224.真夏の夜の夢って感じです
………ほんと、すいませんorz
「……………」
僕は言葉なく周囲を見回す。
人の波に呑まれる様に通用口に入ると、いつの間にかここにいたのだった。
「ここどこぉ?」
現実逃避リターンズなんだけど、ララがそれを許す事はなかった。
「スキルショップマルオーの中なのです、マスター」
「………はい」
うん、分かってるよ。VRって事を思えば入ったとこがめっちゃ広くなったとしても、変に不思議に思う事なんて本来ないのだ。
目の前にあるのはアトラクションのステージであろう、長さ10m幅3m高さ1m程の助走路とその先に直径1m高さ1mの円柱状のジェル状の物体。
そしてその前方に立てかけられた縞模様のやはり10m程の長さの板?というか壁かな。
ウォー○クラッシュ?って、まんまフレン○ドパークってこれ不味くねっ!?
『皆様~~~ッ!お待たせしました~~~っ!これよりマルオー村人Vsお客様の垂直走り幅跳びを始めさせていただきま~~~すっ!!』
『『『『うぉおおおお~~~~~~っっ!!』』』』
ビリビリと耳朶を打つその歓声に、僕は思わず耳を塞いでしまう。
「喧しいのです」
「グゥ~~………」
「チャ~………」
「うるさ………」
僕達がいる場所はアトラクションステージのちょうど中程の位置で、その対面にはいかにも村人といった様相の人達が拳をフリフリ声を上げている。
そして同時にこちら側でもPC達がノリノリで声を上げる。
………何なのん?これは。
『ではっ!改めて説明させていただきます。こちらのアトラクションは村人側とお客様方で任意に選ばれた5名で競っていただくものです。もちろん何でもありで、アイテムはもちろん魔法を使っていただいてもかまいません。要はどれだけ長く壁の距離を跳んだ側の勝利となります。なお、合図をした後から各自ベットが可能となりますので奮ってご参加下さい。ではベットどうぞっ!』
その説明が終わると同時にホロウィンドウが現れ、勝者の選択とそのオッズが表示される。
村人と訪問者の5対5で、どちらが勝つか何対何で勝つかのオッズがズラズラと出ていた。
………これっていーんですかっ!?
『う~ん………マスター、ララ達は参加できないみたいなのです。ベットするコインがないのです」
「コイン?」
どうやら換金所でGINとここで通用するコインを換金する必要があるみたいだった。
ここにはもともと巻き込まれる感じで中に入っちゃったので、どの道賭ける必要もないんだけど。
『ではっ!自薦他薦かまいませんので、ゲームに参加したい方は手を上げて下さ~~~い!』
その司会役の女性の声を聞くと村人やゲスト側の多くの人達が、「はいはいは――――いっ!」と手と声を上げて主張をしだす。
「グッグッグ―――――ッッ!!」
「チャチャチャ ̄~~~~ッッ!!」
「………は?」
君達お願いだから主張しないでっ!?PCとか村人ならともかく従魔が出るっていろいろと問題が………、まぁいっか。
どう言っても引っ込む事なんて無さげだし、それを止めたりするのもなんか違う気もする。
やりたきゃ、やればいーのだ。
まぁ選ばれればッて――――………あれ、なんかフラグっぽい。
『はぁ~~~~いっ!今回の5名様はこの方達でぇ~~~すっ!』
………うん、何となくではあるけど、そんな気はしてたんだ。はぁ。
「グッ!」
「ヂャ~………」
挙手をしている人達を次々と司会役の人が指差して指名していく。
そしてやはりというか何というか、ウリスケが選ばれる。(選ぶなよぅ………)
それを見てルリはほっぺを膨らませて不満顔だ。
