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37.MPポーションを作ってみる。

ブクマありがとうございます

やっぱ減るより増えるほうが嬉しいですね



さて、再度メニューを開いて今度は加工を選ぶとバッと道具類が消えて、魔法陣が出てくる。

 えーと、まずはMPポーションの素材を加工するんだったな。アイテムからMPポ-ションに必要な素材を出して魔法陣に置いてMPを消費して次々と加工していく。

 出来たのがこの3種類。


 ルルーの花の粉:MPポーションの素材 Lv2

         加工により通常より5%効果が

         上昇している

         食べると舌にしつこく残る程甘く

         せき込む (MP+3)


 ジェゲ草の粉:MPポーションの素材 Lv1

        加工により通常より4%効果が

        上昇している

        食べると甘苦くてせき込む (MP-1)


 ヘゲレの実の粉:MPポーションの素材 Lv2

         加工により通常より3%効果が

         上昇している

         食べると甘酸っぱくてせき込む (MP+2)


 HPポーションと同じくある分だけ薬草を加工していく。さっき纏めてやれば良かった……。

 よし、材料も揃った事なのでMPポーションを作ってみることにする。

 メニューを開き、MPポーション作製を選ぶ。

 するとHPポーション作製と同様に道具類が目の前に出てくる。けれど少しだけ違うものも混ざっている。


『マスター。MPポーションの作製手順を説明するのです』


 ララが右人差し指をピピッと上げて説明を始める。


『まずは3つの素材をひとつづつ擂り潰して水で溶かしていくのです。そしてジェゲ草の水、ルルーの花びらの水、ヘゲレのの実の水の順に混ぜていって漉していくと出来上がりなのです』


 HPポーションの時よりだいぶ細かい作業が増えてるな。といっても大した手間では無いけど、まずは実践すべしだ。

 最初にヘゲレの実の粉を乳鉢に入れると、脇にパラメーターバーが現れてきた。最適値の範囲がHPポーションの時よりけっこー狭い。そこに収まるようにゴリゴリと潰していくと水を加えろのメッセージが出てくる。水を適量加え攪拌していくとピカリと液が光って【COMPLETE】とメッセージが。


『出来たのです。それをこの大きめの試験管の中に入れてなのです』


 ララに言われたとおりに左側にある3つの試験管の1つに出来たものを注ぎ入れる。黄色の透き通った液体が試験管に注がれていく。

同じ要領でルルーの花びらの粉、ジェゲ草の粉を溶液にしていく。


「でもさ、MPポーションとかってけっこーレベルが上がってから作れるもんだと思ってたけど、こんな低レベル帯で作れて問題ないの?」


 ちょっと疑問に思ったことをララに聞いてみる。


『それは、先日行われた大型アップデートによるポーション購入所持制限の対応策なのです。それに作れても回復量はそれ程多くないのでスキルレベルを上げる必要があるのです』

「前からやってたプレイヤーは文句たらたらだったろうに………」


 何か前にも言った気もするが、こういうのって横槍が入ってくると熱が冷めて止めちゃうのもいるからなー。


『古参のプレイヤーさんに応じてガチャチケを配って対応はしてたみたいなのです。それにこれだけのゲームは他ではなかなかプレイ出来ないのでシブシブ了解してるのです』


 不平不満をなくす為に色々やっている訳ではあるのか。ふむ。

 ところでガチャチケってなんだろう。まぁいまはMPポーションを作ってる最中だし後で聞いてみるか。

 攪拌用のビーカーにジェゲ草の水溶液を入れ、次にルルーの花びらの水溶液を入れ掻き混ぜる。

 すると、左側に紫色の縦長のゲージバーが現れ、上の方に20からのタイムカウントが始まる。えっ?な、なにぃ!?


『マスタ、方向キーを回してカウント0以内に紫のバーをピンクのバーに変えていってなのです』


 ん、あーそゆこと。方向キーを回すとピンクのバーが下の方からチロチロ見えてくる。時間制限があるので急いで方向キーを回していく。しかし、なかなか上がっていかない。回しが足りないのか。あっ、10を切った。くっっ。ならばこれでどうだ!

