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231.キラくんの行動を観察する その42

………遅くなりました<(_ _)>

姉回です

ちょっとアレがキュッうとなるかもしれませんがご容赦を

 

 

 実はこの2日間、この屋敷のあちらこちらにマイク付き超小型カメラを設置していたのだ。

 人が集まれば徒党を組むし、会話が生まれ噂がばらまかれる。

 おそらくオババとの会話は漏れまくりだろうし、それに想像いろどりを加えて話が広がるって寸法だ。

 

 案の定、翌日にはまぁまぁいろんな情報がてんこ盛りである。

 会話から察するに、どうにもオババ派の人間よりも孫派の人間が溢れているという感じだった。

 そりゃあまぁ、指示して成功すれば褒めるし、失敗ミスしてもオババ配下と鑑みてそれとなく注意するだけに留めるって訳だ。

 となれば自分を完全に認めてくれる御主人様(・・・・)で決して己を見捨てる事がないなどと勘違いをする人間が、ニョキニョキと雨後のタケノコのごとく出て来たとしても致し方ないって事なんだろう。


 あたしとしてはめっちゃ傍迷惑な話ではある。

 この家だけなのかはたまた島民にまで及ぶのか、今のところは分かんないけど。

 そんで数時間前に記録された映像には、男3人がかたまってこんな会話が為されていた。

 

『若殿からお許しが出た。あの無礼極まりない失礼な女を誅しろと』

『おっし!久々だな。島の女共は若殿のお手付きだから、俺らにゃあ手ぇが出んかったもんな』

『はっ、何言うとるんが。おめぇ島外そとじゃ、あちゃこちゃで喰うとろうが』

『そりゃ、兄貴も一緒じゃろが』

『『がはははっ!』』

『………しっかりあの身体に教え込まんとな』

『『おうっ!』』

 

「……………」

 

 はい、決定〜〜〜!(パフパフパフッ)

 こいつら全員地獄(笑)に逝ってもらいますぅ。(どこがとは言わない。大丈夫大丈夫!過去の人間だってあれが亡くたって生きてるんだし)

 ………つーか島の女みんなに手を付けてるとか、どんだけ何なのやら。

 でも大体屋敷内ではこんな会話ばかりだった。

 若殿若殿若殿と何とも喧しい連中だ。

 どうにもともすれば洗脳とか宗教とかに類似してる感じだ。

 意識をいかに使役者に同化させようとする手口ってのは、まぁ人を騙したりなんだりする事においてはお約束なんだろう。(そんなカリスマあるようには見えないんだけど………)


 オババ………身内にこんな事やられてるとか、ちょい切ないかもだ。

 

 まぁそれはともかく、この部屋の前にいるのはそうした信者おバカさん達って訳だ。

 そんな奴等の末路は――――ありゃ、さっそく行動開始ってやつぅ?

 ガツッ!って音がドアからしたけど、もちろんドアにはストッパーを掛けてあるので殊更動く事もない。


『あっ?なんで開かんねっ!?』

『何やってんじゃ!俺ぁにやらせやっ!』

『………鍵かぁ?』

『ありえねぇは!あらかじめ鍵のねぇ部屋に案内したって女中アサカが言っとただろうがっ!』

『そんじゃねぁんで開かんのっが!』

『………こんなんぶち破りゃあええんじゃ、なっ!!』

 

 のーきんとかバカとか色々と語彙が浮かぶけど、こいつら忍び込むつもりじゃなかったんだろうか………。

 

『ばっがっ!声でけェーでがっ!気ぃ付かれんやろっ!』

『『……………』』

 

 あんれぇ〜?これ鍵かけとかない方が良かったんだろか。

 ガンガンゴンゴンとドアを叩く音と、雑音な会話が思いっきり向こう側から響き聞こえて来るんですけど?

 バカですか?馬鹿なんですか?

