25.キラくんの行動を観察する その4
一旦区切ります
姉暴走気味ですご容赦を
pt&ブクマありがとうございます
新しい朝が来た。ギョーザの朝だ。朝から重いとは思うがキラくんのギョーザを前にすれば、そんなのは些細なことだ。
仮眠室を出て、顔を洗い軽くメイクをする。
会社を出て、愛車へ乗り込みキラくんとこへレッツゴー☆。
アパートに突撃すると、ギョーザはあたしの家にあると言われ愕然とする。「場所書いてなかった、ごめんねサキちゃん」と謝られるが、そもそもあたしン家でゲームやってたんだから、と少し考えてみれば分かる事だ。
肩を落として帰ろうとすると、キラくんが「朝ゴハン食べてく?」と聞いてくる。あたしに否やはない。首を縦にブンブンと振る。
今朝のメニューは、タマサラサンドだ。軽めにトーストしたパンにマーガリンとマスタードを塗り、そこにどっさりタマゴサラダをのせて、好みでハム、チーズ、レタス、トマトをのせてパンで挟む。それを半分にカットして出来上がりだ。
サクッとしたパンの食感と粗めの砕かれた白身とフワプルの黄身、そしてハムとチーズの塩っ気とトマトとレタスのシャキジュワーが口の中で何ともいえないハーモニーを奏でている。
うまっうまっ。ガツガツと食べ進めるあたしを横目に、キラくんはテレビを見てのんびりしている。(おはようモーニングッデイ。アイドルグループ‘Pre“G”dent’が司会をしている番組だ。)
タマサラサンドを食べ終えて、コーヒーを飲んでいるとうつらうつらしてくる。昼にギョーザを焼いてくれると約束したので、それまでここで寝させて貰うことにする。(仮眠2時間はさすがに厳しかったか)ジャケットとボトムスを畳んでキラくんの布団へダイブ。おやすみなさい………。キラくんのにおい――――っ。すか――――っ。
はっ。目が覚めるとガバリと起き上がる。気分はスッキリ意識ハッキリ。なんとも清々しい目覚めだ。
時刻は11時前、ギョーザを食べるために家に帰らねば。ドアをロックしてアパートを出る。しかし、セキユリティーが甘い気がする。爺様が残した遺産のひとつであるが、立地場所や住人や老朽化のために壊すのにもやたらと金が掛かるらしく、結局キラくんが引き受けることになった。あたしが引き受けても良かったのだが、爺様が倒れる前にキラくんに何か言ってたらしく、今は父に一時的に税金やら何やら肩代わりしてもらい、バイトでコツコツ返しているらしい。住人は全室に入ってるのだが、家賃は微々たるものみたいだ。ボロいしね。
近くのコインパーキングで愛車に乗り込み急ぎ発進。10分程でマンションへ到着、地下駐へ愛車を駐車し、部屋へと直行。さらにキラくんへ直行。ギョーザとキラくんの名を叫びさっそくキラくんを堪能。
ぬふぅ――――、布団とはまた違ったキラくんの香りが鼻孔をくすぐる。
コントローラーとヘッドセットをテーブルに置いて、手際よくあたしの拘束を解くと、そのままキッチンへと向かおうとする。
そーだ!ギョーザとくればやっぱ定番のラーメンだ!一緒に食べたくなったのでキラくんに速攻でお願いする。
味噌バター、あとライスも。ギョーザはあるだけ焼いてもらうことにする。ギョーザは何コでもいける口だ。
スーパーに材料を買いに行ってくるというので、お気にのビールも頼む。あたしは食べるのが専門なので食材のストックはしない主義なのだ。そう、しない主義なのだ。
出掛ける前にログアウトをしようとしたので、代わりにあたしがやると行ってやめさせる。寝ながらVサインでウィンク。溜め息を吐きつつ顔を少し赤らめる。かわいいの〜キラくんは。
画面のララちゃんに向かって後のことを頼むと、キッチンでガチャガチャやってから出掛けて行った。しめしめ。コントローラーを見て、昨日の行動の謎を解き明かして(という程の事ではないが)、設定したオートアクションプレイを起動させヘッドセットを首にかけて、あらためてララちゃんと対面することにする。
「はじめましてララちゃん――――」
『はいなのです』
いきなりのララちゃんどアップ。「うおっ」と思わず叫んでしまった。
『ごめんなさいなのです』
ララちゃんがこっちを見てペコペコ謝りだす。ん?こっち見えてんのか?どーやって?あ、テレビの対話用カメラか。そんな事可能なのかしら?
