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41.キラくんの行動を観察する その8

姉回です。姉はうさぎ好き

ブクマありがとうございます(T△T)ゞ

 

 

 現れたゾーンボスモンスターは筋肉質の2本足で立ったウサギ人間だった。しかも両手?にはゴツイ手甲がはめられている。ヤマトがカンムリラビットと呟く。ボスの名前なのだろう。

 両手の手甲をガンガン打ち鳴らして構えている。やる気マンマンだ。


 最初は灰闇と靄に包まれた世界から突然現れヤマトへ襲いかかってきた。かろうじて防いだ後は1対3の攻防が始まる。

 ララちゃんが足元を崩し、ヤマトとウリスちゃんが攻撃する。カンムリラビットはろくに攻撃も出来ず防戦一方だ。


 けどHPゲージが3割を切ったところで攻撃が切り替わる。カンムリラビットが咆哮をしてみんなを吹き飛ばすと、体毛が白から朱へと変化していく。

 そしてその強靭な後ろ足で大ジャンプ、空へと飛び上がり急降下してヤマトがいた地面へとパンチを振り下ろす。


 激しい地響きと轟音、土煙と礫が周囲に巻き上がる。再びカンムリラビットが大ジャンプ。しかし、ヤマトもパターンを把握したのか前方へ向かってダッシュして範囲外へ逃れると振り返りざまにアーツを放つ。

 少しばかりのダメージを与え隙を作るとウリスちゃんが体当たり、そこへララちゃんとヤマトの魔法、そしてまたウリスちゃんの体当たりといった具合でダメージを与えた後、ヤマトのコンビネーションアーツでとどめを―――――さす迄には至らず、そこへ落下中のカンムリラビットへウリスちゃんが正面にジャンプして体当たり。


 そしてついにカンムリラビットを倒してハーミィテイジゾーンが登録されると、靄が晴れ周囲の風景が変わって木で出来た柵と門が現れる。

 門にはラビタンズネストと表示されている。


 あたしはこのゲームの基本設計とシルテム周りを担当したけど、街やフィールド、モンスタークリエイトは他のSE(スタッフ)に丸投げしていた。

 だからおおまかな概要や、スペック等は後から作られたものを大雑把に確認しただけだった。


 モニターヴュー時代から考えると初期メンバーになると数えるほど少ない。そして南西エリアを担当していたのは………ああ、キタシオバラくんだ。

 可愛いもの好きでいつもぬいぐるみを側に侍らせていた彼。何気に優秀なSEで当時社内では引っ張りだこだったのだが、ある日“僕は僕の生きる道を見つけた!!”と言って辞めてしまった。


 風の噂では“TSヘヴン(にちょうめ)”というところで見かけたとか聞いたことがある。

 彼は南西エリアの統括責任者をやりながら、どうやらコンナものを仕込んでいたようだ。ほんとの隠しエリアとか恐れいった。

 今はもういない彼のことを思い出しながら映像を見る。ヤマト達が門を抜け進んでいくと、そこにはウサたんの楽園があった。


 楽園は本当にあったのだ。


 見渡す限りのウサたんの群れに小さなお家。まるでシ◯ルバニアファミ◯ーを彷彿させる光景にあたしは眼と心を奪われる。

 現実ではありえないその風景に、あたしはふにゃあんと顔を蕩けさせる。

 ただのウサたんではない。“2本足”で立ち動くウサたんなのだ。

 グッジョブ!キタシオバラ!!あんた最高だ!!


 だがこれは記録された映像だ。いくら行きたくても入れないことに気付き、ぐっと唇を噛みしめる。何て事だ、これを知った今ではある意味拷問にも等しい生殺し!

 ラビタンズと呼ばれるうさたん達はヤマトを歓迎し、広場で宴を開いてくれていた。

 モフモフに囲まれるヤマトを見てただただ羨ましさがこの身を焦がす。いいな〜ぁ。


 宴が終わると、長老っぽいウサたんがもにゅもにゅヤマトに言ってるようだ。何気にララちゃんが通訳してる。

 長老さんが先を歩き、それに付いて行くとそこは少し広めの空き地に、その周囲に林が広がっているところだった。

 ララちゃんの通訳によると、木を伐ってくれればお家を建ててくれるという。ステキ提案、まじぃ?