 まぁしょせん脳筋さんの行動なんてのは、力任せと道理が決まっているというか何というか。

 そしてバゴンッ!と激しい音を立ててドアが外れぶっ飛ぶ。

 ………こいつ等ドア蹴りぶっ込んだよ。これで中の人間眠ってたらどうなのよ?って感じだ。

 

「ああっ!?いねぇぞっ!?おいっ!」

「はぁっ!?バッカ言うがっ!そんなあるがっ!っていねぇがっ!?」

 

 男3人が部屋になだれ込むとベッドに誰もいない事に声を上げ、2人目がそれを否定した後同じ様に声を上げる。

 3人目がベッドに手を触れて何かを確かめる様にしばらく沈黙した後、口を開く。

 

「………まだ温かい。そう遠くに入っていないと思う」

「……………」

 

 めぇ〜〜〜ちゃ、キモいんですけどっ!ヤっていいかな?ヤっちゃっていーよねっ!?

 はい、考えるより先に足が出ましたん。

 

「ぶぇガっ!」「ばいっそ!」「ばルろっ!」

 

 ドアの脇に控えていたあたしがパンと手を叩くと、その音に振り向いた男3人の鳩尾に安全靴のつま先をめり込ませていった。

 安全靴っていーよねっ!

 つま先と靴底に鉄板みたいな固い素材(昔は鉄板だったみたいだけど)を使ってるから、色々と感触とか感じる事がないので都合がいいのだ。

 いきなりの打撃にむくつけき男3人は悶絶して、その場に仰臥する。

 

 とりあえず甲、乙、丙としとこうか。

 

 甲は昨日あたしを睨んでいたぱっつんスーツの男。

 乙は背丈は甲よりかなり低いものの肉付きのがっしりした男。

 そんで丙は、甲に似てるけど若干若いって感じって男。

 そいつら3人が3人共タンクトップにスゥエットズボンを纏っている。

 

「………………はぁ」

 

 しかし、もし“そんな事態”になったとして、こいつ等どう始末つけるつもりだったのか。

 監禁し(とじこめ)たとしても、そんなことオババが許すとは考え………あの孫の頼みなら聞いちゃうとか?んー………あの孫がそう考える事はあり得るか………。おばあさまに頼めばとか?うわぁあ〜〜〜、ひぃいい、キモっ!

 ベッドの横で川の字で倒れてる男どもを見ながら腕をさすっていると、真ん中にいる男の手にあったものが転げ落ちる。

 

「ん?」

 

 半透明のプラスチック製の手の平程の大きさの箱だ。ピルケースみたいで中には青紫の錠剤がぎっしりと詰まっている。

 あたしがこんなとこで薬って?と首を傾げてると、レリィが中の錠剤を確認して地の底から轟く様な声音で報告して来る。

 

『………あるじ様。その錠剤は合成麻薬のようです。随分この手の事に慣れてる輩達のようですね』

 

 有罪ギルティ

 

 これは怒れる11人並みに完全たる有罪だろう。(あっちは無罪だったけど)

 どうやら名家ここの名を傘にして、こいつ等はやりたい放題やって来たんだろう。

 なのでそんなモンいらないんじゃね?うん!大丈夫!なくても生きてけるよっ!

 未来に出るであろう被害者の為にも、その危険物()は摘んでおいた方がいいに違いないっ!!

 

 という訳でさっそく実行に移すとしましょう。くっくっく。

 

 ベッドの頭の位置にあるカエルのように引っ繰り返ってる、丙のソコ(・・)へ目がけて足を踏み込む。思いっきりっ!

 

「ぐあっ!あっ、あが、あががっ、っ、っ、っ、っ、っ!〜〜〜〜〜〜〜〜〜…………」

 

 フム、フム、フム、フム、フム、フム、フム、フム――――――――フムッ!!

 丙は最初の一撃に目を覚ますものの、その踏むに堪えきれずに泡を吹き再度白目を剥いて意識を失う。

 ハイ、次は乙の番です。

 隣の丙の声に眉を顰め声を漏らしたところに、あたしはさっきと同じ行為ことを繰り返す。すなわち――――


 フム!フムフムフム!フムフムフムフムフムフムフム――――――フンっ!!

