4.ララと冒険者ギルドへ
pt&また×8ブクマありがとうございます
こうしてララをお供に行動することになったのだが、何をするのかド忘れしてしまった。
「えーと何をするんだったけかな?」
『まずは冒険者ギルドへ行くのです』
「あーそうだった。ところでララを見て周りがまた騒ぐんじゃないかと思うんだがどうしよっか?」
『大丈夫なのです。マスター以外に見えないのです』
契約したアテンダントスピリットは、周囲への可視化の有無を選べるらしい。ありがたいのだがご都合主義の匂いが何やら漂っている気が………。まぁイヤな思いは極力しないほうがいいしな。ノープロブレム。
「ほいじゃ行こうか」
『はいです』
そんなこんなで街外れの林から壁伝いに大通りに出て時計台広場へと向かう。
冒険者ギルドは時計台広場のすぐ側にあり、レンガ造りの大きな3階建ての建物だった。
辺りを見て、僕等に近づいてくるプレイヤーがいないことを確認する。誰も僕に無関心な様子を見てとり安心する。ララが見えないことで気付かないのか、もしくはまだ追いかけてるのだろうか。ま、誰も気にしないのであればそれが一番いいことだ。
スウィング式のドア (西部劇でよく見るアレ)をくぐり中へと入る。
中は奥にカウンターがあり、右側の壁には、何かが書かれた同じ大きさ (A4ぐらい)の紙が所狭しと貼り付けてあり、左側に2階へ上がる通路と階段が見える。広さは高校の時の教室ぐらいだろうか。 (大学の一般教養講義室は広いというよりデカイ)
さっそく登録の為に、奥のカウンターへと進んでいく。周囲には人が無く閑散としている。最初の街ゆえに、皆ほかの街を拠点視してるのか、それとも人気がないのだろうか。
カウンターには、2人の女の人が座っており、1人は書類仕事を忙しそうにせっせとやっており、もう1人はニコニコ笑っている。 (なんかヒマそう)
ニコニコ笑っている人の前に行き話し掛けようとすると、相手が先に話してきた。
『どのようなご用件でしょうか?』
顔は笑顔なのになんかやる気が無さそうだ。見た目は、オカッパの眼鏡を掛けた教育実習生という感じだ。
「冒険者登録お願いします」
『かしこまりました。ではこちらの石版に手を置いて下さい』
いや、手を置けってどうせいと。
『マスター。メニューコマンドを開くのです』
ララの言う通りにメニューを開くと、コマンドに〈こうどう〉という項目が出てきた。選んで決定。
『しばらくお待ち下さい』
やる気なし受付嬢の言葉に待つことしばし。
『お待たせしました。これが冒険者カードになります』
ピロコリンというSEとともに[冒険者カードをてにいれました]とメッセージが表示される。
「おおっ」
そのメッセージに少しだけ感動する。何気にいい感じだ。
[詳細はメニューを開きカードを確認して下さい]次に注意として、細かいことは後で確認しろとのメッセージが流れる。
ふむふむ。僕がそんな事を感心してるとやる気なし受付嬢が話しはじめる。
『冒険者ギルドについて説明させていただきます。まず冒険者カードですが、あなたの個人情報及びギルドランクが登録させております。各街へ入るための身分証明にもなります。ギルドランクは、SS、S、A〜Fとなっており、あなた様はFランクからのスタートとなります。ギルドポイントを獲得することにポイント数に応じてランクが上がっていく事になります。ギルドポイントはクエスト依頼の達成、ハーミィテイジゾーンの発見報告、モンスターの討伐等で得ることが出来ます。―――以上、あなた様のご活躍をお祈りいたします』
受付嬢は立ち上がり、ペコリと一礼して座る。
紋切り口調の問答無用という感じ。ふーん、この手のゲームのNPCはみんなこんな感じなのだろうか。マジ〇〇カルチェ〇スの店員のほうがまだ愛想がいい感じがする。
ま、こんなとこに立っててもしょーがないのでギルドを出ようとすると耳元でララの声が聞こえる。
『マスター。クエスト依頼書を見てみるのです』
ララが右側の壁の方へと飛んでいく。あークエスト依頼とか言ってたもんな受付嬢。僕もそっちへ歩を進める。
壁一面の掲示板に様々な依頼書が所狭しと貼り付けてある。どうやらギルドランクに応じて受けられる依頼があるようだ。カウンター側はBやCの依頼で右側にいく程ランクの低い低い依頼になるみたいだ。
『マスター、これにするのです』
