52.キラくんの行動を観察する その10
姉回です
とあるは姉回の後になります
Pt&ブクマありがとうございます(T△T)ゞ
キラくんからガモウさんにゲームソフトを融通して欲しいとメールが来る。何か朝挨拶をしてたらそんな話になったらしい。ダメならいいよってあったがキラくんの頼みを聞かないなどこのあたしがする訳が無い。
すぐにOKの返事と明日の午後からゲームをプレイしてとお願いのメールを送る。
ふふっ。これでいよいようさたんの聖地へ行ける筈だ。楽しみだけど先に仕事を片付けなくちゃ。
PCを起ち上げ作業を始める。早く明日にならないかなっ。
ミラの会社のゴタゴタを片付けてそのまま会社のテストルーム(個室)でライドシフト。お昼を少しばかり過ぎた時間にあたしはVRルームで資料を見ながらキラくんがログインするのを待っている。
レリーが入れてくれた紅茶を飲みながらウィンドウを目の前に表示してあの事件の詳細なデータをを読んでいる。
レリーと知り合いのPMさんから教えて貰ったその内容はかなり酷いものだった。ハサバさん―――〇〇銀行の偉いさんから謝罪のTELがあったが、さすがにキラくんが襲われたのは許せないことなので謝罪は受け入れてけれど資金は別のところに引き上げさせてもらった。義理と人情は打ち止めなのだ。
しっかしあのミラが篭絡されるなんて、よっぽど口が上手かったのかしら………。
出向役員とした挨拶してきた時にさわやか笑顔でやたらと馴れ馴れしく近づいてきて、しまいには肩を抱いてきたのでボディブローを食らわせてやったら、以降あたしの前に現れなくなったので気にしなくなったのだ。
よもやミラが餌食になろうとは、しかもあたしを排除しようと目論むまで思わせる手腕は侮れないとは思ったが、身内の犯罪に足を引っ張られて自滅してしまうとは、頭いいんだか悪いんだかよく分からん男だった。まぁ終わった事はもういいや。
それによりもあたしが驚いたことは、ミラがゲームを全くやっていなかったことだ。
モニターヴュー版はたしかやってたと思ってたんだけど、まさかVR版は全然手を付けてなかったとは……はぁー。
VRにするって決めた言い出しっぺがVRやらず嫌いとか何ですか?と小1時間ほど問い詰めたい気分だ。
まーこれは後でたっぷり体験して貰うつもりなので、今はいいだろう。とつらつらとウィンドウを見ていると別のウィンドウが表示される。
お、キラくんがログインしたみたいだ。では、さっそくあたしもログインしょう。
「あの……あるじ様」
あたしがゲームソフトを引き出しログインしようとした時、レリーが躊躇いながらあたしに話しかけてくる。
「なに?レリー」
「わたくしがこのゲームに伺うことは可能でしょうか?」
「あら、レリーも【アトラティース・ワンダラー】をやってみたいの?」
「やってみたいというより、あるじ様が嬉しそうにしているので出来れば見てみたいと思ったのです」
「構わないけど……遊んだりは出来ないし見てるだけだよ?」
「はい、もしよろしければお願いいたします」
日がな1日この中に待機してるのも学習機能を備えたレリーにとっては飽きちゃうか。少しくらいは制限を緩めてもいいかな。
「ん、じゃちょっと待ってて設定とID取っちゃうから」
このゲームではPC・NPC・そしてモンスターに至るまでそれぞれIDを持っている。そのうち倒されたモンスターのIDはその都度抹消されリポップするものに割り当てられるのだ。けれどそれにも−(ハイフン)の後にアルファべットと数字が付くので決して同一のものとはいえない。
あたしはその中でアテンダント・スピリットのIDをソートしてそのひとつをレリ―のIDへと割り当てる。よしっと。設定をちょこちょこいじって出来上がる。
とピコンとSEが鳴りウィンドウが現れる。そこに困り顔のレイちゃんが表示され話しかけてくる。
『困りますサキさん。勝手にIDを書き換えたりして。一体何をするつもりなんですか?』
ありゃ、そっか。つい今迄のクセで勝手にやっちゃってたけどレイちゃんが管理してたんだもんね。話とおさなきゃ困るか。てへっ。
「ごめんごめん。あたしが作ったメイドAIちゃんがゲームの中を見たいって言うんで、ついいつもの感じでやっちゃった。中で観光?みたいな感じで見てるだけだから、いいでしょ?」
「申し訳ありませんレイ様。わたくしの我侭で」
あたしは手を合わせて拝み、レリーは深々と頭を下げる。レイちゃんはそれを見て目を丸くしてから溜め息を吐き首肯する。
『も〜仕方ないですね。くれぐれも変なことしないで下さいよ』
「りょーかい、ありがと」
「ありがとう存じます。レイ様」
しゃーないなーと苦笑いを漏らしてレイちゃんが消えて行った。
「じゃ、行くわよレリー」
「はい、あるじ様」
あたしはゲームメニューを呼び出しログインボタンを押す。
ウィンドウが大きく広がり光とともにあたし達を飲み込んでいく。
光が収まるとそこはいつもの噴水広場にある木の上で、プカリとあたしとレリ―が浮かんでいる。
「っ!……これは」
レリーは驚きながらぐるりと回転して周囲の景色を見下ろしている。