 そしてヤマトが木を伐り始める。2本3本と伐っているとララちゃんが声を掛けてくる。その声にヤマトがまた木を伐るアクションをした後、一瞬動きが止まったかと思うとまた木を伐り始める。


 どうやらキラくんが操作をオートアクションプレイへ切り替えたのだろう、ぎこちないながらもだんだん木を伐る速度が上がってくる。その向こうではウリスちゃんが体当たりで上手に木をなぎ倒してる。あの娘は別格だね。


 そして目にした驚愕の事実!伐り倒された木々を1本づつ1人でひょいとウサたんが担いで運んでいたのだ!!


 華奢なのに力持ち。膂力があるのにめちゃかわいい。な、なんて相矛盾するものが一緒に存在するこの事実!

 はへ―。なんか見ててな〜ご〜む〜。

 ひょいひょい木を積んでいくウサたんを見て和んでいると、メギエスがガゥと吠えてキラくん達が領域エリアから出て来たのを知らせてくれた。むむっ!仕方がない動画を見るのはここまでにしよう。(後でバックアップを取って置かなければ!!)


 エリアから出てきたキラくん達は西へと歩を進める。どうやら森の中を移動して探索をするみたいだ。

 この森のモンスターは特に集団で集って来るので厄介なのだ。盾役がいないとけっこー辛いものがある。はてさてどうなることやら。


 最初のモンスターはワイルビー。いわゆるハチ型のモンスターだ。昆虫系は小さければ気にもならないが、大きくなると不気味さが特に増す。節足の光沢とか、体表の艶めかさとか、女性PCはほとんどが出会った瞬間悲鳴を上げる。

 しかも“ギャ――――――ッ”とか“びぎゃゃ――――――っ”とか濁点が付くやつだ。

 けどキラくん達はそんなワイルビーをものともせずに、幸い1匹だったのであっさりとそれを倒してしまう。おー、なかなかの手際で少しだけ感心する。


 気を良くしたキラくん達だったが、次に出て来たモンスターに慌てて逃げ出すことになる。

 3匹編成のビッグスパローが全部で3つキラくん達に迫っている。回避の為、東に方向を変えて走り出す。いい判断だ。

 ビッグスパローがキラくん達の上を通り過ぎざまに、プップップっとフンを撒き散らす。あれやだよねぇ、ゲームだから気にしないというものあるかもだけど、気分的にはいい感じはしない。やだ。


 ララちゃんのナビで辛うじて少しのダメージで済ませながら森を何とか抜け出せた。

 グッタリ疲れたように肩を落とすララちゃんとペタリと地面に這うウリスちゃん。キラくんは当たり前だが平気そうだ。

 ひと休みした後、南へ向かい西街道に入ってプロロアの街までまっすぐ足を進める。門を抜け時計台広場から冒険者ギルドへ向かおうとすると、ウリスちゃんがストトトと屋台通りの方へ走っていった。


 それをキラくんが追っていくとウリスちゃんがひとつの屋台の前でピョンピョン飛び上がっている。どうやらあそこの屋台の料理が食べたいようだ。ウリスちゃんって何気に食にうるさいよね。

 その屋台はどうやらたこ焼きのお化けみたいなのを扱っているようだ。お店の人が器用に大きめの丸いものを転がしている。


 何でそんな事が分かるかというと【遠視】スキルを使って見てるからだ。

 屋台の暖簾には玉粉焼きの文字が踊っている。何気に色んな料理を売ってるよね、この街。美味しそう。 1人に2個づつ注文してお店の人がそんなに食べれるのか心配するが、現れたララちゃんとウリスちゃんを見て納得する。

 出来上がった玉粉焼きを3人がそれぞれ食べ始める。ララちゃんとキラくんは木串を使って器用に崩しながら、ウリスちゃんは後ろ足で座りながら前足で玉粉焼きを持ってガフガフ食べてる。熱くないのかな。


