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22.ご機嫌取りで夜に戦うことにする

 

 

『ずるいのです。マスターとサキさまが美味しそうに食べてるのを、ララが見てるだけなのは辛いのです』


 眼をきゅーと閉じ涙をポロポロこぼすララ。

 つーかこの子AIなんだよな……。どう見てもふつーの女の子みたいだ。AIが拗ねたりするものだろうか………。いや、今はどうやって機嫌を直して貰うかだけど。


「いーじゃない。作ってあげなよ。キラくん」


 姉がビールをプハーとやりながら煽りだす。やめてほしい。


「だいたい【調理】スキル持ってないから作る事なんで出来ないと思うよ」

「そだっけ?」

「街のスキルショップでも、その手のスキルは次の街で手に入るって言ってたし」

「ほっかー。キラくんなら迷いなくお料理かんけー取ると思ってたけど」


 まぁ、ゲームと現実リアルは違うからってことで、自分が食べれないもの作っても虚しいだけだしね。どーしようかなーと考えているとララば突然叫びだす。


『そうなのです。ばろむさんなのです!』


 え?スクラム組む奴?


『違ったのです。バロンさんのお店なのです』


 ん?あぁ、裏路地の露天商さんか。フレンド登録はしたけど出てくれるのか?ヘッドセットを首に掛け、コントローラーを握る。

 メニューを開きフレンドを選ぶ。“バロン・ローバン”を選ぶと、チャットとメールのコマンドが出てくる。


「キラくん!、友達できたの!?」


 姉が驚き大声を出す。失礼な僕にも友達ぐらいはいます。数人だけど………。気を取り直して[チャット]を選ぶとブーという音がして“バロン・ローバン”さんはログインしていませんのメッセージが現れる。


『お留守みたいなのです』


 残念そうにララが言葉を漏らす。じゃあ、あの人はプレイヤーだったのか。よく考えてみればNPCとフレンド登録なんて出来ないしな。イベント絡みだと考えると運営の人なのだろうか。

 バロンさんへの連絡は諦めて、ここはひとつご機嫌取りをしようじゃないか。


「ララ。料理はまた別の機会に考えよう。片付けが終わったら、街の外で戦闘してみよう」

『はいなのです!でも……いいのですかマスター?』

「昨日と同じぐらいの時間までな。サキちゃんいいかな?」

「いいよいいよー。泊まってく?」


 ンフフと笑って姉がそんな事を言ってっくるが、僕は泊まる気は全くない。何かが囁くのだ“気をつけろ〜気をつけろ〜”その言葉に同意する。だから時間になればアパートへ帰ることにする。


「じゃ、ちょっと片付けやるから少しだけ待っててな」

『はいなのです!マスター』


 泣いたカラスがなんとやら、にぱーと笑顔を見せるララに少しばかり安堵する。泣いたり笑ったり忙しい子だ。

 取皿やボール鉢をまとめてキッチンへと運んでいく。


「んじゃ、あたしがポーションとか買っとくね」

「うん、よろしくー」


 姉にその場を頼み、キッチンで洗い物をする。そういや昨日のスープはまだ残ってんのかな。疑問に思い冷蔵庫に入れたスープの鍋を見てみると、たっぷり残っていた。気付いてないのかもしれない。明日の朝イチでスープを使ってなにか作るとしようか。何がいいだろうか。ん〜、リゾットみたいなのとオムレツ的なとこか。などと独りごちてリビングに戻る。

 どうやら準備は終わったらしく、ララと姉が楽しく話をしていた。


「それじゃ、行ってみようか」

「はいなのです。マスター」

「んじゃ、あたしはもうひと眠りするから。はい」


 姉はそう言って、コントローラーとヘッドセットを僕に渡してくる。なんともフリ-ダムである。


「終わったら勝手に帰るから――――。おやすみサキちゃん」

「おやすみ~~」


 僕がそう言うと姉は手をヒラヒラさせて自室へ行った。

 人に見られながらゲームをするって何気に恥ずかしかったので少しだけホッとする。(何度か笑われたし………)

 もしや、気を遣ってくれたのだろうか?いやいやまさか。


『マスター?』


 そんな益体もないことを考えているとララが心配そうに声を掛けてくる。お、いかん。僕は慌ててヘッドセットを首に掛けてソファーに座りなおす。


「ごめんごめん。どこで戦おうか?」

『夜は初めてなので、今まで行った所がいいのです』


 んーすると北東エリアか南東エリアの方か………。依頼を見ながら応相談ってとこか。

 時計台広場に立っていた“ヤマト”を操作して冒険者ギルドに向かう。相変わらず人がいない。受付には向かわず依頼の貼ってある掲示板へ歩を進める。

 

 メニューを開きウィンドウを表示して依頼を見てみる。Fランクは、ワイルドッグとラッシュボーアの討伐。Eランクはホーンドッグ、ビッグスパロー、ホーンラビット、スピアボーアの討伐が表示されている。

