28.南西エリアをうろついてみる
途中ですが区切りますご容赦を
ブクマありがとうございます
冒険者ギルドの中に入ると、何やらいつもと雰囲気が違った気がした。何故だろうかと辺りを見回すと、普段は殆んどいなかった筈のプレイヤーが此処其処に集っていた。集るは言い過ぎか、4人掛けの丸テーブルに座ったプレイヤーが3グループ、みんなギルドの受付のほうを見て惚けている。
こっちに気付くと驚いたような顔をしてから側にいる人に囁いてるが丸聞こえだ。
『ウリ坊だ』『赤いね』『やはり3倍の……』『グーって…』ひそひそと声はするが、こちらに視線を向けるだけで何も言ってこないのでスルーして依頼が貼ってあるボードへ向かう。
やっぱウリスケは目立つよなぁ~赤いし、かわいいのは言うまでもない。ララは不可視モードで見えてないようなのでひと安心だ。
もし見えてたと考えると、ここから逃げ出すしかなくなる。だがそんな心配事も彼女の出現で泡となって消えていく。みんなの視線が全て彼女へと移っていったからだ。
プレイヤー達は依頼書を持って彼女のところへ受付に行く。
彼女とはもちろんギルドの受付嬢のことだ。ゲームを始めた頃のやる気の無かった表情と違い、1人ひとり丁寧に笑顔で業務を遂行している。
んーいったい何があったんだろうかと考えはしたが、ララがえっへんと言わんばかりに胸を張っているのを見ると、姉と2人で何かしたんだろうなと何となく予測してみる。まぁ僕等に影響がなければ特に気にすることもないだろう。
依頼書ボードから南西エリアと北西エリアのモンスター討伐を探しながら、依頼書を手に取ろうとすると。
『何だ、そんな低ランクの依頼を請けんのか?』
気付くとすぐ横で全身鎧を身に纏った男性が声を掛けてきた。
「ええ、ギルドランクがEなもんでまだまだガンバってるところなんです」
『へー、それで従魔持ちってけっこーすげぇよなあんた』
「いえいえ、これもたまたまイベントで手に――――」
『おっと、その先は言わなくていいぜ。ネチケットだからよ』
ウリスケの話が出たんで話そうとしたら止められた。なんて紳士な人だ。とはいえ、何でこんなレベルの高そうな人がこの街で依頼なんて受けてるんだろう?
「その依頼書ってDランクですよね。何でランクの高い人がこのプロロアでクエストなんてするんですか?」
そう聞くと、全身鎧の人はもじもじし出して、顔をそらして答えた。
『 えー………キリーさんを掲版で見て……その…会いに…来た』
何やら掲示板とやらで彼女のスクショを見たプレイヤーが、気になってプロロアに来たのが始まりだそうだ。
そのうち話が伝わり近場にいた数人がやって来て、彼女にひと目惚れしたとからしい。何とリリカルな。
全身鎧の人が言うには、何と言うか雰囲気がとてもいいらしい。萌え〜何だけどそれだけじゃなく応援したいというか何と言うか〜〜と熱く語ってくれた。本人が向こうにいるのに大声で。しかも周りの人達もうんうん頷いてるし。近々ファンクラブを作るみたいなことも言ってるし……なんだかなぁ。
と言うことは他にもプレイヤー達がこの街に押しかけて来るような気がして聞いてみたが、あと何人かは来るかもしれないけど、そんな事はないと思うと答えてくれた。
自分が(いろいろと)悪目立ちするタイプなので少しだけホッとする。
『じゃ、俺は依頼請けに行くわ』
「ども、ありがとうございました」
受付嬢の列がひけてきたので、全身鎧の人がそそくさとそちらへ向かって行った。何気に鼻の下が伸びてる。
気を取り直して依頼書を見てみるが、どこにどんなモンスターがいるのか調べてないのでさっぱりだ。
なので今回もララにお任せすることにした。
「ララ、北西と南西エリアのモンスターはどれなんだ?」
まだ人の目があるので小声でララに聞いてみる。
『はいなのです。南西エリアだとワイルラビットとホーンラビット、北西エリアだとワイルピジョンとリパーピジョンなのです』
……ハトと戦うんだ。タカとかワシじゃなくて……。空だとタイミングを合わせるのが大変そうだけど、ララもウリスケもいるから大丈夫そうかな。
「えーと、ワイルラビットとワイルピジョンがFでホーンラビットとリパーピジョンがEランクと。んじゃこれの依頼請けてみるか」
