56.とあるプレイヤー達のグランドクエスト
いつもより少し長めです
Pt&ブクマありがとうございます(T△T)ゞ
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(最近気付きました)
いよいよ明日に迫ったグランドクエストを前に、この1週間のきりきり舞いのてんてこ舞いを思い出し、つい溜め息を漏らしてしまう。
サキと秘書のスワちゃんに説教されて反省中に、VR版【アトラティ-ス・ワンダラー】を始めることになり、1日5時間スワちゃんとプレイするはめに。
なおかつ今頃になってキークエストが発動して最初の頃にやるはずだったグランドクエストが始まることとなった。
少しばかりキーくんに恨み言のひとつも言いたくもなるが、そもそもが1stクエストクリアの事をすっかり忘れ抜け落としていたのは、他ならぬこちらなので口を噤まざるを得ない。(言ってもサキに反撃される)
このグランドクエストの大まかな設定は、コボルタン(犬型の人タイプモンスター)の軍団と街で1stクエストクリアのプレイヤーのどちらかが倒されるかの時間制限有りの殲滅戦だ。
そこへ参加するプレイヤーが街々で登録して、それぞれ各々のステージに移動してクリアプレイヤーを守りながら戦う訳である。
プレイヤーが選べるステージはプロロアを除く第2サークルエリア内にある村と町の8つ。
東がマルオー村、人族の街カアント、エルフの街フォセスチア、獣人の街ビステス。
西はルウージ村、人族の街カアンセ、ドワーフの街ヘカヘトス、魔人の街デヴィテスになる。
登録された人数により、モンスターの数などは調整する訳なのだが、モンスターのステータスパラメーターのバランス調整が問題になった。
プレイヤーが強くなり過ぎてしまったのだ。
ゲーム開始当初のグランドクエストの予定だったので、コボルタンの強さはそれ程でもない。いや、むしろめっちゃ弱い。今のままで始まればプレイヤー側の無双で蹂躙戦になるのは目に見えている。
なので急遽スタッフ総動員でグランドクエストへ向けての再度のバランス調整とステージの作成、改めてモンスターの作成が始まったのである。
という訳で急遽8つに分けてチーフを据えてチームを組み、人数に合わせたステージの大きさを数パターン組み上げていきトラップやアイテムの配置をする。
そしてモンスターの作成とバランス調整はサキを中心としたチームで作ってもらう事となった。ますますサキに頭が上がらない。
そもそも何でサキを追い出そうなどと思ったのかが、自分でも今だに分からないのだ。
確かあの男と何度か食事をしたり飲んだりしていたことは記憶があるのだけど、その度に部屋に甘ったるい様な香りがして何を言われたのかそこの記憶が定かでないのだ。
プレイヤーの苦情を元に始まった反抗だったが、そもそも根本的なことが抜け落ちてたので意味が無かった。
しまいにサーバーコンピュター?まで出て来るし、踏んだり蹴ったりだ。
まぁ、ゲーム開発がやりたくてシステムエンジニアになって、ゲームとは関係ないシステムを組んでた所に年下の友人であったサキにゲームの会社をやってみない?と悪魔の囁きに乗って、今の地位にいることを考えれば、サキを排除しようなどとはあまりにもあまりにもアホウだったと思わざるを得ない。
男に甘く囁かれ、精神も身体も翻弄されて………。人間こわっ。
反省と称してHMVRDを被せられてライドシフトの後ログイン。
サキとスワちゃんに集られて勝手にキャラを作られてしまう。酷くないか?これ。
名前だけは何とか自分で付けることを死守してこんな感じに出来上がった。
【名 前】 ラミィ
【種 族】 ドワーフ族
【Level】 1
【ギルドランク】 F
[H P] 80/80
[M P] 10/10
EXP 0
GIN 2500
STR 12
VIT 12
AGI 4
DEX 4
INT 5
WIS 4
LUK 5
[メインスキル 5/5] 鞭 火魔法 身体強化+ 短剣 小槌
[サブスキル 0/10]
[装 備] 皮の鞭 旅人の服 皮のよろい 皮のくつ
「………」
何でこういうチョイスになるのか正直分からない。ドワーフ?しかも攻撃特化のスキルばっかり有り得ないんですけど。
あんたらあたしを何だと思ってんだと問い詰めると、だってミラだしと返される。解せぬ。
何でわたしがドワーフなんだと聞くと、ミラっぽくね?と返される。さらにあんたこの手のキャラメイクめっちゃ時間かけるじゃない。時間無いんだから諦めなさいと一刀の元にぶった斬られる。
………まったくサキの言うとおりなので諦めてドワーフさんで始めることにする。
ひゃっっっっふうぅ~~~~っ!!
