23.その名はウリスケ
100越えプクマありがとうございます
しばらくの間呆然としてたが、ララの声で我にかえる。
『マスターどうするのです?』
「どうするって………。どうしよっか」
と言っても2択しかないんだけど。そういや従魔って何だっけ?
『あ!あれなのです。ばろんさんがくれたスキルなのです!!』
「ん?あ、あれかぁ!調べもしないでサブスキルにつけたヤツか。はーこういう事なのか?」
かと言って今から調べるには、このモンスターをどうにかしてからでないと始まらない。
『グ―――――ッグ―――――ッ』
『この子やる気満々なのですマスター』
また変なのに絡まれなきゃいいなぁと思いながら、《Yes》を選ぶ。すると、スピアボーアが赤い光に包まれて小さくなっていく。
光が消えるとそこには50cmほどの大きさの1本のツノの生えたウリ坊がいた。
『グ―――――ッグ―――――ッ!』
ピロコリン
[スピアボーア〈変異種・赤〉 が 従魔 に なりました]
[名前 を 入力 してください]
メッセージの下から50音順の文字が表示される。名前かー。見た目ウリ坊っぽいから、それにちなんだ名前でいいか。えーと。
「ウ、リ、ス、ケ、っと」
『ひぁ、マ、マスター………!』
ララの声に目を向けるが、カーソルは決定を押してしまう。
『そのコはオンナノコなのです』
ピロコリン
[ウリスケ が あなた の 従魔 に なりました]
『グ――――――ッ!!』
「……………」
ふっ、やっちまったぜ。オスかメスかなんてこの状況で分かる訳ないじゃんか。
フィーリングでなんかやると何故か失敗する場合があるが、何ぼなんでもこれはないんじゃなかろうか………。
ま、取りあえずこの事は棚上げしとこう。僕の棚は結構スペースがあるのだ。
「これからよろしくな、ウリスケ」
『グ――――、グッグゥ――――』
本人?も嫌がってなさそうなのでよしとしよう。よしとしよう。うん。
『よろしくなのですウリス……ケさん』
『グ――――!』
ララは呆れた様にに溜め息を吐きながら、ウリスケに挨拶する。ウリスケも右前足を上げてそれに答える。
一段落したところで、まずは【従魔】スキルを見てみることにする。
スキル:【従魔】 Lv1
・X/10000の確率(XはLvの数値)でスキルが発動し
モンスターを従わせる事が出来る
モンスターを使役するごとにモンスターとスキルの
Lvが上がる
従魔モンスターはパーティーの1枠となる
「………………」
言葉にならない。突っ込みどころがありすぎる。1万分の1の確率なのにこんなところで発動するのがとか、パーティーの1枠となるということは従魔モンスターを増やせばパーティーを組むプレイヤーが減っていくことになるんだろうとか、………なんてモンを寄こしてくれるんだ!あの人は!!
こういうのって先に進まないと手に入らんものじゃなかろうか………。
はぁ、今さらこんな事言ってもしょーがないか。これは、腹くくるしかないか。ん!よし!!
気持ちを切り替えてゲームに向かうことにする。
画面の中では、ララとウリスケが何やら会話をしているみたいだ。意思疎通が出来るんだろうか、首を傾げながらとりあえずメニューを開きステータスを見ることにする。
ステータス欄には“ヤマト”とララ、そしてウリスケの名前がある。
ウリスケのステータスを見てみる。
【名 前】 ウリスケ
【種 族】 スピアボーア〈変異種・赤〉
【性 別】 女
【Level】 1
[HP] 150/150
[MP] 200/200
攻撃力 65
防御力 40
魔攻撃力 44
魔防御力 30
[スキル] 突き 隠足 噛み付き 火魔法
特記 従魔モンスター 〔マスター:ヤマト〕
ふーん。ララと同じでパラメーター表示は無く、攻撃防御力表示か。しっかし本当に性別が女だ。…………はぁ、はてこれからどうするかだけど一旦街に戻るか、それとも時間迄スピアボーアを探すか。
「ララ、どうする?時間はまだあるから戦ってもいいけど、こんな状況だから街に戻るって手もあるけど」
『スピアボーアを探して戦うのですマスター。ウリス……ケさんも了解したのです』
『グ――――ッ』
今は南東エリアの南側にいるので東へ向かうことにする。未踏破部分は6割ほど残っている。
ほんとに先はまだまだ長そうだ。
東に向かってトコトコ歩いていると、ララが声を掛けてくる。
『前方からモンスターがやってくるのです』
『グ――――ッ』
