212.とあるプレイヤー達の狂騒曲 【カアンセの街シティアド】
もう1話とあるをお送りします
ショビッツさんの言ってたやつです
それはほんの気紛れ、ただ気になっただけの事だった。
カアンセの街で依頼をこなし、冒険者ギルドへと向かう道すがらに見かけたPCが気になっただけ。それだけだった。
「QQどうしたん?」
緩く編んだ三つ編みに着物というか作務衣っぽい服を着た人をぼへーっと見てると、クラメンのぱっちんがオレの様子に心配そうな顔をして聞いてきた。
むむっ、………そんなにオレは頼りなさ気に見えるのだろうか………。
いや、昔から付き合いのある幼馴染(腐れ縁とも言う)だからこその機微なのかもしれない。
「んにゃ、あの人カッちょいーなーと思ってさ」
「………はぁ、君は相変わらずだね」
「みゃ〜、それがQQだもんだね〜」
ぱっちんの呆れ気味の声に、フォルフレイラが何故かそれに同意しながら頷いている。解せぬ!
たしかに現実でも惚れっぽいけいど、実行に移せないのでもう少し積極性があればなとも思う。どっかに落ちてないかな?
だけど気になったのも事実だ。
だってあそこから慌てて逃げるように走って行ったのだから。と言うかなんか凄いメンバーだった。
小妖精と赤いボアの幼体と獣人族の子供を連れたPCってあり得るんだろか?
今迄見た事ないんだけど?
とは言え、気になったからといってその後を追うのは、間違いなくストーカー予備軍になる恐れがあるのでどうにか堪えて、とりあえず出て来た場所を見てみる事にする。(まぁ何にもないと思うけど)
「………何じゃこりゃ?」
その小さな公園の真ん中にそれは鎮座していた。
恐る恐るその飾りに手を触れてみると、ピロコリンというSEと共にホロウィンドウが現れ、オレは少しだけ狼狽しつつもそれを見る。
《イベント:SS09
ダンジョンを発見せよ!
君は見つけた!手がかりを!
さぁ!これからすべての道を辿り彼の地へと向かえ!
全てはオブジェの示す先へ!
※これはオブジェ争奪戦となります
多くのオブジェをチェックしたPCが
優先的にダンジョン探索の権利を得る事になります》
「はあぁっ!?」
オレはホロウィンドウのテキスト文を読みながら、つい声を上げてしまった。
だってそうだろう?
たまたま気になったPCが立ち寄った場所を覗いたら、まさかイベントのキーフラグとかあり得ねぇーしっ!
「まじかっ!?」
出てくる言葉が感嘆符しかない。仕方ねぇーだろこんなの………。
「にゃーと、4,8,12,24。すべてはここへ集約する。にょ?」
フォルフレイラが変な形のオブジェをガン見して呟く。
「え?何それ」
「にゃ?うん。鑑定したらそんなのがでたにょ」
むむっ?もしかしてそれヒントか?
「他になんか書いてねの?」
オレがフォルフレイラに訊くと、再度鑑定をかけてホロウィンドウを確認を始める。
「イベント発見なう。的な?」
その声に振り向くと、ぱっちんがホロウィンドウを出しながら入力端末を使っているのが目に入って来た。
「あっ!ぱっちん手前ぇ、なに情報晒してんだよっ!」
ちっ!迂闊だった。こいつ掲示板魔だった。
読むのも好きだが、カキコも大好物なのだ。
「何って情報は共有するものだよ?秘匿したっていいい事ないもんね」
はぁ?いや、だってこれ争奪戦て出てるじゃんか!せっかくイベ見つけて有利なのを自分で晒すってねぇだろっ!?
「にゃーにゃーQQ。こんなとこで言い合ってても時間もったいないにょ?」
「っ!」
くっ、そうだった。こんな事やってる間に、他の奴等が行動を始めるのは時間の問―――ってか来てるよっ!うわわっ!