 乙も丙同様に目覚めつつも、その後のフムに白目を剥いて気絶に泡吹きのコンボ。乙!

 

「………んん…。一体なん………」

 

 最後の甲は、周りの叫び声に気がついて言葉を漏らし目を開く――――前にあたしの安全靴が火を噴いた。

 フムフムフムフムフムフムフムフムフムフムッ!

 踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む!そんで蹴るっ!

 

「ギャ!いでっ!あっ、がっ、がっ、がっ!がっがっ!がはぁっ!あっ、あっっ!はぁ!はぁあっ!」

 

 安全靴の硬さでその感触はないものの音と甲の表情と声からダメージを与えてると理解してたけど、途中でその顔が恍惚に変化してきそうだったので、フムをケリに変えて甲を悶絶させる。

 

 やっべぇ………。あっちの思想しゅみの人間だったとは。

 気が付くとあれだけ激しく屋根を叩きつけていた雨音は消え、今は弱く優し気なものへと変わって来ていた。

 現実逃避気味にこの2日を振り返っていたのだった。

 

 今日遅くとも午後には島を出れるだろうと予測して、あたしは荷物を持って部屋を出る。

 もうこの部屋をあたしが使う事はないだろうし、使えと言われても御免被るって話だ。

 

「おおっと、靴脱がなきゃ」

 

 歩く度ゴンゴンと床を鳴らす安全靴を慌てて脱いでスリッパへと履き替える。

 

『あるじ様。ララ様よりメールが来ております』

「ララちゃんが?珍しいわね。どれどれ?」

 

 あたしは携帯端末を取り出して、ホロウィンドウを表示してララちゃんからのメールを確認する。

 

「あらら………。あるのねぇ〜こんな事って」

 

 そこにはとある商店街の買収計画とその元凶たる人物やその後そこに何を作るかなどが、事細かに記されていた。

 何やらキラくんの友達が彼女の危急に、無茶振りをキラくんにして来たようだった。

 あ〜あ。い〜な〜飲み会〜………。

 

 ここじゃ何やられるか分かったもんじゃないから、満足にお酒も飲めないもんなぁ〜………。(オババが呑まない人ってのもあるけど)

 しっかし、よくこんなアイディア(バカなこと)思いつくよね。あのオマゴサマ。

 まぁ、確かに駅近とか色々と立地は良さげだけど、だからと言って現在いまある商店街の人達を追い出して、それをやるなんてのは度が過ぎてる。

 

 しかも計画自体は部下したの人間に丸投げと来てる。あんたはどこのお貴族様かっての!

 ふふん♪………まぁこっちでも敵対してるし、徹底的にやっちゃってもいいかもだね。

 そしてララちゃんから報告された現在進行のを含めて過去の成果を見て行っても、ものすんごく酷いものばかりだった。

 

 もう恨まれて恨まれて背後に亡霊がとり憑いててもおかしくないレベル。死人も何人かでてる。

 とは言え、こっちじゃあたしは何もやれそうにない。なんせあたしにとっては完全敵地(アウェー)な訳だし。

 廊下を進みながらララちゃんの報告メールを読みつつ、あたしは食堂へと向かう。

 

「え?な、なんでぇ………?」

 

 それはは本当に小さく呟いた言葉だった。だけど雨音も聞こえず人もいない深夜に、それはあたしの耳に届いた。

 どうやら女中こいつ仲間グルだったようだ。 

 あいつ等と会話はなししてる映像とこはなかったんだけど。


 とは言え、こんなのにかかずらっているつもりは毛頭ないので、バッグをテーブルの脇に置きそのまま椅子を引き腰掛ける。

 この食堂かなり大きく広くて8人掛けえのテーブルが8つあり、2列4個になってる。

 あたしは厨房から離れた奥側に座り、女中は厨房前の入り口側であたしを唖然とした顔で見ている。

 そしてすぐにハッと我に返り、なんでかあたしを問い詰めて来た。

 

