225.アフロ黒眼鏡の影
………すいません、遅れました <(_ _)>
ログアウトしてから30分も経ってないのにさっきまでの喧騒はなりを潜め、朝焼けの空のした僕達だけがポツーンと立っているのだ。
まぁ夢ではないんだけど(手元にコインもあるし)、ただ現在との落差を考えるとって話なだけだ。何じゃこりゃって。
「まぁ、いっか。じゃあ皆行こっか」
「はいなのです」
「グッ!」
「チャ!」
「れりご〜」
うだうだ考えても仕方ないので、本来の目的であるカアントの街へ行く為に街道を東に進む事にする。
「あのぅ〜すみませ〜ん?」
「?はい?」
後ろから掛けられた声に少々びくりとしながら振り返り返事をすると、そこには武器防具店の店主であるリャンさんが立っていた。
夜の時とはうってかわった村人チックの服装で、僕ではなくララの方を見ている。
思わず返事をしてしまった僕は、ちょっとだけ恥ずかしかった。
いわゆる知らない人がこちらに手を振っているので手を振り返したら、後ろにいた人にやっってたという勘違いシチュエーション。
勘違いした方も見てる方も、何とも居た堪れないものがあったりする。
「えーと、ララ………さんですよね?」
「ごぶさたなのです、リャンさん」
ララへの訝し気味の誰何に、ララは近寄って右手をビシッと上げて返事する。
「グッ!」
そしてウリスケも久し振りって感じで、リャンさんの足元で2本足で立ちながらサムズアップをする。
そう目の前には、ヤマトで会った時のリャンさんの姿があった。
そのわずか数mの距離ではあるけど、なんとも言いようのない遠すぎる距離感が胸に湧き上がってくる。
もちろん今の僕はヤマトじゃないラギというPCだ。
だけどあんな風に知らん人扱いされるのも、ちょっともの哀しいというものだった。
まぁ僕がヤマトでしたとか、言う訳にもいかないしねぇ。
「えっと、お二方ともどうしてその姿に戻られたんですか?それにヤマトさんは?あの人って?」
リャンさんが目を白黒させながら、矢継ぎ早にララへと質問を浴びせていく。
「ララとウリスケさんは従魔トレードでLvダウンでこの姿に戻ったのです。そしてあの方こそが、ララ達のマスターなのです!」
ララがそう言いながら、ババーンって感じで左手を振り上げて僕の方へと掲げる。
「チャ?」
「しりあ?」
頭に陣取るルリが、ん?ってな感じの首を傾げるような声を上げ、肩に乗るアトリがこっちを見て聞いてくる。
知り合い………あの時行動してたのがヤマトでも、操作していたのは僕であるから知り合いといえば知り合いだけど、今この世界にいる僕は全く別の人間なのだ。
僕だけが知っていて相手が知らないってのは 知り合いといえるのか………。
「んー、知り合いじゃない、かな?」
ここで疑問形で答えてしまうのは、しょーがない。うん。
だからララが僕をマスターと紹介しても、リャンさんなんかは胡乱気にこっちを見てるばかりなんだろう。
「それよりも夜の事を教えてなのです!いつから“あんな事”を始めたのです?」
夜の事をララに聞かれて、リャンさんはあぁと頷いて話し出す。
「ちょっと話が長くなるので、こっちに来て貰えますか?あ、そちらの方も」
なんか面倒くさそうな話かなぁと思いつつも僕達はリャンさんの後へとついて行き、冒険者ギルドの中へと入ったのだった。
中はやっぱりさっきとは打って変わった様相で、以前来た時と同じ様だった。(これ以上は考えるな感じろってやつだね、うん)
「あら?どうしたの?っ!ララさんっ!?」
「お久しぶりなのです!」
「グッ!」
奥からやって来て僕達に気付いたスーさんが驚き、それにララとウリスケが挨拶をする。
それから脇にある飲食用のテーブルへと向かい合いに座って、話を聞く事にする。
水の入ったコップを僕達の前に置きながら、スーさんは受け取った僕を見て首を傾げている。
どうにもつい気安い態度になってしまう。ちょっとばかり気を張って改めて2人と相対する。
「ララさん、先にこちらからお聞きしてもいいですか?先程も聞きましたが、どうしてヤマトさんと別れたのかとか、その方とはどういった関係なのかとかです」
「ヂャ?」
「やっか?」
対面に座ったリャンさんが、僕を見ながらララへと問い掛ける。
その視線と態度にルリとアトリが反応して、小声で物騒な事を言い出す。
「はいはい、アトリは落ち着きな。ルリはこちょこちょ〜」
肩に乗ったアトリの頭を撫でつつ、ルリを抱えて擽っておく。