 これを見てると、Fランクは新人、Eランクは駆け出し冒険者という括りになってるのだろう。もう駆け出しか、それともまだ駆け出しか先は長そうだ。


「ほいじゃ、ワイルドッグとラッシュボーアの討伐でいいかな」

『あとスピアボーアの討伐もするのです』

「夜ってみんな強くなるんだろう?大丈夫かなぁ」

『ララがいるので大じょぶなのです』


 ララが自信満々に言うので信用して、それらの依頼をチェックして受付へと向かう。


『いらっしゃいませヤマトさま。クエスト依頼ですね』


 僕が何か言うより早くやる気なし (だった?)受付嬢が声を掛けてくる。表情が以前に比べて柔らかい。名前まで呼んでくるし、一体どうしたんだろう。


『あの……?ヤマトさま?』


 いけない、呆けてしまった。相手の態度が変わるだけで印象がこんなに変わるなんて不思議だ。


『えっへん』


 なぜかララが満足そうに胸を張っている。よく分からんなぁー、何でだろう。まぁ、いいか。色々棚に上げて受付嬢にクエスト依頼をお願いする。


「あ、すみません。クエスト依頼お願いします」

『はい、かしこまりました。……ではスピアボーア、ラッシュボーア、ワイルドッグの討伐依頼を受理しました。夜間は昼より少し手強くなっていますのでお気を付けて下さい』

「はい」

『では、御武運を』


 ギルド受付嬢はペコリと一礼。何度も思うけど不思議だなぁ。そんな風に思いながら、冒険者ギルドを出て東門へ向かう。途中ララに屋台で何か食べようか聞いたが、「サキ様と宿屋で食べたのです。美味しかったのです」とララが笑顔で答えた。宿屋か~………。その笑顔に僕は一抹の寂しさを感じてしまう。もし【調理】スキルと取ったら美味しいもの食べさせようと決意する。決して姉に妬いた訳ではない。

 

 東門を出て北東へと向かう。まずはワイルドッグを倒すことにしよう。街を出ると灯りが無くなりなり、少しだけ周りが暗く感じる。けれど、月明かりと少しばかり薄暗くなっただけなので、戦うのに支障はなさそうだ。


 およそ、多くの生物は大地を踏み締めて生きている。鳥や一部の生物を除き、2足でも4足でも地面にバランスを保って立っている訳である

 。それは、たとえゲームの中でもそのように再現されていれば当たり前である。そしてそのバランスが崩れてしまうと、案外脆いものである事を僕は目の当たりにした。


『グランディグ!』

『ギャン』『ギャワン』『ゲベッ』


 ズベン、ズバン、ズバダン。3体のワイルドッグが前のめりになって倒れ込んで行く。ぼくはその1体 にロックオンして〝スラッシュ”を放った後、縦斬りで倒し、次の1体をロックオンしてと次々に屠っていってワイルドッグ3体をあっという間に全滅させる。


『やったのです。Vなのです』


 にぱっと笑ってVサインをするララ。

 踏み込み、駆け出し、飛び出し、着地。ララはその位置を正確に把握して、任意にそのポジションに穴を掘っていく。踏み出す、蹴り出す大地を失った足は空回りして、バランスを崩し倒れる。その好機を逃さず攻撃していく。

 僕はさしたる苦労もせずにワイルドッグをあっさり倒していった。まさしくララの最強呪文である。僕がいなくても戦えんじゃね?と思ったりした。


『マスターあってのララなのです。とどめはマスターがやってなのです』


 そんな可愛い事を言われれば、拗ねる事も出来ない。ったく。

 こうしてしばらくワイルドッグやホーンドッグを倒して行った後、南東へと向かう。やはり、昼と違って夜はやたらとエンカウント率が高い。南東エリアに入るとすぐにラッシュボーアが2体ドドドとこちらに向かって突っ込んでくる。

 

 今度はララに教えて貰ったとおり、L1を押しながら十字キーの上を押して、複数ロックオン。火魔法のファイヤバレット (いつの間にか覚えてた)を選択し、そのまま動くことなく詠唱を待つ星1つ、星2つ、星3つ!


