29.ラビタンズネストでひと休み
pt&プクマありがとうございます
カンムリラビットが空へ飛び上がると、僕はバックジャンプとバックダッシュを3回繰り返して後方に下がってタイミングを測る。
カンムリラビットが僕等がさっきまでいた場所の手前にヒューンと落下して右拳を地面に打ち付ける。
ドドドガァ――――――ンッ!
轟音と共に地面を砕き地響きと衝撃波がカンムリラビットを中心に広がっていく。
僕はその瞬間バックジャンプを繰り出す。拳が打ち付けられる前に側に来ていたウリスケも、それに倣うようにジャンプする。
『……っ!!』
『キャアアア――――ッ』
『グゥ――――ッ』
範囲攻撃により“ヤマト”とウリスケがダメージを受ける。ララは衝撃波にビックリしたみたいだ。
数秒間硬直した後にまたカンムリラビットは上空へと飛び上がる。“ヤマト”の手前に影が出来るのを見てからダッシュで前に飛び出す。範囲外に出たところで止まってロックオン。カンムリラビットを捉えてくるりと180度振り返る。
イミットアーツの“スラッシュ”を放つ為、横斬りボタンを押しっぱにする。
「ララ。水魔法で攻撃してくれ」
『はいなのです。マスター』
ズドォォーンとカンムリラビットが地面を殴打する音を聞きながらタイミングを待つ。振動も衝撃波も、10m近く離れたこの場所まではダメージを与えることがなかった。(ふぅー)
カンムリラビットの技硬直の瞬間を狙って、イミットアーツと魔法を放つ。
『”スラッシュ”』
『アクアバレット!』
僕らの声と同時にウリスケがカンムリラビットへと駆け出す。はやっ。
硬直が解ける前に刃の衝撃波と水の弾丸がカンムリラビットに命中。
『グッギャッ!』
痛みに唸るカンムリラビット。遠距離からの攻撃なのでダメージは、少ないながらも時間は稼げる。
ウリスケが反対側に周り込み体当たり、こちら側に5m程吹き飛ばされてきたので水魔法を2人で放つ。
『“アクアバレット”』
『アクアバレット!』
水が苦手との言葉通り他の攻撃よりダメージ量が多いようだ。
『ギャフッゥ!』
ダメージを受けて声を上げるカンムリラビットは、ウリスケの後ろからの体当たりで僕等の右側へと吹っ飛んでいく。連続でダメージを受けてヨロヨロするカンムリラビットへさらに追い討ちをかけるべく駆け寄る。
『アクアバレット』
『“アクアバレット”』
ララと“ヤマト”の魔法でダメージを受けて片膝をつく。HPゲージが残り1割を切る。
そこへ斧のコンビネーションアーツを発動させるべくコマンドを入力していく。縦、横、横――――と10連撃の後、斧が光を纏い最後の縦斬りをお見舞いする。光の軌跡がカンムリラビットに吸い込まれていく。
『“アクストルネド!』
ドガァォォォォンという激しい音とともに竜巻のエフェクトがカンムリラビットを上空へと舞い上げていく。
『グギャラァァ――――ッ』
叫びながら落下してくるカンムリラビット。まだ倒せてなかったみたいだ。なんてタフな。大技発動で硬直して動けない“ヤマト”を横目にして落下ダメージで消えてくれることを祈っていると、落下してくるカンムリラビットに向かってウリスケが突進していきジャンプ。
ドガンと大きな音が響き渡り、落下の勢い+ウリスケの体当たりでHPが0となり、光の粒子となってカンムリラビットは消えて行った。大丈夫か?ウリスケ。
『グッグ――――ッ』
シュタッと着地したウリスケは上機嫌でこっちに戻ってくる。お前もタフだねぇー。
ジャラジャジャ――――――ン
ピロコリン
[モンスター: カンムリラビット を たおしました]
[EXP 2500 を てにいれました]
[3500 GIN を てにいれました]
[Lv13 に なりました]
[【斧】 が Lv8 に なりました]
[イミットアーツ の クロスラッシュ を おぼえました]
[【水魔法】 が Lv3 に なりました」
[呪文 アクアシールド と アクアヒール を おぼえました]
[ハーミィテイジゾーン “ラビタンズネスト” を とうろく しました]
爽快な音楽と共にリザルト画面がズラズラ表示されていく。
はぁーと肩を落として息を吐く。どう見ても死に戻り必至のボスだろあれは………。
ララとウリスケがいたから何とかなったようなもんだ。
『やったのですマスター!』
『グッグッグ―――――――ッ』
ララがバストアップ画面で両手を挙げてくるくる回ってる。ウリスケも嬉しそうにビョンビョン跳ねている。
「いやぁ、2人のおかげで助かったよ。ありがとララ、ウリスケ」
『えへへぇ~』
『グ―――――ッ』
頭をかいて照れるララとその向こうで右前足をピッと上げるウリスケ。
落ち着いて周りを見てみると靄が少し晴れて目の前に木でできた柵と門が現れていた。
門の上には木の板でラビタンズネストと書かれている。
「ラビタンズネスト?何なんだろうな、ここ………」
『行ってみるのですマスター』
『グッ』
