228.キラくんの行動を観察する その39
すいません遅くなりました Orz
姉回です
ここ2日ほど忙しなく慌ただしかった時間をゲームで過ごした翌日。
レリィからの緊急報告という事で、バンゲさんの事務所へと向かう。
「………ふぁんしぃ………」
ま~見事にあたしの事務所は様変わっていた。
部屋の壁全面に、色とりどりのヌイグルミが整然と揃え並べられていた。
「すいません、すいません、すいません!」
そしてその中で助手として雇ったサキサカ アヤメちゃんがひたすら頭を下げまくっている。
レリィの話によると、話は数日前に及ぶらしい。
アヤメちゃんが住んでいた所というのが雑居ビルの屋上にあるペントハウス?というところで、オーナーさんの厚意で格安で契約してもらっていたとか。
ところがそのオーナさんが亡くなり、その後を継いだオーナーの親戚という男がいきなり立ち退きを命じて来たとか。
どうにも賃貸契約のちの字も知らない輩であり、いくら大家だとしてもそんな横暴な事は出来ないものをあえてやって来たみたいだ。
この時点でレリィはあたしに報告しようとしたんだけど、アヤメちゃんがそれを押し留めたようだ。
プライベートの事だから、出来るだけ自分で何とかしたいと、(無理じゃね?とこの時点であたしなんかは思うけど)
レリィとしてはあたしの指示以外に関しては特に余計な事をするつもりは毛ほどもなかったみたいで、アヤメちゃんのその言葉に頷いただけだった。(みたい)
まぁ、ここ2日ばかりはゲームに掛かりっきりだったから、レリィもそれを察して言わなかったんだろう。
アヤメちゃんは結局立ち退く事にしたようで、さりとてすぐに次の住居が見つかる訳もなくってな事でとりあえず大切な荷物を少しづつこちらへと運び込んだとか。
その結果、ここがこんなファンシィーな事になってるって訳だ。
半ば感心と呆れを交えながら、あたしは壁に据え付けられたヌイグルミの群れを眺める。
大きさは大体が20cm程、おそらくアミューズメントスポットで取ったであろうものが6割、そしてゲーセンのものと違ってデフォルメしててもその細やかなディティールのものが残り4割をしめていた。
もしかしてこれって手作り………か?
どことなく昔キラくんが色々と作っていたものを彷彿させるもの。
これらを作った人間をキラくんに会わせる訳にはいかないと、あたしの本能が激しく訴えかける。
「えーと………、これって誰が作ったん?アヤメちゃん」
その時アヤメちゃんの瞳がキラン!いやギララの光を発して怒涛の如く喋り出す。
「あっ、分かります?これ、私が作ったんです!なるべく原作に忠実になるよーに仕上げたんですけど、やっぱりちょっとだけ違うんですよねぇ~………。でも気に入ってるんでバラすのも捨てるのも躊躇っちゃって、ついこうして飾っちゃてるんですけど………ね」
………こいつが作ったんか………。絶対キラくんには会わせちゃなんねぇ奴ナンバーワンだ!くっ。
いやまぁ、どの道会わせにゃならんと思うけど、そこら辺はあたしの気分がどっちに傾くかってとこかな。
つ-かこの子もアニメとかそっち系大好きっ子だったのね。
そんでジジババゴロって………まぁ、いーけど。
「まぁ別に置いといてもいーけど、んでその後どうしたの?」
レリィに聞けば色々分かると思うけど、とりあえず本人から話を聞いた方がいいだろう。
「えーと、………それはぁ」
『もちろん“ぶっぱはいじょ”したですぅ!あだっ、』
「ほえっ!?」
いきなりホロウィンドウが現れて、そこに映し出されたウサギメイドが鼻息荒く答えて来た。んんっ?なんですかぁ?これ。
「あわわっ!?ディジーさん!突然出てきちゃ駄目ですよっ!も~」
ん?ディジーさんと言えば、あたしがアヤメちゃんにお願いしたウサロボ用のAIの名前だったっけ。
んん?なんでこんなに表情豊かに話せるん?あれ?こっちの基本ソフトってキジマのヤツだよね?ふえ~こんなに表情豊かだったんか………やるな、キジマ!