「何であなたがここにいるんです」

 

 あたしは作業用のミニPCを出しながら、女中を睨めつける。

 

「それは客人の分際で家人の場所に踏み入るなって事?………そ〜れ〜と〜も〜?今頃襲われるはずだろうに、何でここにいるって事かな?」

 

 つい口元を歪めながら女中を睨み付けて、逆に問い掛ける。

 あたしの言葉に顔を青褪めさせる女中に、あたしは表情を緩めて先程の問いにこう答える。

 

「部屋にが3匹入って来たんで叩き潰したんだけど、ちょっと虫が入って来た部屋なんて気持ち悪いんでここに来たのだけど。何か問題あったかしら?」

 

 あたしの答えに女中は視線を彷徨わせた後、「………そうですか」と返しそのまま何も言う事なく食堂を出て行ったのだった。

 多分様子見に行ったんだろうけど、あれだけ意味深な物言いして気付かない事もないだろ。

 その間あたしは作業に勤しむ事にする。

 すぐに食堂の向こう側から悲鳴が響き渡ってきた。

 さてさて、あたしはオババへの報告書つくっとこっと。 

 

 そんで2時間後――――

 

 あたしは食堂の中で多くの家人に囲まれたいた。

 一部は苦々しげ、一部は憎々し気、その他は困惑といった感じだ。

 正直あたしの方から揉めるつもりは全くなかったんだけど、向こうが突っかかって来たのなら対峙するのなら大歓迎である。

 

「あんた!何てことしてんのやっ!あれじゃキヅチ達もうアレじゃないのっ!どう責任とんのよっ!!」

 

 最初の時の態度とは無限の彼方の女中が、般若のごとく猛りながら声を荒げて言って来た。

 とは言え、こちらとしてはここを出る迄は下手したてに出た方が得策と思ってるので、少しばかりはぐらかしながら女中へと答える。

 

「責任?ってなんなのかしら?あたしを掛けてた部屋にいきなり虫が入って来たんで、部屋を出たんですけど?何かあったのかしら?」

「くっ、このっおっ!!」

 

 どうやらあたしの答えがお気に召さなかったのか、女中が右手を振り上げて突っかかって来た。ふむ、よろしい。お相手しようぞ。

 

「お待ちなさい」

 

 ざわつく食堂の中その声は妙に室内を突き抜け女中の動きをピクンと止め、家人がざわめきながら移動する。まるでモーゼの十戒のように道が生まれる。

 その先には、いつもの姿のギマさんの姿があった。

 

「あの3人の生命に別状はありません。では、何故このような事態になったのか説明できる者はいますか?」


 振り上げた手を降ろした女中も含めて、食堂にいる家人が無言でそれに答える。

 

「いないのでしたら皆自室へと戻りなさい。ササザキ様、御館様がお呼びでございます」

 

 ギマさんの言葉に一部不服そうな顔をしながらも、全員が食堂から出ていき始める。

 

「………それから、あの3人の無法者共は解雇いたしました。皆も色々気を付けるように」

 

 家人たちの去り際に酷く醒めた声音でギマさんがそう告げると、一部の家人が顔を青褪めさせ他の者は深々と一礼してこの場から去って行った。

 

「ササザキ様。こちらに」

「はい」

 

 こちらに冷たい視線を向けたギマさん応じて、その後へとついて行く(しかないはな)。

 まぁしょーがないっちゃ、しょうがないいってとこかな。

 でもあたしは悪くないし、全てはそっちの管理不行きが原因なのだ。もちろん何の証拠もない事だから、あたしは知らないの一点張りでとおすのが吉だろう。(監視カメラでも入ってるんっだったら別だけど)

 

 

 

 

「………やってくれたなぁ、おサキ坊」

 

