27.姉、風邪を引く
このくらいの尺で行ければと
ブクマありがとうございます
姉が風邪を引いたらしい。鼻声で助けを求めるTELに慌てて駆けつけると、ソファーでぐてーと姉が力なく横たわっていた。
「大丈夫?サキちゃん。ベッドで寝なきゃダメだよ?」
駆け寄って部屋に連れて行こうとすると、姉がそれを遮る。
「らいじょぶぅ〜。ここがいいのぅ〜」
毛布をかぶり、ジェルシートをおでこに付けてソファーを叩く。僕に座れということらしい。ったく。
ソファーに座ると太股を枕に姉が安堵のふぃ―――と息を吐く。
話を聞いてみると、昨日僕が帰ったあと、お風呂に入ったら寝落ちして湯あたりした上に裸のまま横になったら湯冷めして風邪を引いたみたいと………。
デイトレーダーなんてのは健康管理が第一だと思うのだが、困ったもんだ。
昨日の様子を見るとずっと取引って無いけど大丈夫なのか?いや、休日はやってないのか。
まぁ、体を休めるには、いい機会なんだろう。今日は1日付き添うことにしよう。父さんや母さんにはあんたは姉に甘いというが、それはお互い様だ。(2人とも甘々だ。)
「ご飯食べたの?薬は飲んだ?」
「ん~まだぁ。おなかすいたぁ~」
ならば今日考えたヤツにひと工夫して見ようか。パーカーを脱いで枕のように丸めて姉の頭を載せて、キッチンへと移動する。「くはぁっ、にほいがかげないっ」鼻詰まりの声でそんな事を行ってる。何か大丈夫みたいな気が………。
冷蔵庫で冷やしあったスープを半分ほど雪平鍋に移して、来る途中で買った塩むすび2コを解し入れて少しばかり煮詰める。その間に卵をボールに割り入れ、砂糖、塩、ゼラチン粉を加えかき混ぜる。小振りのフライパンをコンロに置き、弱火で温めサラダ油をひとたらし、そこへ溶き卵の半分をフライパンへ流し入れしばし待つ。固まり始めたところに鮭のほぐし身を散らしいれ、左右を折り入れて手前からくるくると畳んでいく。
なんちゃって卵焼きの出来上がりだ。
ス-プの方を味見してみると塩むすびの分の塩味がきつい感じがしたので水を少し加えて再びコトコト。
若干薄くなったかなとも思ったが、そのまま溶き卵を流し込み蓋をして3分程で、スープがゆが出来上がる。
レンゲを添えてリビングに持っていくと、くてーっとした姉が「ふぉ~~っ」とか言って寝ている。
ほんとはベッドで寝た方がいいんだけどなぁ。テーブルに料理を置き姉に食べられるか尋ねる。
「サキちゃん。ゴハン食べれる?」
「あべる~~。よい~しょ~」
起き上がろうとするので、側によって背中を支える。
「ありがとう~キラく~ん」
「自分で食べれる?」
「あ~~ん」
雛鳥の様に大きく口を開ける姉。………どうやら完全に甘々モードになってるみたいだ。ドンブリを手に取り、レンゲでスープがゆを掬いフーフーと冷まして姉の口へと運ぶ。何度か咀嚼して頬に手を当てて、顔を綻ばせる。
「おいひ~~」
そんな餌付けを何度か繰り返し箸でなんちゃって卵焼きを少し崩し取りレンゲに乗せて姉の口へ持っていこうとして思い直す。
「あ、醤油はかける?」
「うん、ちびっとだけ」
醤油をひと垂らしして、姉の口へと入れる。その顔が蕩ける様な表情を浮かべる。口元から「むひょー」と小さく聞こえる。今日は具合が良くないせいかガツガツ食べる事もなく、ゆっくり咀嚼しながらじっくりと食べている。全てを食べ終えた姉はほっこりしながら横になる。
僕はキッチンで洗い物を片付けた後、水の入ったコップと風邪薬を持ってリビングへ戻る。
「サキちゃん。寝るなら薬飲んでからにしなよ」
「あい~~」
起き上がるのを手伝って、錠剤3つを渡しコップを手に持たせて飲ませる。
「ぐへぇ~」
変な声を上げてまた横になる。くぺーくぺーと鼻の詰まった音を立てながら眠ってしまったようだ。さて、さすがにソファーの上で寝たのでは治るものも治らないだろうから、姉の部屋を片付けてそっちで休んで貰うのがいだろう。
リビングを出て、フローリングの廊下を通って奥の姉の部屋へと向かう。“はいっちゃだめだぞ~、はいっちゃだめだぞ~”とやはり何かが囁くが、それを押さえ込んで取っ手を回そうとするがロックがかかって動かない。
「アルデ、この部屋のロックを解除してくれないか」
『申し訳ございません。サキ様の許可無く解除は禁止されております』
禁止って………。どんだけヤバイ物が入ってるんだろうか。
「休むのに使える部屋はある?」
『それでしたらそちらの“102”のプレートの部屋はご利用可能です』
ならそっちの部屋を使うことにしよう。
102のプレートの付いた部屋のドアを開けると、そこは畳敷きの8畳間で、山積みのダンボールが隅に置かれた部屋だった。
窓は無く、向かって左側にふすまがあるのみだった。
布団とかあれば良いけどとふすまを開ければ、期待通りにマットレスと敷き、掛け布団と毛布が畳んで入っていた。これならいいだろう。
ちょうど部屋にあった掃除機で埃やゴミを取り除き布団を敷いて調える。空気は窓が無いからエアコンをドライにして少しだけ入れ換える。よし、おっけー。
「サキちゃん。布団で寝たほうがいいと思うから客間に連れてくね」
「あ〜う〜〜」
どうやら薬で朦朧としてるみたいだ。ジェルシートを剥がして手を当てる。
まだ少し熱があるかな?
