24.とあるプレイヤー達の冒険
後半詰め気味ですがご容赦を
ブクマありがとうございます
ほんとに
08/22 1文抜けてたので追加しました。(たいした物じゃないです)
就業時間が終了したので、帰り支度を始める。明日は休日なので、たっぷりゲームを楽しめたはずなのだが、そうは行かなくなってしまった。はぁ。
一昨日、総務部総務課に勤める俺に営業1課のタカナシ課長が頼み事をしてきたのだ。
営業1課といえば、6つある営業課の中で花形といわれる部署で、課長であるタカナシさんは30半ばでそこをまとめるエリート中のエリートで他の課や社長にも頼りにされているという、入社2年目の俺が口をきくのもおこがましいと言う存在だ。
そんな人が食堂で食後に公式サイトの最新情報を漁っていた時接触して来た。画面を見ながらコーヒーを啜っていると、肩をポンポンと叩かれ振り向いてみるとそこにタカナシ課長がニッコリ笑って立っていた。
「ムツハラ君だよね。ちょっと話があるんで少しばかり良いかな?時間は取らせないよ」
有無を言わさず近くの小会議室に連れ込まれ、とある頼みごとをされる。
「ゲームのレクチャー………ですか?」
「そう。私と後2人。3人で始めたんだが勝手が分からなくてね……。そこで、その君が【アトラティース・ワンダラー】をやってると聞いたんで、案内を頼みたいんだがどうだろうか?」
どうだろうかと言われても、俺に拒否権などあろうはずもないが、無駄な抵抗は試みる。
「あの、……それはいつ頃になるんでしょうか?平日は仕事があるのでゲームは殆どやってませんし、休日も予定が入ってることもありますので………」
いや、予定など入ることは無い。ゲームやりっぱだ。平日は2時間も出来ないので休日はガッツリLv上げをしている。
タカナシ課長はウィンドを立ち上げてスケジュールを確認しているようだ。
「今度の土曜日はどうかな?。時間は朝8時頃からでどうだろう?」
うぇ、明後日?今度はこっちがウィンドウを出して確認する。ゲーム内のタイムラインは夜間帯になっている。難易度は多少上がるが、ミドルクラスの俺がフォローにまわれば大丈夫………だと思う。
仕方がないか。お偉いさんの頼みだ、少しばかりの打算もあるし聞いてみるのもありだろう。
「分かりました。……今度の土曜日の朝8時、場所は………プロロアの街の時計台広場でよろしいでしょうか?」
俺が了承するのを聞いて課長は破顔する。くっ、イケメンめっ!!
「ありがとう助かる。では土曜日によろしく頼むよ!」
俺の肩をポンと叩き小会議室から出て行く課長。俺はガクリと肩を落とし独りごちる。
「ゲームで接待かよ………」
ゴルフとか釣りだったら断れたのに………とほほ。
会社を出たところで、タカナシ課長とバッタリ出くわす。
「おっ!ムツハラくん明日はよろしく頼む!」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
課長の言葉にペコリと頭を下げる。課長は俺の肩をポンと叩くと会社の中へ入って行った。隣の1課の人らしき若い男は訝しそうにこっちを見ながら課長の後に続いて行った。はぁ〜胃が痛い。
*
タッタッタッタッタッ、軽快な足音に揺られながらマントをなびかせてプロロアの街へとフロストファングに跨がり向かっている。魔人族の街からプロロア近くのマルオー村まで転移をして、そこから従魔モンスターのルーパーに乗ってここまで走ってきた。
街の外壁が見えてきた所で、ルーパーを止めてヒラリと飛び降りここからは歩くことにする。
ハッハッハッと嬉しそうに俺を見ているルーパーをワシワシと撫でると気持ちよさそうに身体を寄せてくる。その大きな身体に倒れないよう足に力を込める。デカイんだから少しは抑えて欲しいもんだ。
モフモフ好きには堪らない触れ合いを終えて歩き出す。
「ルーパー。小型化」
「ガウ」
俺の言葉と共に2m強の魔獣の姿が30cm程の子犬の姿に変化する。あまり目立ってもいい事はないからだ。
灯り玉を使ってないので周囲は灰闇に包まれているが、夜目の効く俺には問題はない。2つの月が煌々と辺りを照らしている。
プロロアに直接転移出来れば楽だったのに運営めっ!間に合ったのだから文句を言う筋合いはないのだけども、クエストを半端にして終わらせたのは少し惜しかった。言っても詮無い事だ、接待接待。
街の中に入ると相変わらず人がいないところだ。前来たのは半年前だったか。オープン時の喧騒が嘘のようだ。もう2年以上にもなるのか………。