「えっと、あたしはキラくんの……姉でササザキ サキオって言います」
くっ、関係性を示すワードとはいえ、己からは決して言いたくない言葉であるがやむを得まい。
『ララはマスターのアテンダントスピリットでララと言います。よろしくなのです。おねぇさま』
おねぇさま……くっ、これは……かなりくる物がある。ボディブローが深く刻まれる。ダメージがデカすぎる。
「えーと………ララちゃん。お願いなんで名前で呼んで貰えるかな?」
『はいなのです!サキさま』
……なんていい娘なのだろう。このゲームで使用しているKAPAIからは生まれるはずのない滑らかな発音と選択される言語の羅列に感心してしまう。
キラくんが帰ってくるまで、そう時間も無い事だし(やたらと買い物が早い。お菓子を入れるヒマがない!)さっそく核心に迫る事にする。
「ララちゃんはキラくんがシークレットイベントをクリアしてここにいるけど、それ以前はどうしてたか覚えてる?」
AIに向かって何言ってんだと研究者などは言いそうではあるが、あたしにとっては関係ない。
『ララにもよく分からないのです。アテンダントスピリット自体は、プレイヤーが初めてここに来た時に自動的に作成されイベントに組み込まれるのです。たたその時、ララにたくさんのデータが別のルーチンとして作られていったのです』
「別のデータって他からのハッキングとか、ウィルスってこと?」
そんな事になれば大変だ。サーバーのCPは、それなりの対策はしてきてあるが、ララちゃんは外部で誰かが操作してるのか。いや、そうであればあたしにこんな事を話してる筈がない。
『いいえなのです。たぶんなのですが、今まで存在出来なかったアテンダントスピリット達のデータじゃないかと思うのです。イベント失敗で消去されても、何らかの理由で少しだけの塵ののようなデータがサーバー内に残って、それがたくさん集まってプログラムを生成してララに入り込んだと認識してるのです』
AIが認識とは、ってことは開発部長のイタズラがこの娘を生み出した事になるって訳か。消去された何万ものアテンダントスピリットのデータの塵が、寄り集まってプログラムとなる………。
ララちゃんの言葉だけではちょっとばかり弱い気もするが、あるいはサーバーに使ってるハイメガCPが影響をもたらしたのか………。ん〜現時点では何とも判断しようがないわね。とりあえず棚上げしとこう。しかし、そんな考えはララちゃんの言葉で引っくり返る。
『でもララが一番にハッキリ覚えているのはマスターの励ましの言葉なのです!ララが苦しんでる時ずーっと“がんばれがんばれ”と本当にずっと声を掛けてくれてたのです。ララを心配してくれるマスターをララが認識したのです。マスターはスゴイのです!』
ララちゃんがキラくんを熱く語っている。こんな所にキラくんラヴァーがいたとは、キラくん恐るべし。
結局はプログラムの突然派生とキラくん愛でララちゃんが覚醒したといったところか。そんな事をつらつら考えている間にもララちゃんのキラくんトークは続いていた。
『ララの意識がハッキリしてきた時、マスターはほっとして笑顔を見せてくれたのです。ララはズギューンとなったのです。ん?ズギューンって何?なのです?』
いや、ズギューンってAIの言葉じゃないし、ん?まてよ、って事はやっぱララちゃんはこっち見えてるって事かな?
