243.知ってる?シロアリって―――
………大変遅くりました (( <(_ _)>
新年おめでとうございます
本年もよろしくお願いいたします
事の始まりは、僕がじーちゃんのアパートを受け継いだ時の事だ。
アパートの皆さま方へと挨拶したところ、1人の住人さんからいきなり紙の束を渡されたのだ。
「ん、まぁ無いと思うけど。とりま、もし起こった時の為って事で」
それを渡された僕が首を傾げていると、そう言って眠そうな目をしばたかせてその人は部屋の中へ戻って行った。
その時思ったのは、あの人本当にお巡りさんなのん?であった。
でまぁ、部屋に戻ったところでせっかくいただいた資料なのでと取りあえずパララと斜め読みをして理解したのは、訪問販売詐欺についてのものだった。
資料を捲りながら、ふーん………色々とあるんだなぁと感心していたところにチャイムが鳴った。
「どーもっ!わたくし皆様に愛されるシロアリ駆除の“アントレイズ”です!よろしくお願いしまっす!」
「えっ………」
ドアを開けると、なんとも軽薄そうな若い男性が笑顔で挨拶をして来た。
いきなりの訪問に僕は寸の間ことばを失してしまう。
「しつれーしまーす!」
「あっ………!」
手慣れた様にキッチンへとその男は向かうと、何や手に持ったカバンから機械を取り出して床下の収納庫を開けてその機械を突っ込んで操作を始める。
そしてこちらに振り向き焦ったような声を上げて告げて来た。
「これはっ!た、大変です!!こ、これを見て下さいっ!」
………何なんだろう、この茶番劇。
手順化されたオレオレ詐欺をはじめとして、この手の犯罪においてはデフォルトではある事。
つまり何事にもマニュアルがあるって話。
人を騙す事にも手引き書がある。もちろん作業の円滑をを進める為にそれはある。でも何にでもその先を指し示す事があるなんて、とても思えない。というか思いたくない。
人を貶める為に、ただそれだけの為にシステムがあるとか馬鹿々々しいにも程がある。
けど現実はこうだ。
そして目の前にいる人間も。
その男が見せたホロウィンドウには、床下で支えている支柱―――木造の柱が白く崩れ朽ち果てている様子が見て取れた。
「……………?」
僕が首を傾げる様子を、肯定と受け取った様子のその男はさらに言葉を続ける。
「こ、このまま放置しておきますと倒壊の恐れがあります!大至急補修をしないと大変です!」
そう言いながらその男は、どこかへと端末を出して連絡を始める。
それを見ながら僕も端末を操作して“お知らせ”をする。
きっとあの人はすぐにでも駆けつけてくれる。と思う。(多分)
「安心してください!すぐに当社のスタッフが駆け付けますのでっ!」
ぺかーって感じの、なんとも爽やかな表情をその男はこちらに向けて来る。
………ってか、この人って勢いと強引さで何事もこなして来た人物と見受けた。
でもこのままなし崩しにやられても業腹である。
今まで美味しい目を見て来たと思うので、だからここらで痛い目を見て貰ってもいいんじゃないだろうかと、少しばかり思ってしまったとしても罪悪感は起きなかった。
騙される者より騙される人間というのが悪いと言うのは一面で言えば至極当然と言えば当然な話とも言える。
とは言え、だとしても僕としてはそんな事は許容できるものではない。
―――ってな訳で、ハムラビ法典の精神で反撃へと移る事にする。
「それ、うちの床下じゃないです」
「へ?」
「だーかーらー。それうちの床下じゃないって言ってるんですよ」
「はは、なにいってるんですか。ここの床下ですよっ!だからこそ危険なんですよっ!」
僕の言葉に何をあんたは言ってるんだの如く当然のように噛みついてきた。
「はー………。で、何が危険なんです?いきなり勝手に人のうちに入って来てそんな事を言うからには何らかの理由があるんですよね?」
僕が視線に力を込めて軽く睨む。
「――!し、失礼しました。私共はシロアリ駆除を主に担う会社でありまして、失礼ながらではありますがお客様の為と思い馳せ参じた次第であります」
そう言いながらスーツの中から名刺を差し出してこの男は頭を下げる。
相手の反論にはすかさず下手に出る。これもきっとマニュアルに記されているんだろう。
悪意を悪意と認識しないで仕事と誤変換するってのは正直どうかと思うけど。
まぁそんな人間に対して真摯に応じるのも、正直バカらしいので少しばかり攻め口を変える事にする。
「へぇ、シロアリ駆除ですかぁ。ところでシロアリって蟻なんですか?」
僕は事前に渡された資料を見て知っている事を聞いてみる。
「はいっ!シロアリは蟻の一種です!だからこそ増える前に駆除しなければダメなんですっ!!」
「……………」
…………おいおいおい。詐欺の素なんだから、少しでも学ばないってのはダメダメじゃなかろうかと思う。
