215.次なる目的地―――の前にいろいろ作ります
「ありゃりゃ。ラギくんいいの?」
僕の選択にさっき迄沈黙していたレイさんが、声を掛けてきた。
ん?なんか不味いんだろうか。ってかもうやっちゃってるんで、どうしようも無いんだけど。
「まぁ、本人達の希望ですし、特に問題はないと思うんで」
「いやいやいや、大ありだよっ!クラスアップしないといくらモンスターを倒してもLvがもう上がんないんだよっ!?」
え、なんなの?その一択な話って。でも………。
「う〜ん、でも特にLvが上がんなくても問題ないと思いますけど、何かあるんですか?あ、ドロップもないとか?」
どの途ここから先へと進む気はあんまりないんで、もしLvが上がらないとしても充分戦えるから大丈夫なんじゃないかと思う。
「ドロップアイテムはあるけど。いやいやいや!一応ゲームなんだから先に進まなきゃ!」
「…………」
仮にも神様が、一応とかいうのはどうかと思うんだけど。
それにクリア型のゲームでならともかく、これだけ自由度が高いのなら何をやったって問題ないはずなのだ。
「と言うか〜、それよりもこっちの方が今やるべき事なんじゃないですか?」
僕が視線をボンボンテンタクー(大)へと向けると、そこにはラビタンズ達が周囲を囲んで突いたり叩いたりしていた。食べちゃだめだよ、びびびって痺れるから。
あまつさえちびラビ達がその胴体の上に乗っかって、飛んだり跳ねたりしていたりする。
「そうねぇ〜………ちら」
レイさんがそうして意味深な視線を僕へと向ける。
まーレイさんの目的なんてのは分かりきってるし、間違いなくそういう事なんだろう。
「はぁ~。分か――――」
「ふぅおおおっっ!イカ!イカなのだっ!!」
「え?どれっ、どれがイカぁ!?」
「あの白いようで茶色く光ってるの?いっぱいあるの」
………何をどう突っ込んでいいのやら判断に迷うとして(大鍋を持ってるからラビタンズが連れてきたんだと思うけど)、ディセリアさんはともかく何でか2人増えていたりしてるので一体どういう事なのかと僕は首を傾げてしまう。。
何より何故3人共うさぎの着ぐるみを着てるのか、しかもそれぞれ色違いという工夫をしていたりする。
「いらっしゃいなのです!ディセさま」
「グッ!」
クラスアップの件が落着したので、ララとウリスケがディセリアさんのところへ挨拶をしに行く。
「来た。これがイカ?これがゲソ?」
ディセリアさんは挨拶もそこそこに興味は完全にボンボンテンタクーに向かっているようで、食い気味にララへと質問をしている。
「なぁなぁ、これ食えるん?」
「これ食べていの?」
「ふぉっ!?ダメなのです!生のまま口にすると痺れちゃうのですっ!」
「グッグ!」
「ふえっ、まじ?」「やめるの」
ボンボンテンタクーの触―――でなくて、足を手に持ち齧ろうとしていたピンクウサの少女をララが慌てて止める。
あっちから派遣されて来たのなら影響はないと思うけど、用心に越したことはない。
「残念ねぇ〜。せっかく未知の体験が出来たってのに………」
おいおいおい。その不穏当な物言いってどうなんですか?レイさんってば。あんた悪魔か。
「ディセさん、そちらのお2人はどなたなのです?」
僕はララに注意を受けて名残惜しげにしょ―――足を放おった少女を横目に見つつディセリアさんに訊ねる。
「そだった。えーとあの2人は私の姉で―――」
「オクトゥラだよ!よろしくぅ〜」
「ノーべなの。よろなの」
カナリアイエローのウサぐるみを着た娘が、僕達の方にやって来て挨拶をしてきた。
ウサミミフードを後ろにやって、金髪の長めのポニテを靡かせながら右手を振ってくる。朱色の瞳とタレ目がその顔に印象的に映る。
そしてさっき足を口に咥えようとしたピンクのウサぐるみの娘は、うさ耳フードを被っているので詳しくは分からないけど、横から出ている金髪を見ると相当な長さであると推測できる。
こちらも濃い赤色の瞳とタレ目がなんともな印象的だったりする。
「ディセさんって、三つ子さんなの?」
「ン、そんな感じ。美味しいもの食べたいってついて来た」
そんな感じがどんな感じかは分からないけど、ニュアンス的には似た様なものという事かな。
「マスター、それよりもこれをどうするのです?」
「うん………そうだね。ちら」
通常のボンボンテンタク-なら飽きるほど捌いたので問題なく作業を行えるけど、これだけ大きなものはどこから手を付けていいのやらさっぱり分からんちんだった。
なので、ここは丸投げするという意味でレイさんをちら見する。
「………んも~、仕っ方ないなぁ」
僕の視線にレイさんが肩を竦めて手をボンボンテンタクー(大)へと伸ばそうとした時、ララがいきなり声を上げてそれを止めてきた。
