232.とあるプレイヤーと従魔とアテンダントスピリット
明けましておめでとうございます
本年も何卒よろしくお願いいたします(今更)
遅くなってすみません<(_ _)>
111.の特防隊の人の話しです
「サージ!今です!!」
目の前のスパイスパイダーを糸で拘束したフブキの声に、私は応じる様に剣を振り降ろ―――
「ナ、ナナナっ!」
そこに2本足で立つネコが、手に持つサーベルで目前の獲物を貫く。
「っ?」
「………っ!!」
その一撃に堪らずパイスバイダーは光の塵と化す。………やれやれという話だ。
「………はぁ」
私はその様子に呆れと諦めの溜め息を吐きながら剣を降ろす。
全長60cm程の直立で立つネコが、こちらを“きょるん”とした眼差しをして仰ぎ見てくる。
茶トラの縞々模様の三毛ネコで、瞳は晴れ渡ったような澄んだ空の蒼。そして柔らかそうな毛並み。もふもふだ。
まさにあざとい。なぁに?という感じで小首を傾げる。
「ナ?」
そして少しばかり甲高い鳴き声は、耳に心地よく響く。
私がそんな感じで浸っていると、ぶんぶんと右手を振りつつフブキが注意をする。
「サージが攻撃しようとしてるのに、なぜあなたが攻撃をするのですっ!少しは空気を読みなさいっ!!」
「ナナ?」
暖簾に腕押し柳に風。と言ったところか。
「大体あなた、Lvがカンストしてるんですから経験値を得ても意味ないでしょ~~~がっ!!」
ぜはぜは言いながら怒鳴りつけるフブキもまた可愛い。うむ!
常日頃現実ですり減ってていた感情が、回復するような思いがして来る。
よもや自身にこんな感情が芽生える事になろうとは思いもよらなかったものだ。
あの時から協力体制を組むことになったかの企業との提携により、こちらのあらゆる部隊の訓練体系が組み直され、現実6割VR4割という体制となった。
もちろんAI搭載ロボットについても計画は進めているものの、その進捗はままならないものであった。
どちらかというと現在部隊員による訓練の方が上層部からは重要視されていて、こちらが推奨した計画の方がおざなりになったと言って方がいいかもしれない。………。
このままだと現実性の伴うとなれば、目に見える成果の方へと意識が向かうのは致し方ないとも理解できる。
或いは何者かの作為による方策とも私などは穿ち考えたが、たとえ上で成された決定に直接携わったものだとしても意見を挟む事など私などが出来る筈もない。
決定がどうあれ、物事が結果的に進むのであれば、私に何をどうこう言う等と口を挟む気は毛頭なかった。
だがそれはたった数週間で効果を発揮してしまった。
VR空間である程度の訓練を受けた隊員達は、現実でもその能力を如何なく示したのだ。
VR空間内での教官役であるAIからの逐次指導により参加した隊員達は、まるでロボットのように一律に行動を為していった。(その時ときたま「ジャンヌ様っ!」とか「王マーシュ………」とか漏らしてる隊員がいたみたいだが、何の事やらである)
もちろんVRと現実では体感が全く変わる筈であった。
だがどのような細工をしたのかは分からないが、その事すらも払拭して現実での成果が現れたのであった。
元々の計画とは違う状況に私自身少しばかり忸怩たる思いはあるものの、敗者としてはどうにも首肯せざるを得ないといったところであった。
ロボットはともかく、AIに関しては、こちらの不備で進捗は遅々としてあまり進んでいないという事もあり、何かを主張するする事もかなわない状態ではあった。
もちろん運営―――すなわちこのゲームを開発した責任者からは快諾を得ていたものの、それを実行しようとするのは中々に厳しく骨が折れるものであったからだ。
実際考えてみれば、すぐに分かるというものだ。
『やぁ君!現実で戦士として戦ってみないか?もちろん衣食住は保証するし、それ以外でも優遇するがどうだろう?』
昔、地方の祭りでそんな風に勧誘をやらされたことがあった。(………ある意味黒歴史と言える)
もしそんな事を言われて「ハイ、分かりました」等と快諾する人間が果たしているだろうかという話である。(あの白い眼は………)
ようは結論としてはNPCと親しくなり、事情を説明して協力を仰いでいくに他ならないという話である。
………確かにそれがとり得る有効な方策なのだが、果たして私にやれるかというのがその時点の問題であった。
そもそも人型ロボットの製作状況も芳しくない現在、器のない状態で何をせよとも言う話であった。
