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39.キラくんの行動を観察する その6

姉回です

 

 

 眼が醒めると身体がだるい、フラフラする。そして頭がボヤンとして思考がまとまらない。そういえばお風呂から上がってそのままベッドに転がり寝てしまい………ゴホッ、ゴホゴホッ。風邪を引いたみたいだ。

 こんな時に不覚を取ってしまうなんて………これではキラくんを観察できない。ぐっ、何とかしなくては、と思ったものの何年も風邪も何もない医者いらずのあたしの家には常備薬のストックなど有りはしない。かと言ってこの体調では買いに行く途中で倒れることは火を見るより明らかなので、助けを呼ぶことにする。


 まずは母へTELを掛ける……が出ない。あれ?そういえばしばらく海外で仕事があるとか何とか言ってた気がする。しかたがない、義父は………やめておこう。ちょっとだけ娘Loveがきつ過ぎて鬱陶しい事この上ない。

 んが、やばい、鼻が詰まってきた。キラくんに連絡しなくちゃ。端末を取り出しキラくんのアドレスを出して通話を選ぶ。

 呼び出し音の後、すぐにキラくんが「も、」と声を出したところであたしは声を掛ける。


「ギダぐん゛だずげでぇ゛〜〜〜〜っ゛」




 うちの家訓というかお約束で病気になったら必ず誰かに頼りなさいというのがある。

 まぁ、みな滅多に病気になったりしないのでそんなことは殆ど無いのだけど、こういう時は家族で助け合うのだ。


 リビングのソファで毛布を被りジェルシートをおでこに張って横になっていると、キラくんが心配そうな顔をしてやって来た。

 抱き上げて寝室へ連れて行こうとするのを押し留めソファに座らせキラくんの太股を枕にして横になる。

 うんうん、この適度な堅さと弾力があたしを眠りへと誘おうとする。


「どうして風邪なんて引いたの?サキちゃん」

「ん゛〜どね゛ぇ〜おぶろばいっだら寝ぢゃっでで、あわでで身体ぶいで、ぞのままベッドに横になっだらびいでだ……」


 キラくんの質問にうろ覚えで昨日の事を話すと、呆れた顔をして息を吐く。


「ゴハン食べた?」

「ん゛〜まだ〜。おなかずいだ〜」


 分かっているだろうキラくんの言葉にあたしはお約束に言葉を返す。身体は怠くて辛いのに食欲はいつものままのようでくぅと空腹を訴えてくる。

 キラくんはパーカーを脱いでソファから立ち上がり、それを枕にしてあたしを優しく寝かせてくれる。ぬひょ〜。

 キラくんがキッチンに行った後、何やらゴトゴト音がする。あたしはただぼぅっと眼を閉じてその音を聞いている。



 あれはあたしが高1の頃だったろうか。ちょっとした無理がたたって具合を悪くして風邪を引いた時も、キラくんはこんな風に優しくしてくれたものだ。

 あの時作ってくれたおじやはすごく美味しかった記憶がある。ふわふわ卵と鮭のほぐし身がいい味を出してたな〜と口元を緩める。お腹がまたくぅ〜と鳴る。おにょれ。



 気がつくとキラくんが目の前にやってきて、身体を起こしてくれる。自分で食べれるか聞かれるが、あたしにこのチャンスを逃すつもりは毛頭ない。


「あ〜〜ん」


 レンゲでおかゆを掬い取り、フーフーと冷ましてからあたしの口へと運んでくれる。スープに包まれたゴハンがあたしの口の中へ優しく広がり塩味の中に薄くコンソメの味が包み込むようにじんわり染み込む。

 そして、卵の優しい食感とウィンナーや煮こまれた野菜が次々と食欲を促してくる。思わず身体を揺らしてしまう。


「おいひ〜」


 次に薄焼き卵を折り畳んだてきとー卵焼きをちょびっと醤油を付けて食べさせてくれる。

 卵と醤油の香り、アクセントに鮭のほぐし身が咀嚼する度に口と心を癒していくようだ。美味しい、美味しい。

 食べ終えると横になり薬を飲まされたり客室に敷いた布団に寝かされたりして(お姫様抱っこ!でもあんま覚えてない)安静にしてねとキラくんに言われ素直に従う。


 今日はこっちに付いててくれるというのでゲームもやってねとお願いする。PCがログインしないとララちゃんは待機状態で何も出来ないと思うからだ。

 キラくんにそう頼むとあたしは眠りに落ちた。



 おでこに冷たい感触を受けて、ぼーっと眼を開けるとキラくんが伺うようにあたしを見ていた。

 具合を聞いてきたけど、身体が怠いのと思考がぼやけているせいか、あまりまともな受け答えは出来ない。けどお昼ゴハンのリクエストを聞かれるとあたしはとっさに“それ”をお願いする。


 濃い目のかつおの汁にちゃちぃカマボコ、汁にたっぷり染みたおアゲに縮れた太目のうどん。茫洋としたあたしの頭の中が“それ”いっぱいになっていく。それにキラくんの事だから必ず何かのアレンジはする。口の中に唾液が溜まってくる。じゅる。

 キラくんは出来るまで寝ててと言って部屋を出て行った。んー今何時なんだろう。体はまだだるいし、鼻が詰まってて辛いので動く気ににもならない。あたしは目を閉じて眠りに入る。



