーを組んでるアサヒという名のプレイヤーだ。

 この2日間いろいろ試みては撃破されを繰り返し、さすがにコイツは無理だなと悟った。


「アサヒさんありがとうございました。ここまでくれば大丈夫だと思います。パーティーを解散しましょう」


 相談でなく断言して、アサヒに言葉をかける。いわゆる脳筋と呼ばれる種類らしく、深く考えずに感覚だけで行動するのでこちらは予測しづらい。ソロでプロロアに行くというので無理にパーティーを組んでここまで来たが当てが外れてしまった。

 美味しい獲物だと思ったんだが、正直強すぎて手が出せない。

 まあ、また別の獲物を見繕えばいいのだ。


「うっしゅ。わかりました」


 無駄に暑苦しく返事をしてくるコイツに少しイラッと来る。コイツが悔しがる顔を見れなくて残念だが、まあいいとアサヒにパーティー解散の申請を送るとすぐさま返ってくる。


「ではボクはプロロアの街へ行くっしゅ」

「はい、ありがとうございました」


 そう言ってアサヒは東へ向けて去っていった。

 俺はのんびり森の中を進みながら、次の獲物を待つことにする。



   *



 約1週間ぶりの姉宅でのゲームだ。僕がやらかしてしまったらしいグランドクエストとやらが終わったので、時間があったらプレイしてねと姉に言われたのでさっそくプレイすることにしたのだ。

 姉の家へと赴き、買って来た食材を冷蔵庫や収納庫へとしまい、少しばかり片付けと部屋の掃除をしてからリビングに陣取りTVをつける。

 

 リモコンを操作してゲームを選びログインする。

 出て来た所はマルオー村の噴水広場だ。ログイン時出現の場所はその時にいた登録場所に決められているみたいだ。まぁ、5人姉妹に挨拶もしたかったので問題は無い。

 噴水広場に立っていると、ヤマトの傍に魔法陣が現れて、ララとウリスケが浮かび上がるように出て来た。


『マスター!お久しぶりなのです』

『グッグッグゥ―――――ッ!』


 ララがニパーっと笑顔をバストアップ画面で見せ、その後ろでウリスケがピョンコピョンコ跳ねて喜びを表している。

 ララよ、君はこの1週間ずっと僕の傍にいた筈なのに、正直お久しぶりはおかしいと思うぞ。

 そう彼女は、僕の端末のメモリーに入り込みずっと一緒に過ごしていたのだ。


「いや、久しぶりじゃないだろ………」

『昨日ぶりなのです』


 そういう事らしい。


『グーッググッググーッ!!』


ウリスケがすごい元気だ。ウリスケとはホントに久し振りだから、ゲーム内時間だと2週間になるのか。


「ウリスケも久し振りだな。悪かったななかなか来れなくて」

『グッ!』


 問題無しっ!と言うように右前足をピシッと掲げてひと鳴きする。うんうん元気そうでなによりだ。

 しかし宿屋でログアウトしてもログインの場所は固定されてるってのも不思議だ。

 まぁ、下手に宿屋でログインしてその間に滞在した分のお金を請求されても理不尽を感じることもあるだろうから、これはこれでいいのだろう………か?

 後で教えて貰った情報によると、ログイン時の出現場所は自分のホームやクラウンハウス以外は、登録した街の決められた場所になるらしい。もう少し情報を集めようよ僕、と思ったが多分調べることはしないだろうの僕クオリティ。

 

 ひとしきりララとウリスケと戯れた後、冒険者ギルドへ顔見せに行くことにする。

 トコトコと石畳の道を横切り冒険者ギルドの中へと入ると中は閑散と――――していなかった。何人かのPCが掲示板の前に立って依頼を見ていたり、テーブルにも何人かが座って寛いでいた。