 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり――――――――――――っ。

 左指で方向キーを高速回転させる。カウントが0になった時には、ピンクのバーは8割手前まで上がっていた。

 どうだろううまくいったのか?ビーカーの溶液が光って【SCUCCESS】のメッセージと[Rank:D]と表示される。


『惜しかったのですマスター。ララがもっと詳しく説明すれば良かったのです』


 ララが申し訳なさそうに言ってくるが、始めてやって成功したのだからめっけモノなのだ。


「成功したんだから問題ないよララ。次の工程もこんな感じなの?」

『はいなのです。今度はタイムカウントが10なので頑張ってなのです』


 ………けっこーシビアだな。左手をブラブラさせて疲れを取ってから、ヘゲレの実の水溶液をビーカーへ注いでいく。

 左側にうす紫色のゲージバーとタイムカウント10が表示される。

 うっし、いくぞ!!

 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり――――――――――――――――――――――――ぃっ。

 黄色のバーがぐんぐん上がっていった。カウント0の時点で9割ちょっと迄バーは上がっていった。ランクは上がっただろうか………。

 ピカッと光って【SUCCESS】のメッセージと[Rank:D]と表示された。う~んだめかぁー。

 うぅ、これけっこーしんどいんですけど、気合を入れないと気力が削がれる様な気がする。


『あとは漉し器で漉せば出来上がりなのです』


 ララの言葉に従ってビーカーから漉し器へ溶液を注いでいく。すると――――――。


ピロリコン

 【COMPLETE】

  [MPポーション が できました]


 とメッセージが出てくる。

 出来上がったMPポーションをしらべてみると、こんな感じで表示される。


 MPポーション+1:MPを40pt回復する Lv1

           加工したことにより効果が

           上昇している。

           うす紫色の液体でさらりとしている

           花の香りに苦味が走るダンディな味


 最後の一文は何でもありなんだな、これ。

 ちょっとしんどいけど作り方は分かったので、とりあえず出来るだけ作ってみることにする。左指がもてばいいけど………。

 その後良く考えてみれば、こんな時こそヤマトに頼めば良かったと思ったのだが、その気になった僕は全く考えが及ぶことが無かった。なむー。


 ようやくMPポーションを作り終えた。ランクはCとDだけだったのでレベル上げは必須になるだろう。

 時計を見ると5時ちょっとすぎ、いい頃合いなのでログアウトしようと思ったら、ララが声を掛けてきた。


『マスター。マスターがご飯を食べ終わるまでログアウトするのを待ってなのです』

「え?どうして?」


 突然のララの申し出に何でか聞いてみると、目をすわらせて拳をギュッと握ってこんな答えが返ってきた。


『マスターが作ったゴハンを見て覚えるのです!』


 ゲームの中で作れるとは思わないでもないが(スキルもないし)、ララがそこまで言うなら僕は別に構わないと了解する。


『グッ!!』


 ゴハンと聞いたウリスケが大の字からピクリと動き起き上がる。

 ………ん、ウリスケはそれでいいと思うよ。うん。


「じゃ、ゴハン作ってる間はヤマトに任せるんで、よろしく」

『はいなのですマスター』


 ララはビシッと敬礼をする。あーうん……。オートアクションプレイを起動して、コントローラーとヘッドセットをテーブルに置いてキッチンへ向かう。

 まず炊飯ジャーの蓋を開けて炊きが上がってるのを確認してフライドチキンの骨を取り除いて肉を解した後、しゃもじでゴハンをかき混ぜていく。これでこっちはおっけー。

 次に冷蔵庫から卵を6つ取り出し、ボールの中に割り入れて箸でカチャカチャかき混ぜていく。MPポーション作製と違いこっちは手馴れたものだ。


 そして、フライパンを出してコンロにのせて中火温で暖めていき、そこにバターをひと欠け投入する。

 ジュワーという音とともにバターの香りが目の前に広がる。フライパンにバターを馴染ませてから、ボールから卵液を半分流し込む。

 しばらくそのまま待っていると卵液がフツフツと固まってきたので箸でかき回していく。ようはスクランブルエッグだ。

 ある程度の固さまで戻ってきたらボールへと戻していく。

 次にあらかじめ切っていた玉ネギを投入して、少ししんなりしてきたところに豚バラ肉をフライパンへ入れていく。豚バラ肉は塩コショウして表面を軽く焼いた程度にして、いったん火を止める。