いや、ディセちゃんだったか、あの娘も表情は出してなかったけどそれなりに人間っぽい部分はあったから、一概に否定はできない?のかもだ。(もちろんヤマトの例もあるから、その辺の理解はあたしもしやすいのだ)
とりあえずウサAIが言った“ぶっぱはいじょ”について詳しい話を聞く事にする。
「………でーその“ぶっぱはいじょ”について聞かせてくれるかな?」
あたしは首をそちらに向けながらウサAIちゃんへと訊ねる。
『きのーの昼にいきなり新オーナー(笑)とやらが部屋にやって来て、俺の女になるのならこのまま住まわせてやるとか寝てもいないのに寝言をほざいてきたのです』
「あ゛あ゛っっ!?」
あたしは思わず眉を顰めて唸り声を上げる。
今時そんなあほぅがいたんか。………いや、いたか。
商業組体の奴等とか、アホ2代目とか。いたわ、いたわ~………はぁ。
「それで」
あたしは少しだけ投げやり気味になりながら、続きを促す。
『アーちゃんが断ったら、いきなり襲って来たですぅ』
………おいおい、だいじょぶか?そいつ。
「ホームセキュリティから、110番に通報されるよね?それ」
『あのハゲ野郎は、部屋の電源を落としてやがったのですぅ!がでむっ!!』
ホロウィンドウの中のウサAIちゃんが、眉間に皺を作りながら怒り心頭って感じでパンチを繰り出す。
すんげー………。でも、キラくんの作った機体とマッチングするんだろうか。
どう見ても忙しないのだ、このウサAIちゃん。
落ち着きのない感じで、話しながら身体をわさわさ動かしたり首を振ったりと暇がない。
AIについて言い出したのはあたしだけど、………きっと大丈夫……かな?
それにウサロボ本体もまだ時間がかかると言ってたし、その間にソフトとハードの調整は出来ると思うし。(ま、その見通しはめっちゃくちゃ甘かったけど………)
そしてウサAIちゃんは本題からどんどんと逸れて行き、その新オーナーの暴露話をし始める。
いや、別に若い女子社員と不倫してるとか重度の水虫だとか、そんなどーでもいーこと聞きたくないんだけどなぁ………。
脱線しまくりのしまくりのウサAIちゃんの話に肩を竦めてると、それを察したアヤメちゃんがウサAIちゃんの代わりに話し始める。
「えーと“ぶっぱはいじょ”は良く分かんないんですけど、その人が私に襲い掛かろうとしてお掃除ロボをあやまって踏んでしまって、そのまま縁側へと飛び出て行っちゃったんです」
「ん?」
その不倫水虫男がお掃除ロボットをあやまって踏んで縁側へと飛び出て行った?んんっ!?
要約するとそんな感じらしいけど、もうちょい詳しくアヤメちゃんに問い質して行くと、住んでたとこは2LDKのこじんまりとしたもので、なぜか一面が全面窓になっていてそこが縁側みたいな形になっているとか。
その縁側の向こうには小ぶりの庭園もどきがあって池や松なんかが植えられており、お掃除ロボットに片足を載せたそいつはそのままその庭へと追い出されたと。
『“ぶっぱはいじょ”ですっ!』
えっへん!とウサAIちゃんが偉そうに胸を張る。
はー“ぶっとぱし―――ぶっぱなして排除”って事かな?どうやらその件はウサAIちゃんの仕業らしかった。
まぁあやまってお掃除ロボット踏むとかふつーありえないし、つまりお掃除ロボをウサAIちゃんが操って事を起こしたって事か。
その後そいつがどうなったかは怖くなってそのまま部屋を出てしまい知らないらしい。
けど、ウサAIちゃんがその後の事について報告して来る。
『どたまにタンコブ作って呻いていたですぅ。ざまぁ~ですぅ。くふふぅ』
………めっちゃ荒んでるんですけど、このウサAIちゃん。
それよりも少し引っかかるところがある。
そいつが何でそんな性急な犯罪におよぼうとしたのかをだ。
となればだ――――
「えーとアヤメちゃん、その前のオーナーさん?が亡くなられる前に話とかしなかった?もしくは書類に署名したとか」
「う~ん………。無かったと思いますけど。あ、でもそう言えば白紙に名前を書いてとか、言われた事があったですね」
………それじゃね?
「レリィ」
『はい、サキサカさまのお住まいだった建物の名義人についてですね。しばらくお待ちください』
あたしが声を掛けるとホロウィンドウが現れ、何か言う前にレリィがあたしの思考を予見して行動へと移す。エスパーか?エスパーなのか!?
あたしが少しばかり芝居がかった思いを胸の内で呟いてると、すぐ様回答が返ってくる。(どうやってかなんて聞くのはヤボってもんだ)
『マスターのご想像通りに、件の建物はサキサカさまの名義となっております。すでに贈与に関する税も納付済みとなっていました』
「………ふええぇっ!?」
『まじっすぅ!?』
『マジです』
アヤメちゃんがレリィの言葉に変な声を上げ、ウサAIちゃんが神妙に言葉を漏らすのにレリィが冷静に言葉を返す。
まぁ単純ちゃ単純な話なんだけど、そうなると腑に落ちない部分も出て来る。
いや、ちょっと考えてみれば分かる話か?