「ララちゃん。もしかしてあたしの姿がそっから見えてるって事?」
『はいなのです。サキさまはとっても美人さんなのです』
あーやっぱ対話用カメラを通してこっち見てた訳ね。でもプレイヤーキャラをマスターと認識しないのは何故?
「ねぇ、今訓練してる〝ヤマト”はマスターじゃないの?」
『〝ヤマト”さまはマスターじゃないのです。〝ヤマト”さまはちょっと変わったAIさんが入っているのです。すごいですけどマスター程じゃないのです』
やっぱバレてるか。そこら辺はキラくんには内緒にして貰うとして、こうなると色々試してみたくなるのは技術バカといえるだろうか。
「こんなこと頼んじゃいけないと分かってるけど、ララちゃんのコアプログラムを見せて貰う事は出来るかしら、もちろんダメなら―――――」
『いいのです。はいなのです』
はやっ、いいのかそれ!あたしのミニPCでメール着信の呼び出し音が鳴っている。ミニPCを開き画面を見て、メールを確認するとダンプリストがズララ~と表示される。やばっ容量足りてるか?だいじょぶそう。
流し見てみても、一見KAPのAIプログラムにしか見えないが、所々にあたしにはちょっとわからない式列のものが現れてくる。これ研究所でもハイランククラスの人間にしか解析とか出来ないんじゃないか?もちろんそんな事するつもりは毛頭ない。
ララちゃんを実験の生け贄にすることは、誰かが許してもあたしが許さん。その時、ピコンと閃く。昔風に言えば、豆電球がピカリと光るそんな感じ、解析はは出来ないまでも流用は出来るでしょ、なんでララちゃんにお伺いを立ててみる。
「ララちゃん。ララちゃんのコアプログラムの一部でいいから、このゲームのNPCのAIに並列添付って出来ないかな?」
ララちゃんはちょっとだけ考えるように上を向いてから答えてくれた。
『いいのです。問題ないのです。ただプログラムの作成をサキさまにお願いしたいのです』
何ともあっさり了承してくれた。何故かと聞くと『マスターの大事な方のお願いは出来るだけ聞くのです』と返ってきた。なんていい子や。
「じゃ、ちょっとだけイタズラしちゃおっか☆」
あたしの黒い笑みに、ララちゃんが背筋をビシシッと伸ばし『了解なのですっ!』と敬礼する。あれ?
その間、アルデが電子レンジにあるスープが出来たことを伝え美味しく頂いたり、〝ヤマト”くんがいきなりコンボアーツを繰り出したのを見て驚いたり、2人でキャッキャウフフと作業しているとドアがガチャンと開いてキラくんが帰ってきた。
「ただいまー」の声と同時にキッチンへ向かう足音。やがてゴマ油と何かが焼ける音といい匂いが漂ってくる。う、これはなかなかにぃ、口の中に唾液がじゅるりと溜まる。
「ゴメンねララちゃん。もうすぐお昼なんで一旦作業を中止するね」
その言葉にララちゃんは笑顔で返してくれる。
『大丈夫なのです。こっちで少しづづ作業しておくのです』
オートアクションプレイをそのままに、ミニPCの作業を終了しバックアップを取りシュシュで髪を纏めているところにギョーザを持ってキラくんがやってきた。うっほーっ。テンションあ~が~る~ぅ。
コトリと置かれた10コ2列に並べられたギョーザのその食欲をそそる香りとおと魅了される。ほわぁ~。
ビールをぐいっと1杯、それから小皿に定番の醤油を注ぎラー油とお酢をひとたらし、手前の列のパリパリの羽根付きギョーザを箸でひとつ取り分けタレをちょんと少しだけ付け口へと運ぶ。
カリッパリととした皮を噛み砕くと、中から味噌の風味とぷりりとしたアンの食感が口の中を満たしていく。これエビ?イカ………シーフードミックスかな?タレ無しでもいけちゃうね、これっ。