あたしはそれを横目に、メギエスを喚び出す。中に魔法陣が現れ拡大すると、そこからメギエスが浮上してくる。
「ガゥ」
「さぁ、メギエス。キラくんの後を追って。レリーはあたしの後ろに乗って」
メギエスの背に乗りレリーへあたしの後ろに乗るように促す。今のあたしの姿は小さくなった戦乙女の格好でレリーはVRルームの姿でゲームの中にいる。大きさはあたしと比較して小学校低学年といったところか。2頭身ボディーが愛らしい。
どうにも座り難そうなので振り向いてレリーの体を抱きかかえてあたしの前に座らせる。
「あっ、あるじ様ぁっ!?」
「メギエス、お願い」
「ガゥゥ~ッ」
あたしの行動に驚き目を丸くしているレリーを両手で抱えて、メギエスにキラくんのとこへと命じる。
メギエスはバビューンと空へ飛び上がり一気に南西の方向へと向かっていく。
しばらくすると南西エリアの中央近くでワイルラビットと戦っているキラくんを発見。でも戦い方は普通とは違っている。ワイルラビットは素早い動きを躱し、または盾で防ぎながら止まったところを攻撃するのが通常なのだけど、土魔法?で転ばせて袋叩きにしている。
あれはララちゃんがいてこその戦い方だな。ウリスちゃんは何気にえげつない。ワイルラビットを2、3回体当たりで突き飛ばし、反対側に回ってまた吹き飛ばすを繰り返し、ワイルラビットは為す術もなく消えていく。なんか間に飛び蹴りも挟んでた気がする。
ワイルラビットを倒し終わり、再び歩き出ししばらくするとキラくんたちの目の前に靄が広がり出す。
上空から見ると半径10mほどに靄が広がりキラくん達を呑み込んで行く。あたし達も慌てて高度を下げて靄の中へと突っ込んでいく。
靄の中に入ると、木の柵と木の門が目の前に現れる。門をくぐり抜けるとあたしは思わず声を上げてしまう。
「ふぅわぁぁぁっ!!」
ここは桃源郷か!―――――
メギエスが記録していた映像で知ってはいたが、これは何と素晴らしい場所なのだろう。グッジョブ!キタシオバラ!!
「あるじ様。ここがハーミィテイジソーンなのですか?」
「ええ、本来このエリアには設定されてない筈なんだけど、初期メンパーの1人が勝手に作ってたみたいなのよね」
あたしの言葉に目を丸くするレリーにあたしはさらに話し続ける。
「そんで日の目を見ることがある筈のなかったこの場所を、キラくん達が見つけちゃったわけ」
呆れる様に息を吐くレリーは、なんとも人間臭い表情を見せる。
と前を見てみると、ヤマトが小っさいうさたんに囲まれじゃれつかれている。
ぐっはぁ!何と羨まし――――っ!!ウリスちゃんは茶毛のネザーランドドワーフっぽいちびうさたんと右に左にパチンパチン手?を合わせてハイタッチしてる。かわいすぐる!!いぇ〜い!
思わず飛んで行きそうになるのをレリーに止められる。
「あるじ様!GMに注意されたのでは?」
ぐっ、イタイところをついてくる。しかしある意味これも生殺しだ。だけどレリーがいてくれて助かった。あたしだけだったら突入していたに違いない。ぐほぉぉっ。
あたしが悶え懊悩してるとヤマトに杖をついたうさたんがやって来る。
長老さんだね。二言三言モニュモニュ言うと、後を付いてくるように指で示し村の奥へと歩いて行く。
そう、キラくん達のお家が出来上がったんだろうと予測したあたし達も、彼らへとついて行く。
村外れの方に長老が歩いて行くと、そこには以前は無かった大きなといえるログハウスが建っていた。
「すごっ……」
「………はい」
うさたんが住むにしてはあまりにも大きすぎるその建物は、人が住むにしてもやはりけっこー大きなものだった。
キラくん達が家の周りを1周ぐるりと回って玄関に戻ると長老たんが家の鍵らしきものを渡してくる。
キラくんが鍵を受け取り長老たんに何やら言うとそれを通訳したララちゃんの言葉に嬉しそうにして村の方へと去っていった。何かしらん。
キラくんが鍵を開けて家の中へと入っていく。
慌ててあたし達も閉まる前に中へと入る。中は何も区切られていないワンルームで、右手の壁に暖炉と調理用のテーブルと水瓶が、反対側の入り口の壁には2階へと続く梯子が立てかけてある。
ララちゃんが2階へ飛んで様子を見たりウリスちゃんは丸太の椅子に座って足をブラブラさせて寛いでいる。
そしてひと息つくと、キラくんがメニューから食べ物を取り出し3人で食べ始める。
その隙にあたし達は2階へと飛んで行き何があるのかを見てみる。
小さい小窓から月明かりが漏れて辺りを照らしている。三角屋根の部分が上に迫るようにあり、高さは低いが布団のないベットが2つと収納用のタンスが1つ置かれている。
あーなんかイイなぁ、ここ。日がな1日こんな所でダラダラしていたいと思わせる、そんな場所だ。
下へと戻ると、食べ終わった3人が家を出るところだった。ありゃんまずい。
鍵が掛けられたら拙いと思ったが、鍵を掛けずに扉は開けられたままだった。
ん?何でと思ってたら、しばらくするとちびうさたん達が「にゅっ」とか言いながら入ってきた。
にゅっ!!なんてぷりちーな!ぞろぞろ合計4人のちびうさたんが入ってきて、各々中で遊んだり横になったりしている。て、天国か!ここは!!
