218.ヨコシマな人間てのはそういうものかと
遅くなりました <(_ _)>
………どうしてこうなった?
目の前には、男女含めて40名に程の人間が集まっていた。
僕は首謀者たるカラサワへと顔を向けて問い質そうとしたところ、手をパパンと叩き平身低頭して謝罪の言葉を述べてくる。
「スマン!まさかこんなに人が来るとか思わなかったから、何の対策もとってねーのよ」
とってねーよとか軽く言っちゃってるけど、ねぇ………。
「つーかさ、さすがにこの人数は無理じゃね?」
「………だよなぁ」
いまより2日前の事―――つまりウサロボを4人に納品して2日ほど経った日、センセーに呼ばれてガッコウに行くと何やら日頃にはない視線を感じる。
その感じた視線に対して僕が注意を向けると、それはすぐにばらけて霧散してしまう。
………一体何だったのやら。
「なんか奢れ、ササザキ」
「はぁあ?」
中途半端な時間だったので、学食でちょいと暇潰そうとしたところ、カードゲーム仲間のカラサワにガシリと肩を掴まれていきなりそんな事を言われる。
「なんで僕が奢らにゃならんの?カラサワよ」
掴んできた腕をパシッと払い除けて僕は言い返す。
「ぐっ、それは………お前に臨時収入があったと聞いたから、そう、おれとお前の仲だからだっ!」
「いや、訳分かんないし。僕とお前の仲っていうか、僕奢って貰った事ないよね?カラサワに」
理不尽な理由には、正当な理由で返す。
カラサワは眉をうぐぐと顰めて、とんでもない事を言い出した。
「だってウン百万儲かったんだから、少しくらい奢ってくれてもいいじゃんか!」
「はぁああ!?」
学食内に響き渡るカラサワの声に、中にいた人間の視線が僕へと集中する。
こういう状況では、笑いとばす事でお茶を濁すのがベストなのだ。
「………あっはっはっは~~っ、カラサワ~何言ってんの?僕がどうやってそんなに儲かったって言うの?いや、ぜひ教えてよ!僕最近ちょっと金欠で苦しいからさ!」
金欠。お金が欠けるって便利な言葉だ。
それを耳にした周囲の人間達は、冗談だと思って皆視線を戻していく。
そして僕はアイアンクローをガシリとカラサワの頭部にかまして学食を後にする。
「いだっ!いだだだっ!!ちょ、ササザキ、痛い~~~~っ!」
いつもより少しばかり力を込めて、人気のないところへと移動する。
僕とてもこのガッコウに長い事通っていたので、秘密スポットには事欠かないのだ。
今回はちょっとだけ真剣になって、カラサワへと詰問する。今のこいつに黙秘権も拒否権もないのだ。
現在―――と言うか昔から犯罪を犯した人間、それなりに知恵が回る奴等は黙秘するか否認をするのが実情だ。
殺人に関して言えば、殺意がなかったなどと当事者だけが認知する事柄を俎上に載せて裁判を乗り気ろうなどと言う、そんなニュースを見る度に幼い僕はバカだなぁと思ったものだ。
正直僕なんかとしては、結局行動の結果だけを罪状に対する答えにすべきだと考えていたのだ。
すなわち、どんな理由や意識であろうとも、盗んだという行動において決定づけるべきなのだ。
殺人であれば、殺意がある無いに拘わらず殺してしまった行為と言うものに対する罪の認定がいるんだと思う。
その事について父さんに聞いたところ、笑いながら(でも目が笑ってない)「そしたら僕達の仕事が無くなっちゃうからねぇ」と冗談まじりに言ってたのを覚えてる。
その時、そういや父さんは弁護士をやっていたんだと思い出したものだった。
当時は父さんが何を仕事にしてるかなんて、気にもしてもいなかったものだったから。
おっと、話が逸れた。
「んで、誰がそんな馬鹿な話をしたの?ネタ元ってどこよ」
「えーあーと………学長と、お前ンんとこのゼミの教授」
「…………」
いつにない僕の視線を受けて、カラサワはあっさりと白状する。
「どういう事?学長とセンセーが何を言ってたってぇの?」
理由は察したものの、詳しい内容を確認する為カラサワを問い質していく。
「え?いや、2人ともめっちゃくっちゃ自慢してたんだよ。ウサギのロボット買ったって。あれ、ササザキの作ったヤツなんだろ?」
………やっべ。口止めすんの忘れてた。
あるいはこれは僕とあの2人の認識の差ってやつかも知れない。