正直こんな計画を立てた当時の自分をけたぐり倒したい思いであった。
だがそんな中でも少しばかりは進捗もあったのだ。
このゲームからフィードバックされた技術で、4足歩行のロボットが造り上げられたからだ。
盾犬と名付けられたそれは、ワイルドッグというプロロアの街近辺に出現するモンスターの動きを模倣したものである。
そしてその動きを現実の機体にアップデートしたものだ。
機体の構造的にはそれほど複雑なものではなく、既存の技術で試作機が造られた。
そしてそれはこちらの想定を超えるの能力であった。
その行動原理自体は極めて単純明快だ。
目標に向かって突進、その後に前方につけれたサスマタ状のもので拘束。これだけである。
そう。それだけの事が、どれだけ有用であるのだ。
少しだけ想像して見ればいい。子牛程の大きさの前面にサスマタと盾を備えた物体が自身に突っ込んで来るのだ。
必ずしも1対1という訳でもない。躱すにも限度がある。
ましてや戦闘に従事してなどいない人間であるのなら、なおさらの話だ。
1度倒されてしまえば、それに抗う術はないと言ってもいいだろう。
おそらくは暴徒鎮圧用に用いられると私は考えているが、まぁ今のところはこの様な状況だ。
フブキと従魔とのやり取り(フブキが叱り、ネコが首を傾げる)を見ながら、そんな事を思い出していた。
結局のところ現在私がやれることと言えば、ゲームを攻略していき、NPCと交流を深める事ぐらいであった。
決してフブキと戯れたい訳ではないのだ。
別にNPCとの交流を他の隊員に期待してる訳でもない。
それはともかく、そもそもこの森をうろつく事になったのはこの従魔であるナイトキャトラシの為であった。
以前パーティーを組んだ部下達と、それぞれ別れて行動する事にした私は、カアントの街で試練を終え獣人の街へと進んだ。
そこで何が原因かは分からなかったが、ハーミィテイジゾーン開放のクエストを無理やり請けさせられてしまい、その結果この従魔を使役する羽目になったのだ。
キングキャトラシ率いるキャトラシ軍団を相手取り、文字通りちぎっては投げちぎっては投げを繰り返した。(実際はフブキが糸で拘束したところを、剣でタコ殴りにしただけなのだが)
実際フブキというアテンダントスピリットは、少しばかり規格外という気がしてならない。(もちろんゲームとしてだ)
色々と調べてみて判明したのは、アテンダントスピリットと言うのはあくまでPCを導く存在であり、共に戦う存在ではない。
戦闘においては傍観するのが常だという。
だがどうしてかフブキは積極的に戦闘に参加して来るのだ。
アラクネであるフブキの参戦法は糸による捕縛。それに尽きる。
だがそれが戦闘においていかに有効であるかは自明の理である。
先の先。これを先んずる事ができるのであれば、それがどれだけ戦闘におけるイニシアチブを得る事ができるのか、誰が考えてみても分かる事だろう。
それを鑑みてもフブキと言うアテンダントスピリットがいかに有能な存在であるか理解できぬはずもない。
単騎で集団を覆す事ができる存在。
それがフブキと言う切り札であった。
そんなこんなでハーミィテイジゾーン前での戦闘を終えた後、1体のキャトラシが消える事なく何故か身体を仰向けにした態勢になってこちらを見ていた。
まるで私に何かを求めるように。
「フブキ。アレは何なんだろうか………」
「サージ。おそらくは――――」
私の問いにフブキが答えようとした時、目の前にホロウィンドウが現れた。
【ナイトキャトラシが仲間になりたそうにしています。従魔にしますか?〈Y/N〉】
なんだこれは………。
まず最初に感じたのは戸惑いであった。
どうしてモンスターが目の前で消える事もなくましてや抗う事もなく、まるで服従するかのような姿(すなわち顔だけをこちらに見せて腹を見せる)を見せた上でこの様なメッセージが流れるかがである。
「なんだ、これは………」
だからつい、そんな呟きを漏らす。
「サージ。おそらくは以前設置したあのスキルのせいとフブキは愚考するのです」
「あの、スキル?」
私はフブキの言葉に少しだけ記憶を遡らさせ、新規プレイヤーイベントの時に入手したスキルの事を思い出す。
ログインした時にガチャチケットと言うものを贈られた訳だが、その時出たのがあのスキルなのだった。
その時に入手したのが、スキル“従魔”をはじめとしたものであった訳だ。(半分近くはタワシだったが)
