223.入ったそうそう揉めてます
遅くなりました。すみません <(_ _)>
「なんやのん、これぇっ!?」
スビシッ!って鋭く貫く様な突っ込み音が、ララの右手から聞こえた気がした。
まぁ、僕も思った事ではあるけど。
本当になんやのん、これ?である。
………とりあえずは村の中に入ってみる事にする。
どのみち何があったとしてもここは通り過ぎるつもりなので、なんの問題………だらけだった。
「人がいっぱいなのです………」
「グゥ………」
「めにめに………」
「チャ!」
夜間帯にも拘らず大勢のPCが村の中をうろうろとしているのだ。
以前の、まるで人のいなかったあのマルオー村とはその様相が変じていたのだ。
そしてそれは村の中も同様だった。
地味〜だった建物がやたらと派手なものになっていたのだ。ひぃあ〜〜………。
そしてその大通りにはたくさんの屋台が軒をを連ね賑わっている。
も―言葉もない位に様変わっていた。
「………ここ、どこ?」
「マルオー村なのです、マスター」
「………そっか」
まぁそうではあるんだけど、少しだけ現実逃避?してもと思ったけど、ララはそれを許してくれなかった。
「グッ!」
「チャ!」
僕とララがそんな漫才をしてる間に、ウリスケとルリは何かを見つけてその前でピョピョンと跳ねている。
少しばかり気になったのでそちらに近付くと、どうやらこの村の案内板のようだった。
そして僕はその案内板を見て絶句する。
そこにはマルオー村の地図の中に点在するアトラクションの場所と、その施設の説明が記されていた。
各種対戦アトラクションと遊園地にあるような遊具の数々。
しかもとてもこの村の中に納まらないような規模のものだったのだ。
ここはどこのフレ○ドパークなのかと。
というかジェットコースターとか逆バンジーとかって、ファンタジーに全然そぐわないと思うんだけどなぁ。(あくまで僕の感想だ)
どの道こうしてPC達が楽しんでいる時点である意味これはありって事なんだろうから、僕がどうこう言う話でもないのだけど………。
「マスター、とりあえず見て回るのです!」
「グッ!」
「チャ!」
「おらい」
僕が少しばかり茫然自失としているところに、ララがそんな事を提案してきた。
まぁ確かにここでうだうだとやってるよりは、建設的な意見ではある。
東に向かう都合上、まずは手近なスキルショップの方に向かってみる事にする。
とは言うものの、PCが多いもので、中々に進む事が出来ないでいる。
それは僕に限っての事なので、先行するウリスケとルリは人の波に見えなくなってしまう。
もうこういう状況でも慌てる事もない。(うん、僕も慣れたものだ)
「マスタ。こち」
アトリが頭の上から飛び立ってナビをしてくれる。僕はそれに続いて歩を進めていく。
時折アトリを見て指差すPCがいる、けどまぁ三角帽子に杖持った青い鳥が飛んでれば仕方がないと思う。
アテンダントスピリットだって分かればそれについて聞いてこようとは思わないだろうし、前と違って集って来るようなPCもいないので大助かりだ。(ララの時は本当に酷かったし………)
アトリについて進んでいると、その前でなんかざわついてるのが目に入って来た。
あれ?なんか人の輪が出来てる?………まさかっ!?
その人の輪に恐る恐ると近付くと、案の定ウリスケとルリがPC達に囲まれていた。
「赤いスピアボーア?」「っキツネっ子………」「なんでモンス村にいるん?」
そこはスキルショップの脇にある通用口の前で2人は何故か列に並んでいるんだけど、その様子を(腫れ物を扱うように)遠巻きにPC達が見ていたのだった。(一部ちょっかいを掛けようとしてるPCもいるが止められていた)
人の波間からわずかに見えたウリスケとルリ(とても人をかき分けて進む気にはならない)へとそこから声を掛ける。
「ウリスケ、ルリ〜」
「グッ!」
「チャ!」
僕の声に気付いたウリスケとルリがこっちに向かってこようと移動を始めると、まるでモ○ゼの十戒の様に人の輪が割れぽっかりと空間が開く。
2人はそこを当然の様に進んできてピョピョーンと僕に抱き着いてくる。
ルリはともかくウリスケがこんな感じなのは珍しい。
そしてその僕達の様子を見た瞬間、PC達がざわつき始める。ん?なんだ?
「あれが………」「確かに妖精ちゃんが………」「え?あれ、従魔?」「たしか………従魔使いの」
「「「「「「コックさんだっ!」」」」」」
はじめボソボソと囁き声だったのが、いきなり声を露わにPC達が揃って言って来た。(はい、注目浴びてます。ひぃいい………)
そういやアテスピ団の皆にそんな名前を言われたような………ってか、なんでこのPC達そんな事を知ってるんだ?