多分、納品してからすぐにやらかしてるんだろうなぁ。これ、きっと。
これに関しては後でララに確認してもらう事にして、問題は何故カラサワがいきなり奢れなどと言い出したかになってくる。
本来カラサワって人間は、自由奔放と独立独歩を地で行く人間だからだ。
僕はさらに視線を強めにして、その理由を訊いていく。(尋問じゃないよ)
「え~………ミサキのの親戚がやってる居酒屋があんだけど、ちょい今状況が芳しくねぇらしいのよ」
ミサキちゃんと言うのはカラサワの彼女で、ちょっとばかり嫉妬深くはあるもののそれ以外はコミュ力の高いほんわか女子であったりする。
カラサワと付き合っててよく別れないよなぁなどととたまに思ったりするものの、まぁこいつもこいつなりにい-とこはあるって事で。
でも以前に行った事もあるその居酒屋はそれなりに繁盛していたと思ってたんだけど、なんか変化があったんだろうか。
「ん?何かあったん、ミサキちゃんの居酒屋」
僕がそういう言い方をするのは、確か彼女がその店を受け継ぐという話を耳にしたからだ。
あくまで噂の範疇でしかなかったんだけど、カラサワの態度を見るに相当に切羽詰まった感じではある。
「まぁーいわゆるお約束の地上げ的な?」
どうやらカラサワ自身も、その実態は把握できてないようだ。
何やら土地を譲って欲しいという人物が現れてから、徐々に客足が途絶えているとか。
ふ~ん………そんな事あるんだろうか………。
確かにネットとかグルメサイトとかの評価が(嘘でも)低くなれば、一見さんは行こうって気にはならないかも知れない。
僕がその事をカラサワに聞いてみるものの、そんな書き込みは全然見当たらなかったって答えてくる。
「ララ、そうなの?」
僕は小声で、ララに確認をしてみる。
『はいなのです。こちらのお店に関する悪意ある書き込みはないのです』
ふ~ん。何なんだろうね?一体。
どの道カラサワのやり方では対症療法でしかないんじゃなかろうかと、僕なんかは思うんだけど。
やれやれ、まぁいいか。こんな時ぐらいは、カラサワに協力しても構わないだろう。
実際臨時収入はあったんだし、口止め感覚って感じで了承しておくか。
「………はぁ、分かったよ。居酒屋で飲み食いする分は奢るよ」
「………っ、えっ!マジっ!?ほんとにっ!?」
カラサワが僕の言葉に目を見開き口を馬鹿みたいにあんぐりと開いて驚きを表す。いや、言い出しっぺが何なんだって話なんだけど………。
「あーまぁいいよ。ただしあの居酒屋だけだからな。それは絶対だからね!」
僕は念を押す様にカラサワへと言いつける。
よもや2次会3次会などと流れられて、それまで奢らされる羽目になるのは御免被るのだ。
「お、おうっ!わかった。そんじゃ、日程決めたら連絡すっから、じゃあなっ!‼」
そう言ってすっ飛んで行ったカラサワを後目に、時間なので僕もゼミへと向かう。
まぁ、やる事ってのは昼食作りな訳だ。人数は聞いてるので材料はすでに買ってきてるって事で、あとは料理を作るだけって話になる。
「うぉお………」
事務室を抜けて作業室へと入ると、センセーと数人のゼミ生が人型ロボの周りで忙しなく動いていた。
しばらくかかるだろうと思っていたその姿は、随分と形がが出来上がっていたのだ。
気分屋であるセンセーは、とかく作業をほっぽいてどこかに行ってしまう性癖がある。
それがどうだろう。今は真面目に作業に従事しているのだ。
何が原因かと言えば、まぁ目の前の光景を見れば丸分かりだけど。
「な~さっちん~~。ちょい休憩しようぜ。ちょっとドイツに面白そうな論文出たからさぁ~」
『アキラ様。なぁ~~~に、おバカ言ってるんです?これを仕上げないと来期の予算が出ない恐れがあるんですよ?それにゼミ生の皆様だって自身の研究があるのです。アキラ様の趣味ばかりに付き合ってる暇はないんですよ?』
センセーのなんともな言葉に、黒メイドウサロボは、あまりにも真面な物言いで論破していく。
その後ろでは、ゼミ生が拳を握り締めてさっちんを応援していた。
「ええ~~………」
『ほら、わたくしも手伝いますから、さっさと作業に戻って下さい』
「ちぇ~」
その手腕はまさに有能な秘書に見えた。やるなさっちん。
『まさにロッテ〇マイヤーさんなのです!』