「そうなのです!レイさま、ちょっと待ってなのです!」
「ふぇ?どうしたのララちゃん?」
ララの制止の声にレイさんが変な声を上げて、ララへと聞き返す。
「マスター、マスター!これだけの大きさなら目玉も相当な大きさなのです。ですので―――――」
ララのその言葉にすぐにその事に僕は理解する。
「うん。大量のソースの作り置きができるかも」
「なのです!」
「グッグッグ!」
「ま~べら」
「チャ!チャチャ!」
僕の呟きを耳にしたウリスケ達が、跳ねたり跳んだりして歓喜の声を上げる。
「え?え?どういう事なのかな?かなかな!?」
レイさんが珍しく動揺を表しながら、今の状況に関して僕へと問い質してくる。
んん?レイさんが知らないなんて事があるんだろうか。
「えーと、僕達が屋台出してたの知ってますよね?」
「え?そうね〜………。うん、もちろん知ってるわよ!もちろん!」
ん?あれぇ?もしかして知らなかったのかな。
レイさんが視線を宙に彷徨わせながら答えてくるのに、僕は少しだけ首を傾げる。
曲がりなりにも管理者であるレイさんが、状況を把握していないというのはちょっと無理がある気がするんだけど………。
「まじか………」
虚空を見据えて沈黙するレイさんを見て、僕は確信する。
なので僕はデヴィテスの街に来てからの事を簡単に説明する。
「へえぇ………、そ―――んなのもちろん知ってるわよ?」
なぜに疑問形とは思ったものの、この辺は武士の情けと大人の対応をした方が良さ気だと感じ、僕は別の話題を振る事にする。
「まぁ、それはそれとして。料理どうします?ここで作るんですか?」
ラビタンズの皆が釣り上げた大漁の魚と、このボンボンテンタクーを捌くには家の中のキッチンでは少々手狭なのだ。
「おうよ。よういができました」
「「「おねがいしますっ!」」」
そこにレイさんでなく、ラビタンズ達が答えてきた。
手にはどこから持ってきたのか、大鍋や小鍋を抱えている。
さっきまでの戦う姿は形を潜め、キラッキラとしたお目々をして期待の眼差しをこちらに向けている。………じゃあ、ここでやるとしますか。
「さってと。どこでやろうかな〜」
僕は桟橋を見回しながら作業する場所を選ぶ。
やっぱ右か左の端っこがいいだろうとどっちにするか考えてると、そこにレイさんが話しかけて来た。
「あっ、キッチン関係は私が出すからまっかせてっ!!」
「へ?」
レイさんがそう言うやいなや指をパッチンと打ち鳴らすと、桟橋の左端に魔法陣が現れそこからいわゆるシステムキッチンがせり上がってきた。
魔導コンロが5つに、シンクと作業台が1つになったもの。………この人どんだけ作らせる気なんだ!?
確かにボンボンテンタクー関しては、工程がいくつもあるんでコンロは多ければ多いほど助かるんだけど。………まぁとにかく始めますか。
手持ちの魔導コンロを桟橋の上に置き、そこに大鍋を載せて水を入れていく。
1つには、野菜とさっき釣り上げた魚をぶつ切りにしたものをドボドボと入れていく。
こっちのモンスターも現実と同じ仕様みたいで、なんの問題もなく作業する事が出来ていた。(もちろん鑑定しての事だ)
僕自身このゲームではいろいろ結構変な目にあっているので、僕としては正直ラッキーだった。
特に今日はバイトのシフトが入ってるので時間制限があり、のんびりやってる状況じゃないから少しばかり急かし気味に僕は動き回る。
ボンボンテンタクー(大)の目玉をくり抜いて、もう1つの大鍋へと入れてソースを作っていく。
ソースを作る上でその辺りの量の調節がなかなかの肝なので、最初は水を少なめにしてから徐々に理想の形へともって行く。(これ完全にソースだもんなぁ………)
この後はララ達に火の番を任せて、僕の方は新たな料理に挑戦する。(時間ないのに何やってんのやら)
とは言っても他の屋台でやっていた料理の2次使用なんだけど。
足から切り取ったボンボンテンタクー(大)の球体の表面に少しだけ切れ目を入れて、そこから野菜や肉、魚類を入れて煮た後に表面に麦粉をまぶし油で揚げていく。
なんちゃってサムゲタン擬きってやつ。(違うか?まぁいっか)
魚に関しては焼き魚と煮魚の2種類。
ここで味噌と醤油が使えるのがありがたい。(レイさんが許可してきた)
ボンボンテンタクーの足は、小口に切って串に刺して煮ていった後に、今回は数と時間短縮の都合上そのまま麦粉をまぶしただけでそのまま素揚げしていく。
はじめは破裂するかなと思ったけど、そんな事にはならずにきれいに揚がっていった。
「マスター、アレを出してなのです」
ん?アレって、ウマ肉の事かな?