次に奥の列をひとつ、噛み砕いた途端ジュワンと肉汁が中から飛び出る。醤油の微かな香りと〝肉”といわんばかりに口の中を支配してきて、ホッペがキューとなってくる。うまっうまっ。
ビールをあおりながら、次々に頬張っていると残り4コといったところでお待ちかねがやって来る。
「味噌バタ―――――☆」
さっそくスープをひとくち。ん、うまい。次に麺をすする。ズルズルズズーッと口いっぱいに麺を頬張り咀嚼する。縮れた面と細麺のアンバランスが絶妙な食感を生み出し絡んだスープが旨さを増幅させる。思わず頬に手を当てて体をくねらせて喜びを表す。
「おいひぃ―――――」
後はひたすら、麺をすすり、ギョーザを齧り、ビールをあおる。半分ほど食べた後は、バターとノリを溶かして味を変える。バターの油と磯の香りがスープに新たな彩を添える。何でケンカしないのか不思議だ。
麺を食べ終わった後、ゴハンを茶碗半分スープの海へと投入。軽くかき混ぜてレンゲで掬ってひとくちズズッとすする。味噌スープとゴハンが口の中に流れ込み、ラーメンとはまた違った味わいをもたらしてくれる。優しい口当たりにホゥとしながら食べ終える。
チラと見るとキラくんがラーメンをしみじみと味わって食べている。
キラくんはひと口ひと口を味わうタイプだ。そこはあたしと若干違う。今度はじっくりとキラくんをじーッと見つめる。
あたしの視線に気付いたキラくんは、そっとドンブリをこちらに寄こしてくれる。
「ありがとキラくん。大好き☆」
「はいはい。ギョーザもっと食べる?」
「うんうん食べるぅー」
あたしの愛のこもった言葉をスルーして、ギョーザの追加を聞いてくる。もぉ、全部といっても様子を見て聞いてくるその細やかな気配りにムッとしてた気持ちもすぐにおさまる。
キラ君がキッチンへ向かうのを横目に塩ラーメンに取り掛かる。あっさりしながらも鳥の旨みが舌を口中を悦びに染めていく。スープをひと口。うまうまっ!また麺を食べ終えた後、ゴハンを入れて軽く掻き回してからゴッゴッとドンブリを持ち上げあおる。んひゅう、うまーっ。
ドンブリを空にした頃にキラくんがギョーザと小皿を持ってやって来た。腹8分目まだまだ行けるよっ!
ホカホカのギョーザと粉まみれの液体が入った小皿が置かれる。
「キラ君、これ何が入ってんの?」
「うん、お酢とコショウ。けっこー合うらしいよ」
ふ~んと何気なく軽くタレをつけて海鮮ギョーザを口にする。
最初はおいしいねーという感じだったけど、お酢の酸味もコショウのせき込む様な辛みも優しく緩和されて、ギョーザと融和して美味しさが倍増されていく気がする。
1つ、2つ、3つと続けてほおばり、ビールをクイッと飲み干す。やばっ、止まんない。
キラくんも似たようなもので、噛み締めながらも次々と箸を動かす。
最後のギョーザを口に入れて、ビールをグビビッとあおりコップをテーブルに置く。
「くはぁ!ごちそうさまっ!!」
満足、そう満足のひとことに尽きる。はぁ、美味しかった。ソファにゴロンと寝転がる。ふひぃーっ。
食後の満腹感に浸っていると、後片付けを終えたキラくんがソファに座ってヘッドセットを掛けてコントローラーを握る。またゲームを始めるみたいだ。
キラくんの太股を枕にうとうととした意識の中で、ララちゃんが何か言ってたりガンさんの声を子守り歌のように聞きながらあたしは眠りに落ちる。
すか――――っ。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