やはり夜は、昼とは違って索敵の範囲が狭くなってるみたいで、何かいるのは分かるが、何がいるのかはさすがのララでも近づくまで分からないみたいだ。
僕等が待ち構えていると、ウリスケより音を立てながら、ズダダダダとこちらに向かってモンスターがやってきた。
『スピアボーアなのです。マスター!』
『グッグー』
確かに、さっきのウリスケのように額に身体の半分くらいのヤリを生やしたラッシュボーアみたいなのが灰闇の中から現れる。
“ヤマト”に向かって突進してくるが、ウリスケほどの脅威は感じられない。ヒラリとかわして、次の攻撃に備える。
『グランディグ』
Uターンして再びこちらに突進してくるところをララの魔法がそれを遮る。
『ガビャ』
右の前足と後足が穴に嵌まって横倒しになる。ララの魔法の冴えはますます磨きがかかっている。
『グッグ――――――ッ』
その隙を逃さずウリスケがスピアボーアへ突進、側面から体当たりをする。
『ガヴャヴィー』
体格が4倍近く差があるスピアボーアがウリスケの体当たりで吹っ飛んでいく。
僕が唖然として見ていると、、ウリスケは反対側にスタタタと周り込み体当たり、また吹っ飛ぶスピアボーア。同じモンスターであるスピアボーアに容赦ない攻撃を浴びせていく。
幾度となく吹き飛ばされて『ガビュー』と叫んでスピアボーアは消えていった。
僕はその間、口をあんぐり開けて呆けていた。すごー。
『すごいのですウリスケさん!かっこいーのです!!』
『グッグ―――――ッグ―――――ッ!』
ウリスケが4本足で器用にピョンピョン飛んでる。喜んでるのか?
「すごいぞ!ウリスケ」
『グ―――――――ッ!!』
今さらながら気づいたが鳴き声も独特だなウリスケは。
しかし、夜は明かりがないせいか景色もキャラもみんな灰色だ。やっぱ明かりかそんな魔法が必要なのだろうか。
「ん〜、やっぱ明かりがいるよな………。灰色ばっかだと何が何だかわかりにくいし……」
『マスター。サキさまが灯り玉を買ってたのです。それを使えばだいぶ明るくなるのです』
僕の呟きにララがそんな風に教えてくれる。なんとそんな便利なものがあったとは。さっそくメニューから灯り玉を選んで使うことにする。
淡い白い光がフワリと“ヤマト”の上空に浮き上がり周囲を照らす。
「おー明るくなった」
『ごめんなさいなのですマスター。もっと早くに言ってれば楽に戦えたのです』
「僕も今まで暗さをとくに気にしてなかったんだから問題ないよ」
しゅーんとしたララを僕はそう言って慰める。ま、ララは魔法が使いたくて忘れてたんだと思うけど。
『グッグ――ッ』
『ありがとなのです。ウリスケさん』
ウリスケの声にお礼を言うララ。灯りの下で見るウリスケは、赤の毛皮に白のラインが何本か走っている。派手だ。しっかし、よく倒せんたもんだね。我が事ながら感心する。(8割方はララのお陰であるわけだが)
「そんじゃ、帰るとするか」
『はいなのです』
『グッグッグー』
街に戻る途中で現れたラッシュボーアもウリスケの一撃で倒されていった。ウリスケ、マジつえ〜。
街の中に入っても特にに何も言われる事なく済んだのでほっとする。
時折りプレイヤーらしき人が驚いて目を丸くするが、マーカーを見て気にすることなく通り過ぎる。絡まれなくて良かった。
夜だからなのか、昼よりプレイヤーやNPCの数が多い気がする。屋台も何か雰囲気が変わってる感じだ。
そこはじーちゃんがたまに連れてってくれた屋台村みたいな、そんな懐かしい思いが胸に沸き上がってくる。姉と2人でおでんとか食ってたよなぁ。おでんかー。季節的にはあれだけど作ってみるのも悪くないかな。
『グッグー』
『ウリスケさんが美味しそうなにおいーって言ってるのです』
「ん?ウリスケはいつもは何食べてんの?」
『グッグッグ』
『何でも食べるなのです。でも木の実や果物が好きなのです』
ウリスケの声をララが翻訳してくれる。
周りを見回しても、昼と屋台が変わっているので飲み屋系の屋台しか無いみたいだ。仕方がないかと諦めた時、ウリスケがスタタタとひとつの屋台前に走っていく。
『グッグッグッグゥー』
「ん?どうしたんだろ」
『あそこの屋台から美味しそうな匂いがすると言ってるのです』
屋台に向かうとお客はおらず、クツクツと何かを煮ている音がする。
『らっしゃ!』
「ここは何を売ってるんですか?」
『ああ、酒とボーアモツの煮込みだよ』
いいのか!ウリスケぇ!?