「あれ?っていいの、出しちゃって」
「なのです。この際大盤振る舞いなのです!」
………まぁいっか。狩る場所は分かってるし今回は大放出って事で、ウマ肉のハンバーグとあと角煮を取り出してララへと手渡す。
どうやらララも何かを作りたくなったみたいだ。
「ウリスケサンお願いなのです!」
「グッグッグーッ!」
ララがウリスケに声を掛けると合点承知とばかりに胸をポポンと叩いて、切り分けた食材から球体をいくつも抱えて作業を開始する。
「なる程。それはそれで美味しそうだ」
僕と同じく球体に切れ目を入れて、その中にウマ肉や角煮とソースを入れていく。
「てやっ!」
「グッ!」
「ちょい!」
「そやっ!」
「グッグ!」
「ちょいさ!」
ウリスケが球体を前脚で押さえララがナイフで切れ目をスパッと入れると、ウリスケが軽く球体を押し込み切れ目を開く。
パカッと切れ目を開いたところに、ララが食材をてやっと突っ込んでいく。
この一連の動作を流れる様にやっていってる。
まるで餅つきの合いの手の様に声を掛け合い作業を進めていき、出来たそれをラビタンズが大鍋へと入れて行く。
何気にラビタンズが手慣れてる感じだ。
あとは煮上がったそれを油で上げるだけだ。
その姿を横目に僕は僕であと1つ料理 (って程のものでもない)を作る事にする。
僕はイカの部位だと、エンペラの部分が1番好きだったりする。(あのコリコリ感が何とも言えず、イカの煮物が出てくると真っ先に箸が伸びるのだ)
なのでボンボンテンタクーのワラジのような形をそのまま炙ってから麦粉をまぶして揚げていく。
普通これだけ揚げ物の作業をしてたら暑くて堪らないんだけど、ゲームでは特になんの問題もないのはありがたい事だ。
で、出来たのがこれ。
ボンボンテンタクーの
炙り揚げ(エンペラ):ボンボンテンタクーのエンペラ部分
を炙り焼き麦粉をまぶして上げたひと品 Lv12 ★★
エンペラ部分を焼いたことにより表面が程よい
堅さで揚げた事により中身がトロリとした
まさに酒の肴と言える逸品
酒が進む進む (HP+80 満腹度 30%)
「マスター!美味うまなのです!」
「グッグッグッグ!」
「でりしゃ!」
「あむあむ、チャッ!」
「「「おうさま〜うまうま〜」」」
試食と称して揚がった1枚を皆で分けて食べてみる。
表面はサクサクコリコリしてるのに、中はトロリという不思議食感。味付けなしでもそれなりに食べれる。うんうん。
そしてあらかた料理が出来上がったところで、レイさんが杯を手に乾杯の音頭を取る。
「みんな〜おつか〜。そんじゃかんぱ〜〜〜い!」
「「「「「かんぱ〜〜いっ!」」」」」
レイさんの言葉にラビタンズの皆が唱和して杯を掲げる。
………あれってお酒か?いつの間に。
結局作った料理は、潮汁に焼き魚に煮魚。そしてボンボンテンタクー料理の数々。
僕は串に刺した魚を炙りながら、ちょこちょこと料理を摘んでいく。
僕が作ったなんちゃってサムゲタンやララ達の作ったボンボン包みはどれも好評のようで、皆美味しそうに食べている。それに安堵と満足感を覚える。
「これがイカゲソ。美味し!」
「ディセさま。これはイカゲソじゃないのです」
「ふぇ〜おいし〜の。なるほどなの。これがきゅうきょくの―――」
「…………っっ!!…………っっ!?」
ディセリアさんは両手にボンテク串を持って、それぞれを食むりながら感慨深く呟くのにララが突っ込みを入れている。
ノーべさんは周りに料理を並べて、吟味するように料理を口にしている。その姿はまるで料理評論家みたいだ。
そしてオクトゥラさんは料理にしか目にいってないようで、ひたすら料理を食べながら涙を流している。
………いや、泣くとかドン引きなんですけど。
「ラギくんやってる〜?」
ほろ酔い気味な表情をしながらレイさんがやって来てそんな事を言ってくる。
口元がねへーって感じ緩んでいる。いいのか?管理者よ。
「やってませんよ。この後バイトがあるんで」
「あら、そうなの〜?せっかく、さしつさされつしよかと思ったのに〜」
いやいやいや、ご遠慮しときます!状態異常【酩酊】は当分御免ですとも。
やって来たラビタンズに(後ろにノーべさんもいる)潮汁をよそって手渡していると、横にやって来たレイさんが小声で話をしてくる。
「ふっふふぅ〜。今日はいっぱい御馳走になったんで、お得情報を教えちゃおうと思いま〜す」
………完全に酔ってるよね?レイさん。
「実は〜〜〜どこかに〜〜従魔の郷ってのが〜〜〜………ぐぅう〜〜〜〜ZZZZ」
「従魔の郷?………え〜レイさん〜………」
ダメだ、寝ちったよ。従魔の郷ねぇ〜………。
レイさんがそう言うからには何かあるんだろう。きっと。
僕の方に頭を載っけて眠りこけるレイさんを放置しながら、僕は時間までおさんどんに徹したのだった。(しっかし、あのウサぐるみ3人組はあれだけ食べてお腹大丈夫なんだろうか?ちょっとだけオニーサン心配だよ)
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます!感謝です!(T△T)ゞ




