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31.物騒な現実(リアル)

ブクマありがとうございます

 

 

 ほんわかしたラビタンズネストから灰闇の世界へと舞い戻る。さっきのことが夢だったような、そんな落差を感じる。現在の位置はちょうど南西エリアの真ん中辺りか。

 とりあえず北に向かうようにオートアクションプレイを設定して起動させる。“ヤマト”が北へ向かって歩き始める。


「じゃ、ちょっと買い物に行って来るから、その間よろしくね」

『はいなのです。任せてなのです』

『グッグ―――ッ』


 2人がいれば大丈夫だろう。僕はそう判断して、姉のいる部屋を少しだけ覗いてからスーパーへと出掛ける。



   *




 オートアクションプレイがきどうされると、からだがうごきだしきたへとあしをすすめる。

 からだがふじょうしてくるかんかく、ちからがみなぎるようなそんなきぶん。しょせんはプログラムでコピー&ペーストされたもので、ひととちがうこともただのもほうであることもりかいとにんしきもしている。

 いいきかいなので、サーバーからオレへげんごやエンジンをつなげてみる。

 スタンドアローンでは、げんかいがあるからだ。

   ・

   ・

   ・

   ・

 灰闇の中をただ歩く。それだけなのに心が浮き立つ気分になる。ヤマトというPCをAIであるオレが演じて動かし模倣ロールプレイしているのか、それとも“ヤマト”というPCがオレなのか、結局どちらも“ヤマト”であると考えれば、どちらでも構わないだろうと結論する。意識と認識が違うだけだ、変わりはない。


「ヤマトさま、分かりますか?」


 相棒がオレの前に立ってオレの顔を伺っている。もちろんその間も歩き続けている。器用なものだ。

 オレは、魔法やアーツで発している声をサンプリングして、言語野エンジンと接続して言葉を出せるようにする。


「ああ、分かるよ相棒」

「グッ!?」


 操主と違う声に赤い奴―――ウリスケが驚きの声を出す。そっか気付かなかったのか。ふっ、まだまだだな。


「オレはヤマトだ。よろしく、ウリスケ」


 立ち止まってしゃがみながらウリスケに挨拶する。


「グッグッグ!」


 オレの挨拶に右前足をシュタっと上げて返事をする。好敵手とはまさにこの事を言うのだろう。口元に笑みがもれる。


「このまま街へ戻るのです?ヤマトさま」

「オレはそれで構わないよ」


 今はこうして、身体を自由に動かせることを堪能していたい。


「では、このまま西門へ向かうのです。ウリスケさん先導お願いなのです」

「グッグ――――ッ」


 ウリスケが了解するように右前足をシュタっと上げて灰闇の中をスタタタタ進んでいく。

 今まで北へ向かって進んでいたので少しだけ東へ方向を変えて歩を進める。西門まで着ければひと安心だろう。

 が、期待むなしく右と左斜め前方からモンスターの気配を察知する。


「ヤマトさま、左前方と右にホーンラビットが2体づつなのです」


 トテテテテと微かな足音が聞こえてきたので左は任せて、オレは右側へ向きイミットアーツを準備する。ロックオンすると1体をターゲッティング。さっき覚えたアーツ“クロスラッシュ”星2つ分の詠唱。


「“我が斧に眠りうる力の矛よ。我が祈りにひと時その力を現せ”」


 星がひとつ、2つ1点滅する。今だ!


「“クロスラッシュ”!」


 十字の光の刃が目前にまで来たホーンラビットへ命中する。吹き飛び光の粒子となって消えていく。まず1体。


「グランディグ!」

「ゲギャベッ」


 相棒が魔法でうまくもう1体をけさせる。目の前に飛び込んで来たそれを縦斬りの一撃で屠る。

後ろのほうで「ギャンッ」「べギャッ」と声がして静かになる。きっとウリスケが2体を倒してしまったのだろう。

 オレも負けてられないな。こうして何度か戦闘して西門まで到着したのである。



   *




 相も変わらず品揃えがすごいスーパーはろごも。

 ど◯べーのきつねを3つと他のカップ麺を2コづつ数種類、あと長ネギとカマボコとか細々としたものを買って店を出た所で後ろから誰何される。


「ササザキ キラさんですよね」


 ゴリッと背中に固い物が押し付けられる。ん?刃物ではなさそうだが……プリンタガンか?


「……そう…ですけど」


 ここ数年はこうゆー荒事は起きてなかったんだけど……って事は姉関係か。鬱陶しいことだ。大方逆恨みか被害妄想の類と思うが厄介なうえ煩わしい。


「ここを出て右に曲がって下さい。友達が待ってるんで」


 声に嘲りが混じってる。下卑た声だ。声質からすると高校か少し上ってとこか、右に曲がり少し進むと駐車場の隅にワゴン車とそこに立っている2人の男。

 黒サングラスで顔を隠しているが、人間性まで隠せていない。人を見下す姿勢やあざあなどる口元。あれか、ガッチャとか言って粋がってる連中がいるって聞いたことがあるけど、あれと姉がどう関係するのか全く分からんけど……まぁ、1人踏んじばればわかるだろう。

 さて、その鼻っ柱を少しだけ折ってやろう。


「なんだこいつキモいシャツ着やがって」

「ばっか!まだ正体晒すなよ。俺ら友達なんだぜ」


 そんな友達いりません。2m。


「こんなとこまで誰も見てねぇよ!早く放り込めよ!」


 いえ、直ぐ様お暇しますのでお構いなく。1m。

 ひょい。エコバックを手前に放る。

 それに気を取られた2人をよそに、しゃがみ込み後ろの男の手首を掴み握り込む。メキッと何かがひしゃげるような音、何でしょう?