ゲームの中に入った私は驚喜した。視点がいつもより低いのだ。リアルでは、高い身長の為に見下ろすばかりだったのに、ここでは身長が低いので見上げるばかりになる。ワンダホー、アーンメイジング!!
喜びを表そうと飛び上がろうとしたところで頭を小突かれる。
いたっ!誰だっと見上げると紅い全身鎧をまとった騎士が横にいる。
「ほらっ、冒険者ギルドに行くよっ」
面当てを上げると蒼銀髪の美麗人が黄金色の瞳をこちらに見せている。
「はいはい、行きますよ、しゃ……ラミィさん」
反対側には黒のローブ姿のエルフが、自分の背丈ほどある杖を持ってこちらに話しかけてくる。
「サキにスワちゃんか?」
2人が同時に頷く。へぇ~2人ともなかなかカッコイーじゃないか。マジマジと2人を見てると視線の端で何かがチカチカ点滅している。何だろうあれ?
「なぁ、サキ。あそこで何かチカチカしてるんだけど、あれ何だ?」
わたしの問いにサキは少し呆れる様に肩を竦めて答える。
「あたしのプレイヤーネームはキサラね。あと自分がシステム組み込んだの忘れたの?」
「ちなみに私はアンリエルです。以後よろしく御願いします」
ゲーム内の名前を教えられ、なる程と思い2人の名前を頭に刻みサキの言葉を反芻する。組み込んだ?何を――――――
「あっ」
思い出した。隠しイベントのキーアイコンだ。自分で組み込んで忘れてたっつーか2年以上の前の事なんぞそう憶えているもんか。
「ほらほら、急がないと死んじゃうよ?」
サキの言葉に私は慌ててアイコンのところまで行って、手持ちのポーションを与えて隠しイベントを起こさせる。アテンダントスピリットはランダムでプレイヤーに与えられるので何が来るのかは運次第である。開発してる私達でも分からない。
で、私のパートナーになるのはどうやらコロボックルのようだ。
紫色のふわふわの髪にベージュ色のスモックにかぼちゃパンツ。通い始めの幼稚園児みたいだ。
苦しそうな表情を見せるこの子を手に乗せて急いで道具屋へ直行する。
これが地獄の1週間の始まりだった。
グランドクエストの準備の傍ら、サキ達と共にゲームに潜り犬とかウサギとか鳩とかと戦いレベルを上げていった。
その中でアテンダントスピリットのエレレだけが心のオアシスだ。(2人ともやたらと厳しい。くっ)
戦闘ではエレレがサポートしてくれかなり楽な戦いが出来ている。(どうでもいいが2人も戦って欲しいところだ。)
「アネ様!左からワイルドッグが来ます!」
「わかった。でりゃぁ」
アップアームズで振り下ろされた鞭がブルドッグの頭を打ち付け続いてサイドアームズで横へ吹き飛ばすと、光の粒子となって消えていく。
「やったのです!アネ様」
「うん、ありがとーエレレ」
私の肩に乗って笑顔を見せるエレレ。あー癒されるわー。
こうしてエレレのナビと2人の促成栽培で円門1の通過者の称号を得て、Lv15迄上げさせられる。まぁ、楽しかったからいいけどさぁー。