テーブルに置いてある新しいシートを取り出し、姉のおでこにペタリと貼る。
心なしか気持ち良さそうだ。
毛布を掛けたまま、姉をお姫様抱っこして102の部屋へ。
敷布団に寝かせて、毛布と掛け布団を身体に掛ける。
来る時に買っておいたスポーツドリンクにストローをさして姉に与える。
「はい、サキちゃん。水分取って、ちゅー」
「ん〜〜〜〜〜〜」
ゴキュゴキュストローで飲んでいく。2/3程飲んでストローを口から離す。
「今日はずっとこっちにいるから用があったら呼んでね」
「うぃ〜〜〜」
僕が部屋から出ようとすると,姉が鼻を詰まらせながら声を掛けてくる。
「じゃ〜ゲ〜ムやっでで〜〜」
………こんな時にゲームやる気分じゃないんだけどなぁー。
「ん、分かった。サキちゃんは眠ってね、おやすみ」
「ぼやずびぃ〜」
すか〜と寝息が聞こえてきたので、水とティッシュを持ってきて部屋のドアを閉める。
「アルデ。サキちゃんの様子を見ててもらえる?」
『かしこまりました。キラさま』
リビングに戻りテレビを点けると“おはようサンデー朝8時”がやっていた。タレントの木下 夢五郎さんが様々な事を体当たりで体験する[夢五郎の当たって砕けた]を絶賛放送中だ。
今回は地引網に挑戦みたいだが、成果はサザエひとつだけ。
マジ悔し泣きする夢五郎さん。
ほんとに泣き顔をカメラが執拗にアップで撮り続ける。ある意味ドン引きだよ。
でもこれが数字を取ってるというからなかなか不思議だ。
っといかん、画面をPCモードにしてゲームを起動させる。
続きを選び決定っと、『ヤマトさま。お帰りなさいませ』と女性ボイスと音楽が画面から流れてくる。
『おかえりなさいなのですマスター』
『グッグー』
「ただいま。ララ、ウリスケ」
ララが嬉しそうに“ヤマト”の周りをクルクル飛び、ウリスケはピョンピョン跳ねる。
とりあえず姉が風邪を引いたのでプレイする時間はそれ程無いことと様子見の為に時々中断することも話しておく。
『わかったのです。マスター』
『グッググーッ』
2人の了承を得たので、次は何をしようかララに相談する。
僕が知ってるRPGだと街の人達に聞いて聞いて聞きまくり、フラグを立ててクリアしていく感じだった。
いわゆるお使いRPGと言われるものだけど、このゲームだとララや露天商のイベントぐらいで自由度があるので、勝手が違ってけっこー戸惑う。
まぁ、ララがいるから飽きが来ないので問題はないんだけどね。
『南東、北東エリアはだいぶ踏破したので、南西、北西エリアを攻略するのがいいと思うのです』
「あー、そういや西側は殆ど行ってなかったよな、あれ?でも西の森で薬草採取したよね。西も森はランク的に高くないの?」
『いいえ、ランク的に言えばこのプロロアで1番高いところなのです。レベル的に言えば南西エリアがLv1〜5,南東エリアと北東エリアがLv5〜10、北西エリアがLv10〜13、そして西の森がLv13〜15程度と言われてるのです』
てことは初級エリア飛ばして始めちゃったわけか。確かにダメージも受けずに倒せてたもんな。
『大抵のプレイヤーは南西エリアでワイルラビットを狩ってレベルアップしたノリで西の森へ突っ込んで行って死に戻るパターンが多いみたいなのです』
ヤなノリだなそれ。
僕はララのイベントのお陰でレベルアップして、別の場所で狩り始めたからそんなこともなかったんだろう。ララにお礼を言わねば。
「思えばララのお陰で死に戻りもしないでここまで来てるんだな。ありがとなララ」
僕の言葉ににキョトンとしていたララが、顔を真っ赤にして体をクネクネさせる。姉のようだ。
『そんな事は無いのです。ララはマスターあってのララなのです。お礼なんて必要ないのです!』
ララはそんな事を言うけど、感謝をしたら言葉に表すというのは、僕のというよりは我が家の家訓みたいなものなので、ちゃんと口に出すのだ。
「そんな事無いよ、ありがとうって思ったら言葉にする。僕のポリシー?みたいなものだから聞いてくれるだけで良いからさ」
『わかったのです!………ちょっと恥ずかしかっただけなのです』
ビシッと敬礼したかと思えば、ホニャホニャと顔を緩めるララ。
「よし!それじゃ、南西エリアと北西エリアのマップ埋めと、モンスターの討伐ってことだな」
『はいなのです。冒険者ギルドに行くのです!』
『グーッ』
ララの言葉にうずくまっていたウリスケが相槌を打つ。
僕らはさっそく冒険者ギルドに行き、討伐のクエスト依頼を請けに行くことにする。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