たまたまサブスキルスロットに空きがあった為、特に何も考えるというようなこともなく設置してしまったものであった。
「いわゆるテイムというヤツか………。まじか」
「まじです、サージ。どうされますか?」
隊員の1人が従魔スキルを手に入れ、執拗にワイルラビットを倒してテイムできないと嘆いていたのを思い出す。
確か相当確率が低く、テイムするのが大変厳しいと漏らしていたか。まじかー………。
「どうするも何も………(ちら)」
フブキの問いに私は腹を見せ横たわるモンスターを見下ろす。
すると顔だけをこちらに向けて、懇願する様にうるうるとした瞳を向けて来る。
………AIの筈だよな、これは。
いや。フブキという例もある訳で、ただそれに対して私は抗う事ができずにいたのだった。
「………やむを得まい。袖すり合うも他生の縁という………(ちら)」
「………仕方ないですね」
私の信条を把握しているフブキは、肩を竦め息をはぁと吐きながら言って来る。
そしてその言葉に了承を得たと察した私は、“Y”を選択し、新たなメンバーをチームに迎え入れたのだった。
そうしてしばらくの間Lv上げとして獣人の街の周辺で行動しているうち従魔のLvが上限に達しクラスアップできるようになった時、それを選択しようとした私に従魔からの“待った”がかかる。物理的に私の手をパチンと叩き落す形で。
「ナ!」
「なっ!?」
「こらっ!何をするのです、あなたはっ!!」
ネコが従魔になった時点から、二人はこんな感じだ。
フブキがここまで感情的になるのも珍しい。が、どちらかと言えばこの従魔が自由過ぎるのだった。
私が叱るにもあの円らな瞳で首を傾げられてしまうと、こちらとしては叱るにも叱れなくなってしまう。本当にあざとい。AIなのかと疑ってしまう程だった。
こうしてLvが上がらない従魔という、ゲームとしてはどうなのかという状況の中である情報が舞い込んでくる。
獣人の街でどうにか親しくなった酒場の店員から、クラスアップする事なく従魔のLvを上げる方法があるらしいだとか。
噂話のひとつという事である意味マユツバとの事らしいが、私はその情報を確かめる為に行動へと移す事にする。(その間店員はトロンとして眼差しを向け、私の手を握り締めながら話をしていた。フブキは終始ふくれっ面だった。?何故なのやら)
というかその話を聞くや否や従魔が移動を始めてしまったので、私とフブキは追いかける羽目になった訳なのだが………やれやれ。
こうしてカアントの街を抜けエルフの街で手がかりを掴み、今現在私たちはエルフの街の西に点在する森というか林をあっちに行ったりこっちに行ったりしているのだ。
今もスパイスパイダーがドロップしたアイテムを手に取り恍惚とした表情を浮かべる従魔に、なおもフブキが注意をしている。
「これで15箇所目か………」
私はようやく現れた次の道標を見ながら独り言ちる。
条件は分からぬものの、モンスターを倒していくといつの間にか木の幹に2つの記号が刻まれるのだ。
最初は何なのか理解できなかったが、それが次に向かう場所へ鍵であるとすぐにフブキが伝えてくる。
その記号は西と南の座標位置との事だ。
こうして森に入り座標を見つけては移動を繰り返す事15箇所。
一旦街に戻ろうにも従魔が率先して進む為、少し休憩を挟むだけの強行軍だ。
さりとて私にとってこの程度の強行軍は、大して苦労をするものでもなかった。
フブキを落ち着かせるのに少しばかり精神を疲労したぐらいだ。
そして次の目的地に向かいと、そこは森も何もない平原の真っただ中であった。
「サージ!」
「ナっ!」
てっきりまた森であると思っていた私は道を誤ったかとメニューを出して確認しようとした時、フブキと従魔から警告の声が上がる。
その声にすぐに警戒態勢に入ると、目の前の平原が揺らぎ捻じれる。
私たちが警戒を露わにしていると、揺らぎが収まり平原がいきなり森へと変貌する。
その森の前には1人の老人が立っていて、こちらを見てこう告げる。
「ようこそ“従魔の杜”へ」
ようやく到着した目的地に、私は達成感よりようやくかという気分であった。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます!感謝です! (T△T)ゞ
評価Ptありがとうございます! Σ(T人T)
なかなかモチベが上がらないところです Orz




