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211.キラくんの行動を観察する その38

姉回です

 

 

 

 出来上がった料理ものは、あたしとしても何の文句もない充分満足の行くものだった。

 煮ても焼いても食えないなら、揚げればいーじゃんって結論な訳だ。

 

 ただあたしとしては、それに思い至らない人間がいないとは思えなかった。(だって鱗チップのように揚げ物が存在してるのに、やらない理由がある訳ない)

 なのに屋台や食堂を見ても、それをやってる様子がないのは見ててわかった。

 

 次の日、ってかまずその前日は慌ただしく忙しなかった。

 あたしは港中を駆け回り、あるだけのボンボンテンタクーを貰い受け一部訝しむ人もいたけど、かなりの数を回収する事ができた。

 あとはそれ等をラギくんに渡すと切り分け煮てを繰り返して、他の食材も次々と下拵えをしていった。

 あたしは料理しませんってか、出来ないんでサポに回るだけだ。(ウリスちゃんにも敵わないってのはさすがにへこんだけど………)

 

 そして次にララちゃんが更に一計を案じる。

 ラギくんは最初値段を他の屋台のものより安めにしようとしたんだけど、それをどこよりも高く設定しなおかつ更に賞金をつけたのだ。

 

 現実リアルでよくやる、目新しさと注目を浴びる目的でそんな付加価値をつけた訳だ。

 この屋台ではあたしの出番はない。

 いや、あるにはあるけどそれは今日答えが出なかった時に備えての、まぁお約束(さくら)ってやつだ。最初のお客さんがボンボンテンタクーを譲って貰った人なんで、計画自体終わったかな?と思いったんだけど、その人は何も言わず走っていってしまった。どうしたのやら。


そして初日にしてはありえない売り切れを起こした時点で、ララちゃんが声を上げて正解を聞いてきたのに、何故か皆があっといういう顔をしだす。あれ?忘れてたのかな。

その後ララちゃんに食べた人達がそれぞれ耳打ちするも、皆が皆正解を出すことなくララちゃんにべもなく弾かれていく。


周囲にいた全員が答えを出し終えた後、ようやくあたしの出番だ。

目立たぬローブにフードを深くかぶったあたしが声を上げ、耳打ちする事なく正解を答える。(もちろんこれも打ち合わせ済み)


屋台の前にいた人達は、騒然としながらもラギくんの屋台へ突貫して次々と問い質していく。

その間にあたしは賞金を受け取って、ささーっと立ち去る。(その後変なのが来た事はその時は知らなかったけど)


次の日、仕込みを終えてから商い者ギルドへ行くと、何故か場所の変更を職員さんに告げられてその場所へと言ってみると、イロイロととんでもない事になっていたのだった………。(ちょっと速すぎない?この展開)

その日も売り切った後に、ララちゃんが言ってた変なのがやって来た。

ナメクジのようなネトッとした感じのその男が、権利がどうのと言ってきた。バカなの?バカなのかな?

最後に脅しをかけてきたそいつは、ララちゃん達の威圧に腰を引きながらあっさりと去っていった。

まぁ、いわゆる前フリってやつ?どうせこの後変なのがいっぱい出てくるんだろうけど。(これもお約束?)


 そして次の日、案の定破落戸(バカ)共が、イチャモンをつけてきた。

 相手バカの物言いにラギくんも不遜な返しをすると、沸点の低いそいつ等は剣を抜いて襲い掛かってくる。

 よしっ!潰すか、とあたしが剣の柄に手を添えた時、凛と澄んだ声が辺りに響く。

 

 その澄んだ声の圧にいなされた男達は、剣を振るうのやめてその声の方へと顔を向ける。

 そして睨みつけながら声を荒げて吠える。もー負け犬っぽくキャンキャンと。

 しっかし、なんともイータイミングでやって来たものだ。

 もしかして狙ってたのかな?

 となるとこっちの事は完全に把握されてたんだろうなぁ………。やれやれだ。

 

 そしてバカへと煽るように、ビシビシときつい事を言いのける。

 もちろん沸点の低い奴らは、煽られて彼女へと剣を向け振るった。

 あ〜………こいつらおわたは。

  

 そしてその剣は、彼女へと振るわれる前に現れた男性に阻まれる。

 ほえ?どこから出来たん、このお人っ!?

 その男性の表情は憤怒のそれだった。見た人間が皆が腰砕けるほどの。こわ〜………。

 

 破落戸バカが突き飛ばされて転がりながらも起き上がり脅しをかけてくるも、逆に脅され顔を青褪める事になる。

 そりゃあこの街の代理とはいえ、最高権力者に対してあんな事を言ってやっちゃったんだから、当然といえば当然だと思う。

 三下チンピラごときじゃ、立ち打ち出来るものじゃなかろうて。

 そこに路地の方から声が聞こえて、それと同時にあのナメクジ男が蹴り出されて現れる。

 

「……………」

 

 なんとまぁ、ベタな展開だったりする。

 もうなんかね?ベタの上にベタを塗り固めたような。

 そもそもあの男性が宣言したように、彼女に敵意を向けた時点でこの街で活動するってのは本来出来なくなるって話だ。

 もしかして余所の街から来たのかにゃ?