一方でモンスター等の再構築も何とか目途が立ちそうでほっとしていた。
グランドクエストが発動した翌日。会社で私とスタッフが大わらわになってる時に、サキがスーツ姿とオーバーオールにパーカ-姿の女性2人と開発室にやって来て助っ人を雇ったと言ってくる。
あれ?女性の1人はタジマじゃん。茶髪マッシュルームカットの小柄な、女性というよりは女の子といった風体だ。
タジマはちーっすと挨拶してきた。2年以上前に家業を継ぐといって辞めた筈だが、一体今頃どうしたんだろうか。あ、いや助っ人なんだけどな。
こうしてわたしと相談の結果、作業を分担し各街のステージ作成をわたし達が、対戦用のモンスターの再構築をサキ達が担当することになった。
「モンスターの再構築はあたしとタジマちゃんとキタシオバラくんがメインでやるから、ウィークリーパートタイマーって事で呼んだからよろしく!」
最初はいい顔をしなかったスタッフ達だったが、以前のスタッフだと知り表情も緩む。
いや待て、今聞き捨てなら無い名前を言わなかったか?えっ?キタシオバラぁっ!?目の前にいるのは、わたしより少しばかり背の低い(女性にしては高い背の)女性にしか見えない美人顔の、彼?はニコリと笑顔を見せて「お久し振りです」と女性の声で挨拶してくる。え~~っっ!どう見てもこれ女子だよっ。開いた口が塞がらない。古参のスタッフも「えっ?えっ?え~~~っ!?」と声を出してる。
「それじゃ、あたし達モンスター担当するから、バランス調整も任せて貰える?」
少しばかり衝撃が強すぎたので、その言葉に何も考えず頷いてしまう。
「分かった。じゃ街のステージとキープレイヤーの件はこっちでやっておく」
「あ、キラくんにはあたしから話しておくから!」
「ああ、頼む」
それが伝説のグランドクエストと後々まで語られる事になろうとは、その時のあたしには全く想像もつかなかった。
はじめに設定されていたコボルタンから大幅に強さとグラフィックを変えて、鉄の鎧と剣と盾を持ったコボルタカスへと変更される。
そして新たにコボルタカスメイジ、コボルタカスアーチャー、コボルタカスナイトそしてコボルタカスジェネラルが作成される。
次々と提出されるモンスターの決裁をしながら、何故か背中にジトリと汗が滲むのを覚える。大丈夫だよな………。
4日程でモンスターの再構築が完了し、ステージの方も8割方が出来たところでキープレイヤーの選定に掛かることにする。
とは言っても各街の冒険者ギルドで最初にクエストを請け達成したプレイヤーなのだが間が空いていた分、参加しない、もしくは出来ないプレイヤーもいると思われたので、2番目、3番目のプレイヤーに割り振ろうと思ったのに連絡した7人のプレイヤーは全員が参加だった。どんだけこのゲームやってるんだよ、ありがとうございますっ!