そんなルリを宥めつつ、グッグ言ってるウリスケを取り合えず励ましておく。
「まぁ、程々に頑張ってウリスケ」
「ふぁい!」
「頑張ってなのです!」
「チャ」
「グッグ!」
僕達の激励にサムズアップでウリスケが応え、観客席から下へと降りていく。
ちなみにこの観客席は、5列のひな壇になっていて後ろにいる人達も見れるように出来ている。
ステージと観客席とは2m程空間が開いていて、通路の様になっている。
その通路へと選ばれた5人がそれぞれ集まって行く。
『それではぁ~~~~順番を決めま~~すっ!この箱に入った棒を手にとって合図と共に取って下さい~~~一っ!!』
女性司会者―――司会者さんでいいか―――がそんな説明をすると、10人が頷いて棒を手に取る。(もちろん別々の2つの箱からだ)
ウリスケの分は、なんでか女性PCが代わりに引いてくれるみたいだ。(これはウリスケが彼女にお願いしたみたいだった。ウリスケも何気にコミュ力高い)
そして僕達はといえばさっきの件のせいもあってか、訪問者席でも他のPCと隔離された場所にいたりする。(あっちこっちで僕達をちらちらと見てるPCがいるからだ)
どうやら周りのお客様の人達は他から来たNPCらしく、僕達には関心を寄せる事はなかった。
まぁこれ以上の揉め事がないのであれば、僕としてはありがたいので大助かりではあったりする。
『はぁ~~い!それでは引いて下さぁ~~~いっ!』
司会者さんの合図と共に全員が棒を引くと、先の方に番号のついた丸い札が現れた。(なんともベタな)
『は~~い!それでは番号の順に村人とゲストの皆様で交互に跳んでいただきます!………はいっ!先攻は村人からです!1番札の方どうぞ~~っ!』
コイントスで先攻後攻を決めて、さっそくアトラクションが開始される。ちなみにウリスケは2番手だ。
「マスター、村の方が1人足りないのです」
「ん?そういえば………何でだろう?」
ウリスケの方しか見てなかったせいで、ララが言ったように村人の人数が足りない事に気付いてなかった。
だけど誰もその事に何も言ってないって事はきっと何かあるんだろうと、とりあえずその事については棚上げしとく。
『では~~初めての方もおられるようですので、簡単にゲームの説明をさせていただきま~~~す』
そう言ってこっちをちらちらと見てから、コホンと1つ咳ばらいをして司会者さんが説明を始める。
『アトラクション名は垂直走り幅跳びです。こちらのステージの端から走り、先にあるクッションを使って跳び上がり壁に着地。その距離を5対5で競うもので~~~す』
ウォ○ルクラッシュと微妙に違ってるとこが何ともイヤらしいけど。……なんか大丈夫そうかな?
となるとあの壁に書かれてる数字が点数って事になるんだろうな。
下から5m迄が30pt。そこから2mのとこが50ptで1m上がって80pt。さらに60cm上がって90pt、最後の40cm部分が200ptになっている。
跳べるかは分からないけど、下手に200ptを狙って失敗したら壁の向こう側に行っちゃう感じで、なんとも難易度が高そうだ。
ただ着地って言うのが、いまいち分からない。どう考えても身体からぶつかるしかないと思うんだけど………。
『―――距離に応じてptが与えられ、そのptの合計数の高い方が勝利となりま~~す!ではさっそく~~先攻のマルオー村からお願いします~~っ!』
「「「「うぉおおおおおっっ!いけぇええ~~~~っ!シャキィイイ!」」」」
司会者さんが村側へと手をかざすと、1人の村人が歩み出てステージの上へと上がる。それと同時にゴウと圧力を伴った歓声が村人側から轟く。