「よし!じゃ行ってみるか」
木の柱でできた簡素な門をくぐると画面がホワイトアウトして、女性ボイスで歓迎の言葉が流れてくる。
『――――ようこそ、ラビタンズネストへ――――』
白かった画面が次第にその景色を映し出してきた。そこは村というか集落というような場所だった。けれど建物の大きさがかなり小さい。ログハウスのような丸太で出来た家は、“ヤマト”の身長と同じ位の高さで1番高くても3mあるかないかのものだ。
そしてその集落の住人は2本足で立つウサギ達だった。
カンムリラビットのような人間人間しいモノではなく、どちらかといえばシルバニアなんとかやピーターなんとかに通じる何というか、モフモフ好きが涎を垂らして喜ぶかわいい系のものである。
『ふぁ~、うさぎさんの村なのです』
『グ~ッ』
住人の中には大きいものから小さいものまで―――ネザーランドドワーフ、ダッチ、イングリッシュアンゴラ、ライラック、ロップイヤー、ブリタニアペフィート等―――何種類ものウサギさんが立って歩いていた。
よく見ると、頭に黄色のマーカーがついておりNPCなのだというのが分かる。
「和みはするけど、どうすればいいんだろうか、ここで………」
『ここはラビタンズさんの村みたいなのですマスター』
「ラビタンズ!?」
ララにそう言われて【鑑識】で彼らのひとりを調べてみる。
ラビタンズ:赤毛のレオンハルト Lv2
[HP] 50/50
隠れ里に住むラビタンズのひとり
野菜作りの達人
外から来た人の話を聞くのが好き
モンスターじゃ無くてラビタンズという種族ということなのだろうか。もともと戦う気もないし、そんな気分でもないから別にいいんだけど………。いったん街に戻ったほうがいいかな。
てな事を考えていると、のそのそと杖をついたラビタンズがこちらにやってくる。身長は耳を入れて1m位か。何か話しているが全く分からない。
『モニャモニャムニャモニ~モニャ』
『はいなのです。ありがとうなのです』
ララには分かってるようで、うんうん頷きながら返事をしている。
『マスター。こちらの方はここの巣長でザギゥーさんなのです。歓迎するのでゆっくりお寛ぎして下さいと言ってるのです』
ありゃ、街へ戻ろうかと思ったがそうも行かないみたいだ。
『それにララもウリスケさんもHPとMPが心もと無いので、ここでしばらく過ごして回復したほうがいいのです』
ハーミィテイジゾーンというのは、プロロアの街と同じくセーフティーゾーンと呼ばれるところで、そこにいれば自動的にHPとMPが回復するのだとか。僕にも異論は無いのでララの言葉に従うことにする。
「じゃ、おじゃましまーす」
『なのです』
『グッグ―――ッ』
ザギゥーさんの案内で中へ進んでいくと広場のような所に、たくさんのラビタンズがいて宴の準備をしていた。
色とりどりの料理がところ狭しと広場に並べられていた。ザギゥーさんがララに何か言ってる。
『ラビタンズネストに来た方々をこうして歓迎するといってるのです。マスターにはここに座って欲しいとザギゥーさんが言ってるのです』
リボンをつけたラビタンズの人が上座の席に案内してくれるが、プレイキャラを操ってるだけの僕ではどうすればいいのか困ってしまった。
『どうしたのです?マスター』
「ん~。ほらこういう座るとかって【こうどう】で出来なかったと思ってさ」
ある程度の条件下であれば、【こうどう】のアイコンで自動的に話すとかベンチに座るとか出来るのだが、地面に座るとかは【こうどう】でも出来なかったのだ。
ララはなるほどっという風に右拳を左手の平にポンと打つ。
『マスター、メニューからコンフィグを選んでシーンアクトのところをOFFからONに変更してみてなのです』
ララの言うとおりにメニューを開き、スクロールさせ1番下にあったコンフィグを選ぶ。
そこには画面にコントローラーのボタン配置の変更や音楽の有無、画面のアジャスト設定などズララと出てくる。その中のシーンアクトへカーソルを動かしてOFFからONへと変える。これで何か変わるのだろうか?メニューを閉じて改めて開き【こうどう】を選ぶと、隣に[はなす・きく][たつ・すわる][たべる][もつ・わたす][おどる]と縦1列に表示される。おどるってなんだ?
[たつ・すわる]を選ぶと〝ヤマト”が胡坐をかいて今まで立っていた場所に座った。おーなるほどなるほど。
隣にいたザギゥーさんが立ち上がってムニャムニャ言い始める。
『マスター。[たべる]でコップを選んでなのです』
何となく要領が分かって来たので、【こうどう】→[たべる]→[コップ]と選ぶと〝ヤマト”がコップを持って飲み始める。
ザギゥーさんがそれを合図に何か言うと他のラビタンズも同じく唱和する。乾杯って感じか。先に飲んじゃってるし………。
こうして歓迎の宴が始まったのである。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