「マスター、あの時の揉め事で色々と拡散したのです」
僕が微かに眉を顰めるのに、(エスパー)ララがしっかりと説明をしてくれる。ありがとです、はい。
PC達が改めて僕を中心に輪を作り直し、なぜか僕達を注視している。………なに?この状況は。
僕が少しばかり悄然としながら訝しげにしてると、ララが改めて説明を始めてくれる。
「マスター、例の揉め事の一件で、色々と拡散したのです。大切な事なので2度言ったのです。ジャスティスジャジメンの流した噂と、あの時の動画等が流れた結果なのです」
………知らんかった。確かにプロロア―ノ商店街での揉め事では表に出たんだけど、その後のカアンセやデヴィテスでは特に誰にも注目される事はなかったのだ。
「うわぁ………まじぃ?」
「まじなのです。あれから時間も大分経ってるので、情報が行き着いてる感じなのです」
「ふぇわぁ〜………」
そんな事全然考えてもいなかった。日々是平穏が僕のモットーだけど、知らない間にそれが覆されていたようだった。(結局自業自得なんだけど………はぁ)
僕達がそんな会話をしてる間に、PC達が何やら手元を動かしてこちらへと向け始める。他には小さな水晶の様なものを出してこっちへと向けだす。
ピロコリン!
[PC“ラギカサジウス”にスクリーンショットの撮影が行われようとしています 許可しますか?Yes/No]
[PC“ラギカサジウス”に動画水晶での撮影が行われようとしています 許可しますか?Yes/No]
SE音と共に、そんな事が書かれたホロウィンドウが目の前に現れる。
これは以前の事を踏まえて、勝手に僕達の姿を撮られないようにと設定をいじって許諾の表示を出すようにしたものだ。
もちろん本人の承諾も無く勝手に撮影をやってしまうという行為は、あまりにも失礼極まるのでもちろん拒否させてもらう。(現実でやってる以上もはや条件反射に近いんだろうけど、ダメなものはダメなのです)
次の瞬間、こちらを撮影しようとしていたPC達の前に“撮影不許可”のホロウィンドウが現れ、それから僕達を見て不満顔を見せる。
「え?」「まじ?」「ありえねぇし!」「ざけんなよっ!」「バっカじゃねぇのっ?」
口々にPC達から罵り声や不満の声が漏れだす。無断でこっちを撮ろうとする方がありえないし、ふざけてもいない。それこそバカはそっちの方だよ。
思わず漏れ出て聞こえて来た声に反論しそうになるものの、火に油を注ぐ結果になりかねないので黙っておく事にする。(沈黙は金なりきと)
「ちょっとぉ〜、スクショぐらいいーじゃん!減るもんじゃなしっ!!」
いやいや、減りますがな。主に僕のSAN値がね。
「はぁっ?何を言ってるのです。相手になんの断りもなく撮ろうとしておいて、言うに事を欠いて失礼にもほどがあるのです!常識って知ってるのです?」
「なっ、なぁあっ!?」
僕が何かを言う前に、ララが目の前に陣取って輪の中から上げられた声へと反論する。(あえて輪の中からというのがイヤらしい)
「それとも自分は撮られて晒されてラッキーという方々ばかりなのです?残念ながらマスターはそんな人種ではないので、あしからずなのです」
何気にララも口調がトゲトゲしい。
でも芸能人でもないと視線に晒される事なんて全くない訳で(動画投稿とかはまた別だと思う)、ちょっとばかり周囲の態度にララも腹に据えかねているみたいだ。
「………いーじゃんか、ちょっとぐらい」
僕の感覚だと、こういう言い方をする人って部屋に来た気になる女の子を襲って、○っちょだけって言うのに似てる気がするんだけど………。
「はぁあ?なのですっ!ちょっとぐらい○っちょぐらいと他者を辱めて、あとは知らんぷりっていう人がいるのです。どう思うのです!?皆さん!!」
いやぁ〜〜ん、ララさん心を読まないでぇ〜………。
「ならばという訳で、こちらもちょっとぐらい皆様を撮らせていただくのです。ハンムラビ法典なのです。マスターお願いなのです」
「はいはい」
揉め事はなるべく回避の主義の僕だけど、こういうとこまで来たらとことんやるしかない。
僕はメニューを呼び出して以前にララに求められるまま買った動画水晶を取り出して前に掲げる。
それに周りのPC達がぎょっとした顔を見せる。
どうやらララはPC達の煽りに煽り上げるつもりみたいだ。
録画を開始すると、水晶の上にホロウィンドウが現れ映した映像が表示される。
そしてその僕の行動にムッと来たPCの1人が前に出ようとするのを、パーティーメンバーらしきPCがその肩を掴んで止める。
「なにすんだよっ!あんなのPvPでやっちまえ―――」
「バカ!あいつジャスメンとPvPやってあっさり勝っちまってんだよっ!おめ−なんか1秒ももたねぇで返り討ちになっちまうってーのっ!」
「「「「「っ!!!?」」」」」