だからこそ次の問いが功を為してくるって訳なのだ。
「………あの、あなた本当にシロアリ駆除の専門家なんですか?だってシロアリって―――――」
そう。アレは蟻の仲間じゃなくて、あのキッチンでカササササア−と徘徊する、かの―――。
“G”の仲間だったのだ。ふぅおぉぉぉぉー………。
そう何故か気が付くと、足もとをカササーと通り過ぎたり、木の洞からカブトやクワガタかと思って捕まえようと思ったら、ブブブバーっと、目の前に羽音を響かせ飛び込んできて、僕を“ぎぃやぁあああああぁあっ”と慌てふためき声を上げさせてその場から逃げ走らせたと言う記憶を植えつけさせた存在であった。
………あ、がががが…………・
うん、チャバネとヤマトとかただの虫のはずなのに。
何故あれだけ僕を此処まで忌避させてしまうのか。
おそらく僕の遺伝子に刻まれた何かがあるんだろうと、いまは思っていたりする。(もしくは経験則か)
「え?ええっ!?」
僕の言葉に訪問者は驚きの声を上げ、それから眉を顰めて反論して来る。
「はは。何を言ってるんです?シロアリって言うんですから蟻の仲間に決まってるでしょうがっ!嘘言ってんじゃねえよっ!!」
あらま、僕の言葉にちょいとばかり本音が出たっぽい?
「ああ、それよりも警察に通報してもいーですか?あなたのやった事って間違いなく詐欺ですし」
僕のいきなりの発言に、そいつは激昂する。沸点めっちゃ低いなー。
「はぁあっ!?これのどこが詐欺って言うんだよっ!俺達や慈善事業でやってんだ!お前みてぇな情弱によっ!」
本性露わしたっぽい?つーか情弱とか慈善事業とか本気で言ってるのか、まぁどっちが情弱かなのかはこれから知らしめる事にしよう。(ふっふー)
僕は今まさに掴み掛らんとする訪問者へと、指をピッと1本立てて説明を始める。
「まず1つ。この建物は、当時最新式って言われる木材を使わないI×R工法というもので建てられています。つまり木材を食い荒らすであろうシロアリとて、特殊合金はさすがに侵食できないですよね?2つ。どこでうちの情報を得たのかは知らないけど、アパートの住人には警察関係者が入居してる事を知らなかったという事。これはこの手の詐欺をするには少々、いやかなりお粗末すぎるって事。で、あなたがやって来た時点で、通報済みって事ですね」
「な!?………ちょ、え、用事が出来たんで、これで失礼します!ではっ!!」
僕の指摘にすぐに顔を青褪めさせたソイツは、立ち上がり部屋を立ち去ろうとする。
まぁ、そんな簡単に相手の思い通りにいかないってのが世の常ってヤツで。
「―――もし訳ありません。少々お話を伺えますか?」
ドアを開け目の前に現れたうちの住人である警察官を見て、ソイツは観念した様に肩を落とした。
そしておっとり刀でやって来たスタッフ諸共お縄となったのだった。
ちなみに最初黙秘していたらしいソイツ等は、後に知ってる事を洗いざらい自供して芋づる式に次々と明るみななったとか。(コウザシさんがあの後報告してくれた)
そんなシロアリに関する思い出を引っ張り出して現実逃避していたものの、状況は変わらず大量のシロアリ擬きが天井から降っていた。
「はぁ………しゃーないか」
「マスター、行くのです?」
相変わらす(お約束)のララの言葉に、僕はほんとに本当に嫌々ながら言葉を紡ぐ。
「………うん。ウリスケとルリにばっかり任せてるのもなんだかなって感じだしね。うん、………うん。しょーがないん………だ」
「………マスター、本っ当に嫌なんです?」
「うん、イヤ………だなぁ」
眉尻を下げながら口を歪めて呟く。
とは言え気持ちとは裏腹に覚悟は決めた。
うん。決めました。
「分かったのです。では解除なのです!」
僕の覚悟を理解したララが魔法を解こうとした時、どこからか声が響く。
『放てっ!』
わらわらと降り落ちる数多のシロアリ擬きに対して、幾つもの色とりどりの魔法が降り注ぐ。
「は?」
キュドドドドド―――――っ!っと轟音と地響きが鳴り渡ると、シロアリ共が光の粒子となって消えて行く。
「へ?」
僕は唖然とその様子を見る。
そして放たれた魔法の先を見やると、たくさんのエルフが隊列を組み整列しているのが目に入って来る。
それはまるで軍隊か何かの様に僕には見えた。
ドドド―――ン!キュババ――――ン!と、魔法が放たれるたびにシロアリ共が掻き消えて行く。
おー………すげー。
見たところ全部が全部エルフだった。(いや場所からいえば当たり前っちゃ当たり前なんだけど)
ララが魔法を解除して周囲がよく見えるようになった僕達は、それに感心というか感嘆を目の前の光景を見て感じていた。
「貴様っ!貴様かっ!!あの大穴を開けたのはっ!」
そして声を荒げながらやって来る1人のエルフ。
………あれ?この人って、僕が天辺に行った時にいた衛兵の人じゃね?