 ご機嫌で食べ終えると冒険者ギルドへ入って行く。……美味そ~だったなぁ、玉粉焼き。

 キラくんが受付でクエストの精算をしていると、受付嬢が呆れてような顔をしている。

 どうやら依頼数を越えて大量にモンスターを狩っていたようだ。案外これがハミゾの出現キーかもしれない。


 精算を終えると2階の作業場へ向かい、ポーション作製を始める。

 エリアボスとハミゾボスとの戦いで使い切ったので、その補充をするみたいだ。ゴリゴリと丁寧に薬草を擂り潰しポーションを作っていく。キラくんこういうの好きだもんねー。

 しばらく作業していると、キラくんからヤマトへ切り替わったようで、丁寧というよりは正確な作業といった感じになる。


 こんなところでも個性が出るというのもなかなか面白いものがある。作業をしているとスキルLvが上がったらしく、MPポーション作製が出来るようになったみたいだ。

 ただ見てるだけでは何なのでログを確認しながら観察していると、キラくんが戻ってきて操作がヤマトからキラくんへ切り替わったようで動きが一瞬ぶれる。


 そこで今度はMPポーションを作るようだ。ララちゃんが先生役になって作り方を説明している。

 その説明に従って薬草を擂り潰し水に溶かしかき混ぜ、3つの水溶液を順番にかき混ぜ撹拌していく。

 MPポーションはこの工程が一番大変なのだ。これはモニターヴュー時代からの方法であまり評判は良くないのだが、開発部長しゃちょうを始め誰も変更しようとかは言わない。


 そもそもポーション類は今まで無制限で買うことが出来たから特に問題にもならなかったのだが、大型アップデート後は苦情やら要望が結構来てるとか聞いたけどどうなるんだろ。

 あたしとしては、最初だけでも頑張れば短縮作製で一括に出来るから気にもならないと思うけども。そこらへんの匙加減はあたしが気にすることでもないか。


 キラくんがMPポーションを作り続ける。どうやら採取した薬草分あるだけ作っているようだ。作業を終えてログアウトしようとすると、ララちゃんがキラくんが夕御飯を食べ終えるまでログアウトを待ってとお願いして来る。


 何故かをキラくんが聞くと、キラくんの料理を覚えるのだと拳を握って力説する。苦笑いしながらもララちゃんのお願いを聞くようだ。

 キラくんがログアウトするのならあたしもログアウトしたほうがいいかも知れない。時計を見ると17時を過ぎたところだ。


「メギエス、ログアウトするわね」

「ガ―――――ゥ」


 メギエスの頭をぽんぽんと撫でて、メニューを開きログアウトを選んでVRルームへと移動する。以前は身体の大きさの変化に違和感を覚えたものだが今ではそんな事も無くなっている。慣れとは恐ろしい。

 VRルームに移動すると眼の前にレリーが浮かんでいた。進捗状況の報告かなと思ったら、全然違ってた。


「あるじ様。情報提供者サーチャーの確定と報復を完了しました」

「はやっ!」


 レリーの言葉に思わずあたしは声を出してしまう。レリーを組み上げてからまだそれ程時間も経ってないのだ。ほぉーっと感心の声を上げてるとレリーがホロウィンドウを表示して報告をしてきた。


「あるじ様達の情報を提供した者は、主犯格の人間に強要されて行なったようです。なのでこちらもその材料を利用いたしました」

「具体的にはどんな風にした訳?」

「はい、彼は幼女趣味の性癖があり、その手の画像データが山程ありましたので一時的に彼所有の機器全てをロックした後、官憲に通報して現行犯逮捕と相成りました」


 へっ?そこまでやっちゃったんだ。何このハイスペック娘は?


「ですが社会的制裁まではとは言えず、抹殺まで行かず申し訳ありません。もちろんあるじ様達のデータは全て消去しておきました」


 いえいえ、もう充分です。あたしもそこ等辺まで許容範囲ではある。所詮直接手は下してないのだ。


「他の奴等はどうなってるの?まだ拘留されてるのよね」

「実行犯は証拠があるので犯行を認めていますが、主犯格の男は否認しています」


 やれやれ、成人男性拉致して身代金要求するとか、どんだけバカなんだろうか。案外親が隠蔽工作でもしてたのだろうか。


「ですが彼の端末やデバイスの中に性的犯罪の証拠となる物が数々ありましたので、これを官憲には連絡済みです」


 ……まぁ、今は強制わいせつも強姦も親告罪ではないので第3者からの通報でも証拠があれば逮捕はされる。最近と言うか今はその手の犯罪には厳しくなっているのだ。たとえ親がその手の犯罪を犯しても適用される。セカンドレイプの恐れもAIによる個別の事情聴取のおかげで無くなった。