ララの示した端っこにあったランクFの依頼書を取ってカウンターへと持っていく。ララは賢いなー。うんうん。
依頼の受注の手続きをして冒険者ギルドを出る。
さて、街を出る前に道具屋と防具屋とか見に行ってみよう。さすがに旅人のふくでは心許ないし、ポーションもいくつか買っておかないといけない。
僕は何事にも慎重派な人間なのです。
少しだけ防御力の高い、冒険者のふくや皮のかぶと、皮のよろい+1とポーションとかを色々買い足して門に向けて歩く。
プロロアはやたらと広くて大きいので、門までかなりの距離がある。
ここは昼間5時間夜間5時間、そしてそれぞれ前に夜明け夕暮れの1時間がゲーム内の一日として設定してあり、平日に時間が取られない社会人等にも昼夜問わず楽しめるようになっているらしい。
これもララからの受け売りだ。何気に物知りだなララ。
時間帯なのだろうか、通りの脇には色んな屋台が商品を広げて、通りを行き交う人々に声をかけていた。
賑やかな周りの雰囲気に心なしか気分もあがってくる。
「はーすっごい賑やかだなーここ」
『この時間はお店屋さんでいっぱいになるのです』
ララもキャラの左肩に止まってキョロキョロしている。
『美味しそうな匂いなのです』
通りすぎる店々は食べ物屋さんなのか、肉の焼けるジュワーっていう音やクツクツ何かを煮ている音が聞こえてくる。
自分が食べる訳ではないが、食欲をそそる音に唾液が口に溜まってくる。コクリと喉を鳴らす。
「クエスト依頼が終わったら、なんか買ってみような」
『はいなのです』
現実に味わえる訳ではないが、気分だけでもとこんな風に思ってしまう位には、リアルに感じた。
今更ながら最近のゲームってスゴイな――と思った。 (まさに今更)
屋台の群れを通り抜けて門へと歩く。門に近づく毎にその異様な大きさに目を見開く。巨大な観音開きの木製の門扉。壁の上には4人の警備兵が内と外を見張っている。門脇にはやはり4人の警備兵と一軒家ほどの平屋建ての詰所。4車線ほどの幅の広い道の門を管理するなら必要な人員なのだろう。さっきも壁際まで行ってたけど、その時は気づかなかった現実とはまた違うリアルな風景にピックリする。
「すっげーなー……これ」
『マスターはきっともっともっとビックリするのです』
そんな言葉に笑みを浮かべながら、東門をくぐり抜ける。
いよいよ冒険の始まりだ。コントローラーにも力が入る。
*
誰か人が立ち去った後、ようやくその気配に気づいた彼女。
つい、目先のことにのまれて、周りの事が気にならなくなってしまう。友人にあんたは遮眼帯をつけた馬だとよく言われるが、意味はよく分からない。調べる気もしない。
隣にいたNPCに何があったかを聞いてみる。
「冒険者登録にこられたのでカードを発行しました」
「え?登録に来たのなら新人じゃない。なんで初級クエストさせてないの!?」
「ですがその方は、Lv5なので対象外です。初級クエストを受けることは出来ません」
かーあんたはどこぞのお役所の人間か!?決められた事をその通りにしか出来ないのか!と一瞬頭に血が上ったが、いやこいつは人間―――プレイヤーじゃないと思い怒りを引っ込める。
この娘はAIの仕込まれたただのNPCにすぎない。
今、ちまたに蔓延っているAIは、彼女に搭載されている定型判断式AIと同じものだ。ある意味決められた事をなんの委細なく遂行できる理想と言えば理想の姿 (使う側からすれば)。
しかし何事にも与えられたデータで判断するので応用が全くきかない石頭のような人間となってしまう。
機械なんだから、プログラムなのだからしょうがないといえばそうなのだが、そんなんだったら、人としてそれを学んでいる人間としてはやるせないではないか、それが少し哀しい。
気付かなかった自分が半分、いやかなり悪いのだから彼女の事をとやかく言う資格もない。 (そもそもそのフォローの為に自分がいるのだ)
バイトだからという気易さもあった。その新人はクエスト依頼を受けてるみたいなので、ここに戻ってくるんだから、その時に初級クエストの事を話せばいいと思い、アルバイトプレイヤーは書類作業に戻った。(もちろん人が来たら自分に声を掛けるようにNPCにお願いして)
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます。