ララがそんな言葉を呟く。う~ん、それはどっかなぁ。まぁ信念の人ではあるけどなぁ。
そんなこんなで僕は人数分の昼食を作って、その日はゼミ室を後にしたのだった。(ちなみにメニューは坦々うどんと野菜ゴロゴロスープだ)
そして翌々日。件の居酒屋の前には、40人の数の人間が集まっていたのだった。
「………お前バカだろ?」
「ええっ?そこまで言う!?」
そうだろうが!ただの飲み会に学内SNSで発信して人集めるとか、そう言うしかないだろうに。
「で、どうするん?これ。さすがに僕だけじゃ扱いきれないよ?」
「ぐっ………」
僕の言葉にぐぅの音も出ず押し黙るカラサワを見ながら、さてどうしようかと考える。
つーか、こいつ本当にバカとしか言いようがない。
いくら彼女の親戚の危機?とは言っても、あんな文言で人を集めるってのはさすがにないだろうと思うのだ。
“ササザキが奢ってくれるからヒマな奴やってこーい”
………これって殴っていい案件だよね。
まぁ冗談はさておき、居酒屋自体にキャパはあってもさすがに知りもしない人間に奢るってのは何とも気が乗らない。
そもそも多くても10人ぐらいかと思っていたのだから、致し方ないというものだ。(それでも多いと思うけど)
「んじゃ、カラサワ。奢り無いんで2千円会費出してって言って。それくらいは泥被ってな」
僕は有無を言わせずにカラサワへと指示をする。
「はぁ………しゃあねーか。そんぢゃちょい言ってくる」
カラサワは渋々といった体で、かたまっている人達へと話をしに行った。
途端にええ~~っという不満混じりの声が、周囲に響く。
カラサワが頭をペコペコ下げて謝っていると、半数ほどの人間がこの場から立ち去って行った。(何人かはこっちを睨みつけていた。どんだけ奢られたかったのやら。はぁ)
………まだ、半分いるのかー。3千円にしときゃよかったかな?
話し合いを終えたカラサワが戻って来たので、僕は確認のために訊いておく。
「カラサワ、ここって食べ放題飲み放題プランってあったよね?」
「ん?ああ、あるけど。2千円じゃ足りねぇぜ。2時間で4千円と3時間5千円だな」
う~ん、それ位ならいっかな。まぁ、たまにゃあいーだろ。
「それじゃ、足りない分は僕が出すから、3時間コースでヨロ」
「えっ!?まじ、いーんか?」
「2度目はないからな」
「おっけーおっけー!そんじゃ、皆に言ってくるわっ!」
カラサワが軽やかにスキップを踏みながら皆のところに向かい話をすると、軽く歓声が上がる。
まぁ上げて落とすよりも落としてあげる方が気分いいし、せっかくだからウリスケ(ロボ)もお披露目したいしね。
『グッ!?』
「ウリスケの出番はもうちょいまだだから、もう少し大人しくしててな」
『グッ!』
デイバッグの中で何かを察したらしいウリスケが声を上げる(ここにもエスパーが!)のを、軽く抑えて僕達は居酒屋の中へと入って行った。
酒宴が始まりだ。
最初の30分は、カラサワを中心に手探り状態だったけど(どんだけ交友範囲が広いんだか)、次第に気の合う人間同士がかたまり出して和気藹々とし始める。やがてガヤガヤと騒がしくなっていく。
一方では飲み比べが始まり(危険!やっちゃダメっ!)、もう一方では唐揚げ早食い勝負が開始されていた。(コースにしといて良かった………)
ウリスケ(ロボ)は2階の座敷に解き放つと、グッグッグと鳴きながら室内を走り回り現在は一部の女子に愛でられている。
僕は僕で知り合いがいたので、ゲーム談義をしてそれなりに楽しんでいた。
『マスター。手口が分かったのです』
僕の目の前にララが現れて、居酒屋の客足不振の原因を告げて来た。
『この店先での“ぼやき”が原因なのです』
ん?ぼやき?僕が続きを聞こうとすると、隣に誰かが腰を下ろして来た。
「こんばんはぁ~♪隣ぃ~いいかなぁ~」
んん?誰だ、この女性。
(-「-)お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます!感謝です! (T△T)ゞ
おかげさまで200万Pv到達しました
これもひとえに皆様が読んで下さるお陰でございます
これからも“あねたの”よろしくお願いいたします <(_ _)>