「ばち!どこのスレにカキコったっ!?」
「んっ!攻略スレだよ!」
「お馬鹿ンっ!!」
こうしてオレ達のシティアドベンチャーがなし崩し的に始まったのだった。
オレ達はとりあえず公園を出て道を進みながら、これからどうするかを相談する。
「つーか、どうすんだよ?宛てあるん?」
「というか、これって僕達がイベントに参加する必要あんの?」
ちくそう。こいつがカキコしながらンな事聞いてきやがる。
「はっ!?おめぇ〜それってゲーマーの発言か?だったらKB仲間でつるんでろよ。オレ、これからおめーに合わせねぇからよ」
その言いようはオレへの侮蔑であり、PCへの罵倒だ。そもそもオレは付き合ってくれなどとぱっちんに言った事なんぞない。
「………ごめん。愚問だ」
ぱっちんの謝罪でこの場の決裂は回避される。
こいつは時としてこんな第3者視点で物を言ってくる。
現実では確かに有用なものだが、ゲームでそんな事を言う奴は、とっととログアウトしてけってオレは思う。
「おら、フォルフレイラ。なんかあんだろ?」
「にゃふー、さっすが分かってるにょ〜QQは〜」
こいつ、にゃーとかにょとか言ってるけどこの手のミステルもんが好きで、某脱出ゲームイベにも告知があれば北でも南でも単身行っちゃう人間なのだ。
エルフの癖ににゃーとか言う奴。
まぁオレも人の事は言えねぇけど………。
なんせモフモフ好きがこうじて獣人族の猫耳なんだし。
「多分にゃ。24、12、8、4ってなるから外から内へ向かう感じかにゃ?って思うにょ」
「なるなる。つまりはオリエンテーリングっぽいってやつだね」
ぱっちんがそんな事を呟きつつタイピングをしてる。
相変わらず起用な真似を。ってか転べやっ!
ってな訳でオレ達はカアンセの外壁のとこまで来て、何かないかと探して回る。
どっかのぱっちんが情報垂れ流してるんで、イニシアチブは少ししかないだろう。
つっても何も見当たらない。
外壁にも何があるでもなしだし、後は石畳の道路と均等に道に端に並んでる街灯ぐらいなものだ。
「ん?待てよ………」
あれ街灯か?高さ5mぐらいの棒の上には確かにカンテラみたいなのがあって、更にその上には変な飾りがついてる。
オレが街灯に近づきそれにふれると、ホロウィンドウが現れテキスト分が表示される。
「えーと“外より内へ。視線の先はここへと集約する”と」
「はぁー………」
ぱっちんが文字を入力しながらテキスト文を読み上げる。
もう突っ込む気力がねぇ………。
「これどうするん?」
ちょうどオレの胸のあたりの位置に棒が飛び出てて(取っ手だな)いかにも回して下さいなって言ってるが、オレが動かしてもうんともすんとも言わない。
「みゃ〜がやって見るにょ」
オレに代わってフォルフレイラが取っ手を動かすと、あっさりと回転しだす。何っ?オレイジメかっ!?
回し続けてると途中でガゴンという音と手応えがあり、ホロウィンドウが 出てきて“CHECK”と表示される。
そして上のカンテラにポゥと淡い蒼の光が灯る。
「やっぱりオブジェは中心を向いてるにょ〜。思ったとおりにょ」
フォルフレイラがドヤ顔で腕を組み上を見上げる。
「よしっ!ちゃっちゃと回してくぞっ!」
「えーと、街灯を回―――」
「やめやっ!」
「ぐぼっふ!」
この後に及んでカキコってるぱっちんにボディブローを食らわせやめさせる。
ちくしょー。突っ込む気なかったのに、こいつわ………。
こうしてオレ達は全部で6つの街灯を回して、次のオブジェへと向かった。(他のはすでにやられてた。馬鹿ばっちんメッ!)
「ところで啓蟄って何?」
街の内側へ向かいながら、オレは2人に訊いてみる。
「二十四節気の1つだよ」
「二十し?」
オレがそれを聞いて首を傾げるのに、2人は心底かわいそうな目でオレを見て肩を竦める。え?知らないと不味いやつん?
この後のオブジェ探しななかなかに骨が折れた。
ぱっちんの召喚獣のビックスパローのちょみっちが空から探索し、フォルフレイラのワイルドッグのヴァガードが地上から探索して3つを確保。
うん。干支は知ってた。ってかファンタジーRPGらしからぬチョイスだ。(ぱっちんいわくPC向けの仕様なんじゃないとのこと。そんなもんか?)