「もしかして弁護士もグルだったりする?」
『さすがマスターです。そのお言葉どおり弁護士である人物もこれに一枚かんでいます』
“も”ね。他にも色々といるって訳か。既得権益ってのは失う事が許されないものって事らしい。
まぁ分からなくもないけど、やり方が稚拙過ぎだ。
そうなるとこの後の奴等の手口も、自ずと見えてくると言うものだ。
自分が襲った事を棚に上げて、怪我をさせられたとか言って法的措置なんたらとかほざくのだろう。
ならばこちらが先に仕掛けるべきかもしれない。
「えーと………『ディジーですぅ』ディジーちゃんはその“ぶっぱはいじょ”した時の音声とか映像とか、記録してたりする?」
『もちろんですぅ。しっかりと記録してあるのですぅ』
そういうとディジーちゃんは別のホロウィンドウを出して、その件の映像を映し出す。
………何でこの手のおっさんはこんなに脂ギッシュな輩なのやら。毛のない頭頂部がテラテラヌラヌラと光に反射してる。
「うっぷ、………ありがと、もーいいわよ。さて、ではこちらからやっちゃいますか。そう言や前オーナーさんとアヤメちゃんって、どう言うかんけーなの?」
ディジーちゃんにお礼を言って映像を消させる。
あたしとしてもこの手の輩は忌避する性質なので先にやっちゃおうと思ったけど、その前にどう言った経緯でそこに住むようになったのか気になったのだ。
「えーと、大学の下見に来た時、道でうずくまっていたお婆さんを介抱したんですけど、その時に気に入られちゃったみたいで良かったらうちに住まないかって言われて、ちょうど部屋を探してたもんでつい便乗しちゃったっていうか………」
なるなる。相も変わらずのジジババお気に体質ってヤツですか。(何とも作為的な気もするけど)
この手の事は藪を突いて蛇を出す事にもなりそうなので、そこら辺は追及せずにあたしは端末を出して専門家へと連絡を取る事にする。
「あ、もしもし。ニシンさん?え、メール?見てないですけど、なに………御館さまが?………はい、了解しました。それで何ですけど、あたしのアシスタントの子が土地建物の相続で面倒に巻き込まれちゃいまして――――」
付き合いのある(父さん経由じゃない)弁護士さんに連絡を入れると、大口のお得意様が電話しても繋がらないって事で彼に連絡を入れる様にメールを送るように頼んだらしい。
電話なんてあったかしらん?と、そんな記憶を頭の中で繰りつつアヤメちゃんの件をお願いしておく。
そして話が終わり快諾を受けると、改めて釘を刺される。
御館様が苛ついていたから急いだ方がいいと。
やけにニヤけた様な声音を持って。………まじ?
とりあえず端末を出してメールを確認してみる事にする。
「うわぁ………」
“すぐこい”って、伝言にしても簡潔過ぎじゃなかろうか。
ってか、あそこは最速でも1日はかかる島なのだ。
「レリィ、ここ数日電話ってあった?」
『端末にはございません。………ですがマンションに2度程記録があります』
自宅かぁ~………最近帰ってなかったからなぁ。
あたしはとりあえず常時置いてある旅行セットの入ったバッグを抱えて出る事にする。
「あ、サキさん!私どうすればいいんです!?」
おっと、そうだった。いかんいかん。
「えっとね、知り合いの弁護士さんに頼んだんで、そっちの方は大丈夫だと思う。腕利きの人だから。ちょっとあたしこれからお得意さまのとこに行くんで、そんで仕事はいつも通りで、あと住むとこは――――」
「あ、それは友達の家に泊まれるように頼んでます」
とりあえずその件は問題なく任せた事とこの後の指示を出していき、それにアヤメちゃんもそれに頷きを返す。そして当面の問題に関してアヤメちゃんは胸を張ってそんな事を言う。
でも万が一って事もあるから保険はあった方がいいか。
「もし友達のとこがダメな場合は、バンゲさんに頼んでここの空いてる部屋借りちゃって。あとの事はアヤメちゃんの判断に任せるから、レリィと相談しながらやっちゃってね。あたし至急お得意さんのとこに行かなきゃなんで、よろ!」
「はい、サキさん。任せて下さい!」
『任せてですぅ』
そのアヤメちゃんとディジーちゃんの返事を耳にしながら、一抹の不安はあるもののそう言い捨ててあたしは事務所を出て愛車に飛び乗り発進、一路空港へと向かう。急ぎお得意さんに電話を掛けたらなんでか叱られた。解せぬ!
結局これのおかげで、キラくん謹製ウサロボ完成お披露目に立ち会う事が出来なかったのだ。ちくそう。
途中で予約しておいた飛行機に乗り込みしばしの休憩と言ったところで、キラくん観察アプリを出して今日のキラくんもといラギくんを観察する事にする。
「まじか………これぇ」
ホロウィンドウの中では、巨大なボンボンテンタクーとラビタンズ達が戦いを繰り広げていた。
どこの怪獣大戦かい。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
誤字報告ありがとうございます <(_ _)>