「チャッ!?」
「ビリビリ来るのです………ふぉお」
ステージに上がった20代後半の筋肉質の男性は、前方を見据えて軽くジャンプを繰り返して合図を待っている。
『では~~1番手シャキィさん、お願いしま~~す!』
「はぁあっ!」
司会者さんの合図にシャキィさんは見かけと違って軽やかに駆け出しターンターンと大きなストライドで助走路を走り、残り1m程でピョーンとそのまま円柱のクッションに足先からダイブする。
すると円柱クッションは潰れるように横に広がり、シャキィさんが膝を屈伸させてクッションが反動で戻るタイミングでジャンプする。
「おぉ」
「すごいのです」
「あべんじゃ」
「チャ!チャッチャ!」
バビュ~~ンと勢いよく跳び上がるシャキィさんを驚きと共に見てると、何故か身体がそのまま壁と垂直になり落下していく。
「はぁあっっ!?」
そして両足で壁に着地。その着地した壁が点滅して、そこに記されてる数字が大きく表示される。
「「「「うぉおおお―――――っっ!!」」」」
その数字を見て村人側の観覧席から歓声が沸き上がる。
『はぁ~~~~い!村側1番手シャキィさん、80ptでぇ~~す!お次はゲスト1番札の方上がって下さ~~~いっ!』
………何とも見てるだけで視覚が変になりそうな気分になってくる。壁に立っていたシャキィさんは、下に向き直るとそのまま飛び降りてゆっくりと下の方へと降りて行った。なんだかなぁだ。
ってか、こんなアトラクションをこの“ゲーム”でやる意味が理解できなかった。(いや、別にできなくてもいいんだけど………ねぇ)
ゲスト側の1番手と村人側の2番手がそれぞれ終わり、次はウリスケの番だ。
「グッグッグ!」
「ウリスケさ~~~んっ!頑張ってなのでぇ~~~すっ!!」
「チャ、チャチャチャ~~~~ッッ!!」
「ふぁい!」
ステージに上がったヤル気満々のウリスケを眺めながら(PC達はざわめいている)、ララ達が声援の声を上げる。
3人のプレイを見て理解したらしいウリスケは、確認する様に首を振りながら前方を見ている。………大丈夫だろうか。
『それでは~~~っ!ゲスト2番札の方、おっ願しま~~~~すっ!!』
「グッ!」
司会者さんの合図に、ストトトっとウリスケが勢いよく駆け出す。この手のタイミングものって、リズムと間合いを取らないとダメなんだけど………。分かってないよなぁ、ウリスケ………。
「グッ」
「「「「っ!?」」」」
途中でタイミングが合わない事に気付いたウリスケは、速度を緩めながら間合いを取る様に2本足で走り出す。
それを見て唖然とするPCと村人達。(一部PCは一緒に踊ってたから分かってると思ったけど、違ってたみたいだ)
「グゥッ………!」
速度を調整して距離を調整したウリスケがクッションへと跳び込むも、やっぱり位置を計り損ねて端っこへと足を付いてしまう。
どうやらそのクッションは中央部分に行くにつれその反動が大きいみたいで、端っこに着地したウリスケは大したへこみもしないで宙へとお放り出されてしまう。
「あっ、ウリスケさんっ!危ないのですっ!!」
「チャッ!?」
「でんじゃ!」
「グッグ―――――ッ!」
そのまま前のめり気味に壁にぶつかりそうになったウリスケは、空を蹴り上へと駆け出す。
「「「「はぁああっっ!?」」」」
それを見て驚くPCと村人達。そりゃ驚くわな。
「ウリスケさん、“駆空”を使ってるのです」
「うん………だねぇ」
多分壁にぶつかるのを回避する為使ったんだろうけど、あれって急に止まれなかったと思うんだけど………。あるいはそれが出来るようになった、とか?