問題はマルオー村のキープレイヤーなるキーくんの扱いだ。(言いにくっ)
そもそもサキが1ヶ月程かかって組み上げたシステムはあまりにも馬鹿げた物だった。
AIの実験とはいえ、VRシステム上の空間にモニターヴューのシステムを動かすことなど本来あり得なかったのだが、キーくんにゲームをやって貰いたいがために組み上げてしまった。
要はVR版とモニターヴュー版を同時展開し、その都度データを双方向でやり取りしている訳だが、100、200人位なら問題なく行えるデータのやり取りも1000人規模のものになると不具合が出るおそれがある。
それぞれのデータ量に差が有り過ぎてラグる可能性も出て来ることになる。
そこでキープレイヤーになったキーくんにはグランドクエストの参加を見合わせてもらい、別の人間を立てて行う訳である。
キーくんはサキの頼みにあっさり承諾し、参加しないことを約束してくれる。ただ、キーくんのアテンダントスピリットがグランドクエストを楽しみにしてたと言うと、サキが任せてと何かやり始めたようだ。
その結果、次のキープレイヤーを何故か私がやることになってしまった。こういうの良いんだろうかと言うと、2人は肩を竦めていいんじゃない?と返される。
そして3日前にグランドクエストの告知がされ、それぞれの街でプレイヤーの登録が行われた。
その総数は4万人に迫る数となり、少しばかりデータリンクに不安をおぼえたがサーバーAIのレイさんが余裕でへっちゃらですとか言ってきた。
こうしてわたし達は開始時刻の30分前に各々の街で集合し、ステージへ転移してグランドクエストが始まるのを待ち構えている。
わたし達マルオー村のステージはだだっ広い草原のステージだ。
見渡す限りの草っ原。ところどころに潅木が茂っている他は、地平線が見ることが出来る。現代日本ではなかなか見る事の叶わない風景が広がっている。
わたし達は砦の様な石造りの建物を背に立っている。両脇には紅尽くしの全身鎧の騎士と、派手な杖を立て掛けた黒ローブ姿のエルフ。周囲の人間がわたし達―――――と言うかサキとスワちゃん達を見てざわざわしている。
「あれって………」「紅?まじか?でも……」「私、引退したって……」「クロの魔女さまぁ!?……」「何?なに!」「ちゃ、ちゃ◯ふぁう!?」「アテスピ?……ちがう?」「紅き鎧様とお揃い……」「うらやまs……」
雑音がやかましい。サキはともかくスワちゃんまでもが有名だったと初めて知って、目を丸くしているところへ女の子3人がこちらにやって来た。
「あ、あのっ………紅き鎧さんですよねっ!握手して下さい!!」
女子3人がサキへ向かって手を出してくる。サキは鷹揚に返事をして3人の手を握り返す。ヅカの男役を意識してるらしい。
「お互い頑張ろう!」
「「「はいっ!!」」」
3人は嬉しそうに返事をして自分達のポジションへ戻っていった。それを見ていた他のPCが自分達も行こうと動き出した瞬間、上空に大きく人が映し出される。
うねるような長い髪をなびかせた美女の上半身が現れ慈愛の眼差しを下に向け話し始める。
『ワンダラーの皆さん。この度のグランドクエストに御参加ありがとうございます。私がGMをつとめますこのグランドクエストのルールと注意事項を説明させて頂きたいと思います。まず――――』
そう言ってサーバーAIのレイさんが説明を始める。うん、仕方ないよな。スタッフの半分はバタンキューして、もう半分は何故か参加してて誰も管理する人間がいなくなったのだから。(それじゃダメじゃんと思うが、可能だと言われればまぁいいかという気になってしまった)
彼女なら万事そつ無く執り行ってくれるだろうから安心はしている。
周囲は彼女の姿を見上げザワザワと呟くように声を上げている。それは他の街のステージでも同様だ。
「あの人がGM………」「あの声ってボスモン倒した時の―――」「ふっほぅ〜!」「女神さま……」「おおっ、女神さまっ………」「女神様だっ!!」
「……………」
何かみんなが一斉に(=人=)となっている。拝んじゃってる、柏手打ってる奴もいるしノリいーなあんたら。
『以上で注意事項と説明を終了します。制限時間2時間の間にフラッグプレイヤーを倒された時点で、その街ステージの戦闘は終了します。フラッグプレイヤーを守りながら相手側の総大将を倒して下さい――――』