 

 ナチュアちゃんって周囲の人達の様子をからすると有名人っぽいし、なんせ「ナチュア様!」「おおぅ!今日はなんとも凛々しいお姿を!」「ごあいさつしてきてい〜い?」「少し待ったらね」なんて声が聞こえるからだ。

 

 お〜〜っ!これってラギくんが好きな時代劇の見え切りみたいだ。

 いわゆる「こちらにおわす方をどなたと心得る!」ってやつ。くすくす。

 ほ〜ら、ララちゃんテンション上げ上げだ。ひょほ〜〜〜っとか喜声上げてるし。

 そして路地からは、ナメクジ男がヴァーティに叩き出された姿。

 ララちゃん、さらにテンションMax!(ララちゃんは風○の親分の大ファンなのだ)

 

 叩き出されたナメクジ男は苦し紛れなのか、誰かの名を出してイニシアチブを取ろうと試みる。

 ………それってアレかな?ラギくん達を(というかナチュアちゃんか)襲ったあのゴーレム。

 そしてNPCであるにも拘わらず、現実リアルへと扉を開こうとしたAI(もの)

 

 レイちゃんとララちゃんが機転を利かせてなけりゃ、少しばっかり面倒い事になってた案件もの

 ただのAI(プログラム)の筈なんだけど、意思を持つものがあの場所(ネット)へと侵入し(はいっ)てしまったとしたら、どんな災厄になったか分かったもんじゃない。

 本当にあれはギリギリだったのだ。

 保全スタッフ涙目の上、クマ作ってたっけ。

 もちろん彼等にはラミィとあたしでボーナスを奮発したのだった。(なんせ発端がラギくんだったし………)

 

 ナメクジ男が告げたロヴィ?の言葉に、ナチュアちゃんは冷徹かつ冷厳な視線をナメクジ男に向けて厳然と言い放つ。

 それは少女というには、とてもあり得ない威厳と威迫だった。

 そう、それは為政者が持つであろう風格オーラにあたしは感じられた。すんごー………。

 それは自身の肩に町という重みを背負った者だけが示せるものだった。

 あの時怯えていた少女の姿は、もうここにはなかった。

 

 やれやれだ。ここはゲームの中の筈なのに、NPC(ひと)はその中で生きて、その中で謳歌し生を育む。

 なるほど、ここは模倣世界ワールドシミュレーターではなく、1個の世界なんだと理解した。

 あたしもこうなったら、ゲームだなんて思う事をやめるべきなんだろうな。

 あたしはナチュアちゃん達のやり取りを見ながら覚悟する。

 まぁ覚悟なんてそう大そうなものでもない。

 ただ、ゲームとしてではなく、異世界に来たと思って楽しむ(あそぶ)という事だけだ。

 

 キラくんが思いっきり腰以上(もしくは頭まで)ずっぽりとハマってる以上、あたしが関わらない道理はないのだ!

 だからちょびっとだけ愉快な気分になってくるもの無理はない。

 

 ナチュアちゃんの言葉を聞いて愕然とした表情を見せるナメクジ男は、顔を蒼褪めさせてやって来た兵士に連行されていった。ざまぁっ!

 この後は、ナチュアちゃんとラギくんが久しぶりですねと挨拶を交わす。

 ナチュアちゃんにも色々あったようにラギくんも色々とあったりしてるので(主にルリちゃんの事とか)そんな話を交わして、その場はいったん収まりを見せる。

 

 そしてナチュアちゃんから他にも話させてほしいという事で、後ほど時間を頂きたいと言われラギくんが了承すると、それを聞いて安堵の表情を見せてナチュアちゃんは去って行ったのだった。

 それからナチュアちゃんの人気を窺わせるがごとく、周囲にいたNPC(ひと)達が矢継ぎ早に話を聞いてきた。

 

 と言ってもおいそれと情報を出す事が出来なものがある。そこでララちゃんを筆頭に真摯に事情を説明して頭を下げる。(もち、あたしも下げました)

 そんな風に態度を示されてしまえば、さすがにこれ以上の追及は出来ず反対に謝られてしまう。

 なんとも人より人らしい態度を見て、あたしははふぅと口元を緩める。

 

 人が人間足らしめるのは、昔であればその社会性というかコミュニケーション能力だろうと思う。

 でも現在いまというかSNSが台頭してきた頃から、匿名性が表面化してきた事で他者への思いやりが欠如して行ったんじゃないかと思う。

 

 ちょっとした事で他者を貶め、それに便乗する人間も自身の言葉がどれだけ相手を傷つけるのかも想像できなくなっている。そういう事もあるから子供の虐待なんてのも過去にあったんじゃなかろうかと考えた事がある。(昔も今も変わらないという人もいるから、あくまであたしの考えだ)

 まぁ、あたしに攻撃してきた奴等は、現実リアルでも電脳でも再起不能にしてやったけど、何か?