傲岸不遜というその態度とその容姿。
うん。純粋種とか亜種とか偉そうに言ってた人だったと思う。(美形が一杯いるからちょっと判断がつかないけど、多分)
「貴様が指揮権を持っているんだなっ!なら、すぐに私に指揮を渡すがいい。それでこれまでの愚行は赦してやる!さあっ!とっとと指揮権を私に寄こせっ!」
………カッチーン。………いやいや待て待て。うん、待ちましょう。
そもそもこの突発イベントはいきなり始まったのであるならば、PCがNPCへイベントを委譲しても問題ないのではないか。
ただ、その方法が分からなかった。
考えられるとすれば、言葉で宣言すればいいのかあるいはメニューを出して操作すればいいのかである。
相手の言い方はともかく、どの道心情的にアレと直接対決ってのは正直御免被りたかったので、僕としては渡りに船でバッチ来〜いって気分だった。
だからまぁ、とりあえずはこの気に食わなくはないものの、傲岸不遜なエルフさんに言葉でお譲りする事にする。
「分かりました。あなたに指揮け――――」
ゴロピカッ!
僕が言葉を言い終える前に、一条の雷光が目の前に降り落ちる。
「なっ!?」
「ひゃっ!?」
………ふぉっ!びっくりした。
僕とエラそうなエルフ(エラフと命名)の中間に雷光が成したと思しき焦げ跡が現れる。
そしてそのすぐ後に、幼い少女の声が響き聞こえる。
『“にしゃ、いらね”』
その声には嫌悪とか忌避する思いが、僕の耳に飛び込んでくるように感じた。
「な、い、今のは古代エルフィア語!?い、一体どこから―――」
………古代エルフ………ねぇ。
おそらくステラちゃんが喋っていた言葉なんだろうってのは、想像に難くない。
「“お前はいらない”と星霊さんは言ってるのです」
ニュアンス的に察した言葉をララが分かり易く翻訳してくれる。
「っふ、ふざけるなっ!星霊様がその様な事を私に言う筈が無いっ!戯れ言を言うなっ!この下郎っ!!」
………おおぅ、下郎と来ましたか。
どうにも会話が成り立たないとか、ステラちゃんも余計な事をしてくれるなぁ、もー。
ウリスケとルリが仕出かした事とは言っても、そこまで責任は負えない。
たとえ巻き込んでしまったとしても、相手方がその様な認識を持っていなければその流れに任せても構わないって話だ。(今の場合は指揮権の移譲)
だから再度、僕はさっきと同じ言葉を放つ。
「ええ、分かりました。この戦いはあなたに―――」
ドキュドキュキュキュアァ―――――ンンッ!!
「ぎゃばばっ!?」
「っっ!!」
その途端さらに数条の雷光が周囲に降り注ぐ。
ひー………こっわっ!こぉっわっっ!!
ステラちゃんこわいです!………仕方ないので言葉で言うのを諦め、メニューをを呼び出してイベントのキャンセルをやろうと思ったんだけど………。はぁ、ムリデシタ、ムーリデシター。
もーどうせよと。
「貴様!貴様!貴様ぁああああ〜〜〜〜〜〜っ!劣等種の分際で、この純血種たるこの私には向かうとは恥を知れぇえええ〜〜〜〜〜〜っっ!!」
いきなりの雷光にビビって腰を抜かしていた傲慢エルフが顔面に青筋を立てながら腰に佩いた剣を抜きこちらへと振るう。
お、やる?やっちゃう?
こういう場合攻撃判定とかどうなるか分からないけど、やるって言うんならこっちとしても応じる迄なのだ。(ちょいとばかりイラついたし)
なので右足を少しだけ引き回避に備える。
『“お待ちなさい!”』
そして剣が僕へと触れる瞬間、凛としながらも厳格な声が轟く。ん?
その声に剣はビタリとその動きを止める。
まるで声でダメージを受けた様に、エラフがよろけた。
なんかまた面倒そうなのがやって来たみたいだ。
ウリスケとルリがシロアリ擬きを蹂躙する姿を見ながら、僕は溜め息を吐く。(実際こんな事やってる場合じゃないんだけどなぁ)
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