そしてどうやらこのイベントに参加してるクラウンやパーティーは、オレ等を含めて全部で7組いるみたいだった。(ぱっちん情報)
出遅れたPC達は不満タラタラのようだが、そもそもオレ等が見つけなかったら起きる筈のないものだ。
早いもの勝ちのこの手の事に文句を言うのは筋違いというものだ。それでも言うヤツは言うがな。
それにあくまでダンジョン探索の優先権であって独占権じゃねぇんだから、運営もそこら辺は見越してるんだろうな。
オレの視界の左上端には、これまでチェックした箇所数が表示されてる。
24/6
12/3
8/3
ってな感じに。
今のとこ他の連中とかち合ったりはしてない。
あと残りは4のとかだから、時間の問題だと思うが。
それに場所もすでに分かってる。あんなでかいもん分からない訳がない。
カアンセの街の中心部分には、東西南北に走る大通りの交差点の角部分に4つの大きな公園がある。
その1つ。巨大な鳥のオブジェがある公園に、オレ達は来ていた。
「あー………なる。朱雀か」
「すざく………オレ知ってる」
大ばーちゃん家があるとこで、秋に武者姿で市内を行列してねり歩くイベントがある。
その中の隊の1つが、こんな名前だったと思う。
「みゃ~四聖獣にょ。………って、この人だかりはすごいにょ~」
「こいつのせいじゃねぇの?」
「てへっ♪」
「………けっ」
野郎のてへぺろはかーいくない。
「みゃ、でも何かおかしく無いにょ?」
「あ?」
イベントのせいで人集りがあるのは分かるものの、何故かオブジェの周りにいるだけで誰もオブジェに近づかないのだ。
「ざけんなよっ!入れねぇじゃんかっ!!」
「くっそ、何なんだよっ!ごらっ運営っ!!」
数人のPCが見えない壁を忌々し気に叩いたり蹴ったりしている。
「あぁ、資格者以外には入れないって事だね」
「みゃ、じゃあちゃっちゃと行くにょ」
パッチンが得心したように手をポンと叩き、フォルフレイラが人集りの中へとすすすと入って行く。
「なっ!なんでだよっ!?」
「おいっごらっ!卑怯だぞっ!俺等も入れろよっ!!」
うっさい奴等だなぁ~。
オレ達3人は何の抵抗もなくオブジェへと近づく事が出来た。
それを見たPC共が声を荒げて吠える吠える。
ぱっちんはそいつ等をニヤニヤとしながら見つつ、奴等に話しかける。
「ごめんねぇ~資格がないとダメみたいなんだあ。攻略スレ見た?なんか白虎の方でPC募ってるみたいだよ?」
「え?まっじ?」「おい、行こうぜっ!」
周囲に集まっていたPCの一部が移動するものの、まだ多くのPCがこちらを窺っている。
「なぁなぁ。なんだったら俺たちが協力してやってもいいぜ?」
その中で十数人の集団の中の1人のPCが、そんな事をオレ達に申し出て来た。
「分かってると思うけど、そいつSTRが高くねぇと、ピクリとも動かねぇぜ。俺等のクラウンに入れてやるからいいだろ?」
「はぁあ?」
なんとも上から目線のうえに、さらに横柄な態度にオレは思わず呆れ返る。
「どぉも~アーマーモゥメントさん。ひと足遅かったですねぇ?」
「にょ?やる?やっちゃう?」
ぱっちんがそのド派手な赤の鎧を着たPCに、ニヤリと黒い笑みを浮かべ厭味ったらしく言い放つ。
フォルフレイラは拳を打ち付け殺る気満々な態度を示す。
どうやら資格のあるクラウンの1つでオレ達が先に入ったんで、あいつ等は入る事が出来ないようだった。
「君等さ~結構スレネタになってるよ?警告受けなきゃ~いいけどね~?」
こういう時のぱっちんはねちっこい。嫌いな相手にはとことんねちねちと攻め立てるのだ。
「く、ちっ。はんっ!たった3人で何が出来るってんだよっ!やれるもんならやってみやがれっ!」
見た目山賊の親分みたいなのが、負け犬が吠えるみたいにキャンキャンと言い放ってくる。後ろにいるクラメン達もこっちを睨みつけては囃したててきた。