「グゥウ………ッ!」
………出来なかったか、やっぱ。あの“駆空”ってのは常に発動してないと空を駆ける事が出来ないので、回遊魚のように動き回る必要がある。
でもこのアトラクションでは、ある程度壁の上で着地する必要がある。てな訳でウリスケは思いっきりオーバーしてしまッていた。
慌てて後ろを振り向くウリスケも、愛らしくある。
『はぁ~~~い!ウォールオーバーはアウトでぇ~~~すっ!ptは10点になりま~~~すっ!残念っ!』
「グッ!?」
壁を通り過ぎ2m程進んだところで、ウリスケが見えない何かに弾かれてクッションへと落ちていく。(落下速度は緩やかなので、身体に問題はなさそうだ)
ぷにゅんとクッションに着地したウリスケは、そこから僕達の元へと戻って来た。
「グゥ~………」
「ウリスケさん、お疲れ様なのです、残念だったのです」
「チャチャ!」
「なぃふぁい」
少しばかり悔し気にウリスケが僕の横に座ると、ララ達が近寄って労いの言葉を掛けている。
「惜しかったな、ウリスケ」
「グッ!」
僕が宥める様に声を掛けると、ウリスケは次こそはっ!って感じで前足を握り締めている。(まぁ、頑張って)
実際この手のアトラクションは動きは見て理解はしても体験してみないと出来ないモノってのは多々あるし、ある程度数をこなさないと上手くいかないだろうから仕方ないって思う。
その後の展開は、どうやら選ばれた人達はそれなりにバランスよく決められていた様で、300対340とゲスト側がリードしている。
そして村人側の5人め。
『皆様ぁ~~~~~っ!おっ待たせしましたぁ~~~~~~っっ!我等がマルオー村のアイドルっ!マルオーシステアの1人!スキルショップマルオーの店主であるウーさんでぇ~~~~すっっ!!』
「「「「うぉおおおおおっっ!‼」」」」
「「「「ウーさまウーさまウーさまぁあああ~~~~~~っっ!!」」」」
司会者さんの声の後、村人側とゲスト側から怒号の如き歓声が響き渡り耳朶を打つ。
「~~っ………まった、うるさいのです!」
「グッ!?グッグッグ!」
「ふぅ?」
「チャ?」
ララが耳を塞いで眉を顰め、ウリスケがなにかに気付いたように声を上げる。それにアトリとルリが首を傾げる。
………ウーさんって、もしかして………。
そして司会者さんの紹介の後奥の方からやって来たのは、マルオー村5人姉妹の1人ウーさんだった。(やっぱそーかー)
ヤマトでプレイしてた時いろいろと関わったNPCだけど、まぁ何とも派手な登場だったりする。
しかも周囲の人達の様子を見ると、まるでアイドルみたいだ。
「ウーさん、凄い人気なのです」
怒号のような歓声が収まった後、ステージに上がったウーさんを見たララが思わず言葉を漏らす。
『みんなぁ~~~っ!いっくよぉお~~~~~っ!』
「「「「おぅおおおおぉっっ!」」」」
周囲に手を振り振りウーさんが声を上げると、それに呼応する様に観客が声を上げながらパンパパンとリズムを取り拍手を始める。
勝負自体はあっさりとケリがつく。
80年代アイドルルック(ミニスカワンピに長めのマフラー)をしたウーさんが華麗なジャンプを決めると、壁の天辺へと見事に着地を決めたのだ。(すげー………ってか、ここでも月面宙返りですか………)
これにより村人側の勝利となり、アトラクションが終了する。
そして会場から押し流される様に外へと出た僕は、人の波に辟易しながらもララ達の強い要望であちこち見て回る事にする。
道具店では、室内のあちこちで顔を出すモンスターをピコピコハンマーで叩いて点数を競うアトラクション。
武具防具店では、村人と直接対決するエアホッケー。
冒険者ギルドでは、2人1組で巨大な石の輪っかを担いだ1/8のドワーフフィギュアを遠隔操作して障害物を乗り越え速さを競うアトラクション。
宿屋ではなんでか大食い競争をやってたけど、それぞれ5人姉妹が最後に出てきて活躍していたのだった。
他にも壊れかけの様なトロッコでのジェットコースターもどきや、逆バンジーみたいな対戦アトラクションじゃないものもあったりした。
その間もPCに声を掛けられそうになると、こそこそと回避していった。(ふぅ………)
換金所でGINとコインを換金して、ララ達は大いに楽しんだみたいだった。(僕は見てるだけでお腹いっぱいだ)
そして夜が明ける前に噴水広場の特設ステージ(もう何でもありですな)で、マルオーシステアと名乗る5人姉妹がステージ上で歌とダンスを披露しそれを村人とPCがペンライト片手に声援を送る姿があった。(なんじゃこりゃ………)
精神的に疲れてしまったので、それを横目に僕は一旦ログアウトする。
諸々の雑事を済ませてから再度ログインすると、僕は呆気に取られてしまう。
明るくなっていたマルオー村の中はさっきとはまるで違う様相を見せていて、人もおらず閑散としたものへとなっていたのだ。(建物も以前と同じになっていた)
まるで狐につままれた気分だ。これではまるで――――
「………真夏の夜の夢なのです」
………うん、ララに先に言われちゃったね。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