『はいなのです』
『グッグ―――ッ』
受付嬢の方を避けて、職員さんがいる方に依頼をお願いしに行く。
「こんばんはー、クエスト依頼お願いします」
『あ〜こんばんはです、はい』
今度はこっちがやる気なしになっちゃったみたいだ。僕だと気付いた職員さんは僕の周囲を見回して肩を落とす。
『ララちゃんは……ですよねぇ〜』
人の気配に姿を現さないと思い出して自己完結する。
『えーと、ワイルラビットとワイルピジョン10匹とホーンラビットとリパーピジョン5匹の討伐ですか、大丈夫ですかぁ〜?鳥系けっこー大変ですよ?』
「ぼちぼちやってみますよ」
『まぁララちゃんと、っ!はぁ!?ウリ坊!赤ぁ!?」
“ヤマト”の足元にいるウリスケを見て驚く職員さんに僕は声を抑えるように小声で答える。
「昨日何でか従魔にになっちゃったんですよね」
職員さんの目がキラキラしてる。
ハァと溜め息を吐いてウリスケに聞いてみる。
「ウリスケ、スクショ撮らせてもいいか?」
『グ――――ッ』
どうやらいいらしいので職員さんに許可を出す。
「いいそうですよ」
『はい、では【スクショ】【スクショ】【スクショ】【スクショ】』
職員さんはあっちこっちと位置を変えてスクショを撮りまくる。
『どーもぉ、ありあしたぁ!!』
ほっこりした顔で礼を言ってくる。ウリスケもポーズを取ったりしてノリノリだったからいいだろう。
クエスト依頼を受理したのでギルドを出ようとすると、職員さんが声を掛けてきた。
『討伐行く前にモンスターのことを調べてみたらどうですか?資料室は2階にありますから』
「はーい、ありがとうございます」
へーそんな便利どころがあったのか。どうしようかとララに聞いてみると、ララが知ってるので今はいいのですと返ってくる。
「ちょっと急いでるのでまた今度にします」
『はーい。ではお気をつけて〜』
職員さんの言葉を背に受けギルドを後にして西門へと向かう。空には2つの月が周囲を照らしている。白青と赤。何とも不可思議な光景ではある。
「ララはゴハンとか食べなくて大丈夫か?」
『大丈夫なのですマスター。まだまだ満腹なのです』
『グッグッググ――――――ッ』
とはいえ食べるとなれば、西門の通りには屋台がないので戻ろなきゃならないのだが、満腹ならばその必要もない。
西門を抜けると西街道の先には広大な森が画面いっぱいに映っている。
ララの話によると、このプロロアの街は北はイイーデン山脈に阻まれ、南にはアーガン河という大河に挟まれているらしい。東街道と西街道の先には大きな村がそれぞれあってそこから人族やその他の種族の街へと続いてるとのこと。
僕の場合は、人族の街でイベントをこなすみたいだ。ま,その前にエリアボスとやらを倒さないとダメらしいけど。
西街道を少し歩いた所で南へと進行方向を変える。まずはワイルラビットの討伐だ。
ワイルラビットは、茶色のウサギみたいなウリスケと同じくらいの大きさのモンスターで、動きがすばしっこく始めはなかなか捉えられないのだが、一定時間経つと動きがビタっと止まるらしく、その時に攻撃を加えるのがセオリーらしい。
けれど僕等にそれは当てはまらなかったようだ。
灯り玉を使って南に向かうとすぐに草むらから3体のワイルラビットが襲いかかってきた。
ララが正確に着地点に穴を掘り転ばせて、ウリスケはワイルラビットよりも素早く動いて同体格のそれを吹き飛ばし一撃で屠る。僕も転んだ1体に縦斬りを繰り出すとこれまた一撃で倒してしまった。あっけなさに口をポカンと開けてしまう。よわっ。
今の“ヤマト”のLvは12になってるから初級クラスのモンスターでは物足りないだろうし、経験値もそれほど貰えないみたいだ。このエリアはマップを埋めていくことに専念しよう。
南へさらに進んでいくと、ホーンラビットやってきた。縦1列で3体が並んで突進してくる。ワイルラビットが鋭い前歯で攻撃してたのに対しホーンラビットは額の錐のような角で攻撃する感じだ。
裏路地でのラバーラット戦ですでに知っている戦法だっったので焦らずに火魔法を詠唱する。
『グランディグ!』
「ファイヤバレット」