「おらおらっ!やって見ろよっ!」「泣き言行ってもおせぇぞっ!」「とぉ~~とっと諦めろやっ」
あ゛ー………なんとも喧しい連中だ。
「QQ」
「QQにょ」
2人が余裕綽々にオレを見てくる。はぁ~やれやれ。
ノリ的には遠山の〇さんだな。ならオレもそいつにノってやろうか。くふ。
「おうおう!てめぇら目ぇかっぽじってよくと見やがれっ!!」
オレはそう見得を切り詠唱を始める。
「召喚!マリーゴールド!!」
すると辺りに風が巻き起こり、腰まである黒髪が舞い踊る。
そしてオレの目の前には直径3m程の銀の魔法陣が現れ光がパパっと眩き弾けると、オレの召喚獣がその雄姿を現す。
『お゛っお゛っお゛っお゛っお゛っお゛っ!!』
マリーゴールドが雄叫び上げ、ドムドムドムと胸を叩きドラミングを奏でる。
「げえぇっ!?フォレステボング!!しかも変異種だとっ!?」
ほほぅ。マリーの事を知ってるとは。通だな、おっさん。
そう。オレが呼び出しのはフォレステボング。
つまりゴリラ型のモンスターだ。
最初の【召喚】で呼び出せるモンスってのは、大抵が第1サークルエリアに出現するモンスなんだが、稀にそれ以外のエリアからのモンスが召喚される事がある。
それが俺の召喚獣のマリーゴールドだ。円な瞳の長い睫毛の女の子。
最初、召喚された時は、両手で抱えるくらいの大きさの銀の体毛のおサルさんだったのだ。
めいっぱいLvを上げてクラスアップしたら、こんなに大っきくなったのだ。はじめはびっくりしたものだ。
街中で召喚する事はあんまりないんだが、今日はしょうがない。
「こいつ等“サモンスヴィレッヂ”の奴らですよ!リーダー!!」
「ち、殴りサモナーに腹黒策士ンとこか………。行くぞっ!」
山賊おっさんが眉間に皺寄せ悔しげにオレを睨むと、踵を返しそのまま去って行った。何なんだ?一体。
「はいはい。QQはマリーに頼んで〜」
オレが奴等を見ながら首を傾げていると、ぱっちんがパンパンと手を叩き言って来る。お、そだった。
「マリー!この鳥の向きを回して変えてくれ!」
『お゛っ!お゛お゛っ!!』
オレの頼みにマリーがドラミングしてそれに応じる。
体長3mの体躯はオブジェに負けず劣らずでっかい。
『お゛お゛――――――――っっ!!』
マリーが台座部分を掴み動かすと、容易く回転を始め程なくガコンと音がして向きが変わる。
「「「おおおおっ!」」」
その姿に周囲のPCが感嘆の声を上げる。ふっふーどうだ。うちのマリーは!
そしてそれを合図にしたかの様に、微かに地面が振動を始める。
それから公園の向こうからPCの声が聞こえてきた。
「おいっ!交差点すげー事になってんぞっ!!」
その声にオレ達が公園を出て交差点に向かうと、オレはその光景に唖然とし見上げる。
「交差点の盛り土が沈んでよ。そしたら塔が生えてきたんだぜっ!?びっくりだよ!!」
そう。そこには10m程の高さの石造りの塔が屹立していたのだ。
おぅふ………。こりゃあ情報晒しといて正解だったわ。こんな大事になるとか…‥…。
もし黙ってやってたら炎上もんだった………。
オレは塔を見上げながら、ぱっちんの先見の明にこっそり感謝したのだった。
その後、オレ達を含め4つのクラウンにダンジョン探索の優先権が与えられ(オレ等が1番目)、その余波でオレ等のクラウンに入りたいと言ってくるPCがたくさんやって来たのだった。(この辺はぱっちんに丸投げだ)
そんな中サモナー仲間が増えたのは嬉しい誤算だった。
よもやオレ等のクラウンが一大サモナークラウンになるとは露ほども思わずに、その時のオレは今度あのPCに会ったら礼を言わねばと決意するのだった。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます!感謝です!(T△T)ゞ
評価Ptありがとうございます!がんがります!(T人T)