屋台通りを過ぎるとプレイヤーと真っ赤なウリ坊が何かを食ってる姿が目に入る。マーカーを見ると従魔モンスターか、お仲間がいるとは少し嬉しい。話しかけようとも思ったが明日の事もあるし、またどこかで会えることもあるだろう。時計台広場へ足を進める。
ルーパーは珍しそうに辺りをキョロキョロしてる。そっかこいつは初めての街だったか、朝早めにログインしてぶらついてみるか。時計台広場まで来るとログアウトする。はぁ~何とか来れた。本とはレクチャーなんて必要ないんだけどなぁ。
翌日、リアル時間で午前7時30分、空には星が瞬いている。朝なのに夜、時たま変な気分になる。
時計台広場にあるベンチに座って串焼肉を齧りながら、ゲーム専用掲示板を見ている。そばで小型化したルーパーが塊肉を嬉しそうにガシガシ齧ってる。
クソスキル・ダメスキルのスレで【従魔】がボロクソ言われている。やれ“何匹倒しても発動しない”とか〝何度も命令しないと言う事を聞かない”とか〝高い金出して買ったのに使えないクソスキル”とか〝何でカエルがっ”などと散々である。
命令すればちゃんと言う事も聞くし、発動は………運だと思ううけど、【従魔】スキルってそんなに悪くないと思うんだがなぁと、独りごちてると誰かが声を掛けてきた。
「えっと君、ムツハラくんかい?」
見上げると、いかにも初めてといった風体のプレイヤーが立っていた。人族で白い肌の金髪蒼眼、背は170cm位、20歳前でタカナシ課長が若くなったらこんな感じだろうかと思える面影?が見て取れる。
「あ、タカナシ課長ですか……?お疲れ様です」
「ずいぶん早いね、待たせてしまったかな?」
「お、おはようございます。い、いえ、そんな事は無いです。はい」
8時迄はまだ20分以上ある。危なかった。早く来といて良かった。俺は慌てて立ち上がり挨拶をする。
「君が案内してくれるのか?よろしく頼む」
「悪いねぇ、何分右も左も分からんもんでねぇ~」
タカナシ課長の後ろに立っていたドワーフ族とエルフ族の2人が声を掛けてくる。ドワーフ族の人は背は150cmは無いだろうザンバラ頭の銀髪黒目のズングリとした体格のあご髭を生やした盾と鎚を携えている男性で、エルフ族の人は180cm程の背にかかるほどの長髪、赤味がかった銀髪紅眼の弓を携えた偉丈夫だ。見た感じはどっちも20代前半といったところか。
このゲームは、見た目を色々変更することが出来る。それこそ身長から体重年齢、そして体格や髪型や色等と性別以外は時間をかけてキャラメイキングが可能だ。けど面倒な人は、おまかせで作成したり、パーソナルデータを読み込んで作ることも出来る。
どうやら、3人ともパーソナルデータを利用しているみたいで、その顔立ちはリアルで見たことのある人物にとても良く似ていた。
「会長に………R社の情報企画部長?まじっ!?」
社内報や経済誌で見た顔が目の前にあった。(見た目は若くなってるけど、何となくと言う感じだが)
「なんぢゃ、バレちまってたか」
「色とか年とか色々変えたんですけどねぇ~」
「あはははーっ知ってたかー。でもゲームの中だから、ある程度砕けても構わないよ。こっちは教わる立場だし」
課長が笑ってそんな事を言うが、お偉いさん方を前に俺は目を白黒するばかりだ。だがそれよりも3人の肩や頭に乗ってるモノの方が気になった。
「その肩や頭に乗ってるのは何ですか?」
「ああ、シークレットイベントで入手したアテンダントスピリットだよ」
そんなイベがあったのか?いや掲示板でそんなスレがあったか、今は確認してるヒマは無い。
「不思議そうな顔をしてるが、そのイヌ君もアテンダントスピリットじゃないのかい?」
俺の不可解な顔を見て、課長がルーパーを指差して聞いてくる。
「いえ、こいつは従魔モンスターです。それにアテンダントスピリットなんて聞いたことも無かったので、そんなイベントがあったなんてビックリしたんです」
「わし等も驚いたよな」
「ログインしたら目の前で何かが点滅してるから行って見たらこの子が倒れてて、慌ててポーションを使って回復させたらイベントがいきなり始まってね」
「そうそう、毒状態で道具屋に行って毒消しポーション買って回復したり大変だったんだよぉ」
「全て主様のおかげ」「しかりプクー」「ナゥ~」
課長の肩に乗ってるのが20cm位の背にコウモリの羽をつけたメイド服の女の子。会長の頭には現実ではありえない2尾の碧色の子猫。部長の肩には黄色のでっかいウシガエルがあごの辺りをプークプーク膨らませてのっかている。
おそらくニューカマー用の隠しイベントなのだろう。オープン時にポイントボーナスやアイテム配布なんかあったが、こんなイベ気付きもしなかった。くっ!運営めっ!!