「チャ!チャ!」
「………おらい」
これで落ち着いたなんともチョロインな2人を見てから、再度リャンさんの方を見る。
まぁ僕自身じゃ何ともしようがないので、とりあえず傍観の構えってとこである。
「ヤマトさまは他の仲間の皆様と旅立たれました。その際こちらにいるマスターと従魔トレ−ドをして、今の姿に至るのです。マスターはマスターという以外ないのです」
さっきリャンさんに話した事を、ララはもう1度言い放つ。
諸々の事情を話す訳にもいかないので、まぁしゃーないとは思う。
「そう………なんですか?」
「グッ!」
「なのです!」
少しばかり強引にこっちの話をララとウリスケがしめてしまう。
そして僕の方を見て来たリャンさんとスーさんへと僕は自己紹介を始める。
「えー………ララとウリスケのマスターのラギって言います。よろしくお願いします」
「「?」」
あれ?なんか2人して訝しげにこっちを見てる………。
「それよりも夜のアレについて教えてなのです。いつの間にあんなのになったのです?」
「………あんなの」
何やらちょっとだけ毒をまぶしつつララが2人に訊ねる。
僕への扱いがちょっとぞんざいなので、ちょっとばかりおかんむりみたいだ。
まぁあちらはそれだけヤマトにたいするおもいいれがあるんだろう。って事で自己診断しとこう。
「えーと、ちょっとばかり前ですね。ヤマトさんのおかげで人が寄り付く様になったんですけど、やっぱり見所ってここって無いじゃないですか。もちろんそれはそれで充分ではあったんですけど皆がもう少しどうにかしたいって話をしまして、そんな時その人がやって来たんです」
「その人なのです?」
リャンさんが思い出す様に言葉にし、ララがそれに対して問いかけをする。
その人ねぇ、また何とも怪しげな話だ。
「はい。やたらと大きくもじゃもじゃの髪型で、黒い丸眼鏡を掛けた壮年の男性です」
スーさんがリャンさんの代わりにその人物の風体を答えてくる。………大きくもじゃもじゃで黒眼鏡………。
僕にもそんな人間に1人だけ心当たりがある。
でも、まさかねぇ〜。
「その人は何という名前なのです?」
ララも少しばかり眉を顰めつつ、確認するようにリャンさんに訊ねる。
「バロンさんです。あの人がすべての手配をしてくれて、家の前で透明な板を出して次々とあんな風に変えていきました。そして10日に1度夜の間だけああいう風に魔法をかけて下さったのです」
………こっちで10日に1度って事は、現実じゃ5日に1度って事か。
「うさくさ」
アトリが小声でそうのたまう。確かに胡散臭い。
もうこうなると詐欺としか思えない感じだ。まぁ僕がそんな事を言う訳にもいかないし、そもそもバロンさんは運営さんとこの人なのだろうから。
何か思惑があるとしても。
「魔法なのです?その人は何か要求したのです?」
「はい。えと、利益が出たら売上げの1割を貰いたいって言ってました」
ふむ。対価としては妥当なのかな?でも目的が良く分かんないなぁ。
「………では5人で歌って踊ったのも、そのバロンさんの指示なのです?」
僕が気になっていた事を、ララが2人へと訊ねてくれる。
5人とものりのりではあったけど、さすがに自発的にというものではないと思った。
何故なら、僕がじーちゃんに見せられた昔のアニメで歌われてたものだったからだ。
確か戦闘機に乗って国防する5人姉妹のアニメだったと思う。
じーちゃんが言うには、アニメでアイドルの先駆けだっとか。
姉がたまに歌ってたのを覚えてる。あいのつばさぁ〜とか。にじのこうげきたい〜とか。(しかも振り付けつきで)
あれ?いま悪寒が走った気が……。
「ふえっ!み、見たんですかっ!?あれっ!!」
そんなララの問いにスーさんが顔を真っ赤に染めて聞いてきた。
おんや?満更でもないと思ってたんだけど、違ったのかな?
「はいなのです。ガッツリシッカリ見させてもらったのです」
「あ゛あ゛ぁ゛……………」
耳まで真っ赤にしてスーさんがうずくまって声を漏らす。
それを見てリャンさんは苦笑いだ。
「………依頼」
「うおっ!?サ、ゴホゴホッ」
スーさんの悶える姿を見てると、突然後ろから声を掛けられ驚いて振り向くと、そこには宿屋の主であるサァンさんが立っていた。(いや〜思わず名前言いそうになっちゃったよ)
「依頼」
「へ?依頼?」
そしてリャンさんが何やら髪を差し出しながら言って来た。何じゃらほいな?