 キラくんの声に目を開けると、ぼんやりと意識がカツオブシの香りでだんだん覚醒してくる。上半身を起こされて、太ももにお膳が丁寧に載せられる。

 ああ、この香り。鼻が半分詰まってるせいかぴすぴす鳴るが気にしない。七味がパラリンとかけられ胃袋が刺激されお腹がくぅと音をたてる。


「のひょ~」


 思わず声を上げレンゲを取り出し、汁をすくい一口すする。

 んふぅ~ん。ああ、ほっとする味だ。


「ん~ど〇べーだ」


 自分ではそう言ったつもりだったが、鼻が詰まって言えてない。ドンブリを持ってさらに麺をずるずるとすする。

 独特なインスタントうどんと生うどんがその違う食感が何故かいい感じでまとまっていて麺をかき進めて行く。ただのど〇ベーではない、キラくんのひと工夫がうなる一品。


「ぬふ―――――っ、ちょ~ど〇べ~だぉ~~」


 麺を口いっぱいに頬張りながら思わず口に出してしまう。やはり鼻が詰まっててちゃんと喋れない。

 キラくんが部屋を出て行くのを横目にあたしは麺をすすり汁をすする。そしてお約束のおアゲを一口噛み千切る。おアゲに染み込んだ汁がじゅわんと口に流れ込む。んふ―――――――っ。

 おアゲを何度かに分け噛み締め食べると、次に白身に包まれた卵をレンゲですくい一口で口に入れる。


 んぐんぐ咀嚼して卵をを味わう。固目の白身と同じく固目の黄身の風味があたし好みに仕上がってて嬉しくなる。は~んおいしっ。

 最後にドンブリを両手で持ってごくごくあおるように汁を飲んでいく。あ~しあわせっ。

声を上げ満足を表すとキラくんが部屋へと入ってくる。心なしか少しだけ疲れたような顔をしている。さっきまではぼんやりと頭が働かなかったが、キラくんを熟知しているあたしはその微かな変化も普段は見逃さないのだ。


 ただ何かあった?と聞いても何も答えてくれないので、それはとりあえず棚の上に上げておく。

 キラくんに感想を言ってドンブリを渡すと、お盆にガラス容器を置いてくれる。

 それを見てあたしは喜びの声を上げてしまう。


 ただのミカンの缶詰にすりおろしたリンゴを載せただけのもの、何だと言われればそれまでだがでもこれがササザキ家の味なのだといえば誰も文句は言わないだろう。(ってかあたしが言わせない)

 器に添えられたフォークを手に取りミカンとすりリンゴを一緒にすくって口へと運びングング噛みしめる。

 リンゴとシロップの甘さとミカンの甘酸っぱさが口の中でじんわり広がる。ん〜ウチの味。

 普段は食べたいと思わないのにこんな時だけ無性に食べたくなるもの。


 染み染みと味わい食べ終えた器をキラくんに渡すと、薬を飲んで休むように念を押される。もうわかってるよう。やむなくといった風に薬を飲んだ後ぽふんと倒れるように横になる。

 あたしもゲームをやってねとキラくんに念を押す。すると意外な答えが帰ってきた。ありゃ、バレちゃってたか?


 シラを切って不思議そうな顔をしてみるが、キラくんの顔を見てみるとお見通しという感じだ。ちゃんと説明したほうがいいかもしれない。今はメギエスにキラくんのゲーム内の行動を記録して貰ってるのでそれを確認するのが先かな。


「………………」


 薬を飲んで横になっているものの、体調が回復し始めた今の状態では眠ることも覚束ない。身体がふるると震えたので起き上がりトイレへと行くことにする。

 立ち上がり少しだけ身体を動かすが、だるさも消え頭もスッキリしている。どうやら病魔は退散してしまったようだ。


 ま、キラくんの言うことは聞くけどね、無論色々やりながら横になってるのだ。

 部屋を出てトイレに向かうところで、リビングで声を荒らげてララちゃんが何か言ってるみたいだ。ん?何かあった?

 ちょっと様子をうかがってみる。


「…………………」


 なる程、ようはキラくん拗ねちゃったんだね。仕方ない部分はあると思う。ここら辺は小学校時代のトラウマが刺激されてしまった部分もあるんじゃないかな。

 あの頃のキラくんは根が純粋すぎて子供の悪意とか判別出来なかったせいか、親しげに話してくる人間に素直に接していたけど、やがて手の平を返すように無視をしたり、遠目で嫌らしく笑っている輩が現れた。(もちろんあたしは有無をいわさず報復したものだ)


 そんな時代を過ごしたせいか、裏切られるとか無視されるとか疎外されたりすると、自分の殻に閉じこもってしまう傾向がある。

 ようは拗ねちゃうのだ。もういいやとか、僕なんかもうとか逃避しちゃう癖がある。リアルであれば会わずに過ごしていれば関係も薄れフェードアウトすることもある。(キラくんはこの手をよく使う。)


 幼い頃にこじらせた物は、年を経てもなかなか改善出来るものではないと思うと、奴等への報復がまだ足りなかったと少しばかり怒りがこみ上げてくる。

 あたしも人の事は言えないけど、やっぱりキラくんは間違ってるのだ。どれだけ嫌な思いをしたとしても、そこで諦めちゃダメなのだ。縋るのではなく向き合う。おもねるのでは無く立ち向かう。


 いい年をしてというのも何だが、キラくんを甘やかし過ぎたのかもしれない。でも甘やかす。そして甘える。それがあたしの進む道だ。

 でも、ララちゃんに対してこの態度はダメダメなのだ。

 あたしはすす――――っとキラくんの横へと近づく。



  

(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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