歯噛みするが、よく考えてみれば俺にはルーパーがいるので、今はどうでもいいことではある。うんそうだ。
気を取り直して3人に向き直り話を始めることにする。
「えーと、皆さんはどこまで進められたんでしょうか?」
「その前に自己紹介しておくよ。私は人族でゴーグ。この子はディアノ」
「わしはドワーフのハッカイ。この猫はミケぢゃ」
「僕はエルフのサーゴだよぉ。彼女はトノサマ」
西遊記?いや、いいか。それぞれに自己紹介されたので俺も種族と名前を名乗ることにする。
「えー、自分は魔人族のジクスです。こいつは従魔モンスターでフロストファングのルーパーです」
ルーパーがガゥーと同じく挨拶する。アテンダントスピリット達も挨拶を返してくる。
「よろしくお願いしますの」「どもプクゥ」「よろナ~」
ナントも個性的な3人?に気になった事を聞いてみる。
「あの~アテンダントスピリットってAIで動いてるんですよね?」
「もちろんですの」
「何だい?何かおかしいのかい?」
代表してディアノさんが答えてくれ、課長、もといゴーグさんが俺の言葉に不思議に思ったのか質問してくる。このゲームをしてなければAIの程度など分からないだろう。
「いえ、この子達の受け答えが滑らかなので不思議に思っただけです」
僕の返答に意味が分からずゴーグさんが首を傾げるが、3人のアテンダント・スピリット達は答えを返してくれた。
「「「ララのお陰 (ですの)(ナ~)(プクゥ)」」」
ララ?何かのコードか管理ファイルとの名前か?いや、こんなこと考えたってキリが無いし、時間が勿体無い。
「えっと、さっきの話に戻るんですが………。冒険者ギルドの登録と初級クエストの方は終わってますか?」
「うん、終わってるよ。ガンさんいいよね」
「ああ、ああいうのをイブシ銀とゆうんぢゃな」
「えぇ、ガンさんはかっこいいですねぇ」
何気にガンさんベタ褒め?俺は2年以上の前のことなんで記憶に無い。どんなだっけガンさん。
「四角いお顔がキュートですの」「グッジョプクゥ」「教えるの上手いのナ~」
ディアノさん達の言葉で訓練所のロボット頭を思い出す。あれ、そんなにかっこ良かったろうか………。そういやサブスキル欲しさにてきとーにやったんで記憶に無いのかも。いっぺん訓練所に行ってみるのもいいかもしんないな。いかん、脱線ばっかしてる。気を取り直して、これからの事について話すことにする。
「これから冒険者ギルドに行ってモンスター討伐のクエスト依頼を請けて、街の外で戦闘したいと思うんですが、他に何かやりたいこととかありますか?」
「とりあえずそれでいいと思うよ」
課長―――――いや、ゴーグさんの言葉に他の2人も頷く。
こうして冒険者ギルドで依頼を請けて、初めての戦闘を行うことにする。
「ん?君はパーチー登録せんのか?」
街の西門から出て、南西エリア (初めてのプレイヤーはここでLv上げをするのが多い)へ向かう途中、ハッカイさんが聞いてきた。
「はい。寄生や急激なレベリング防止の為に10Lv以上差がついてるプレイヤー同士はパーティーを組むと経験値補正がされるんであんまりよろしくないんです」
「へぇ~。なるほどねぇ」
俺はLv84なので、3人がLv1であればどう考えても無理なのである。
「俺は危なくなったら介入する形にしますので、それまで3人で戦って貰えたらいいと思います」
「うむ、分かった」
「了解」
「お~けぇ」
そんな話をしてるうちに前方にモンスターの反応を察知する。
「前方にワイルラビット3体来ます。戦闘準備を!」
「おう」
「よし!」
「いくよぉ~」