差し出された紙を見るとそれは冒険者の依頼書で、そこには料理をひと品作って欲しい旨の事が書かれていた。
いや?なんで!?え、もしかしてバレてる?
「………ララさん達の主の資格があるか、確かめたい」
「「おおっ!」」
サァンさんのなんとも挑発的な言葉に、スーさんとリャンさんが声を上げてを打つ。
いや、「おおっ!」じゃないし。………まぁいきなりポッと出てきた僕が、ララ達の主とか言われてってのも分からなくもない………か?
どうやらヤマトは5人姉妹達といい関係を作って行ってたって事かな。はぁ、しゃーない。
「………じゃあ、作るのは時間もアレなんで、作っておいたものでいーですか?」
そこら辺は妥協してほしい。
「あなたがそれを作ったって証はある?」
「もちろんララが保証するのです。「グッ!」もちろんウリスケさんもなのです」
「……わかった」
は〜………いきなり突っ込まれたけど、食い気味のララとウリスケのフォローでしぶしぶサァンさんが了承する。
さて、どれにしよっかなっと。
僕はメニューを出して、アイテム欄を眺めつつ何を出そうかと考える。
料理のストックはけっこーあるので、1つぐらいは出しても問題ない。
「マスター、これがいいのです」
「んー、これだとびっくりしない?」
「ふふぅ、びっくりさせたいのです」
「!りょ〜かい」
そこにララが1つの料理を指定してきたので僕は聞き返すものの、ちょっとだけ悪い笑顔で答えてくる。まぁ、いっか。
てな訳で、ララの指示通りの料理を出してサァンさんの前へと置く。
「「「?」」」
それを見た3人は一瞬身を瞠り首を傾げる。
「………これは?」
出したのは串に3つ刺さった茶色の物体。
「ボンボンテンタクーの揚げ物料理なのです!」
「グッグッグ!」
じゃじゃーん!ってな感じで、ララとウリスケが料理を紹介する。
「ボンボン?」
「はいなのです。水に棲息するモンスターで、とっても美味しいのです」
「水………モンスター………」
ララの説明に料理を見て恐る恐る串を手に取り、ひと口齧る。
「はむ、っ?んんっ!?」
「「っ!?」」
口元から串を離すと、みにょ〜んと中身が伸びていきそれに目を剥く3人。
サァンさんは伸びたそれをどうにか口の中へと入れて、再度料理を食べだす。それも勢いを増して。
夢中になって全てを平らげて、僕を見てサァンさんがひと言漏らす。
「認める。おかわり?」
ちらと僕を見てくるサァンさんに、僕は無言の笑顔で答えとする。きりがないからダメ。あの大食い勝負を見てるから尚更だ。
「もうおしまいなのです」
「………っ、わかった」
ララの言葉に項垂れるサァンさんと、その様子を見たリャンさんとスーさんが肩を落とす。あわよくば便乗しようとしていたんだろう。
これ以上いるとまた厄介事になりそうな予感がした僕は、とっととお暇する事にし立ち上がる。
「じゃあ、僕達はこれで失礼しますね」
「なのです」
「グッグッグ!」
「あでゅ〜」
「チャ!」
とりあえず色々聞けたのは良かった。
冒険者ギルドを出て何となく振り向くと、3人が見送りをしてくれていた。(多分)
サァンさんだけは、名残り惜し気にこっちをじぃいっと見ている。
でもバロンさんってのは一体何者なのやら。
レイさんはワールドシミュレーターにするって言ってたのと、全く真逆の行動だと思うのだ。
しかもレイさんは特にそれを止める様子もなさげと来た。
まぁそんな事、僕が考えてもしょーがないやと、思考を停止し僕達はマルオー村を後にしたのだった。
*
「………ねぇ、そっくりだったよね?」
「ていうか、まんま同じ声じゃないかしら」
「………うん。ヤマトさん」
「案外そういう事かもねぇ。………もう詮索は無しね」
「さすがにララさまに嫌われちゃったらねぇ………」
*
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます!感謝です! (T△T)ゞ
評価Ptありがとうございます!感激です! Σ(T人T)
しばらくこんな感じで不定期になりそうです
なるべく出せるように頑張りますのでよろしくお願いします <(_ _)>