 ここに来た時に最初に案内された広間に連れてこられると、そこで待ち受けていたオババにそんな事を言われた。

 

「いや〜、それ程でも〜」

 

 何をやってくれたのか中身を端折ったのであれば、こんな受け応えもありだろう。

 

「あほぅ!褒め取らんわい!さっきの事じゃ、バカもんっ!」

 

 どこからか取り出した扇子で肘掛けをバンバンと叩くオババ。

 

「いや、いきなり虫が入り込んだら、そりゃ叩きますよ。それにあたし麗若き乙女ですしぃ〜」

「かっ!麗若き乙女が3人の男をのせるかっち!」

「3人の男?なんです、それ?」

「か………まぁだ知らんぷりぃかえ!」

 

 だって下手に認めたら捕まっちゃうし(自覚)、島を出てからならともかくある意味治外法権といってもいい場所なのでこんなとこで認めたら碌でもない事になるの分かってるしね。

 

「………あいつ等んは、こっちで処分しとくち、ええな」

 

 あたしのしらばっくれが功を奏したのか(無理か)、オババは溜め息を盛大に吐きながらそう決着(おち)をつけて来た。

 もちろんあたしに否やはない。

 

「………んー良く分かんないですけど、分かりました」

 

 あたしは分かったようで分かんないって感じで、オババの言葉に応じる。

 

「それで………今日って船出せますか?さすがに本土あっちで色々立て込んでる事がありますんで」

「………ふん、日が昇ったら出したるわ。それまでちょい休んどき」

「よろしくです。あっと、ちょっと場所貸して貰えます?食堂でいいんで」

「何でじゃ」

 

 いや、さすがにあの部屋に戻るのは、御免被るのでそんなお願いをオババへとしてみる。

 

「いや〜さすがにまた(・・)鍵のない部屋で眠るのはちょっとアレなんで、それまでは仕事してようかなって……?」

「………さよか。ほな好きにっしぃ」

「了解です」

 

 あたしの意味深な言葉に、やや肩を落とし気味にオババから許可を頂いたので、あたしはそこを出て船が出る迄食堂で作業をさせて貰ったのだった。

 そして日がぴかーんと海から顔を出した頃、あたしは船の上の人となって大脱出〜!はは〜ん。

 あたしなソファーに腰かけて、安堵の息をぶへへ〜と上げる。

 

「はぁあ〜………。ひっどい目にあったわ〜。あっ、レリィ色々ありがとね。ほんっと助かったわ」

『いえ、あるじ様の為でしたら当然の事です。ですが………一部、プロテクトがかかっておりまして、そこまで潜入でき(はいれ)なんでしたのが悔やまれます」

「ふぅん」

 

 ほほぅ、そんな事があったのかぁ。だったらあたしも作業(89)に加われば良かったかな。

 

「きっと、優秀?なSE(システムエンジニア)がいたのよ。レリィが嘆く事はないから。………そうねぇ〜御褒美ってのとは違うけど、キラくんにレリィのロボット作ってもらう事にしよっ。レリィ、現実リアルで動いてみたくない?」

 

 あたしは新たにアヤメちゃんから送られて来た愛のメモリーを観賞(うぐぐ)しながら、今思いついたアイディアをレリィに言ってみる。

 

『………よろしいのでしょうか?」

「おっけ−おっけーだよ!さっそくメールしとくね!」

 

 少しばかりはにかんだレリィ(かわい〜の〜)に快諾して、あたしはキラくんへとメッセを送る。

 そして帰ってからは、しっかりキラくん成分を補充するのだ。

 まぁレリィの事(それ)でキラくんがかなり苦心惨憺するとは全然思いもよらなかったのだけど。

 

 そんで送り付けたあのデータを生かすか殺すかは、オババ次第だけどね。(あたしとしては正直どっちでもいい)