 あたしとしては攻撃は最大の防御だと思ってる。

 

 親しく接してネット(うら)では罵倒してくる奴なんてのは、その目を見るとあたしには分かってしまうのだ。

 その手の輩にも実力行使したけどね。首根っこ捕まえて色々白状させたのもいい思い出である。

 閑話休題。

 

 この後販売を再開しても、お客さんは途切れることなく営業時間前に完売してしまった。

 そして今日で販売を終わる事を告げると、案の定周囲で料理を食べていた人達が悲嘆の声を上げる。

 うんうん。分かるよ!もうこの味を堪能できないって分かるとそうなるのは至極当然だ。

 

 ラギくんはその反応に首を傾げているけどねぇ。

 本当、自分自身に対する評価はめっちゃ低いラギくんなのだ。

 なのでそこら辺は少しだけ意識改革ができるようにラギくんへと話していく。(本人納得してなさげだけど)

 

 そこにララちゃんがすでに商い者ギルドにはレシピや屋台についての諸々を任せてあると説明すると、集まってきた人達は安堵して散っていくのだった。

 相変わらずララちゃんはコミュ力が何気に高い。

 そう、もうレシピや権利なんかは商い者ギルドに丸投げしてるのだから、ナメクジ男が何を言ってもしょせん無駄な話だったのだ。くくくっ。

 

 正直稼ぎ過ぎな気もしないではないのだ。

 売れるとは分かっていたけど、よもやここまでとは想像できなかった。

 この3日間で、約1500食は売り切ったので、現在ラギくんは150万GINのお金を手にしている事になる。

 なのでちょっと心持ち挙動不審だったりする。

 

 現実リアルじゃ、あれよりもっと多額の金額を持ってるんだけど、もしかして確認してないのかな?

 焼肉屋さんで渡した電子カードには500万が入ってるんだけど。まぁ、それはそれで黙ってた方が面白そうだからいっか。

 

 料理を売り切ったので店じまいをして屋台を返しに商い者ギルドへ向かうと、宣言通りナチュアちゃんが待っていた。やたら豪華な馬車を背に従えて。はや〜………すご。

 商い者ギルドに屋台を返し、そのまま有無を言わせず馬車に乗せられしまう。

 しばらく街中を進むと、大きな門を抜け馬車は建物の前へと停車する。

 そして馬車を降りると、目の前にはなんとも豪奢な御屋敷が鎮座していた。

 ラギくんめっちゃ腰引けてるよ。

 

 あたしなんかは顧客がこんな感じの家に住んでいるんで、特に気にはならない。ララちゃんやウリスちゃんも格別気にしてはいない感じだ。ルリちゃんはまぁ、分かってないよね。

 それから応接室らしき、まぁ何ともきらびやかな部屋へと通されるとナチュアちゃんが突然頭を下げて謝罪をして来た。

 ラギくんとあたしは思わず目を剥いてしまう。

 そもそもナチュアちゃんに頭を下げられるいわれがなかったからだ。

 

 そして話を聞いてみると、どうやらあのNPC達に関しての話だったのだ。

 湖で金銭を要求してきたNPCは、山の民とやらで不法に船を借りて資格もないのに漁をやっていた事で捕まったとか。

 そしてあのぼったくり修繕屋も、あたし達がやられたその後同様に捕まったのだとか。(もっと早く捕まえてくれればなぁ………)

 

 という事で、デヴィテスの街を管理する者の責任として、謝罪してきたという訳だった。

 そして被害?にあったお金を、ナチュアちゃんが渡して来た。

 ラギくんがあたしの方を見てきて、お金を預かってくれるよう頼んできたので、あたしは頷いてナチュアちゃんからお金を受け取る。

 

 ラミィ達に渡さなきゃだし、今のラギくんにこれ以上お金を持たせるのはちょい大変だろうしね。

 更にナチュアちゃんは、これまで(護衛の時やら何やら)の事を含めた御礼という事で、とんでもないものを渡してきた。

 

 別荘地にある建物の権利書を渡してきたのだ。

 あたしはナチュアちゃんの意図を正確に見極めつい呟く。

 確かにこの地の物を譲れば、ラギくんを取り込めはするしねぇ〜………。

 

 ララちゃんが興味を示した事で建物へと向かう事になり、その前に是非ということで数々の料理を供される。

 どうやらプロメテーラという、あの時の盾戦士が作ったものみたいだ。(まぁラギくんに対抗したってとこかな?)

 

 結局、その後案内された(もう完全に何かあるよ?ってな)建物を受け取る事になってしまい。

 こうしてラギくんの新たな拠点が出来たのだった。

 そしてまたあたしの知らないものが、ポコポコ出てきたのだった。(ラミィに要報告だね!)

 

 そんでレイちゃんにクッキーズの件は却下された。ちぇっ。ゲーム内でしか動かないからダメだって。

 

 


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

 

ブクマありがとうございます!感謝です! (T△T)ゞ (オオッ!)

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