「あるじ様……。後を追わなくとも良いのですか?」
はっ、いけない。思わず思考が蕩けるところだった。
「ありがと、レリー。メギエス、キラくんを追って」
「ガゥッ!」
後ろ髪を引かれる思いをしながら、ログハウスを出てキラくん達の後を追う。
かわいいうさたんたちの家々や作業をしているうさたん達を通り過ぎて、キラくん達の後について門を抜ける。
必ず!また必ずあたしは来るぞ!!待っててちょーだい!
あたしはそう決意を新たにしてラビタンズネストを後にする。(もちろん場所はしっかり登録済みだ)
キラくん達は西門へは向かわず東へと進みだした。東門から戻るのかなと不思議に思いながら後をついて行く。
モンスターと戦いながらさらに東へ進み、北東へと進路を変える。ん?プロロアに戻らないのかしらん。東街道へたどり着くとそのまま街道を東へと進んでいく。
なるぅ。円門でスキルスロットを入手しようってわけか。おそらくララちゃんの入れ知恵だろう。空きスキルに何を入れるか少しばかり興味津々であるが………。ま、たぶん何となく予想はつくけどね。
「あるじ様。この先には小さな村とその先に種族ごとの街があるのですが、人族の街はどうして東西に2つあるのですか?」
「あーそれは街の数のバランスと、人族を選ぶプレイヤーが多かったせいだったかな。それでも偏ったりはしてたんだけどねぇ」
モニターヴュー版のβ版の時もやっぱりその傾向が顕著だったので、幾度かの会議の後にこんな設定にしたはずだった。
キラくんはときおり立ち止まり何やらしているのが見える。身体が光り数字が出てるのを見るとスキルを試してるみたいだ。
ヤマトの行動ログを確認すると【付与】スキルを試してたようだ。ヒーラーとかが良く使ってはいるけど、よくこんなスキル取ったわよね。
そうしてキラくん達が東へ歩いていると前方に巨大なオブジェが見えてくる。
相変わらずでかくて自己主張が激しいものだ。
キラくん達が円門の前に立ち止まりしばらく眺めた後、円門をくぐっていく。ん、これでスキルスロットが2コ貰えたわけだ。この後はプロロアへ戻るのだろう。
ん?あれ?東へまた進みだした。村まで行ってみるのかな。
あるいはその先へ進む気になったのか。何となくキラくんが楽しんでいる気がする。楽しんでるといいな。
あたし達は上空からキラくん達を見下ろしながら後をついて行く。
たしか、ここのエリアはβの時に間に合せで作ったんで、出て来るモンスターも村も1人のエンジニアに任せたんだったっけ。
だからここだけブモーとかブヒブとか名前が鳴き声になっている。
「あっ」
「あるじ様?」
「んーん、何でもないわ」
そういやここのモンスターはお肉がドロップするんだった。
そのお肉ってブランド肉の、ツルガ牛とトキオXとアシカガ地鶏のサンプルを使った味覚野エンジンを組んだって言ってたような………。
タジマちゃんだったよな、確か家業を継ぐって酪農家に転職しちゃたんだよねぇ。
んー腕のいい人がいなくなっていくのは何とも惜しい。でもツルガ牛って食べてみたい気がする。じゅるっ。
キラくん達はこのエリアの初見のモンスターを倒していく。?でもなんか以前と違う気がするような。何気に強くなってない?んにゃ、強くと言うよりは賢くといった方が正確か。そういやそんな事をミラが言ってた様な気がしないでもない。
これをプレイヤーがどう受け取るかで、調整がいるかも知れない。要相談かな、うん。決してあたしとララちゃんのせいではないと思う。
灰闇の中を進み草原からやがて麦畑のエリアへ入っていく。マルオー村までもうすぐだ。
「製作られたものというのに素晴らしい風景でございます」
レリーがその風景を見て感嘆する。
灰闇の中で灯り玉の光りを受けて麦穂がキラリキラリと光り輝く。
マルオー村に到着してキラくんがログアウトをする。今日はここまでね。
(-「-)ゝお読みいただき嬉しゅうございます