 こうして船は海面を跳ぶように、一路本土へと向かって行ったのだった。

 この後の予定としてはボンテク料理とかマルオー村の事とか、少しばかりキラくんを問い詰めようと思うあたしなのであった。

 

 

 

   *

 

 

 

「………やぁってくれっちな、おサキ坊」

 

 おサキ坊の乗る船が出てしばらくして送られてきたそのデータを見て、わたしゃ苦々しさを滲ませる。

 バカにアホゥにマヌケ共がホロウィンドウに映し出され、やりたい放題好き放題口ずさんでいる。

 もちろん放置し何も手出しも足出しもせんかったのはわたしゃだ。

 だからたった1つの毒物が、こう迄害悪を広めるというのも以外じゃった。

 

 時も金も与えた。助言も重ねた。だがこれ以上は放置も赦しも出来んとこまで来てしまいよった。

 仏も顔も3度まで。

 そう言わざるを得ない状況とこんまで来とった。

 

「よろしいので?アレ様」

「よろしーもよろしくねーもでな。こんままじゃ、此方こうちの屋台骨が崩れんかねん」

 

 後ろに控えるヨコミチが、そう確認する様に再考を促して来るが、わたしゃにゃもうそんな気は毛頭なしじゃった。

 切る時は切らならなならんち。

 直系の孫じゃ言うんち見逃して来たんちが、もう堪忍袋の緒が切れ怒髪天へと上るレベルちっ!

 ………いかんいかん。感情を表情おもてに表さぬと、教え込まれたわたしゃにも限度があるもんち。ふぅ。

 深呼吸を静かに数度繰り返し、落ち着きを取り戻した頃にバカがやって来た。


「おばあさま。お呼びだとか」

 

 ズカズカと入り込み、ドスンと目の前の座布団に座る男に血を思うよりも嫌悪が増して来る。

 わたしゃヨコミチに目をやり、再度バカを見て話を始めた。

 

「まずぁ、こいつん弁明を聞かせ」

「は?…………っ!?」

 

 いつもと全く違う口調を耳にし、訝しむバカの前に大量のホロウィンドウの画面が現れる。

 そこには十二分と言葉で顕せぬ程のあられもない映像が映し出される。

 

「こ、これは………」

「わたしゃこん島で乱交していいっち言っとらんかね。どういうこっちか説明し」

 

 所かまわず盛り女を漁るその姿は、バカの父親へと思いを重ねる。

 婿入りして早々金を使い込み、他の女に手を出し慰謝料を要求され唯々諾々とそれに従う。

 そうそうに放逐したものの、事を起こす度こちらに無心に來る始末。………まぁ今はもうおらんがな。

 

 娘は娘で孫を甘やかすだけ甘やかして、そん後病で早々に逝ってしまいよった。

 こっちで親権を得ようと試みるも、父方の祖父母がすでに手を打ち援助を申し出て来る。

 父親も父親なら、その両親も酷いもの。だった。

 金の無心、不遜な要求等、呆れ果てる程のその欲望の泥濘に、そんなこんなでここ十年程は人間不信へとわたしゃは陥っていた。

 

 そして久々に目にし、でっかくなった孫はコレ(・・)だった。

 何度注意をしても表面上で頷くばかりで、一向に直す事もなくエスカレートしていく。

 しかも商業組体コミッションとやらで、人を不幸にする商売ばかりをやっていた。

 今迄は少々の負い目もあったので目を瞑って来たが、これ以上はダメだ。

 

「酷いです!おばあさま!プライベートの侵害です!い、いや。これは僕じゃありません!何者かの陰謀で、捏造に違いありません!」

 

 胡坐をかきながら前のめりに声を荒げるバカに、わたしゃさらに追い打ちをかける。

 

「ほいじゃ、このん金ぇはどうしたんち?私ゃこんなものの許可はしとらんがち」

 

 男女が絡み合う映像の上に、更にいくつものホロウィンドウが表示される。

 使途不明金の数々があちこちのネット銀行へと振り込まれ、その後一か所に集約されていた。

 