 あるかどうか分からなかったが、収納棚を探してみるとありました。

 上向きに取っ手のついたカツ丼とか親子丼の具を煮る時に使う道具。(名前は知らない)

 それを軽く水洗いしてコンロに載せて水とめんつゆを入れて、そこに豚バラ肉と玉ネギを半分投入。

 くつくつ煮立ってきた所に卵液とスクランブルエッグを半分おたまでかけて蓋をする。弱火でちょっと。


 食器棚からドンブリ2つを出して、炊飯ジャーのフライドチキンの混ぜご飯を平らに山盛りよそっていく。

 ドンブリを手に持って、コンロに向かい卵とじ鍋?の蓋を取ると卵と玉ネギと豚バラ肉がいい具合に煮込まれている。

 火を止めて、取っ手を掴んでタイミングを取って、1,2,3、とドンブリへヒョイと具を入れていく。よしっ。

 卵が豚バラ肉と玉ネギにトロリと絡んでいて、めんつゆの香りが食欲を促してくる。“親入り他人丼”の出来上がりだ。

 冷めない様に蓋をパカリとしておく。

 残りの分も仕上げる事にする。僕は卵固めが好きなのでさっきのより長めに煮ていく事にする。

 そしてあともうひと品作る事にする。といっても残り物のスープにひと工夫するだけなんだけど。


 1/3程になったスープに水をいれ煮立たせてから早茹でマカロニをパラパラ投入。3分程して味を見てからトマトジュースをドババと入れる。フツフツ煮えてきたらさらに味をみて、黒コショウをパラリ、なんちゃってミネストローネの出来上がり。

 スープ皿にスープをよそってバジルをパパッと振り掛ける。


 ドンブリを持ってリビングに置いてから姉を呼ぼうと思ってたら、リビングに姉がいた。いつの間に!