 逆にチカン冤罪みたいなことはあるみたいだが、証拠がない場合は起訴できないので逆にAIの聞き取りでボロが出る場合が多いらしい。

 現在の刑法では被害者1人に対して法律上の刑罰が与えられるので、何十件と犯していれば累積されてン百年という懲役刑が出て来る。(死刑制度はかなり前に廃止された。)人権派の弁護士が文句を言う程に。

 まぁやった事に対する償いは必要だろう。子供の犯罪に親がどう責任を取るのかは見物?かな。


「生まれたばかりなのに面倒な事頼んでしまったわね。ありがとうレリ―」

「あるじ様の御為なれば………」


 何か言いたそうにしているが、さすがのあたしも言葉にされなければ分からない。


「じゃあ、あたしはライドシフトするから、レリーも休んで頂戴ね」

「はい、御休みなさいませ。あるじ様」


 回復したとはいえ、まだ万全といった訳でも無いので、その事は後でレリーに聞くことにしてあたしはリアルへとライドシフトする。

 HMVRDをはずし息を吐く。は〜今日はしんどかったわ。風邪を引いたのも久しぶりだし、普段こんなに横になって寝ることも無かった。これからは生活パターンを少しだけシフトしていったほうが良いかもしれない。


 スエットからいつもの服に着替えパーカーを羽織ってリビングへ向かう。キッチンからいい匂いが漂ってくる。お腹がくぅとなる。あたしまで腹ぺこキャラになったみたいだ。

 ソファに座るとあたしに気づいたらラちゃんが挨拶してくる。


『サキさま!お身体の方は大丈夫なのです?』


 心配そうなその声にあたしは笑顔を見せて答える。


「うん、もう大丈夫よ。心配かけてたみたいだね」

『い、いえっ、マスターがすごく心配してたので……ララは風邪とか病気とか理解できなかったので不安だったのです』


 まー意志を持ってから何日も経ってないから認識は出来ても理解に及ぶにはデータ不足といったところだろう。しいて言えば状態異常が分かるかな。


「大丈夫よララちゃん。きっとあなたにも理解る時が来るわよ」

『わかったのです。ララは頑張るのです!』


 ララちゃんが拳をギュギュッと握って力強く答える。そんな話をしているとキラくんがドンブリを持ってやってきた。

 あたしがリビングにいるのにビックリしたキラくんだったが、心配そうに具合を聞いてきてので、良くなった事を伝えるとテーブルに置いたドンブリに思わず目を向ける。


 これはっ!さすがキラくん、分かってるぅ!!思わずキラくんへ声を上げてしまう。

 母さんが病気や怪我が治った時にいつも作ってくれてた料理。木匙を手にとってゴクリと生唾を呑み込んでフタを開ける。蒸された卵の香りが鼻をくすぐり胃を刺激してくる。


「ふぉおおああぁ~っ」


 思わず喜びの声が漏れてしまう。口の中に唾液が溜まってくる。じゅる。

 木匙で具とゴハンを一緒にすくい取り、パクリとひと口入れる。ふぁあぁん。とじられた卵とスクランブルエッグの違う食感と表面が少しだけ駆り利とした豚肉のジューシーさ、美味しく炊かれたゴハンに散りばめられた衣混じりの鶏肉がアクセントになって食が進むこと進むこと。でも今日は掻きこまない。


 そういや母さんに何で卵を全部とじないのか聞いたら何となく?と言う答えが返ってたな。それで美味しいんだから感性の人は恐ろしい。

 キラくんがなんちゃってと言うだけあって、母さんにはさすがにおよばないが旨いことは旨い。

 ララちゃんが何て料理なのです?と聞いて来たので簡単に料理を説明すると、目をキラキラさせて頬を赤らめている。


 次にスープをひと口、朝おじやで食べたスープにトマトの風味が口に広がる。マカロニがいい具合にもちもちしてなかなかに美味しい.なんちゃってミネストローネってとこかな。

 こんな感じでキラくんが帰るまで和気藹々と食事と会話を楽しんだ。

 さあ、さっきの続きを見なくては、ウサたんが待っている。



 そして翌日、あたしは開発部長しゃちょうに呼び出される。




(-「-)ゝお読みいただき嬉しゅうございます

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