「これん名義は誰じゃ」

「………知りません」

 

 わたしゃが問うと、視線を逸らし能面のように表情かおを隠して否定する。

 

「知らんちがか。まぁそりゃあどうでもいいがち。要は今後一切この家との関わりを禁ずる。名を使うも許さん。縁切りじゃ」

 

 わたしゃがそう切り出すと、今までの態度をガラリと変え本来であろう性根を現した。

 

「ふむ、そんな事ができると思うのかね。すでに私はここの主となっているんだが?」

「………………」

 

 なんかバカがバカな事を言い出しよっち。………はぁ、しょせんバカはバカかち。

 

「寝言んは寝てから言うち。午後にはこっから出て行んき」

 

 わたしゃがそう告げると、バカは呆れた様に口元を歪ませ声を上げる。

 

「おいっ、御主人様の命令だ。この老害を閉じ込めろ」

 

 ………あぁ。もう駄目だち。辛抱堪らん!わたしゃ目でヨコミチへと指示を出す。

 後方にいる家人が動き出し、わたしゃの横を通り過ぎバカを左右から捉え拘束する。

 

「おいっ!私じゃない!そっちの老害だ!!」

 

 突然の出来事に、バカは慌てふためき声を荒げる。

 

「あー………おさが掌握したっち若造共んは、今朝別の島に隔離んしとる。ここにいるんは、私ゃの昔からの家人よ。ほな、出て行きちな」

「あ、ちょっ、待って!おばあさまっ!!」

 

 右手で犬コロを追い払うが如くしっしと手を振るうと、家人に腕を掴まれたバカはズルズルと引き摺られ去って行った。

 あらかじめ簀巻きにしてでも、船に乗せて本土へと返せと通達してある。

 こんれで収まれば万々歳じゃち。もしもわたしゃが育てていれんば、また違ったもんじゃろうか………。いや、あの父親の血を思えばそんなもしも(こと)はあり得ないとしか思えないな。

 

「あやつの事業で亡くなったん方々へと賠償をしとくれち。それぐらいは私ゃの責任じゃち」

「畏まりました」

 

 ヨコミチが首肯して他の家人を引き連れ広間を出ていく。

 そしてわたしゃ1人呟きを漏らす。

 

「じーさまや、これで良かったんじゃろ」

『んじゃな。まだ外孫がおるきな。そいつ等ん継がせりゃあええち』

 

 人間不信にぃ陥った時んに、金に飽かせて作り上げたのがこのAIのじー様じゃ。

 過去のじー様のデータ(映像、会話、書跡、わたしゃの印象)等の、とにかくありとあらゆるじー様のデータ(もの)をぶち込んで、AIへと入力して作り上げたものだ。

 だがあくまで考察や言動を模倣・・するだけの存在ものではあるが、それはその人の見方次第でしかない。

 

「まぁ〜ったく。あんの娘っさえ承諾すりゃあ………。はぁ〜全くじゃ」

 

 4年前にあったあの真摯で紳士な娘があのバカの側にいたのなら――――と思うと少しばかり惜しくもあった。

 

『ありゃあ無理じゃな。他ん好いとうもんがおるち。そんれにあんのバカんもんの人身ン御供んした日にゃ、うちが潰されかねんがね』

「………アレん家はそれ程かん?」

『そんれ程んじゃ。あそこん二親は化物じみとるち』

「………化物かよ」

『そーじゃ。そんでなぁ、話は変わるんがあん娘な面白ぉもんやっとるんじゃち』

 

 じー様とそんな会話を交わしながら、あんの娘がやってると言うVRMMOの話に興味が沸いた。

 その話は年甲斐もなく、思わず心躍るモノであった。

 

 

 


(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

 

ブクマありがとうございます!感謝です! (T△T)ゞ


今年の更新はこれまでです

本年もお読みいただきありがとうございました

来年はもっと更新できるように尽力したいと思います (多分)

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