『グッ』
いいらしい。ま、そろそろ丁度いいことに満腹度も怪しくなってきたので買ってもいいだろう。
『ララもお願いなのです』
ふむ、食いしん坊ララも健在か。
「すいません。ボーアモツの煮込み3つ下さい」
『はいよー。エールはいいのかい?』
「ええ、お酒はまた今度」
品物を受け取り、お金を払う。メニューを開き、モツ煮込みをそれぞれに【つかう】とウリスケとララの前に手の平大のお碗が現れる。
地面と屋台のテーブルに置かれたお椀を、ウリスケは器用に舌を使って口に運び、ララは竹串を使って食べ始める。
『グッグッググゥ』
『はぐっ、はぷ、はぐぐ』
ウリスケとララはさも美味しそうに煮込みをハグハグ食ってる。中身はボーアのモツと大根と人参のような野菜を具沢山に煮込んだもののようだ。見た目はすごく美味そうだ。
僕はメニューから【つかう】で煮込みを食べる。………何か虚しさが胸をよぎる。
『むはぁ――――っ』
『グフぉ――――っ』
しばらくすると2人とも?満足そうに全てを平らげて笑顔を見せる。ってかララ、ウリスケと同時に食べ終わるってどんだけ早喰いなんだ?
『ごちそうさまなのです。美味しかったのです!』
『グッグ――――!!』
ま、喜んでるのでよしとしようか。あとは冒険者ギルドで精算して今日はログアウトすることにしよう。
冒険者ギルドに行くと、受付嬢と職員さんの関係が逆転してるような感じがした。及び腰というか、頭が上がらないというか、そんな気がしただけなんだけど。
時計台広場に戻り、ララとウリスケに挨拶してログアウトする。
『またなのですマスター』
『グッグッグ〜〜〜』
2人と笑顔で別れる。画面がブラックアウトして[ログアウトしました]のメッセージを見ては―――っ吐息が溢れる。今日もいろいろあった……いや、ありすぎだろう。両腕を上げて伸ばすとバキキと音がする。さて、明日も朝から時間が空いてるから、ゲームをやりに来るとしよう。(バイト代も貰ったことだし)
姉宅を出て、自転車にまたがる。帰りにコンビニによってモツ煮を買っていこうと思いながらアパートに向かう。
*
くっ、何でこんな時に限ってレポート再提出ってありえないっしょ!ギルド受付で書類整理をするフリをしながら、ホロキーボ-ドをひたすら打ちまくる。
確かに7割方コピペであったけど、文章やレイアウトはある程度変えていったのに何で分かったんだろうか。(似たようなレポートを5人も出してれば誰でも分かります。教授談)
レポートの再提出を明日に控えて、文章をひねり出してはいるが、まさに崖っぷち状態、バイトなんかしている場合じゃないのにシフトが入ってたのを思い出してきたのはいいが、涙目でホロキーボードを打っている。
「バイト中にこんなことしてていいんですか?」
「かっ!?ぎゃっ!!」
耳元で突然囁かれ驚いて椅子からドガシャンとひっくり返ってしまう。
「えっ!ひぇ、あ、あなた!?」
「あなたじゃないです。キリーです。いい加減覚えて下さいアリィーナさん」
え?あれぇ?何かいつもと違う。何が?
「あなた、今迄と何か………何?」
「あ〜それは………。秘密です」
ニコリとアルカイックスマイルをこちらに向ける。これは……確認すべきなのでは………。
「それよりゲームレポートも明日報告の〆切りじゃなかったんですか?」
慌ててスケジュールを確認すると、まさしく彼女の言う通りであった。
「ぎゃあああっ!!」
ダブルブッキング!いや、こっちは手も付けてない時点で手遅れだ。肩を落とし項垂れていると、彼女は手に腰を当てて話し掛けてきた。
「よろしかったらお手伝いしましょうか?」
「はぇ?」
「ゲームレポートの方はログから数日分遡っていけば形になりますし、大学院の方はここら辺りを埋めていけばいけるんじゃないでしょうか」
マルチタスクで沢山のホロウィンドウが空中にパパパと現れてくる。
「あ、あなた一体何者?」
AIである訳がない。自分が学んできたモノの中にこんなAIは決して無かった………はずだ。
「私は冒険者ギルド受付職員のキリーですよ。で、どうします?」
今の状況は崖っぷちどころではない。もはや落下中だ。
背に腹は変えられない。AIにもすがる思いだ。
「キリーさん。よろしくお願いします」
「はい」
ニッコリと笑顔で応える受付嬢。もはやそれは何ら人と変わらぬ表情であった。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