3人ともVRは初めてであるが、MMORPGはやった事があるらしく、パーティー編成ではちゃんと役割を決めていた。ハッカイさんが盾役、ゴーグさんが前衛で剣、サーゴさんが後衛で弓を使って危なげなく戦う。そこにアテンダント・スピリットが加わりあっさりワイルラビットを倒してしまう。やっぱり俺いらないよね。
その後ワイルラビットを数体倒してから、南東エリアでラッシュボーアを何体か片付け、薬草や鉱石を採取して街へ戻る。(アテンダントスピリットだけが知ってるシークレットエリアって……はぁ)
食事のため一旦ログアウトした後は、ハッカイさんとサーゴさんが、鍛冶と調薬がしたいと冒険者ギルド2階で作業したり、満腹度を補うため、屋台で食事した後に、ゴーグさんが見つけた時計台の中でのシークレットイベントをクリアしたりと、俺の知らないイベがてんやわんやであった。
俺とルーパーがやったことといえば、時計台ダンジョンでボス倒しのサポートぐらいだった。
そこに露天商探しのイベの謎解きや、探し当てた露天商での買い物。3人はかなりの金額を課金で換金していたらしく、レアアイテムや防具や武器をガンガン買っていた。
俺も欲しいスキルがあったのだが、所持金が全く足りなくて仕方なく他の良さ気なスキルを買ったりした。お金を貸そうかとゴーグさんが言ってくれたが、きっぱりお断りする。
ゲームでもリアルでも、余程のことがない限り借金とかはしない主義なのだ。
宿屋で軽く打ち上げをして、今日のプレイは終わることとなった。軽めのエールと料理に舌鼓を打ちながら俺は3人に話しかける。
「これからはマップを踏破していくとエリアボスと戦うことになり、倒せればその後は種族ごとの街へ行けるようになります」
「それは3人がバラバラに行動しなきゃいけないってことなのかい?」
「いえ、ただ種族ごとのイベントがあるんで時間が掛かっちゃうだけなんでパーティーで行っても問題はないですよ」
そう、なかなかイヤらしいシステムである。新しい出会いがあるというものあるが……、ソロとパーティーが半々ぐらいか。
「わしらはどうする?」
「ハッカイさんに任せますよ」
「僕もですねぇ。あ、でもぉ〜」
3人で何やらコソコソ話し出す。こちらを見てニヤリと笑う。そしてゴーグさんが俺に話を切り出す。
「案内して貰ったお礼はどうすればいいかな?ジクスくん」
「いえ、お礼なんていらないですよ。ビギナーを案内するのは先にやってるプレイヤーの義務だと思ってますし、こっちもいろんなイベントやディアノさんを見せてもらって楽しかったですから」
これは本当のことだ。辞める人間もいるのだから始める人間がいないとゲーム自体が終了してしまうこともありうる。それでは困る。新しく来たプレイヤーには楽しんてもらう。色んな事を見て知って楽しむ。ゲームの(だけではないが)醍醐味だと俺は思っている。
「これから3人頑張って下さい。だんだん面白くなると思うんで、あっと、では最後に【アトラティース・ワンダラー】へようこそ!!」
3人がポカンと僕を見やる。ありゃ、外したか。が、次の瞬間3人共が大きな声で笑い出す。ついでにアテンダントスピリットも。
「「「あっはっはっはっはっはっはっはっ――――――」」」
そんなこんなで俺のゲームレクチャー?は終わった訳なのだが、よもやその後もこの3人にリアルでもゲームでも引きずり回されることになろうとは、神ならぬ身では知る由もなく、この時の俺は思いもしなかったのである。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