 何でか知らないけど、どうやら以前と状況が変わったみたいだな。

 受付にはスーさんがニコニコ顔で座っている。すっごい御機嫌だ。


「どうもスーさん」

『あっ!ヤマトさん。この間はありがとうございました』


 こちらを見て立ち上がり笑顔でお礼を言ってくる。

 だいぶ時間は経っていてもお礼を言われるとやはり嬉しい。


「いえいえ、喜んで貰えてたら何よりです」


 少しだけ声を顰めて周囲の状況を聞いてみる。


「あの………これって何があったんですか?」


 スーさんがギルドの中を軽く見回してニコリと笑って答える。


『ちょっと前に何かの集まりがあったらしくて、それからこちらにも寄ってくれるようになったんです』


 どうやらグランドクエストとやらのお陰で、ここに気付いたPCが寄り付くようになったみたいだな。

 5人姉妹も美人だからある意味当然と言えば当然か。

 サァンさんの宿屋は僕が作った厚切りステーキをメニューに加えて繁盛しているらしい。勝手に使ってゴメンナサイと謝ってきたが、僕は問題ないことを言って了承する。

 作業工程は見てなかったと思うけど、たぶんサァンさん独自の料理だと思うから、僕としては了承も何もないのだが、スーさんが納得するのならばそれでいい。


「僕達プロロアに戻るので、とりあえず挨拶に来たんですよ」

『そうなのです』

『グッ!!』


 僕の言葉にララとウリスケが頷き返事する。スーさんは眉尻を下げながら残念そうに話してくる。


『………そうですか。よかったらこちらに来た時は、寄って行って下さいね。もちろん依頼を請けて下さるととっても嬉しく思います!』


 別れを惜しみながらちゃっかりクエストの宣伝をする所は、何気にしっかりしてきたみたいだ。

 画面の向こう側から僕は頷き了承する。


「わかりました。その時はお願いします」


 そこへPCが依頼書を持って受付にやって来たので、それを期に僕はその場を離れることにする。


「じゃ、失礼しますね」

『ありがとうございました』


 スーさんに挨拶しておけば、他の4人にはいいなかと思い冒険者ギルドから出ると、何故か4人が待ち構えていた。


『ちょっと水臭いじゃない』『何?挨拶無し?』『また来るんですよね』『………ども』


 一辺にまくしたてられて思わずピックリしてしまう。突然目の前にいられると驚くよね。ララとウリスケも同様に目を丸くしている。

 イーさん、リャンさん、サァンさん、ウーさんと少しばかり話をしていると4人それぞれにお礼を言われてしまう。んー特にお礼を言われることはしてないと思うんだけど、おそらく姉妹全員そういう所は頑固そうなので、あえて受けておくことにする。でもこういうの照れるよな実際。