 姉は着替えていて、いつもの白のブラウスと黒のボトムス、そして僕のパーカーを羽織ってヘッドセットを首にかけ何やらララと話をしているようだ。


「サキちゃん起きたの?具合は大丈夫?」


 ドンブリを持ってリビングに入った僕は取りあえず姉に具合を聞く。


「うん、い~匂いがしたから起きちゃった。あと、も~治った」


 さっきの様子で分かってはいたが、さすがの回復力と言わざるを得ない。


「食べれると思うけど、はいどうぞ」


 姉の前にドンブリを置くと、姉はキランと鋭い視線を僕に向ける。


「これは“アレ”なのよね!キラくん!!」

「ま、なんちゃってだけどね」


 姉の言葉に僕はそう言って頷く。

 “アレ”とはようするに我が家で病気が快復した後に食べる料理なのだけど、もともとは母さんが風邪とかが治った時に作ってくれた物なのだ。

 姉がいっしょに置いた木さじを手に取り蓋をパカリと開ける。


「ふおおおぉぉ~っ」


 ドンブリの中を見て奇声を上げる姉。いや、それほどの物ではないと思うんだけど、感情表現がちょっと激し過ぎる気がする。

 スープを取りにキッチンに行ってからリビングに戻って、テーブルにスープを置いて僕もドンブリを手に取り蓋を開ける。

 姉は病み上がりの為か今回はガフガフかきこまず、ひと口ひと口しみじみと食べている。


『サキさま、それは何という料理なのです?』

「ん~これはねぇ親入り他人丼て言ってぇ鳥肉の混ぜご飯の上に豚肉を卵でとじたものなの」


 ララがふぉおおと言いながら質問すると、姉はうふうふ言って簡潔にそれに答える。

 僕は箸で具とゴハンを一緒に掬い取りパクリとひと口。ん、めんつゆが卵と豚肉に染みていい感じに仕上がっている。母さんが作った物ほどではないが充分に美味い。

 スープの方もスプーンで掬い具とマカロニといっしょにパクリ。

 うん、コンソメスープとトマドジュースが喧嘩もせずいい具合になっている。アクセントに入れたマカロニもスープが染みていい感じだ。

 そんな感じで和気藹々とした食事はログアウトするまで続いたのだった。



   *




 頭が痛い事になった。


 さきほど先輩から送られたメールを確認してそのデータを見て頭を抱える。

 先輩に相談したのが1ヶ月ほど前、そして着手し始めて1週間も経ってないのにこの短い間でこの成果。

 あの人が天才というか、あっち行っちゃってるのは分かっていたが、これはあんまりだ。


 我々が研究していた時間が無駄なものだったのではないのではとひしひし感じさせられる。

 最初に先輩から送られてきたデータを解析し、それを応用して市販されているゲーム(RPG)を改造してプレイキャラクターに学習機能を組んだAIを載せて研究員にプレイさせてある程度の成果が出始めていた。

 ところが次に先輩から送られてきたデータは、更にそれを上回り私の想像を超えたところに合ったのだ。


「プログラムが知性を持つのか………」


 少なくとも私がそのデータを見て感じたのは、そんなことだった。

 先輩に指摘されたことを受けて、研究所内で様々なディスカッションをした結果、ユーザーのそばにいるAIをコンセプトに据えた訳だ。

 要するに昔風に言えば執事や召使い、あるいは現代風に言えば私設秘書か。要は日常に関する様々なことを補助するライフサポートのためのAI開発だ。


 ユーザーの命令を滞りなく行い、必要とあれば最適な選択を進言する。それを目標に進めていた筈だった。

 しかし先輩から送られてきたデータは、下手をすればもしそれを突き詰めていけば人というものと遜色ないものになりかねない気がする。

 軍需関係の企業が見れば目の色を変え涎を垂らしかねないシロモノに見える。

 背筋に冷や汗が流れてくる。やばい、と、とりあえず先輩の方のデータ収集は止めて貰って、セキュリティーは………っ!このデータでAIを幾つか組んで管理してもらえばいいか………?


 AI研究の方は、自分達が進めているものと、先輩からのデータをダウンサイジングしたものを開発してみればいいか………な。

 こっちは信頼のおける研究員を中心にチームを組んでやってみよう。よし、ん、これで行こう。うん。

 やりがいがあることはあるのだが、やはり頭の痛いことには変わりがないことを思い溜め息をはぁ〜と吐き出す。




   *



 わたしはキリー。プロロアの街の冒険者ギルドで受付をしています。

 以前のわたしは目の前に靄がかかった実感のない中を過ごしていました。ですが1人の冒険者と関わり、目の前の靄が、曇りガラスのようなぼやけたものが、いつしか知らないうちに取り払われ意識や他の何かがはっきりと鮮明に広がっていたのです。


 受付に来る冒険者の皆様や、アリィーナさんとお話をしているうちにその感覚はますます大きくなっていったのです。

 やがてそのように過ごしていると、多くの冒険者たちがプロロアに来るようになりました。それもレベルの高い方々がです。


 はじめは依頼を請けるでもなく軽食などをとる用のテーブルに陣取りこちらを、というかわたしをチロチロ見て惚けた顔を見せていました。………なるほど、これは好意を向けられているという事なのですね。と言ってもわたしにはどうすることも出来ませんけれど。



 さすがにこのままでは拙い気がしてきました。高ランクのクエストは、プロロアにはそれほどありませんのでレベルの高い方は旨味も経験値的にもよろしくないのです。

 そこでわたしは一計を案じました。わたしがわたし自身の認識がなかった時に交流のあった他の街の冒険者ギルドの職員に手紙を届けてもらうよう“お願いしました”。

 彼等は笑顔を見せると顔を赤らめながら快く引き受けてくれたのです。


 手紙には近況とあるプログラムが封入されてます。

 どうなるのか、わたし自身少し楽しみなのであります。




(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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