時刻は午前11時59分を示す。
『それではグランドクエスト、ワンダラーVSコボルタカス軍団戦を始めます。それでは……スタート!』
銅鑼というか和太鼓のような音がドンジャーンとなり響きウオオォォォオオオォオ―――――――ッという鬨の声が鳴り渡る。
それを合図にPC達が前方へと走りだす。ちなみにあたしはフラッグプレイヤーなので砦の上で見てるだけだ。反対側の砦には、コボルタカスジェネラルが陣取っており、隣でローブ姿のコボルタカスが詠唱をしている。でかい魔法撃つにしても距離がありすぎると思うけど。
隣にはサキとスワちゃんの姿もある。そしてサキの肩には紅い鎧に身をつつんだアテンダントスピリットが興奮した様子で前を見ている。
「スゴイのです!キサラさまっ!」
「ゴメンねぇ〜。前に出たいだろうけど我慢してね」
「大丈夫なのです。でもここまで来たらバンバンやるのです!!」
シュッシュッとシャドウボクシングのように拳を打つ真似をする。そしてわたしの前にやって来て、エレレに面当てを上げて話しかけて来る。
「エレレさんも頑張りましょう!」
「はっ、はい!ララ様!!」
「“様”はいらないのです」
にっこり笑って“様”を拒絶するララちゃん。困惑するエレレにわたしも困惑する。何か敬ってる感じがする。尊敬というより崇拝が近いか。
「でもっ、わたし達のコアプっ………」
「“様”はいらないのです」
エレレの口元を指で抑え笑顔で会話を止める。笑顔怖っ。
「は、はいっ。よろしくお願いします。ララさん」
エレレがそう言うと良く出来ましたと言う風にニパリと笑うララちゃん。笑顔が(ry。
各街のステージの状況を映すホロウィンドウに変化が訪れる。先行するPC達の前に整然と列を為し進軍するコボルタカスの兵士達の姿。まるで古代の戦史に出てくる様な鉄の兜と鎧を纏った兵隊のの群れが、戦いの前の高揚を抑える様に静かに行進してくる。
1体1体はLv80台のPCが2、3回の攻撃で倒される様に調整している筈だけど、どうだ?
先陣を切って突っ込むPCは高レベルだったようでコボルタカスの1体を剣の一撃で倒してしまう。
それを機に雪崩れ込むように戦端が開かれる。
人数の比率としては、PC1でモンスター1.5程。このマルオー村のステージで言えばPCが大体500人位なので、向こうは750体。
他の街ステージだと4、5000人位いたりするとかなりの数となる。それに所有スキルとのバランスを兼ねて、アーチャー、メイジ、ナイトの数も調整配置されている。あとは、PC側がどういう戦略を組んで行くかで戦いの様相も変わって行くだろう。けどPC側は連携も何もあったものではなく、バラバラに個々でひたすらコボルタカスを屠っていく。
30分程が経過してPC側有利だった戦局が徐々に傾き始める。戦い方を学習し始めたコボルタカスが反撃を開始したのだ。
先陣を切って突入して来た高レベルPCを自陣深く誘き出し複数体で集り攻撃し(ようは袋叩き)、また1人のPCに対して、防御と攻撃を役割り分担し3~4体で相手取り隙を見せた所で集団で倒していく。あるいは魔法や弓の攻撃を受け倒していく。
それは他の街ステージでも同様で、半分まで減らしていたコボルタカスの数と反撃を受けたせいでPCの数が同等数になってしまう。
今まで集団戦を蔑ろにしてきたツケが回って来たようだ。ビビッて後退するPCも出てきている。
「おっおい。どうすんのこれ?」
急に劣勢に立ち始め、私は慌ててサキに問い掛ける。
「アネ様はわたしが守ります!」
エレレ、か~わい~~~っ!いっやされっるぅ~~~~ぅ。ふ~ぅ。
「んー、じゃちょっと行って来るわ。少しの間頑張ってね」
「では、私もちょっと行ってきます。魔法と弓にはくれぐれも気を着けて下さい」
何だよー、フラグ立てるなよなぁーっ。
そう言って2人は砦から飛び降りて、コボルタカスの軍勢の中へ向けて走って行った。
サキとスワちゃん2人が疾風の如く戦場の中央を駆け抜け、戦闘の激しい場所へと赴きサキがイミットアーツの一撃を―――――――
「《グレイヴフェイタルインストラタクト!!》」
ドゴォォォオオアアアァァァァンン!!!