『グランディグ!』


 2体のラッシュボーアの前足の着地地点に穴が掘られて蹴り込めず足を引っ掛けてズドバンと顔を地面にぶつけて引きずった後、引っ繰り返る。


『『ブギグウゥッ』』

「ぷっ!」


 2体同時に引っ繰り返ったのを見て思わず笑ってしまう。2体が起き上がる前に魔法を放つ。


『〝ファイヤバレット”』

『ファイヤバレット』


 僕に続いて、ララも同じ魔法をラッシュボーアに放つ。2つの炎の塊は2体に命中して焼きついた後、光の粒子となって消えていった。


「夜は大変だって聞いてたけど、結構サクサク行ってるよねぇ」

『違うのです。マスターが強くなったのです』

「いやいや、ララの魔法があってこそだよ。僕だけだったらこんなに上手くいかないよ」

『ありがとなのですマスター』

「うんうんララはすごいなー」

『えへへへ~』


 2人でそんな事を言い合いながら、南東エリアの未踏破部分を歩いていると《それ》はやってきた。スタタタタタと静かな足音と共に蛍火のような、しかし紅い2つの光が左右に揺れながらこちらに向かってくる。


『マスター!避けてなのです!!』


 ララの声に右ダッシュを2回繰り返す。すると何かがキランと光ったと思うとすぐ後方へと通り過ぎて行く。

 

「あ、あぶっ!!」

『また来るのですマスター!』


 やべっ、通り過ぎたので位置を見失った。あーえっと、ど、どうすればいんだっけ?


『マスター!L2かR2で回り込みなのです!!』


 ララの言葉通りにL2を押して反対側に回り込むが、目の前に紅い2つの蛍火とキラリンと光る何かが迫ってくる。

 十字キー左を3連打。くふぉ、何とか躱す。

 

 落ち着け落ち着け、慌てるな、ヒッヒッフー。いや、これはラマーズ法か、くはーっと息を吸い込み、スフゥ―――――と長めに吐く。じーちゃんに教わった腹式呼吸と心の一息しんのひといき。水と波紋と、とんとんとん。こんな感じは久し振りだ。ふふっ、ゲームなのにな、やっぱ面白い。

 これ以上は、きっとララが何とかしてくれると何となく分かっている。僕はそれに合わせるだけだ。

 

 夜のモンスターの危なさをここで実感させられる、背中合わせのヒヤリとするこの感覚。生きるを認識させられる。

 この肌を刺す感じは、どんなゲームでも味わうことが出来る。でも今この場での感じは、僕に新たな興味を沸き上げさせられる。

 その偽物とは言い難い、そうリアルでない現実リアル。本物と感じられるこの感覚、僕の好きなその、言葉に表せられないモノ。

 しかし、その感覚もララの魔法があっさり終わりを告げる。


『グランディグ!』


 ララの魔法は正確に未知のモンスターの足元を襲ってバランスを崩させる。

 サクッと地面に何かが突き刺さる音とともにジタバタ動いている音が聞こえる。


『グ―――――ッ、グ―――――ッッ!』


 地面を捉え損なって前のめりになったそのモンスターは、額にある大きな槍のようなツノが地面に突き刺さって逆立ちしてるように見えた。 

 大きさはラッシュボーアより少しだけ小さ目か、足をジタバタさせ何とか身体を動かしてツノを抜こうとしてるがあまり効果は無いみたいだ。グーグー言ってる。


『スピアボーアなのです!でも何か変なのです?』


 ララがそう言って不思議そうにそのモンスターを見ている。

 僕も気になったので、【鑑識】でモンスターを見てみる事にする。


 モンスター:スピアボーア〈変異種・赤〉Lv ?

       HP ?/?

       MP ?/?

       ・ボーア種のモンスター

        額に大きなツノが生えている

        静かに走り気付かぬ内に

        相手の身体を貫く事が出来る

        火属性の魔力を持ってる変異種


 何かまた変なのが出て来たもんだ。いわゆるレアモンスターって奴なのだろう。ま、討伐依頼のモンスターだし倒してしまっても問題無いだろう。


「何かスピアボーアの変異種だってさ。火属性を持ってるみたいだよ」

『レアモンスターなのです』


 ふおぉと、ララも目をキラキラさせて感心している。


「これ倒しちゃっていいんだよね」

『もちろんなのです。今ならコンボアーツで倒せるのです』


 ララの言葉に倣って、僕はコンビネーションアーツの10連撃をスピアボーア (赤)にくらわせる。


『“アクストルネド”』


 ドガ――――――ンと言うSEとともに竜巻が起こりスピアボーア (赤)が空へと打ち上げられる。


『グッグッグ―――――――ッ』


 さらにララが追い撃ちをかける。


『ストンバレット!』


 ドカンと命中した岩の塊にスピアボーアは吹き飛ばされボテンと地面に落ちて来る。

 倒したと思うのだが、何故か光粒子にならずそのまま残っている。

 するとスピアボーアの上に『!』のアイコンがピコンと現れる。


『グ――――――ッ』


 スピアボーアがムクリと起き上がりこちらを見ている。ありゃ、倒しきれなかったか、いや、何か違うみたいだ。

 画面下にウィンドウが現れSEとメッセージが表示される。


 ピロコリン

 [従魔スキル が 発動しました]

 [スピアボーア〈変異種・赤〉 を 従魔 にしますか?]

     《Yes》   《N o》


 どうゆこと?これ。



(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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