『ギャバ』『ギャビィ』『ギャフッ』
1体目が穴ですっ転び、2体目が火に包まれ、3体目は横からウリスケに体当たりを受けて、吹っ飛び消えていった。こっちもよわっ。
ワイルラビットとホーンラビットをサクサク狩りながら、今度は東へと方向を変えて進む。
討伐数よりかなり多く狩って、ドロップアイテムがけっこーな数溜まってきたので一旦街に戻ろうと思った時に、その場所が現れた。
BGMが切り替わり、周囲の草原が靄に包まれていく。
『ハーミィテイジゾーンなのですマスター!』
『グッグ――――ッ』
「あー隠しなんとかってヤツ?え?こんなとこにあったんだ」
『ハーミィテイジゾーンはランダムなので条件はいろいろ違ってくるのです。でもプロロアにあるなんて、データには今まで無かったことなのです!』
「で、ゾーンに入ったらどうするんだっけ?」
『このあと出てくるゾーンボスを倒せばハーミィテイジゾーンを登録できるのです』
そういやガンさんが言ってたような気がするが、よく覚えてなかったわ、はは。その時、灯り玉の効果が消えて灰闇の世界へと変わっていく。慌ててメニューを開こうとした時、ララから警告を受ける。
『マスター!前方にモンスターが1体接近して来るのです!!気をつけて―――』
靄の中から黒い人影のようなものが目前に迫って来た。
避けるのは無理と判断して、斧で防御体勢を取る。がガンという音とともに“ヤマト”のHPが少し減る。
防御をしてもこれだけの威力とは何とも手強そうなモンスターだ。拳で一撃を加えると、また靄の中へ消えて行った。なかなかに厄介そうだ。
ララに索敵を任せて警戒しながら灯り玉を使う。灰闇が明るくなった瞬間、右側から影が迫ってきた。
『マスター!』
しかし、吹き飛ばされたのは相手の方だった。ウリスケが先に相手を察知して、現れたそいつの脇腹に体当たりをしていたのだ。
『グッ!』
「サンキュ、ウリスケ!」
『グッグ―――ッ』
『マスターごめんなさいなのです。急に相手がいなくなったのです』
「いや、明るくなったから大丈夫みたいだよ。ほら」
灯り玉の光で周囲が照らされて靄が薄まっていくと、そこに2本足で立つ“ヤマト”と同じ位の体格をした8頭身の“ウサギ人間”がリズムを取ってスキップしていた。
ワイルラビットやホーンラビットと違って、白い毛皮で頭に王冠をかぶって何故か赤い目を吊り上げて怒っている。
『あれは、ハーミィテイジゾーンボスのカンムリラビットなのです。両腕の手甲で攻撃するパワーファイターなのです!』
カンムリを頭に載せたおかんむりなラビットって訳か。変なダジャレが効きすぎて言葉にならない。
どうやら意識はプレイヤーである僕の方に向いてるので、2人に攻撃を任せよう。
「僕がヤツの攻撃を引き付けるから、2人で攻撃して貰えるか?」
『わかったのです』
『グッググ――――ッ』
当初は苦戦を予測していたわけだが、ララの魔法とウリスケの体当たりで翻弄され攻撃が出来なくなっているカンムリラビット。
ただ警戒してるのも何なので、メニューを開いて【鑑識】で、カンムリラビットを見てみる。
モンスター:カンムリラビット Lv ?
ラビタンズネストを守護する拳闘たる王
その手甲から繰り出される一撃は強烈
敵対する相手には必ず怒っている
水が苦手
要は、ボクシング好きのラビット系の王様ということだろうか。今は戦闘中なので変な事を考えず集中する事にしよう。HPゲージは残り3割と言ったところか。
カンムリラビットが攻撃に移ろうとするたびにバランスを崩され、体当たりをかけられて防戦一方のようだ。
だがカンムリラビットのHPゲージが3割を越えた時変化が起こった。
『オオオオオオオオ―――――――ォォォッ!!!』
いきなり大声で吼えると体当りをしていたウリスケが弾けれノックバックする。そして白かった体毛が赤く染まっていく。
『スタイルチェンジなのですマスター!範囲攻撃が来るのです!!』
ララの言葉と同時に、全身が赤くなったカンムリラビットが空へドンと音を立てて空へと飛び上がった。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