という轟音と共に1体のコボルタカスを襲った攻撃は、一瞬でそれを消し去り、さらに衝撃波は後方にいたコボルタカスを一掃する。
そこへ詠唱の終わったスワちゃんが、火魔法の上位レベルの大規模魔法をぶっ放す。
「《フレイムデプスファルサランス》」
静かに穏やかに紡がれた言葉と真逆に杖の上部にある魔石を中心に9つの炎が踊り舞い上がり、赤と紅と朱と緋の輪舞曲を前方にいるコボルタカス達へと見舞わせる。
ドドドドドドドドドドヴァガガガガガガガガァァァァァァアンンン!!!!!!
火が炎が焔が地をなめ空を焼き息を焦がす。炎が踊り舞い飛び上がり地を削り、コボルタカスを喰い、焼き、燃やしていく。
「みんなっ!!個々で戦うのでなく集団でっ!皆が一丸となって戦うのだっ!!!」
その声に弱気になっていたPCたちの士気が上がってくる。
パーティーリーダーがそれぞれ声を上げ連携を取り始めていく。
やがて他の街々も盛り返し勢いを取り戻し始める。
あちこちの街の戦いを見ながら、やっぱ大手のクラウンはひと味違うな~と感心する。
マップペイント率いるカアンセの街はいわゆる方陣を敷き、武器で前衛を、魔法や弓などの遠距離攻撃で後衛を撃破していく。圧倒的な力量差で地面を塗りつぶす勢いで進撃していく。まさにその名の通りに――――――
「あっ」
魔人の街デヴィテスのステージがゲームオーバーとなる。フラッグプレイヤーが砦から飛び出して戦い始め、コボルタカスナイトに1発食らって、弓と魔法を浴びて消えて行ってしまった。………彼は何をしたかったんだろうか。
それぞれの街が態勢を整えてコボルタカスの軍を制圧し始める。
コボルタカスジェネラルを目前に砦まで来た時、そう制限時間10分前にそれは突然起きた。
ゴゴゴと立ってられない程の揺れがグラグラと起こり空気を叩く。すると上空に緑色に輝く魔法陣が出現して、そこから砦と同じ高さほどの岩で出来た様な巨大なコボルタカスが降って来た。
ドゴォォンという轟音と共に地面に着地すると、こっちに向かって拳を振るって来た。狙いはフラッグプレイヤーのわたしらしい。
「アネ様!逃げてください!!」
いや、無理無理、無理ゲーですがなっ!
わたしはエレレをかばう様に覆い被さり、でっかいコボルタカスの攻撃を受けてやられてしまい、そこでマルオー村ステージはゲームオーバーとなった。
3つの街ステージ以外の他はわたしと似た様な目にあってゲームオーバーとなり、2つがタイムアップで残りひとつがコボルタカスジェネラルを倒し勝利してクリアとなった。
女神のレイさんが賞金や賞品をくばり、また(=人=)とされていた。
で、最後に現れわたし達が酷い目にあったモンスター―――――コボルタカスゴォーレムと名付けられ作られていたそれは、タジマの仕業であった。
コボルタカスメイジの決裁にコボルタカスサモナーを紛れ込ませたらしい。報・連・相ははしっかりして欲しいものだ。シミュレーション時にも気付かなかったのに、よく隠しおおせたものだと少しだけ感心した。
タジマはサキにぐーで思いっきり殴られてべそをかいていた。(サキは少しばかり見抜けなくて悔しそうだった。くくっ)
こうしててんてこ舞いのきりきり舞いだったグランドクエストは終了した。はぁ~疲れた。エレレに癒して貰おう。エレレ~~~~っ。
この後プレイヤー達からの要望で定期的にコボルタカス軍団イベントが常設されることになる。(特に脳筋どもが)
世の中何がうけるか分からないものだ。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