小声ではあるけど周囲に響きわたるその言葉に、唖然とこちらに視線を向けるPC達。
………あれは、ララが行動予測してくれたからではあるので、僕の実力って言われるのはちょっとって気分だ。
「マスター、グルっと回ってなのです」
「はいはい」
僕がララの指示で時計廻りに回転するけど、どこからも撮影不許可の表示が出て来る事はなかった。案外個人情報がザルなのも仕方ないものなのかな?(よもや設定にそんな項目があるなどとPCが知らなかったなどとは思いも寄らない)
「グッ!」
「チャ!」
「あっ!ウリスケさん、ルリさん。前をふさいじゃダメなのです」
半分ほど回転したところで(なんでかPC皆が身動ぎもせずじっとしている)、僕にしがみ付いていたウリスケとルリが飛び出して水晶の前に陣取る。
「グッグッグ!」
「え?そうなのです。動いた時間を保存するモノなのです」
「グッグッグゥ〜〜〜ッ!」
「こんな奴らを保存するのはもったいないから、ボクの踊りを保存してなのです?」
「グッ!」
「チャ!」
どうやらPC達を警戒するも特に何もなさげなので、自身の欲求を満たす事にしたようだ。
「ってか、ウリスケ踊りおどれるの?」
そっちの方が僕としては驚きだ。
「グッ!」
ウリスケは胸を張ってサムズアップしてくる。
ならばと、僕はしゃがんでウリスケと視線を合わせて合図をする。
「3、2、1、はいっ!」
「グッグッグ〜〜〜〜〜〜〜ッ!」
鳴きながら拍子とリズムを取りアカペラで音楽を奏でる。
2本足で立ち上がり前足をぶらりと前に突き出す。
すととと、くるり、たたん、ばっばっばっ。
軽くステっプを踏み、ターン。背を向けて前足を上下左右に激しく動かし左右にステップ、顔を数度背後へと向ける。
そして左右に揺らりゆらりと身体と共に前足を交互させ揺らしていく。
横に前に斜めへとザッザッザとリズムをとって移動する。
「○リラーかよ………」
PCの1人がそう独り言ちる。
アカペラもどきのウリスケの鳴き声から何となくとは感じてたけど、間違いなく一世を風靡したスーバースターの歌と踊りであった。
ウリスケってば、どこでこんなの覚えたのやら。あ、もしかしてあの宴会の時か?(やたらとウリスケにホロウィンドウを見せてた女子(ウリロボの注文主)がいたっけか)
「再現率パねぇ………」
「グッグッグ〜〜〜〜〜ッ!ググググッグゥ〜〜〜〜〜〜ッ!」
クライマックス辺りでウリスケが吼える様に声を上げる。
「ウリスケさん、ノリノリなのです」
前足を前方に掲げて右に移動、そして左に移動。前を向いてタッタッタ。
そしてノリのいいのはウリスケばかりじゃなかった。
ウリスケの踊りを真似しだしたルリと、それに追随するかの様にその後ろにいたPC達も踊り出したのだ。○リラーを。
なんなのん?これぇ………。
「グッグッグッグ!」
そして全員でビシッと決めポーズ。
しばらくの静寂の後、周囲から拍手が起こり全員へと広がって行った。
「すごいのです!ウリスケさん!!」
感動したらしいララが、ウリスケの周りをブンブンと飛び回る。
「グッ!」
ララの言葉に答えるように、サムズアップをするウリスケ。
それから―――
「グッグッグ!」
ウリスケは後ろで一緒に踊っていたPC達にも声を掛けて、そちらにもサムズアップをしていく。
「“ボクの拙い踊りに付き合ってくれたありがとうなのだ”とウリスケさんが言ってるのです。さっきは失礼な物言いをしてゴメンナサイなのです」
ララがウリスケの言葉を伝え、さっきの行為を謝罪する。
「いや、さっきのは俺達もアレだったし、なぁ………」
1人のPCがそう言って答えるのに、他のPCも軽く頷く。
それにより、周囲のきつめだった空気が緩やかに変化していく。
どうやら今回はウリスケにしてやられてって感じだ。(もしかしたら、これもララの思惑のうち………じゃないよな、さすがに)
まぁ結局僕なんにもやってないしなぁ。(動画撮っただけか?)
「はぁ〜〜〜〜い!お待たせしました。次のグループの方達どーぞ―――んん、あれ?」
スキルショップの通用口から顔を出したNPCの女性がこちらに声を掛けて来た。
そして周囲の様子を見てから、少しだけ視線をきつくして警告をする。
「………えー、ここで騒ぎを起こしますと、出禁にしますので、ご注意ください。ね♪」
次の瞬間空気が凍り付いたようにピシリとPC達が固まり、背筋をただす。何ですか、こりは………。(この人こわい)
そして何故か僕達もなし崩し的に、スキルショップの中へと入れられてしまうのであった。あ〜〜れ〜〜〜。
(-「-) お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます!感謝です! (T△T)ゝ