「それじゃ、行きますね。いろいろ有り難う御座いました」

『ありがとうなのです』

『グッグッグッ』


 照れ隠しに別れの挨拶をするとララとウリスケもそれに続く。4人もそれに応えるように言葉を返してくれる。


『またね』『こっちに来たら必ず寄ってよね』『待ってるねぇ』『………ども』


 サァンさんは何か言いたそうにしているが、結局は言葉を濁して終わってしまう。ま、次の機会があったら聞いてみるのもいいだろう。

 そう思考を切り替えて西へと身体を向けて歩き始める。

 時々振り返ると、4人はまだこっちを見送ってくれている。

 村の入り口まで来た時、声が聞こえてきた。


『………この前はこめんなさいなし!あと、ありがとなし!』


 サァンさんが声を上げて叫んできた。

 振り返ると恥ずかしそうにウーさんの後ろに隠れている。

 僕はシーンアクトで手を振って再び歩き始める。………彼女達は本とにプログラムされたものなのだろうか。あんな様子を見てしまうと、ついそんな考えが浮かんでくる。


『マスター、みんないい人達だったのです』

『グッグッ!』

「ん、そうだな。機会があったらまた来ような』

『はいなのです』

『グッグーッ!』


 そんな会話をしながらプロロアへとのんびり足を進める。青空の中雲が流れる様子を見てると、画面の向こうであるにも関わらずなぜだかリアルに感じてしまう。

 でっかいオブジェの円門を抜けてさらに西へと進んでいく。

 近寄ってくるモンスターは少ないが、それでも時折りやって来るのを倒していくとSEが鳴ってレベルアップを知らせてくれる。


『マスター!レベルアップしたのです!』

『グッ!』

「うん、ちょっと見てみるから待っててくれる」

『はいなのです』

『グッ』


 一旦立ち止まりメニューを開きステータスを確認する。

 おおっ、知らない間にレベルが20を越えていた。


【氏 名】 ヤマト

【種 族】 人族

【性 別】 男

【ギルドランク】 D

【Level】 21

 [H P] 332/360

 [M P] 117/160

  EXP 15200

  GIN 23200


  STR 43

  VIT 43

  AGI 38

  DEX 36

  INT 37

  WIS 38

  LUK 18


[メインスキル 5/5] 斧 水魔法 土魔法 付与 調理

[サブスキル 9/12] 調薬 採取 身体能力+ 魔法耐性 索敵 鑑識 従魔 火魔法 風魔法

[装 備] 鉄の斧 冒険者の服 皮のかぶと 皮のよろい+1 皮のくつ クリスタルアミュレット


[称 号] 円門1の通過者 


 んー、知らない内にステ-タスが軒並み上がっている。これならプロロアの森に行っても充分に戦えるんじゃなかろうか。


「……………」

『どうしたのですか?マスター』

『グッ?』

「ん、何でも無いよ。うん」


 いや、斧とか服とか買ったのに装備を変更していなかった事に今気付いた。

 ………もっと早く気が付いていたら、モンスターとか楽に倒せてたかも知れないな。何とも迂闊な事だ。

 僕はさっそく買っておいた装備をメニューを出して変更しておく。ついでにメインスキルにある調理を風魔法へ変更しておく。

 これで大分戦闘は苦労せずに済むかも知れない。

 今回はプロロアの森を攻略しようと思うので、未踏破部分はそのままに東街道を西へと進み、プロロアの街へと到着する。


 門をくぐり歩いて行くと何やら人だかりがある。一体何だろうかと見てみると、人の輪の中に2人のPCが対峙して戦っていた。


「何でこんな所でプレイヤー同士で戦ってるんだ?」

『マスター、あれはPvPなのです』

「PvP!?」


 知らない単語が出て来て思わず言葉を繰り返してしまう。


『はいなのです。プレイヤー同士がいろんな理由でお互いが決着を着けたい時とか、ただ戦いたい時とか用途は色々なのです』


 んーゲーム内で格ゲーやるみたいな感じなのだろうか。

 人垣の隙間から垣間見ると、1人は全身鎧の両手剣持ち、もう1人は身軽な姿をして腕に武骨な籠手を両方に着けた小柄な少女がステップを踏んでる。

 体格からして少女の方がどう見ても不利に思えてしまう。

 どうやら3本勝負らしく互いに1本づつ取っていて次が最後のラウンドで2人の間に数字が出ててカウントダウンが始まる。


『3・2・1・Fight!!』

『旋風剣っ!!』


 戦闘開始と同時にアーツを放った全身鎧が突進して両手剣を横薙ぎすると、暴風のエフェクトが巻き起こり少女へと襲いかかる。

 少女はそれをヒョイと飛び上がって避けると、さらに宙を蹴って全身鎧へと突っ込んで行く。


『三方撃突っ!!』


 こちらもアーツなのだろうか、技の名前を叫んで全身鎧へ正面から拳を突き出す。それを両手剣を前に出し防ぐ全身鎧。しかし、少女は分身したかの様に少女を起点に時計回りに4時、8時の位置に現れ全身鎧の胴体へ突きをドンッドンッと喰らわせる。その一瞬で勝敗が決する。

 ガラスが割れるガシャンという音と全身鎧の身体がガクリと崩れる。


 パパパパ――――――ンッ!!!

『“アサヒ”WIN!!”』


 あの少女はアサヒという名前みたいだな。あの強さを見ると凄くレベルが高そうだ。

 ギャラリーがおおっと湧き上がる。そしてPvPが終わってお互いが握手をしている。


「いやーすごかったなー」

『すごいのです』

『グゥ?』


 僕とララは人垣の間から見ていたが、ウリスケは何があったのか分からなくて首を傾げている。

 僕にはあんまり関係なさそうなというか縁が無さそうなプレイだなぁと思いながら人だかりを離れ西門へと向かう。

 その時、2人の声が何故か聞こえてきた。


『えっ?君はカラミティとパーティーを組んでたのかい?』

『?誰でしゅか?その人は』

『ああ、奴は―――――』


 そんな声が聞こえてきたが、僕は気にする事もなく通り過ぎていった。


 さて、プロロアの森でリベンジだ。




(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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