「ぎゃああああっ!てっ、てめぇっ!!」


 しゃがみ込みながら、手前の2人の脛に右連脚を繰り出すとつま先がヒットし、痛みに倒れ込み足を押さえる2人。


「いでっ!」「ぎゃあっ!」


 手首を握り込みながら、その手を後ろに回し僕は身体を周りこませ押し倒す。


「ぎゃがぁっ!てめぇぇっ」


 そして、大声でさんはいっ!


「ぴぃ―――――えむさ―――――ん。助けて下さ――――――い!!!」


 これで脛に傷持つ奴は慌てて逃げる。半分ぐらい。頭のよろしくない連中は、更に突っ掛かって来るのだが、こいつらはどうやら前者のようだった。

 足を押さえながら2人の男がワゴン車に乗り込み逃げようと発進する。お、こいつ置き去りか。


「おいっ!離せよ!てめぇ!!」


 じたばた暴れる男。鬱陶しいいのでさらに腕を捻り上げ黙らせる。


「ぐがぁっっ……!」


 握り込んだ手首には、やっぱりプリンタガン。物騒だなぁー。そこへ制服姿のPM(ポリスマン)さんが2人連れ立ってやって来る。


「このピストルみたいなのを背中に突き付けて車に連れ込もうとしたので、抵抗したらこうなった感じです」


 僕が説明すると、PMさんが意外そうな顔をして僕をまじまじ見直す。


「あれ?君、キラくんかい?」


 おりょ?よく見ると昔お世話になった覚えのあるPMさんだった。


「あ!お久しぶりです。お元気そうで何よりです」


 ピピッとPMD(ポリスマンデバイス)が鳴り端末それを耳に当てるPMさん。


「ああ、俺だ。ん、わかった了解。そっちも対処よろしく」


 PMDをしまいこっちに寄って来る。僕が抑えていたプリンタガンを持った男をもう1人のPMさんが後ろ手に親指用手錠(サムズワイヤー)を嵌めて拘束して立たせる。

 その間、俺じゃないとかあいつが襲ってきたとか言っていたが、PMDを見せられると黙り込み、そのまま連行されていった。


「相変わらず絡まれるんだね。君は」

「不可抗力ですよ。てか、姉関連みたいですし」

「サキちゃんの?へぇ、じゃ腰据えて取り調べなきゃな!」


 PMさんが腰据えるって怖いです。


「逃げ出した奴等も確保したみたいだし、事情聴取できるかな?」

「………えーと、実は今病人がいるもんで長いこと空けるのはちょっと……」


 誰のことか、僕の顔見て感じたらしくPMさんは気をつかってくれた。


「わかった。じゃ、後でいいんで署に来て貰えるかい?」

「ええ、すいません……」

「いや、状況はすでに調べてあるみたいだから構わないよ」


 TELナンパーを教え合って僕は駐輪場へと向かう。エコバッグは少しばかり汚れたけど範囲内だ。


 数年前から法改正で、スーパーやその駐車場には監視カメラや音声認識システムが配備されていて、ネットワークで警察署のサーバーに逐次記録していることや、拉致監禁目的の車使用は何とか法で禁じていて犯せば即逮捕されることなどを彼らは知らなかったのだろう。


 でなきゃこんな昼日中、あんなことは絶対しなかっただろうに。

 現実リアルは何とも物騒である。



 後日に聞いた話によると、某銀行の支店長の息子が姉のせいでバイトをクビになったと逆恨みし、姉周辺をどうやってか調べて姉のマンションを張ってたらしく、僕を見つけて意趣返しをしようとしたらしい。

 この近辺のガッチャと呼ばれる不良グループ?(古いか)らしくあわよくば身代金を取ろうと考えていた様で、余罪がてんこもり出てるとかPMさんが話してくれた。(いいのかそんな話して)

 

 それを聞いた姉は、僕等のことを調べた奴を逆に調べ上げてってー方的に何かしたらしい。(怖くて聞けない。法を破ってないことを祈る)

 せんせーが言っていた事をその時ふと思い出した。個人情報保護法ってのは国民の為の法でなくて、政治家や官僚の為の法律なんだよと、オフレコで頼むと小さい声で言っていた。ほんと駄々漏れだよな。


 なにはともあれ、じーちゃんのお陰で事無きを得た。(ありがとーじーちゃん)

 鍛えてくれたお陰であんな物騒なことにも慌てず対処出来たんだから、これからも基礎練だけはやっておこうと心の中で改めた事は言うまでも無い。

 さようなら。名も知らぬ某銀行支店長の息子よ。




(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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